追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第七十一話 気づきと聞き分け

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ガディとエルルは、魔法書の置いてある店を片っ端から探した。
しかし魔法書が偶然見つかりはすれど、関係のない魔法内容ばかり。
二人は途方に暮れる羽目となった。

「どうする……八方塞がりだぞ……」
「待って落ち着いて。何か打開策があるはず」

二人が顔を見合わせてしかめ面をしていれば、そこに子供が駆け寄ってくる。

「にーちゃん達、どこから来たの?」
「……トリティカーナ」
「トリティカーナ? めっちゃ遠いじゃん! 魔法使える? 使える?」
「あ、ああ」
「すごーっ! 使ってよ!」

子供から急かされ、ガディが水の魔法を利用して虹を作り出す。
子供はキラキラと目を輝かせた。

「うおーっ! きれーっ!」
「あっ、てっちゃんずるーい!」
「うわっ、おねーさんちょう美人!」
「イケメンッ!」

ワイワイと子供が集まってきた。
子供達にもみくちゃにされながらも、ガディとエルルは何度も魔法をせがまれた。
パフォーマンスとしていくつか披露していると、その中の内の一人が口を開く。

「あのねー、俺も魔法使えるんだっ。俺だけなんだぞ? すごいだろー」
「あ、ああ……」

トリティカーナでは、魔法が使えることは一般的だ。
しかしここ、アルスフォードでは、魔法の使える人口は極端に少ない。
少年のような存在は稀と言えた。

「見ててよー。ほら!」

少年がパッと手を広げると、陰絵のようなものが出現する。
それが奇妙な声で喋り出したものだから、ガディとエルルは非常に困惑した。

「ねえ、あなた」
「おねーちゃん、凄いだろ?」
「ええ、凄いわ。魔法書を読んだの?」
「魔法書……? 読んでないよ。俺が使えるの、光魔法と闇魔法だけだもん」

これまた珍しい属性だ。
エルルは更に追求する。

「陰絵が喋ってるのは?」
「んーと、光魔法!」
「光魔法で……?」

光魔法とは、かなり未知な部分の多い魔法属性である。
闇魔法と並んで謎の属性であり、その範囲は解明されていない。
単に明暗を操るだけではなく、それは多岐に渡って活躍する。
世界的に有名な魔法使いの中で、それらの属性のみを扱う者すらいるほどだ。
そういえばアレクは、光魔法の応用だと言って、空気振動の魔法を会得していた。

「そうね……応用って大事よね」
「エルル、何か掴んだか」
「ええ」

(魔力を捕まえる。そのためにはまず、細かい魔力の粒子を読み取らなくちゃならない)

三十年前の魔力。
それはもはや、残っているかもわからない代物。
しかし過去には必ずあったもの。

「ガディ」
「何だ」
「男は〔過去視〕、女は〔未来視〕だったわよね」
「……まさか」
「私達は、過去を視ることも、未来を視ることもできない。でも、それらに通ずることはできるんじゃないのかしら」

(そうだ。私達だって、エルミア様の子孫でーーアレクの兄と姉だ)

「ガディ。このネックレスについている魔力、〔過去視〕に通ずる力で蘇らせてみてよ」
「っ、言いやがったな……!」

無茶振りだ。できっこない。
否定の言葉はいくらでも言えた。
しかしガディは、胸の内に誤魔化しようのない高揚を覚えていた。

(俺達も進める……! もっと強くなれる!)

技の習得速度。
それらは個人の才能に依存しながらも、人によって異なる。
しかし、はっきりとわかっているのはーー見本があるのとないのとでは、歴然とした差が生まれる。

「下がってろ」
「おにーさん達、何かするの?」
「こっからショーでも見せてやるよ」
「やったね!」

ガディに促され、子供達は一歩下がる。
ガディはネックレスに向かって、一気に魔力を集中させた。

(思い出せ! アレクが〔過去視〕使ってた時の、あの異様な雰囲気を! 肌の色が変わるみたいな、あの違和感……あれが俺の成長を促すはずだ!)

魔力が可視化できるほどに濃く、大きく広がる。
普段はあまり有効活用されることのない、底の底ほどの魔力を引き出す。

(俺じゃアレクには及ばない! なら、その少しでもコピーしてみろ!)

「うおおおおおおっ!」

魔石のネックレスには、雑念が多すぎた。
造り手の魔力を引き出すには、あまりに酷すぎる有り様。
その雑念を、時を戻すことで取り払う。
ここでガディの天賦の才と、運命の女神が微笑んだ。

「見つけたっ!」

邪魔なものが取り払われ、ようやく生み出された
エルルはガディの期待に応えるが如く、逃すことなくそれを掴んだ。

「癖のある魔力ね……! だけど捕らえたわよっ!」

すぐさまエルルは、掴んだ魔力を保存するために自らの魔力へと混ぜる。
エルルの目には、製作者へと続く道が真っ直ぐに示されていた。
自らの勝ち取った勝利に酔いしれるように息を吐くと、子供達から歓声が上がる。

「すっげ! すっげ! 何だ今の!」
「ぶわって! ぶわーって!」

キャアキャアと騒ぐ子供達を前に、毒気が抜かれるような心地となる。

「……行くか」
「そうね」
「あれ? おにーちゃんとおねーちゃん、どこかに行くの?」
「ああ」
「そっかあ。ありがとー!」
「こちらこそ」

子供達の見送りの元、ガディとエルルは王都を出た。
二人は自らに〔身体強化〕をかけ、声掛けをする。

「行くぞっ」
「置いてかれないでよ?」
「馬力は俺の方が上だ」
「単純なスピードなら私のほうが先よ」

二人はグッと地面を蹴り、そのまま〔追跡〕の示すほうへと走り出した。

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