116 / 128
Chapter 17
雨降って、地固まってます ⑧
しおりを挟むやっぱり、こんなときにほかの男の人の話をするんじゃなかった。
「しょ…将吾、ごめんなさい……わたし、そういうつもりじゃ……」
わたしの謝罪を将吾が遮る。
「……ったく……とんでもない爆弾ぶち込みやがって」
先刻とは逆に、目を細めて苦しげにつぶやく。
「だから、ごめんなさいって……」
——まずい、相当、怒ってる。
「おれの方が『お仕置き』の『罰ゲーム』じゃねえかっ!そんなことも知らず……おまえの感じてる顔も、イッた顔も、見ないで抱いたなんて……」
そして、わたしの両手首を持って、左右にがっ、と開いたかと思うと……とんでもないキスが急降下してきた。
わたしのすべてを、喰らい尽くそうとしてるんじゃないか、というくらいの激しいくちづけで襲ってくる。口での息が完全に封じ込まれる。
「んっ!……ぅんっ!?」
角度を変えて息を吸おうとしても、将吾のくちびるが、舌が、わたしを決して放すまい、と追ってきて……それをさせてくれない。
キスをしない「お仕置き」の「お仕置き」が、この息もさせないくらいの激しいキス?
——ワケわかんないっ!
意識がなんだか、ぼぉっとしてきたときに、やっとくちびるが離れた。
「……鼻で息吸え、バカ」
将吾がくくっ、と笑った。
「おれのこと、忘れんなよ……ちゃんと覚えとけよ」
そう言ってベッドの上でわたしを見下ろす将吾の眼は、捕らえた獲物を決して放さない、獰猛な肉食獣そのものだった。
なのに……それとはまるで逆の、まるで陽だまりのような、やさしくてやわらかな目にも見えた。
——なに言ってんだろ?
忘れるわけないじゃん。こんなに好きなのに。わたしたち……結婚するのに。
そうだ。わたしたちは結婚するのに……
わたしはこんなに将吾のことが、好きで、愛してるのに……
将吾は一度も、言ってくれない。
外苑前のこのマンションで二人きりで過ごす夜は、とても激しくて、夜明けまで寝かせてくれそうにもなく、わたしを抱き潰すまで放してくれそうにもないのに……
——なのに……
将吾は一度だってわたしを「好き」だとも「愛してる」だとも、言ってくれない。
だから、わたしが、どれだけそう思っていても、どれだけ口にしたくなっても……
——将吾になんか、絶対に言うもんか。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~
麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。
夫「おブスは消えなさい。」
妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」
借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。
帝国の花嫁は夢を見る 〜政略結婚ですが、絶対におしどり夫婦になってみせます〜
長月京子
恋愛
辺境の小国サイオンの王女スーは、ある日父親から「おまえは明日、帝国に嫁入りをする」と告げられる。
幼い頃から帝国クラウディアとの政略結婚には覚悟を決めていたが、「明日!?」という、あまりにも突然の知らせだった。
ろくな支度もできずに帝国へ旅立ったスーだったが、お相手である帝国の皇太子ルカに一目惚れしてしまう。
絶対におしどり夫婦になって見せると意気込むスーとは裏腹に、皇太子であるルカには何か思惑があるようで……?
山猿の皇妃
夏菜しの
恋愛
ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。
祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。
嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。
子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。
一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……
それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。
帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。
行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。
※恋愛成分は低め、内容はややダークです
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる