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2.魔法契約の裏側編
2-1.管理者の失踪と記憶喪失編
しおりを挟むアドミスタさんの失踪はすぐに知れ渡り、小規模ながら捜索隊も組まれた。
けれどなんの手がかりも得られず、もう一ヶ月の時が流れている。
「アドミスタさん、まだ見つからないんだ」
「すみません、手は尽くしてるんですが」
捜索隊にはスヴィーレネスも参加しているが、未だ有力な情報は得られていない。
エンヴェレジオさんも隊を率いて探しまわっているが、手詰まり状態のようだ。
「責めてる訳じゃない。けどスヴィーレネスが本腰入れても、見つからないなんて」
特級魔法使いが凄さを知ってるからこそ、解決しないのが信じられなかった。
彼の魔力感知にも掛からず、魔法執行官の捜査も掻い潜る方法が想像できない。
「ワタクシはまた出ますから、他の人が来ても出ないように。いいですね?」
「えっ、もう行っちゃうの? いや、でもアドミスタさんも心配だよね」
思わず漏れてしまった声に俺は口を押さえ、スヴィーレネスはくすりと微笑んだ。
でも彼が戻ってきたのはさっきで、最近は全く会えていなかったから。
(力になれない俺は、口を挟めないよな。でもちょっと寂しい)
愛し仔に変化した俺は魔法が使えるようになったけれど、魔法操作術はまだ拙い。
だからついていく方が足手纏いになるのは、理解しているけれど。
(想いが通じた直後だからって、色ボケしてるなぁ。俺)
結局は俺のスヴィーレネスと過ごしたいという気持ちが、溢れてしまっている。
アドミスタさんが心配なのは確かだけど、タイミングが悪かった。
「ワタクシもアナタと過ごしたいですけど、あの人も大事ですからね」
「うん、俺もアドミスタさんが大事。だから頑張って、スヴィーレネス」
俺が屈むように伝えると、スヴィーレネスは膝を折って屈む。
そして近づいた唇に、そっと自分のものを重ねた。
(いってらっしゃいのキスは恥ずかしい。でも、もう伝えないで後悔するのは嫌だ)
何度か押し付けるように唇を合わせると獣のような瞳が蕩け、抱き寄せられる。
羞恥心がないわけじゃないけれど、求められることが嬉しくて堪らない。
(それにスヴィーレネスが、喜んでくれるし)
最近は触れ合いを優先して、霊体に戻ることをやめてしまったくらいだ。
ちらりと視線をあげると、陶磁器人形のように白い頬が薄く染まっている。
端正な顔も甘く崩れていて、けれどそれが愛おしい。
「ワタクシ、頑張ってきますね! だから待っててください、オルディール!」
啄むようにお返しのキスをしたスヴィーレネスは、足早に部屋を出ていった。
その後ろ姿が微笑ましくて、俺はやっぱり彼が好きなんだと再確認する。
だからこの時は、その小さな幸せすら奪われるなんて想像もしていなかった。
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