シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
106 / 1,309
魔術学院3年目

105 星暦551年 青の月 22日 下調べ

しおりを挟む
流石シェフィート家の情報担当。
セビウスは翌日にはダンガン商会の3男が使っていそうな怪しげな倉庫や建物のリストを入手してきた。

早!

ということで救出に行くことになったのだが・・・。

「俺たちで奉公契約書の転売合意が偽造されたかどうか、認定出来るのか?」
そう言う魔術は実は習っていない。
まあ、誰かが書いた文書と言うモノには書いた本人の気が多少は残るからそれを確認することはできるか、イマイチそれが有力な商会の息子まで関与している人身売買リングを沈黙させるのに十分とは思えない。

「魔術院にリクエストするか・・・?」
アレクが提案しつつも微妙な顔で悩み始めた。

魔術院もねぇ・・・。
強力な相手がごり押ししてきた時は『奉公先から勝手に抜け出してきた』と言って偽造証明を依頼する為に逃げ込んできた奉公人(というか奴隷)を『奉公先』へ引き渡すことがあるからなぁ。

まあ、オレファーニ侯爵家とシェフィート商会の子息たちが正しいことをするよう『お願い』しているのだから多分大丈夫だと思うが。

でも、アレクにしてみればあまり魔術院に借りを作りたくないのかもしれない。

「学院長に頼もうよ。あの人なら何とか出来るだろうし、何とかしようとしてくれるでしょ」
シャルロの提案が一番いいかな?

ということでシャルロが学院長を説得しに行くことになり、その間に俺とアレクでセビウスが持ってきたリストに載っている場所を調べることになった。
幸いセビウスが『緊急の用件』として早馬車をアレクに送ってくれたので、アレクと手伝い2人|(ということになっている)は特別に学院祭の準備から抜け出す許可を貰えた。

メッセンジャーとして来たサーシャと馬車に乗って出る。

早馬車なんてある意味かなり注目を集めるのだが、それでも足で歩くよりはサーシャが目撃される可能性は低いだろう。
俺やアレクはまだしも、サーシャがもう一度人身売買の連中に目撃されたら姉の身が危ない。


「これで姉が見つかるんですね。本当にありがとうございます」
サーシャが涙ぐみながら礼を言ってきた。

「人として当然のことをしているまでだ」
いやいや、ここまで助けるのは人として平均的な『当然』じゃあないよ、アレク。
まあ、それが出来る立場にあるんだから助けの手を差し伸べるのは良いことだけどさ。

「今日貰ったリストはダンガン家の3男関係の場所でしかない。怪しいぐらいに羽振りが良くなっているっていうことだから関与している可能性は高いけど、隠れ場所に直接関係していなかった場合このリストに含まれていない可能性もそれなりにある。
ちゃんとお姉さんを見つけるまで追い続けるけど、今日見つかるとは限らないからあまり期待を高めない方がいいよ」

大船に乗ったのかごとく安堵しているサーシャに思わず釘をさす。
・・・というか、今日中にお姉さんが見つかったとしても無事に助け出せるとも限らないし、下手をしたらもう死んでいるかもしれないし。
既にどこかに売られていた場合は、人身売買リングの人間もしくは書類から売却先を見つけなければならない。
あまり楽観的にならない方がいい。
だが、『魔術師』(の卵なんだけど)が手伝ってくれているということで成功への絶対の自信を持ってしまったのか、妙に楽観的になっていて心配だ。
何も出来ない状況でくよくよ悩んで心配しているよりはマシだけど、あまり安堵していると後が怖い。

◆◆◆

セビウスが持ってきたリストに載っていた建物は
●下町にある倉庫
●下町にある古い建物
●商業地区にある改装中の商店
そして4件ほどの3男が持っているらしき住居型投資用不動産だった。

「とりあえず、下町の倉庫を確認しよう」
ということで馬車をそこまで行かせ、俺が心眼サイトで探したのだが、倉庫は怪しげな薬草モドキが大量においてあったが拘束された人間はいなかった。

・・・あれって麻薬の原材料かなぁ。

盗賊《シーフ》ギルドの長は麻薬には断固として反対する立場をとっている。
麻薬に侵された人間は薬の為には仲間でも平気で裏切るようになるから、危険すぎるのだ。
長期的に使用すると人格も肉体もが破壊されるし。

今度長に『相談』しようと思いつつ、次の建物へ行ったが・・・今度は全く何も無かった。
丁度賃貸人が出て行ったところなのか、人気が無くて誰も借りたい人がいなかったのか。
ある意味、不動産投資にうまくいかなくって苦しくなったから人身売買なんてモノに手を出したのかもしれない。

しょうが無いので商業地域の方へ行こうと思って考え直した。
考えてみたら、連中は船で逃げていた。
だとしたら、潜伏先も船に近い可能性が高い。

地図で確認してみると3男の持っている投資用不動産の1件が港にそこそこ違い。

「船で逃げたんだから、逃げた先も船から遠くない場所なはず。
自分が売られると分かって自棄になっている女性を連れて街中何メタも歩けるもんじゃない。こちらの家を先に試してみよう」

俺の提案にアレクも合意し、そちらへ馬車を回す。

行った先は、ちょっとしたウォーターフロントの洒落た戸建だった。
・・・貸したらそれなりの賃貸が入りそうなのに、さっきの無人建物でなくここを使うかね?
幾ら船で直接移動が出来ると言っても、無駄な気がする。

違うんだろうなぁ・・・と思いつつ心眼サイトで探したところ。

いた。

この3男の経済的判断の基準って分かんね~!

何もこんなお洒落なところを人身売買の倉庫代わりに使わなくてもいいだろうに。

「地下室に5人ほど人が閉じ込められている。ここだな」

「賊は何人いる?」
敷地内を丁寧に視て回る。

「1階に2人、2階で休んでいるのが2人、外を警戒しているのが2人・・・かな。船が見当たらないからそれが戻ってきたら何人乗っているのか分からないが。」

アレクが情報を簡潔に紙に書き込み、それを式にして飛ばした。

さて。
後はしばし待ちだな。

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...