政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 18

Fikaで女子トークしてます ①

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 今夜は将吾とお義父とうさまが接待のため、夕食後にお義母さまであるマイヤさんに誘われてfikaフィーカをしてみた。

 スウェーデンの人はコーヒー好きが多いのだそうで、恋人はもちろん友人や家族たちとおしゃべりをしながら飲むのが国民的な習慣らしい。

 週の途中で明日も仕事があるのに眠れなくなるといけないため、ミルクをたっぷり入れたのだが、さすがマイヤさんは少しミルクを足しただけだ。

「あ…あの…つかぬことを伺いますが」

 わたしは気になっていたことを、思い切って訊いてみた。

「前に、スウェーデンの人が北国の人で愛情をストレートに示さないって、おっしゃってましたよね?」

「……いやだ、将吾ったら、まだ出し惜しみしてるの?また、彩乃に逃げられちゃうじゃない」
 マイヤさんはふふっ、と笑った。

「でも、将吾はスウェーデンではほとんど住んだことなくて、アメリカ育ちって言ってもいいはずなのにね。でも、アメリカのような多民族国家にいると、却って自分のルーツが浮き彫りになるっていうのもあるわね」

 マイヤさんがシナモンロールを一口ちぎって食べた。スウェーデンではkanelbulleカネールブッレといって定番の「fikaのお供」だ。

「わたしの父が家具デザイナーだったんだけど、職人気質の人でね。めんどくさいところが笑っちゃうくらいそっくりなのよ」
 マイヤさんが肩をすくめた。

「将吾もその影響でインテリア好きだから、あなたのお部屋の家具も楽しそうに探してたわ。『フレンチカントリーは扱ってないのか?』ってわたしにも訊いてきたりしてね。早くから親元を離れて、なんでも自分でやってきてるから、そういう手配には慣れてるし」

 あんなに忙しいのに、わたしの婚約指輪も、お部屋の家具も、自分で選んで手配してくれていたのだ。

「外苑前のマンションの家具は厄介かもよ?将吾のことだから、気に入ったものが出てくるまで妥協しないから、まるで空き家みたいかも」

「あ、ベッドだけはありますっ」

 そう言ったとたん、
 ——お姑さんに対してなんてことをっ!
と気がついて、頬が真っ赤になってしまった。

 でも、遅かった……マイヤさんは大爆笑だ。

「絶対、あいつ、必死になって、ベッドばっかりググったんだわよー!」
 お腹を抱えて笑い転げている。

 そして、ひとしきり笑ったあと、婉然と微笑んで言った。

「……言葉には出さないだろうけど、その代わり、スキンシップはすごいでしょ?」

 わたしは飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。

 ——よくおわかりで。

「外苑前のマンションでは土禁でしょ?」
 マイヤさんが尋ねた。

「パーティルームの方は違いますけど、プライベートルームの方はそうです」

 この家は洋館なので、室内でも靴を履いている。
 わたしはそういう生活に慣れていないため、無印で購入したバレエシューズのデザインのルームシューズに履き替えているが。
 だけど、将吾の部屋とその続きの間であるわたしの部屋は、土足禁止にしているためルームシューズすら履かない。

「スウェーデンってね、屋内では靴を脱ぐ家が結構あるのよ」

   ええっ、そうなんだぁ。

「ヨーロッパの日本、っていうくらいだからね」

   日本人と似てるんだ。

「シャイで勤勉で時間厳守、ってところは似てるかもしれないけれど……違うな、って思うこともあるわ」
 マイヤさんがコーヒーを一口含む。

「日本の人たちみたいに『つき合ってください』なんて言わないからね」

 ——ええぇっ!?

「じゃあ、どうやって『カレカノ』になるんですか?」
 わたしは身を乗り出した。

「なんとなく」
 マイヤさんは平然と言った。

 ——なんとなく?

「いいな、と思った相手とは、お互いの家でfikaして、何回かセックスしているうちにお互いに『これはセックスじゃなくてメイク・ラブだなぁ』って思えるようになったら『なんとなく』そういう関係になってるわね。そうなってくると、今度は同棲したくなるわね。だから、例えば『一緒に暮らそう』なんかが、日本でいう『つき合ってください』みたいな『決定的』なものになるのかしら?」

 マイヤさんはシナモンロールをまた一口ちぎって食べる。

 ——同じ「行為」でも、カラダがつながっただけのセックスじゃなくココロまでつながった「メイク・ラブ」になれば、ってことかな?

 わたしもシナモンロールを食べてみた。
   ほどよい甘さで美味おいしい。コーヒーとよく合うわ。

 ——道理で、将吾が突然告白コクってくる女の子を「自爆テロ」って言うわけだ。

「性教育がきっちりしてる国だからこそ、子どもの性に寛容で、十代でもどちらかの実家で一緒に暮らす子たちもいるわ。親もその方が安心だし」

 ——ええぇっ!? 

   もしかしたら、将吾はそういう感覚から、わたしと自分の実家で「同居」しようと思ったのかな?

「一緒に暮らさないにしても、カラダの相性をきっちり確かめてから、っていうのは鉄則ね」

 うーん、将吾もやたら「カラダの相性」を確かめたがってたなぁ。

 あ、うちの実家に来たとき、わたしの部屋で——なぜか自分の部屋なのに、将吾に連れ込まれたんだけど——コーヒーを飲んだっけ。
   キスしてベッドにも誘われたなぁ。

 ——もしかして、あれがfikaだったのかな?

 あのあと、「人工授精」の件で将吾がブチ切れて帰っちゃったけれども……

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