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卒業後
199 星暦553年 藤の月 3日 防寒(4)
しおりを挟む「馬も暖めて欲しいって~」
家族とその知人に聞き込みをしてきたシャルロが報告した。
なるほど。
貴族層の利用は主に遠乗りと自分の邸宅の庭園の散策といったところだろう。
となると愛馬の体調のためにも暖かさを分けてやりたいといったところなのか。
馬にしたって、人間と同じで寒さで筋肉が強ばっていたら怪我をしやすいだろうし。
「ふむ。結界の範囲を広げるか、ある程度以上の接触がある生き物を結界対象に含めるようにするか、それとも馬用に別の魔具を創るか。工夫が必要だな。
ちなみに商会の方に聞いてみたら、あちらとしては隊商での利用になるから最低でも3日、出来れば20日は充填しないで日中だけでも連続利用出来ないと厳しいとのことだ」
王都や大きな商業都市ならば魔石の充填なり買い換えが比較的容易に出来るが、田舎や辺境に行ったらそうもいかない。
考えてみたら、暖房用魔具があれば、辺境へ冬に商売に行き、競争相手のない取引が出来るかもしれないな。
それで途中で魔具が尽きて凍え死んでしまったら話にならんが。
「軍の方では、最初の一撃でもいいから、矢と投げナイフを止めるだけの威力を結界に持たせることが出来たら重宝するってさ」
黒板に書き込みながらアレクが小さく頷いた。
「隊商の方も、それには需要がありそうだな。隊商だったら最初の一撃とは言わず、5回ぐらいは攻撃に耐えてくれる方がいいだろうが。ただ、そうなると一気に魔力を使い切ってしまうな」
取りあえず、
1.頭だけで無く体全体をちょうど良く暖める機能
2.商会でも経営を傾けないレベルで買える魔石で20日ぐらい持たせる効率性
3.防御結界機能
4.隣接する生き物も暖める機能?
が必要と言うことか。
安易な思いつきで始めたのに、意外と複雑な話になってきた。
「じゃあさ、まず全体を暖める機能と、効率性と、防御結界とを担当を決めて2日ぐらい工夫してみて、担当を交換してみない? 色々違う考えも出てくるだろうし。
馬に関しては、何だったらサイズの大きいのをもう一つ馬用に売ってもいいし、とりあえず後回しにしよう」
シャルロの提案に皆で頷き、担当を決めるためにサイコロを振った。
最近の俺たちの初期開発手法だ。
どうせ同じ工房で作業をしているので色々お互いに相談し合うが、やはりメインに色々試していくのは一人でやる方が効率がいい。とは言っても、知恵を集め合うのも俺たちのやり方だから担当を区切りが良いところで交換して、違うやり方を色々試し、最後に一緒になって更に磨き上げるのだ。
と言うことで今回は防御機能がまずあたった。
さて。
古来色々活用されてきた防御結界はそれなりの数が魔術院に登録されている。
まずはそれから見て回るか。
「そんじゃ、魔術院に行ってくるわ」
コートを取りに向かった俺にシャルロとアレクも付いてきた。
「僕も」「私もかな」
魔術院の術回路も、もっと探しやすいように整理されていればいいんだけどなぁ......。
20年単位の棚の中で分野ごとに分かれているから、何百年分もの棚から重い資料箱を取り出して机まで集めるだけでも大変だ。しかも後でまた元の棚へ戻さなければならないし。
年代ごとに分けずに分野だけで整理してはどうかと一度司書に訴えたことがあるが、調べごとをしている魔術師が棚の前に陣取ってその場で資料に目を通し始めて邪魔になるため、却って利用者全体からすると非効率になるんだそうだ。
俺も出来るならば同じことをしたい。
だが、それなりに利用者もいる資料庫のあちこちの床に魔術師が座り込んで調べごとをしていたら確かに邪魔でしようがないだろう。
いつか、術回路を登録して机から検索できるような魔具が出来たら凄くありがたいんだが。
『情報』を大量に蓄積できる魔具は今のところ発明されていない。どうやったら出来るのかすら思いつかないから、そんな便利な魔具が出来るのはまだまだ先の話なんだろう......。
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