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番外編
番外編 レイルの訳と妹の思い
昔。
随分と昔の事だが、レイルにとってはつい昨日の事にも思える事がある。
今日は、その五年後の日だった。
馬車を乗り継ぎ、ようやくたどり着いたのは実家。
家に入ると沢山の弟と妹がレイルを出迎えた。
「レイル兄ちゃん!」
「レイル兄ちゃんが帰ってきたぁっ!」
「兄ちゃーーんっ!」
「わわっ、そんな抱きついてくるなってー」
レイルは幼いきょうだい達をたしなめながら正面を向いた。
そこには、レイルが帰ってくるのを分かっていたようで父と母が立っていた。
「ただいま、父さん、母さん」
「…よく帰ったな、レイル」
「おかえり。…どう?学園は」
母の心配そうな表情が少し引っかかったが、レイルは笑顔で答えた。
「楽しいよ。凄く」
「ひとまず………今日はオリビアに会いに来たんだろう?」
父の優しげな言葉に「うん」とレイルは小さく頷いた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ああ」
「ええ」
「あれ?レイル兄ちゃん?どうしたの?」
「お母さーん、レイル兄ちゃんどこいくの?」
「大事な所よ」
母がきょうだい達に言い聞かせるのを遠目で見ながらレイルは家を出て行った。
母や父、きょうだい達がレイルをわざわざ玄関で出迎えたのには理由がある。
それは、レイルが実家帰りした理由でもあった。
静かに家の近くに建てた墓の目の前に来る。
道中買った白ユリをゆっくりとそなえる。
「お前は、白ユリが好きだったよな…オリビア」
そう、今日はレイルの妹であるオリビア・カッタンディアの命日であった。
それは五年前に遡る。
五年前。
レイルがようやく英雄学園の初等部に通い出した頃であった。
十二歳であったレイルには、年が二つ離れた妹が居た。
他にもきょうだいが居るのだが、その妹をレイルは特に気にかけていた。
今日は、実家帰り出来る日であった。
ガチャンとドアを開け、少し古びた木の匂いを感じながらレイルはベッドに寝たきりの妹に笑いかけた。
「オリビア!」
「レイル兄さん!」
レイルの妹であるオリビアが顔をほころばせた。
気のせいか、しばらく会っていない内に随分とやつれた気がする。
「ほら、いっぱいお土産あるんだよ。お菓子に、本に…白ユリ」
「わあ…!兄さん、ありがとう。白ユリ、とっても綺麗ね」
オリビアはレイルから受け取った土産を嬉しそうに眺めた。
特に白ユリには思い入れがあるようで、オリビアはその花びらを撫でた。
「私ね、夢ができたの」
「夢?何だい?」
「私、将来はお医者様になりたいの!私みたいな子を助けてあげたい…!」
「…そっか。とても素敵だと思うよ」
レイルはそれを聞きながらボーッとリンゴを剥いている。
それを見てオリビアは気を悪くしたらしい。
「ちゃんと聞いてるの!?兄さん!」
「ああ、ああ。聞いてるよ」
それは、レイルにとってあまり聞きたい内容ではなかった。
オリビアは、生まれつき体が弱かった。
少し走っただけですぐに息を切らしてしまう。
おまけに、常に風邪の症状が出ていた。
そんな事実には向き合いたくない。
それがレイルの本音だった。
「もぉ…兄さんったら」
「はは、悪いね。情けない兄で」
「…でも、私、兄さんが……」
何かオリビアが言いかけた時、レイルを呼ぶ父の声が聞こえた。
「ごめん、父さんが呼んでる。じゃあ、後で」
「…うん。分かった。じゃあね、兄さん」
あの時、もっと話をしておけば。
そう後悔してももう遅いってのに。
「オリビアッ!?」
ドアが外れるかといわんばかりの勢いでレイルが部屋に飛び込んだ。
妹の体調が悪化したと聞いて駆けつけたのだ。
そこには医者、母、父、幼い妹と弟が居た。
ベッドに荒い息をしながらオリビアが横たわっている。
