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卒業後
477 星暦554年 黄の月 20日 明朗会計は大切です(2)
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「去年の半ばぐらいにタニーシャと一緒に独立したのよ。
あんた達が3人で事業を始めてそれなりに成功しているって聞いたから、若い内に私達も無茶をしてみるのも有りかなって話していて。
まあ、私達の場合は無難に魔術院の依頼を請けて魔術を掛けたり、ちょっとした魔道具や魔術回路を作ったりというのが多かったからそれ程ガンガン儲かっていた訳では無いけど、ちゃんと毎月の家賃と生活費は稼げるぐらいには上手くいっていたの」
小さく息を吐き出してカップを机の上に置いたイリスターナが説明を始めた。
俺達ってそんなに成功例として噂になってんの??
まあ、卒業して1年目に空滑機《グライダー》と携帯型通信機を開発したからそれなりに上手くいっていたとは言えるけど、それなりに経費と時間が掛ったし、売上もそこまで極端に大きい訳では無いからそんなに大成功していたという意識は無かったんだけどな。
去年の終わりに来た新規航路の発見の依頼で大分儲かったし俺達の事業の規模が大きく拡大した気もするが・・・それは俺とアレクの魔術師としての能力はあまり関係なく、シャルロと蒼流の力から来た話だからなぁ。
まあ、若い内だったら失敗しても確かに何とでもなるだろうが、思い切ったもんだね~。
俺みたいに最悪の場合は違法ギリギリの依頼を請けて儲ければ良いとか、シャルロやアレクみたいに実家に金があるという訳でも無かろうに。
確かイリスターナとタニーシャは普通のどっかのギルド職員の子供と聞いた気がする。
「へぇ、頑張ってるんだね」
シャルロが感心したように相づちを打った。
おい。
ちょっとそれって嫌味として受け取られかねないか?
シャルロ本人は深く考えていないだろうけど、成功した同級生に言われるとちょっと上から目線だと思われてもしょうがないぞ。
「ところが、年末になって税金を払えって国税局から連絡が来てね。
そんな支払は想定していなかったからお金が足りなくって。
だからちょっと借金したの。
翌年にさっさと働いて借金を返して、その後はちゃんと稼いだお金から税金分を先に分けて暮すようにしようと話し合って」
イリスターナが肩を竦めながら続けた。
幸いにもシャルロのコメントは嫌味とは受け取られなかったらしい。
まあ、こいつが嫌味を言うような奴じゃあない事はイリスターナも分かっていたのだろう。
「税金ねぇ。
俺達の場合はアレクが帳簿を付けておいて必要経費とかを先に抜き取ってから収益の分配をして報告してくれているんだけど、お前達はそういうことをしてなかったの?」
まあ、普通の若い魔術師だったらそこまでしっかりお金の計算なんてしてないか。
特に魔術学院でもそう言ったことは教わらなかったし。
・・・考えてみたら、魔術学院を卒業した後に独り立ちする人間は多いんだ。
会計士を雇えるほど成功してから独り立ちするとは想定せずに、貧乏で自分で帳簿を付けなくちゃならなくても困らないようにちゃんと魔術学院で教えるべきだよな。
「独り立ちした後の帳簿とかお金の管理については初心者研修を商業ギルドで提供しているんだけど、受けなかったのかい?」
アレクが尋ねた。
え、そんなのあるんだ?
「はぁぁ?
何それ?
そんなのがあるなんて聞いてないわよ!?」
イリスターナもその研修のことを知らなかったらしく、少し声が大きくなった。
「魔術院の依頼しか請けないのだったら魔術院で報酬を払う際に税金を元から引いておくから、必要ないと思ったのかもね。
だが、タニーシャと二人で事業を始めて、年末に税金の請求が来たと言うことは事業として商業ギルドに登録したんだろう?
