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Book 13
「あんな彼には」①
しおりを挟む「……原さん、なに言って……」
呆然と佇むわたしに、原さんは遮るように口を挟んだ。
「調べたんです、彼のことを。まず、ネットで『萬年堂 葛城 慎一』と検索をかけてみたんですが。……彼の素性は、呆気ないほどすぐに出てきましたよ」
——な、なにが出てきたというのだろう?
なんとも言えない嫌な予感が、心の底から押し上がってくる。
「彼が萬年堂の営業部に所属してるだなんて、とんでもない」
原さんは首を左右に振った。
「葛城 慎一は(株)萬年堂の社長の長男で、彼の本当の役職は……専務取締役です」
「国内有数の文具メーカー(株)萬年堂は、明治期の創業以来、取締役等の主要な役職を親戚縁者で固めた、典型的な同族企業だそうです」
原さんは淡々と萬年堂の——シンちゃんを取り巻く「実情」を語る。
「とは言え、創業から百年以上も続いてきた裏には、経済界や他の業種との結びつきが欠かせないようで」
わたしはただ立ちすくんだまま、その話を聞くしかできなかった。
「彼らは代々、姻戚関係によって、その結びつきを強めてきたそうです。……いわゆる『政略結婚』ということですね。現に、葛城 慎一の弟で、萬年堂の子会社の(株)ステーショナリーネットの社長でもある葛城 謙二は、大手ゼネコンの大橋コーポレーションの社長令嬢を妻にしています」
わたしはほとんどテレビは見ないけれども、それでもイケメン社長として、経済界の情報番組に出演している彼を見たことがあった。確かに、言われてみればその面影は、シンちゃんを彷彿とさせた。
さらに……
シンちゃんが「小道具の結婚指輪」を買うためにわたしをカルティエへ連れて行ってくれたとき、
『もしかして、この店じゃない方がよかった?急遽、結婚してる弟に聞いたら、ここだと間違いないって言うから来たんだけどさ』
と、言っていたのを思い出した。
その「弟」のことなんだ。
「……それに、葛城 慎一は結婚してますよ。しかも……子どもだっています」
——まさ……か……
この人は……なにを……言ってるんだろう?
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