レイルは医者に、ずっと聞かなかった質問を投げかけた。
「先生…オリビアは…妹は、助かりますか?」
「………」
医者は、黙って首を横に振った。
レイルの目の前が絶望に塗りつぶされた。
ああ、何で。
何でベッドに寝込んでいるのが自分じゃなかったのか。
何故愛しい妹が…
「…にい、さん」
「オリビアッ!」
オリビアがかすれた声でレイルを呼んだ。
咄嗟にレイルはオリビアの手を握る。
「ごめ、ん、にいさん。わた、し…もう、お医者様に、なれ、ないね」
「馬鹿言うな!絶対、絶対助かる!ぜった…」
「もう、いいの。じぶ、んのこと、は、自分が…いち、ばん分かるよ」
「ーーーッ」
医学の知識が乏しいレイルにも分かりきっていた。
妹の命はもう風前の灯火であることも。
それがもう、消えかけていることも。
オリビアは必死で言葉を繋いでいく。
「にいさ、泣かない、で」
「…ばかっ、お前っ…自分の心配しろよ!!」
「やさ、しいね。私、にい、さんが…大好、き、だったよ」
何故、ここまで妹は強いのか。
何故、ここまで自分は弱いのか。
自虐を続けるレイルにオリビアは言った。
「おね、がい…私の、事で…かなし、まないで」
「悲しむに決まってるだろ!?」
「…兄さん…だ…いす……き…………」
「オリビアァッ……!!」
オリビア・カッタンディア。
享年、十歳。
あまりにも短い生であった。
「君が必死になる理由も分からなくはないわよ、レイル君」
「………」
アレクが薬を開発したすぐ後、学園長が静かにレイルに言った。
学園長はもう妹の事を知っている。
今更それが何故かは聞く気にはなれなかった。
「…本当に良かったの?君は、アレク君の身代わりよ。レイル君…危険、なのよ?」
「重々承知しています、学園長先生」
「………そう」
レイルの果てしなく長い道のりはここから始まる。
全ては、難病に苦しむ人々を助けるため。
…妹の夢の代わりを、レイルは見続ける。
随分と昔の事だが、レイルにとってはつい昨日の事にも思える事がある。
今日は、その五年後の日だった。
馬車を乗り継ぎ、ようやくたどり着いたのは実家。
家に入ると沢山の弟と妹がレイルを出迎えた。
「レイル兄ちゃん!」
「レイル兄ちゃんが帰ってきたぁっ!」
「兄ちゃーーんっ!」
「わわっ、そんな抱きついてくるなってー」
レイルは幼いきょうだい達をたしなめながら正面を向いた。
そこには、レイルが帰ってくるのを分かっていたようで父と母が立っていた。
「ただいま、父さん、母さん」
「…よく帰ったな、レイル」
「おかえり。…どう?学園は」
母の心配そうな表情が少し引っかかったが、レイルは笑顔で答えた。
「楽しいよ。凄く」
「ひとまず………今日はオリビアに会いに来たんだろう?」
父の優しげな言葉に「うん」とレイルは小さく頷いた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ああ」
「ええ」
「あれ?レイル兄ちゃん?どうしたの?」
「お母さーん、レイル兄ちゃんどこいくの?」
「大事な所よ」
母がきょうだい達に言い聞かせるのを遠目で見ながらレイルは家を出て行った。
母や父、きょうだい達がレイルをわざわざ玄関で出迎えたのには理由がある。
それは、レイルが実家帰りした理由でもあった。
静かに家の近くに建てた墓の目の前に来る。
道中買った白ユリをゆっくりとそなえる。
「お前は、白ユリが好きだったよな…オリビア」
そう、今日はレイルの妹であるオリビア・カッタンディアの命日であった。
それは五年前に遡る。
五年前。
レイルがようやく英雄学園の初等部に通い出した頃であった。
十二歳であったレイルには、年が二つ離れた妹が居た。
他にもきょうだいが居るのだが、その妹をレイルは特に気にかけていた。
今日は、実家帰り出来る日であった。