普通は事業を登録した時に研修を受けるんだけど」
アレクがお茶のお代わりをイリスターナのカップに注ぎながら説明した。
へぇぇ。
そんな研修があるんだ。
もしも俺達の3人が喧嘩別れなんて事になったら、その研修を是非とも受けないとまずいということだな。
イリスターナが深くため息をついた。
「そんな研修があるなんて・・・。
後で詳しく教えて頂戴。
まあ、それはともかく。
取り敢えず税金分のお金を借りて、借金を返済しようとしたんだけどあれよあれよという間に利子が増えていっちゃって、今じゃあ首が回らなくなってきたのよ。
だから事業を解散して、軍にでも入ってお金を借りて借金を返そうかとタニーシャと話していたら、あのスケベジジイが妾になったら借金を棒引きしても良いなんて言い出してきたのよ」
考えてみたら、軍に入った場合は借金を返済するまで給与から返済分を天引きしながら働き続けると誓約すれば入隊時にお金を借りることが出来ると聞いた気がする。
だから『軍に身売りする』と言っていたんだな。
魔術師ならばそれなりに高給取りなので税金分の借金なんて直ぐに返せるだろう。
それなりに軍務には危険が伴うだろうが。
そんなことを俺が考えていたら、アレクが首を傾げた。
「利子がそんなに増えたって・・・一体何%で幾ら借りたんだい?
税金分だったらそれ程の金額じゃあないだろう?」
「10%よ。
法定利息だって聞いたわよ?」
イリスターナが肩を竦めながら答えた。
10%の利息でそんなに首が回らなくなるか??
どれだけ仕事が上手くいってなかったんだよ??
「・・・法定利息は年率だよ?
分かってるよね?」
恐る恐ると言った感じでアレクが尋ねた。
うん?
年率?
「どういうこと?
金貨10枚を借りて、毎月1枚利息としてプラスされていたんだけど?」
イリスターナもイマイチ『年率』という言葉に馴染みが無かったのか、聞き返していた。
アレクが深くため息をついた。
「年率と言うことは、1年間借りて金貨10枚の借金に金貨1枚の利息が付くと言うことだよ。
例え月払いになるとしても、毎月末に払わなければならない利息は銀貨1枚弱という所だね。
金貨1枚と毎月払っていたと言うことは、年末まで借りていたら利子として金貨11枚も払うことになるじゃ無いか。
それは利息10%とは言わない」
・・・確かに、借りた金額よりも利息の方が大きくなるなら10%の利率とは言わなそうだよな。
一つ賢くなったぜ。
もっとも、人から借金する気なんぞ無いけど。
【後書き】
1年が11ヶ月なので計算がちょっと面倒。
1年を10ヶ月にしておけば良かったとちょっと後悔してますw
話が複雑になりすぎるので複利計算とかはしてません。
あんた達が3人で事業を始めてそれなりに成功しているって聞いたから、若い内に私達も無茶をしてみるのも有りかなって話していて。
まあ、私達の場合は無難に魔術院の依頼を請けて魔術を掛けたり、ちょっとした魔道具や魔術回路を作ったりというのが多かったからそれ程ガンガン儲かっていた訳では無いけど、ちゃんと毎月の家賃と生活費は稼げるぐらいには上手くいっていたの」
小さく息を吐き出してカップを机の上に置いたイリスターナが説明を始めた。
俺達ってそんなに成功例として噂になってんの??
まあ、卒業して1年目に空滑機《グライダー》と携帯型通信機を開発したからそれなりに上手くいっていたとは言えるけど、それなりに経費と時間が掛ったし、売上もそこまで極端に大きい訳では無いからそんなに大成功していたという意識は無かったんだけどな。
去年の終わりに来た新規航路の発見の依頼で大分儲かったし俺達の事業の規模が大きく拡大した気もするが・・・それは俺とアレクの魔術師としての能力はあまり関係なく、シャルロと蒼流の力から来た話だからなぁ。
まあ、若い内だったら失敗しても確かに何とでもなるだろうが、思い切ったもんだね~。
俺みたいに最悪の場合は違法ギリギリの依頼を請けて儲ければ良いとか、シャルロやアレクみたいに実家に金があるという訳でも無かろうに。
確かイリスターナとタニーシャは普通のどっかのギルド職員の子供と聞いた気がする。
「へぇ、頑張ってるんだね」
シャルロが感心したように相づちを打った。
おい。
ちょっとそれって嫌味として受け取られかねないか?
