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2.魔法契約の裏側編

20-2.魔法使いたちの嫉妬と特級魔法使いの消失編

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「フィルトゥラム、大丈夫?」
「……オルちゃん? ヴェセ君はどこにいるの?」

 長く艶やかな髪を広げて、美しい青年がぐったりと這いつくばっている。
 俺たちがその場所に降り立つと、彼は虚ろな瞳のまま微笑んだ。

「あちらは今、取り込み中なので行かない方がいいですよ」
「分かってる、でも混ぜてもらえないかなって」

 淡々と紡がれるフィルトゥラムの言葉に、俺もスヴィーレネスは思わず息を呑む。
 だってそれは、他人が行っている色事の中に割って入るということだ。

「自分がなに言ってるか、分かってるの」
「別に一番なんて狙ってないよ。でも好意的だったから、相手はしてくれるでしょ」

 艶めかしい笑みを浮かべた彼は、視線を魔力の向こうに送っている。
 だがその目は色欲に染まり、羨むように熱っぽく熟れていた。

「フィルトゥラム。アナタ、ヴェセルの魔力に酔わされてますね」
(王の魔力くらいになると、意図せずとも支配下に置けるのか)

 フィルトゥラムは下級魔法使いだから、強い魔力に服従してしまっていた。
 そして彼を探していたらしい重い足取りが、遠くから近づいてくる。

「おい、こっちにフィルトゥラム来なかったか!? ……っ」
(エンヴェレジオさん、焦った顔してる。でもフィルトゥラムに惹かれてたもんな)

 フィルトゥラムの元に辿り着いたエンヴェレジオさんは、その姿に目を剥く。
 魔力は魔法の行使だけではなく、所有を示す場合にも使われることが多い。
 そして彼の想い人は今、他人の魔力に囚われていた。

「離してよ、エンさん。俺のこと嫌いな癖に、構わないで」
「誘いを断ったのは、お前が大事だからだよ! 他の奴のところ、行くなって!」

 ふらふら動こうとするフィルトゥラムは、エンヴェレジオさんに抱き止められる。
 けれど行動を邪魔された彼は、後ろを振り向きもしない。

「ヴェセ君なら、二番手にはしてくれるんじゃないかな。俺はそれでも満足だし」
「……分かった、俺が悪かった。じゃあお前をどれだけ好きか、教えてやるよ」

 不意にエンヴェレジオさんはフィルトゥラムを引き寄せ、強引に唇を奪った。
 息を奪うような行為に、彼は押し返す力も声も奪われる。

「エンヴェレジオ! するなら、見えないところに行きなさい!」
「分かってるよ、じゃあな」

 くたりと体を預けたフィルトゥラムを、エンヴェレジオさんが抱えて歩き出す。
 彼らが向かったのは薄暗い路地裏で、二人して闇に溶けていった。

(エンヴェレジオさんの目、完全に据わってる。っていうか濁った喘ぎ声が聞こえ)

 いつの間にか裏通りからは粘着質な水音と、肌がぶつかる音も響いている。
 激しい行為を想起させるそれに、俺たちは立ち尽くすしかなくなった。

「やぁ、らめ、……っああぁっ♡ だめっ、だめだってば……っ♡ あ゛っ♡♡」

 快楽を享受している嬌声がひっきりなしに届き、なかなか頭から離れてくれない。
 聞き続けてはいけないと分かっているのに、俺は盗み聞きを止められなくなる。
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