ガチャンとドアを開け、少し古びた木の匂いを感じながらレイルはベッドに寝たきりの妹に笑いかけた。
「オリビア!」
「レイル兄さん!」
レイルの妹であるオリビアが顔をほころばせた。
気のせいか、しばらく会っていない内に随分とやつれた気がする。
「ほら、いっぱいお土産あるんだよ。お菓子に、本に…白ユリ」
「わあ…!兄さん、ありがとう。白ユリ、とっても綺麗ね」
オリビアはレイルから受け取った土産を嬉しそうに眺めた。
特に白ユリには思い入れがあるようで、オリビアはその花びらを撫でた。
「私ね、夢ができたの」
「夢?何だい?」
「私、将来はお医者様になりたいの!私みたいな子を助けてあげたい…!」
「…そっか。とても素敵だと思うよ」
レイルはそれを聞きながらボーッとリンゴを剥いている。
それを見てオリビアは気を悪くしたらしい。
「ちゃんと聞いてるの!?兄さん!」
「ああ、ああ。聞いてるよ」
それは、レイルにとってあまり聞きたい内容ではなかった。
オリビアは、生まれつき体が弱かった。
少し走っただけですぐに息を切らしてしまう。
おまけに、常に風邪の症状が出ていた。
そんな事実には向き合いたくない。
それがレイルの本音だった。
「もぉ…兄さんったら」
「はは、悪いね。情けない兄で」
「…でも、私、兄さんが……」
何かオリビアが言いかけた時、レイルを呼ぶ父の声が聞こえた。
「ごめん、父さんが呼んでる。じゃあ、後で」
「…うん。分かった。じゃあね、兄さん」
あの時、もっと話をしておけば。
そう後悔してももう遅いってのに。
「オリビアッ!?」
ドアが外れるかといわんばかりの勢いでレイルが部屋に飛び込んだ。
妹の体調が悪化したと聞いて駆けつけたのだ。
そこには医者、母、父、幼い妹と弟が居た。
ベッドに荒い息をしながらオリビアが横たわっている。
レイルは医者に、ずっと聞かなかった質問を投げかけた。
「先生…オリビアは…妹は、助かりますか?」
「………」
医者は、黙って首を横に振った。
レイルの目の前が絶望に塗りつぶされた。
ああ、何で。
何でベッドに寝込んでいるのが自分じゃなかったのか。
何故愛しい妹が…
「…にい、さん」
「オリビアッ!」
オリビアがかすれた声でレイルを呼んだ。
咄嗟にレイルはオリビアの手を握る。
「ごめ、ん、にいさん。わた、し…もう、お医者様に、なれ、ないね」
「馬鹿言うな!絶対、絶対助かる!ぜった…」
「もう、いいの。じぶ、んのこと、は、自分が…いち、ばん分かるよ」
「ーーーッ」
医学の知識が乏しいレイルにも分かりきっていた。
妹の命はもう風前の灯火であることも。
それがもう、消えかけていることも。
オリビアは必死で言葉を繋いでいく。
「にいさ、泣かない、で」
「…ばかっ、お前っ…自分の心配しろよ!!」
「やさ、しいね。私、にい、さんが…大好、き、だったよ」
何故、ここまで妹は強いのか。
何故、ここまで自分は弱いのか。
自虐を続けるレイルにオリビアは言った。
「おね、がい…私の、事で…かなし、まないで」
「悲しむに決まってるだろ!?」
「…兄さん…だ…いす……き…………」
「オリビアァッ……!!」
オリビア・カッタンディア。
享年、十歳。
あまりにも短い生であった。
「君が必死になる理由も分からなくはないわよ、レイル君」
「………」
アレクが薬を開発したすぐ後、学園長が静かにレイルに言った。
学園長はもう妹の事を知っている。
今更それが何故かは聞く気にはなれなかった。
「…本当に良かったの?君は、アレク君の身代わりよ。レイル君…危険、なのよ?」
「重々承知しています、学園長先生」
「………そう」
レイルの果てしなく長い道のりはここから始まる。
全ては、難病に苦しむ人々を助けるため。
…妹の夢の代わりを、レイルは見続ける。
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