シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
107 / 1,309
魔術学院3年目

106 星暦551年 青の月 23日 拘束

しおりを挟む
「6人なら丁度いい。一人2人ずつ拘束しなさい」
シャルロと一緒に魔術院の人間と警備兵2人をつれて現れた学院長が俺たちに言い渡した。

「魔術の現実的な使い方のいい練習になるだろう?お前たちが全員を同じタイミングで拘束すれば捕らわれている女性たちに害が及ぶ心配もない」

荒事対応の為にその警備兵が来ているんじゃなかったの?

まあ、魔術の実践的な練習というのは悪くないから従ったけどさ。

「じゃあ、シャルロが外の2人、俺が下にいる2人、アレクが上の2人ということでいこうか。どこにいるか、分かるか?」

道の反対側に停めた馬車の中から家の中にいる人間の場所を確定して拘束の術をかけるのはそれなりに難しい。
だから場所が大雑把にしか分からなくても範囲を広くして術を行使すればいい外はシャルロ、動かない休息中の2人をアレク、そして定期的に動き回って家の中を見張っている1階の2人を俺が担当するのが一番効率的だろう。

短期間の拘束の術だったら直径2メタ程度の実行範囲を作り上げるのはそれ程難しくない。
だが、言い方を変えると直径2メタ以内の場所にターゲットの2人がいてくれなければ困る。

と言うことで1階の二人がお互いに近づくのを俺が確認したら一斉に拘束術をかけることで合意した。

しばし待っていたら、喉が渇いたのか一人が台所に向かった。まだ食事の時間じゃないから飲み物でも取りに行ったのかな?
海寄りのリビングをうろうろしていた男が台所に近づいた。どうやら自分にも飲み物が欲しくなったのか。

だとしたらグラスを渡す瞬間が一番いいのだが・・・。

「よし、いまだ!」

グラスが台所にいた人間からオネダリに来た人間の手に渡った瞬間に術を放つ。
「「「拘束アレスト!」」」

一瞬の間に3つの拘束フィールドが具現化し、男たちの身動きを止めた。

シャルロの拘束フィールドは長さ10メタはありそうな庭を完全に押さえていた。
おいおい。
どんだけ~?
気をつけないと、シャルロったら警備兵とか軍隊にスカウトされちゃうぞ?

「よし、行くぞ。警備兵の諸君はとりあえず拘束された男たちを縛って見張っておいてくれるかな?
下で閉じ込められている女性たちを解放し、奉公契約の違法転売が行われていたかを確認する間に逃げられては困るからね」

学院長が指示を出す。

そっか。
奉公契約の違法転売(つまり人身売買)が証明できるまではこの警備兵たちにあまり大きなことをさせられないのか。

ま、4人の女性と1人の美少年が閉じ込められて泣いて解放を喜んでいるのをみたら、どう考えてもまともな奉公契約じゃあないことは誰の目にも明らかだったけど。

「いない・・・」
地下から解放された被害者たちを見てサーシャが絶望のうめき声を上げた。
ちっ。
サーシャの姉は既に売れらた後なのか。
それとも殺されたのか。
もしかしたら別の場所に運び出されたのかもしれない。

どこかの素人にでも売られていればいいんだが・・・。
違法組織の一部が検挙されたとなると、芋蔓式に捕まることを恐れてプロなら証拠隠滅に動きだす。

「ウィル」
学院長が奥の部屋から呼んだ。

「開けられるか?」
部屋の壁に掛けてあったらしき絵画が下に降ろされ、金庫が姿を現していた。
なるほど、書類はそっちなのかな。

・・・人身売買なんて言う危険な商売の書類を隠すにしてはちょっと凡庸な隠し場所だが。

とりあえず、その金庫を開け、中に入っていた書類を学院長に渡した。

「見事なモノだな」

「単純な構造でしたから」
謙遜などではなく、本当にズブ素人以外なら確実に開けられるような単純な構造の金庫だった。
殆ど気休めの域を出ていない。
しかも『ここに重要品あり』と周囲にアピールしているようなものなんだから、却って無い方が良いぐらいだ。


学院長が資料を調べている間に俺は部屋を心眼サイトで輪切りにしながら視て回った。
だが・・・何もない。

おかしいなぁ。
どんな素人のおバカちゃんでもこんな単純な金庫は使わないと思うのだが。こんなモノ、今では買う人もいないから当然製造も停止されており、入手するのの方が難しいぐらいだ。

書斎には何もなかった。
ふむ。
下と上、どちらに隠しているかなぁ。

◆◆◆


結局、もう一個の金庫は掃除道具置き場にあった。

掃除をしないんかね、この建物の主は?
家政婦とかを雇っているとしたらそんな人間が四六時中出入りする上そちらの金庫の中に奉公契約転売の証拠が残すというのは危険この上ない。
・・・しっかし、ダンガン家の3男が集めた仲間に関する『保険』の情報は凄かった。
この人身売買リングはこれで終わりだな。

良いことだ。

良いこと・・・なんだが、肝心のサーシャの姉貴はどこに行ったんだ?!


しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...