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2.魔法契約の裏側編

18-1.襲撃事件犯確定と管理者の独白編

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 久々に戻った侯爵邸は荒れ果てているが、無人ではなく人の気配が存在する。
 既に生家は犯人の根城となっており、雑多な魔力が交じり合っていた。

「俺たちがいなくなったから、居つきやすかったでしょ。アドミスタさん」
「追いつかれましたか、あとちょっとだったのに」

 黒い薄布からのぞいたアドミスタさんの表情は、普段よりも冷たく思える。
 彼は床に魔法陣を描いている最中で、指先は塗料で濡れていた。

「なぜ襲撃事件を起こしたのですか。我々には、少しも動機が見えないのですが」
「でしょうね。理由は、君たちが生まれる前にありますから」

 犯行動機を問い詰めるスヴィーレネスに、アドミスタさんは穏やかに答えた。
 けれどその言葉が本当ならば、彼はそれなりの年月を生きていることになる。

「それは『妃様』って呼ばれてることに、なにか関係があるの?」
「そこまで掴んでるんですか。確かに、そう呼ばれていた時期もありますね」

 彼の視線が魔法陣から完全に俺たちに向き、昔話が始まる。
 それは彼自身の過去であり、同時に王国が崩壊した原因でもあった。

「ではアドミスタ、アナタが王の配偶者だったのですか」
「配偶者ではなく生贄です。妃と呼ばれたのは、王の愛し仔になってしまったから」

 彼が左手を掲げると、指の根元に白い魔力痕が残されているのが見えた。
 それは大事そうに見つめられた後、乱暴に袖の中へと隠される。

「まぁ僕が逃げたせいで王は失われ、国も壊れましたが。元々は秩序があったのに」
(っ、時戻しの大魔法陣が起動した! やっぱりアドミスタさんが作ってたのか!)

 彼はもう片方の手を隠しながら紋様を描いていたのか、背後の魔法陣が起動する。
 指が鳴らされると同時に陣が輝き、漂っていた雑多な魔力が形を作った。

「結局集めた魔法使いを、全て捧げましたよ。でも、過去を手にできれば償える」

 少し前まで魔法使いだった魔力が、時間を操る力へと変換されていく。
 もはや隠す必要のなくなった証拠は、全て魔法陣の中に収められた。

「王は偉大なる力で、魔法使いを律する存在だった。だからその存在を取り戻します、僕が殺してしまったも同然だから」

 完成した魔法陣は時計盤を模し、二つの針を逆回転させる。
 すると周囲の景色が若返り、朽ちた建物が蘇り始めた。

(しかもアドミスタさんも、獣の姿に変異しかけてる)

 魔法陣の軌道によって魔力が吹き荒れて、彼が被っていた薄布が取り払われる。
 頭部からは不完全な獣の耳が生え、瞳も褪せた金色に変色し始めていた。

「この国は王を失ったせいで、病んでしまった。僕はその罪を償わないといけない」
「させませんよ。過去改変したら、オルディールに会えなくなるじゃないですか」

 そういうとスヴィーレネスが自身の魔力を練り上げて、魔法陣に叩きつける。
 呪文すら唱えられなかったが、特級魔法使いの前に陣は無残に砕け散った。

 ――しかしアドミスタさんは慌てもせず、唇の端を釣り上げる。

「引っかかりましたね。それは囮です、結局僕じゃ魔法陣を完成させられなかった」

 淡く輝く魔法陣の破片を浴びながら、アドミスタさんは俺に目を向ける。
 瞳の奥には怖気の走る光が潜んでいて、無意識に体が縮こまった。

「本当は過去の僕を殺したかったんですけどね。……オルディール君、《おいで》」
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