シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

445 星暦554年 青の月 6日 新しいことだらけの開拓事業(17)

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ウィルの視点に戻りました。

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「休みはどうだった?」
転移門で東大陸の領事館へ移動し、そこから船で戻ってきた俺にジャレットが声を掛けてきた。

「・・・微妙?
彼女が忙しくって付き合ってくれそうになかったから東大陸で遊んでようと思ってたら、軍部に変な依頼を押しつけられちゃって・・・遊ぶ暇が無かった。
まあ、移動時間が長かったから船の上でノンビリ出来たけど」
肩を竦めながら答え、お土産に持ってきたパディル夫人のクッキーの缶を差し出した。
つうか、元々今回の休暇はジャレット達を休ませる為であって、俺は休む必要なんて無かったし。

「お、ありがとう。
こちらはまだオーブンが設置されていないから、焼き菓子系は出来ないんだよねぇ。
次の船でオーブンを頼んでおこうかな・・・」
ジャレットが嬉しそうに缶を受け取りながら『やることリスト』に何やら書き込んでいた。
オーブンの魔道具だったら本国でなくて東大陸の方にもあるんじゃないか?
領事館の誰かに探しといてもらって送って貰う方が、本国から船で持ってこさせるとか転移門で移転させるよりも安上がりで早いと思うが。

「ちなみに、ガルカ王国との関係が大分きな臭いみたいだった。
どうもあの国のヤバさ具合が想定以上に悪化してきたみたいで、軍部は危険度の評価を上げたらしい。
ガルカ王国の船が東大陸の南方から北上して来てこの島を狙う可能性もあるから、俺とシャルロは必ずどちらかが島に居るようにしてくれって帰る前に言われたけど、何か聞いてる?」
国土省の開拓の現場監督とは言え、現時点ではこの開拓団トップはジャレットなはず。
だとしたら幾ら防衛にあまり関係が無い文官としても話が行く先は彼だと思うのだが。

というか、防衛に関しては違う人間から指示を受けろという話なら、先にそれは教えておいてもらいたい。

「あ~。
ちょっと危険だから必ず見張りを置けという警告は来たな。
港を守る防壁の建設も、町の中身と並行して行えと言われたし。
まあ、中身より先に防壁を建設しろと言われなかっただけ、そこまで危険では無いのかと思っていたが・・・軍部は紛争が近いうちに起きると見ているのか?」
ジャレットが顔をしかめながら聞いてきた。

まあ、俺かシャルロが居るなら船を島に近づけなければ良いだけなので、島の防衛はある意味問題では無いとも言えるか。
清早に港以外の場所への船の接近を制限して貰って、港に船が近づいてきたら知らせてくれるよう頼んでおこう。
「さぁ?
詳しいことは聞いていないんで、国土省から軍の方に確認して貰ってくれ。
ちなみに、俺が成人してからアファル王国で戦争も紛争も起きた事が無いんで微妙に想像が付かないんだけど、こういう場合って襲撃の程度ってどの位になるんだ?」

ジャレットが顎を撫でながら空を睨んだ。
「前回の紛争の際は俺は開拓の担当をしていなかったからなぁ。
この島はガルカ王国から離れているから、アファル王国の南方の港町とかに比べればずっと安全だと思うが・・・ガルカ王国の重要な収入源への競争相手ではあるからな。
来るとしたら大型軍艦が来るかもしれんな」

へぇぇ。
とは言っても、大型軍艦の軍事力そのものがどの程度なのか分からんが。
まあ、船からの攻撃だったら何とかなるかな?
最初の1撃さえしのげれば、後は船を沈めちまえば向こうも攻撃なんぞしている暇は無くなるだろうし。

そうなると重要なのは早期警戒網といった所か。
よし、シャルロにも相談しておこう。

◆◆◆◆

「シャルロ~
お前の大叔父さんからのお土産」
大きな焼き菓子の缶を袋から取り出しながら、俺達が使っている小屋の扉を開けた。

軍部からの依頼のせいで帰還が遅れた俺とは違って、ちゃんと5日で予定通り返ってきたシャルロはまったりとお茶を淹れてクッキーを食べているところだった。

「やった!!!フェイタールの焼き菓子だ!!!!
ありがと~」

めったに見ない俊敏さを発揮して俺の手から箱を奪い取ったシャルロが、箱にほほを擦り付けて喜んでいる。

あ~。
袋に入っていた箱だからそれ程汚れてはいないと思うが・・・それでも頬ですりすりするのは辞めたほうが良いんじゃないか?

「お帰り。
軍部から頼み事された聞いたが、大丈夫だったか?」
シャルロと一緒にお茶を飲んでいたアレクが聞いてきた。

「お~。
まあ、極端な問題はなし?
ただ、ちょっと思っていた以上にガルカ王国との関係がきな臭いのかも知れない」

俺のマグを取り出しながらアレクが肩を竦めた。
「ただでさえ狂信者が経済性を無視して色々国の施策に口をだして滅茶苦茶にしてきたところに、国王が軍拡に力を込めているんだ。やばくもなるだろう?
更に一番の収入源である南方航路が近いうちに一気に競争力を落とすとなったら戦争でもしないことには内乱が避けられないんじゃないか?」

やっと落ち着いて焼き菓子に頬ずりをするのを止めたシャルロが座りながらアレクの方へ顔を向けた。
「え、そうだったの???」

「休みの間に少し情報収集してきたんだが、どうもガルカ王国の内部では次の収穫が出来る前に餓死者が出てもおかしくない状況らしい。
農村によっては死んでは元も子もないと種籾を食べてしまったところもあるらしく、それを止めようとする兵士や神殿兵に殺された農民もいたという話だ。
そこまで行ったら、内乱が起きるか他の国を侵略するか、時間の問題じゃないか?
アファル王国ではなく他の国を攻撃する可能性もそれなりにあると思うが」
アレクが顔をしかめながら答えた。

え、マジ??
そこまで酷いの??



【後書き】
ちょっと暇だったアレク君は休みの間に情報収集に精を出していました。
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