政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 12

ヒミツの隠れ家に逃げます ③

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 ジェーン・オー◯ティン著「Persuasion」は、日本ではちょうど化政文化江戸時代の頃に書かれたイギリスの小説だ。

 主人公のアン・エリオットは準男爵の娘だが、生家は没落寸前で屋敷を貸しに出されることになる。
   その屋敷を借りたのが、八年前に周囲からの身分違いだというプレッシャーに耐えかねて、アンの方から婚約破棄した海軍軍人フレデリック・ウェントワースの、姉夫妻だった。

 その姉夫妻の家に滞在することになった元婚約者を、アンは避けるようにして過ごすが、移り住んだ妹メアリの婚家で思いがけず再会する。

 三十代半ばで海軍大佐に出世して男っぷりもぷりぷりに上がったウェントワース大佐に対して、すっかり女っぷりもすっからかんになって婚期を逃した二十八歳のアン。(わたしと同じ歳じゃん!)

 ウェントワース大佐は昔の恨みを忘れてなくて、アンに対してなにかと冷たく接する。
   頬がげっそりして老けたアンに「だれだかわからなかった」とディスりまくっている。
(自身もハイミスのままこの世を去ったジェーン・オー◯ティンは、歳を経た女には塩対応で、妙にリアルだ)

 しかし——そこは主人公なので——アンはだんだんとふっくらとして肌ツヤも良くなり、美しさを取り戻していく。
 すると、父から準男爵を相続する権利を唯一持つ、従兄いとこのウィリアムが現れ、アンに急接近するようになって……

 わたしのつたない英語力ではとても一日では読めないけれど、たぶん最後はオー◯ティンの大定番の大どんでん返しの末の大団円ハッピーエンドなんだろうな。


 この前、八年ぶりに会った「わたしのウェントワース大佐」の海洋は——別に婚約者ではなかったけれど——妹の結婚式が終わったとたん、とんぼ返りでアメリカに戻って行ったそうだ。

 あのとき——ホテルで再会したばかりの彼とキスしたあのとき——わたしの頬を両手で包み込んだ海洋が言った。

『彩……もう少し、待っていてくれ』

 とっとと、アメリカへ戻って行ったくせに。
 あれは——どういう意味だったんだろ?


 わたしはペーパーバックに目を落とす。

『She had been forced into prudence in her youth, she learned romance as she grew older: the natural sequel of an unnatural beginning.』
〈青春期には理性に従っていた彼女が、歳を重ねるにつれて感情に導かれるようになっていったのだ。不自然な始まりの果てに自然に落ち着いた、というわけである〉

 いかにもジェーン・オー◯ティンといった、ペーソスにあふれている文だと思う。

 ——わたしは「不自然な始まりの果て」に、ちゃんと「自然に落ち着」くことができるのだろうか?

 カフェのBGMには、ノラ・ジョ◯ンズの ♪Don't Know Why が流れていた。


 そろそろ、今夜どうするのかを決めなければならない。

 幼稚園からの親友の華絵に泣きつけば、きっと二つ返事で家に招き入れてくれるだろう。
 でも、今の彼女には夫と三歳になる息子がいる。

 だからといって、ほかの友達や会社の同僚たちには、とてもじゃないけれど、この状況は言えない。

 悶々としながら、レモネードのあとに頼んだラズベリーのドライフルーツティーを飲んでいたら、ふとひらめいた。

 ——そういえば、あそこがあったな。

 目の前が少し、明るくなったような気がした。

 こんなことくらいで「シェルター」を使うのはちょっと気がひけるけど、しようがない。

 わたしはフレンチフライが付いたマッシュルーム &モッツァレラバーガーをテイクアウトにして、早速そこへ向かうことにした。

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