シャルロ本人は深く考えていないだろうけど、成功した同級生に言われるとちょっと上から目線だと思われてもしょうがないぞ。
「ところが、年末になって税金を払えって国税局から連絡が来てね。
そんな支払は想定していなかったからお金が足りなくって。
だからちょっと借金したの。
翌年にさっさと働いて借金を返して、その後はちゃんと稼いだお金から税金分を先に分けて暮すようにしようと話し合って」
イリスターナが肩を竦めながら続けた。
幸いにもシャルロのコメントは嫌味とは受け取られなかったらしい。
まあ、こいつが嫌味を言うような奴じゃあない事はイリスターナも分かっていたのだろう。
「税金ねぇ。
俺達の場合はアレクが帳簿を付けておいて必要経費とかを先に抜き取ってから収益の分配をして報告してくれているんだけど、お前達はそういうことをしてなかったの?」
まあ、普通の若い魔術師だったらそこまでしっかりお金の計算なんてしてないか。
特に魔術学院でもそう言ったことは教わらなかったし。
・・・考えてみたら、魔術学院を卒業した後に独り立ちする人間は多いんだ。
会計士を雇えるほど成功してから独り立ちするとは想定せずに、貧乏で自分で帳簿を付けなくちゃならなくても困らないようにちゃんと魔術学院で教えるべきだよな。
「独り立ちした後の帳簿とかお金の管理については初心者研修を商業ギルドで提供しているんだけど、受けなかったのかい?」
アレクが尋ねた。
え、そんなのあるんだ?
「はぁぁ?
何それ?
そんなのがあるなんて聞いてないわよ!?」
イリスターナもその研修のことを知らなかったらしく、少し声が大きくなった。
「魔術院の依頼しか請けないのだったら魔術院で報酬を払う際に税金を元から引いておくから、必要ないと思ったのかもね。
だが、タニーシャと二人で事業を始めて、年末に税金の請求が来たと言うことは事業として商業ギルドに登録したんだろう?
普通は事業を登録した時に研修を受けるんだけど」
アレクがお茶のお代わりをイリスターナのカップに注ぎながら説明した。
へぇぇ。
そんな研修があるんだ。
もしも俺達の3人が喧嘩別れなんて事になったら、その研修を是非とも受けないとまずいということだな。
イリスターナが深くため息をついた。
「そんな研修があるなんて・・・。
後で詳しく教えて頂戴。
まあ、それはともかく。
取り敢えず税金分のお金を借りて、借金を返済しようとしたんだけどあれよあれよという間に利子が増えていっちゃって、今じゃあ首が回らなくなってきたのよ。
だから事業を解散して、軍にでも入ってお金を借りて借金を返そうかとタニーシャと話していたら、あのスケベジジイが妾になったら借金を棒引きしても良いなんて言い出してきたのよ」
考えてみたら、軍に入った場合は借金を返済するまで給与から返済分を天引きしながら働き続けると誓約すれば入隊時にお金を借りることが出来ると聞いた気がする。
だから『軍に身売りする』と言っていたんだな。
魔術師ならばそれなりに高給取りなので税金分の借金なんて直ぐに返せるだろう。
それなりに軍務には危険が伴うだろうが。
そんなことを俺が考えていたら、アレクが首を傾げた。
「利子がそんなに増えたって・・・一体何%で幾ら借りたんだい?
税金分だったらそれ程の金額じゃあないだろう?」
「10%よ。
法定利息だって聞いたわよ?」
イリスターナが肩を竦めながら答えた。
10%の利息でそんなに首が回らなくなるか??
どれだけ仕事が上手くいってなかったんだよ??
「・・・法定利息は年率だよ?
分かってるよね?」
恐る恐ると言った感じでアレクが尋ねた。
うん?
年率?
「どういうこと?
金貨10枚を借りて、毎月1枚利息としてプラスされていたんだけど?」
イリスターナもイマイチ『年率』という言葉に馴染みが無かったのか、聞き返していた。
アレクが深くため息をついた。
「年率と言うことは、1年間借りて金貨10枚の借金に金貨1枚の利息が付くと言うことだよ。
例え月払いになるとしても、毎月末に払わなければならない利息は銀貨1枚弱という所だね。
金貨1枚と毎月払っていたと言うことは、年末まで借りていたら利子として金貨11枚も払うことになるじゃ無いか。
それは利息10%とは言わない」
・・・確かに、借りた金額よりも利息の方が大きくなるなら10%の利率とは言わなそうだよな。
一つ賢くなったぜ。
もっとも、人から借金する気なんぞ無いけど。
【後書き】
1年が11ヶ月なので計算がちょっと面倒。
1年を10ヶ月にしておけば良かったとちょっと後悔してますw
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