シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院2年目

041 星暦550年 紺の月 17日 遺跡(1)

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考えてみたら、孤児になってからは生きることに忙しすぎて『冒険』をやってこなかった。
まあ、盗賊シーフとして生きること自体が冒険だったという見方もあるかもしれないけど。



遺跡は小さな丘の下にあった。
丘を上って行くと木の枠で囲まれた入り口があり、下へ降りて行く階段が見える。
「これって誰かが作ったのか?」
枠を指してシャロルに尋ねる。

遺跡の時代から残っているとは思い難いが、たいした物が無いと分かっている遺跡に態々手を加える意味が分からない。

「近辺の若者が皆して探検に来るから、生き埋めにされないように、おばあさまが作らせたらしいよ」
とシャルロが答えた。

「大して重要性もなく、危険なだけだったらいっそ埋めてしまえばいいんじゃない?」
定期的に子供が迷子になって捜索隊が必要になるような遺跡を残しておく理由が分からない。

「そんな!遺跡を埋めちゃうなんて、絶対にダメだよ!!」
まるで俺が神殿で排泄行為でもすると言ったかの様にシャルロが唖然とした顔で返事をした。

遺跡って言ったって単に昔の人が暮らしていた跡と言うだけだろうに。何がそんなに重要なのだろうか。

「冒険心と言うのは大成するのに重要なものだ。だけどそれを試している間に死んでしまっては元々子もないからね。この遺跡は子供に遺跡と言うのは自分の力では抜け出せないぐらい難しい物もあると教えるのに、丁度いいんじゃないか?」
アレクが提案した。

なる程、そう考えると危険なトラップも無く、村から簡単に捜索隊を出せるこの遺跡って都合が良いのかも。

シャルロが先頭に立って階段を降りる。
頭上には光魔術で発生させた光の球がフワフワと漂いながら先行する。
アレクが作った光球は彼の興味に合わせてあちこちの壁や天井を照らす。

俺は別に光球が無くてもどうせ心眼サイトで視えるので、取り敢えず天井近くに浮かせて周りをぼんやりとでも浮き上がらせるようにする。

階段を降り切った先は街中の様だった。
通りに天井が有るが。
廊下と言うよりは道と言った感じの通路、彼方此方に扉があり、家・・・もしくは部屋に繋がっている。
扉の中へ入って行くと部屋があり、さらにそれが別の部屋に繋がり、場合によっては階段があり。

どおりでシャルロの兄達が皆して迷子になった訳だ。
「全部端からシラミ潰しに見て行くか、中央部にまず行くかを先に決めないか?」
幾つかの扉と部屋を探索した後、キリがないと見切りをつけて二人に声をかける。

「そうだね。
・・・こんなに大きいなんて、凄いや」
シャルロが嬉しそうに周りを見回しながら言った。

「まず、中央部の広場を目指そう。全体的な規模を把握しないことには探検の計画も立て難い」
アレクが冷静に返した。

確かにね。
一応シャルロが聞いた話では端から端まで行くのに1日以上かかるような規模ではないらしいが。
考えてみたら、自分の子供が忍び込む前にオレファーニ家が学者にでも完全な調査をやらせているのだろうから、その調査報告書を昨日のうちに入手して読んでおくべきだったな。
レディ・トレンティスは『読ませて欲しい』と頼めば笑いながら調査報告書を貸してくれるタイプだと思う。

ま、自分で色々発見する方が面白いだろうけど。
「じゃあ、とりあえずあっちの方に行こうか」
大きな空間が開いているのが視える方向を目指して歩き始めた。

「中心部ってそっち?」
シャルロが訪ねてくる。

「大きな空間があるから多分ね」

「そっか、心眼サイトを使えば遺跡の構造も分かるのか」
微妙に失望したようにアレクが呟いた。

「そりゃあ、どこに壁があるのかは分かるけど、別に壁の場所を知る為に来ている訳じゃないじゃん?
まあ、魔具があれば心眼サイトに光って視えるからわかるけどさ」

・・・考えてみたら、俺の能力って遺跡での魔具探しには無敵かも?
トラップも見つけられるし。
これで魔物対応係が一緒にいれば遺跡ハンターになってもいいかもしれない。
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