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卒業後
332 星暦553年 黄の月 9日 ちょっと趣味に偏った依頼(14)
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今回はシェイラの視点です。
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>>>サイド シェイラ・オスレイダ
「おう、シェイラ。
どうも人避け結界が汎用性が無いことが判明したんで、更に遺跡を調べてもっと使い勝手の良いの魔術や魔道具が無いか探すことになったんだけど、一緒に見て回るか?」
昼食の後、仲間と一緒になにやら実験をしていたウィルが戻ってきた。
あら。
ウィル達がとても興奮していた人避け結界は駄目だったの?
まあ、どうも実験が上手くいかないって昨日辺りから悩んでいたけど、諦めたのかしら?
「調べなきゃいけない巨樹はまだまだあるもの。
ウィルが午後の自由時間にも付き合ってくれるなら大歓迎よ!」
丁寧に汚れを落としながら分類していた日常生活品(らしき物)から一歩離れて、手を洗いに行く。
一緒に作業していたダラアマート博士がにやにや笑っているのは見ない振りをする。
『いけいけ~』
博士が声を出さずに口を動かした。
まったく。
先程まで、ウィルと良い感じだからこのままくっついちまえ~と冗談交じりに言われていたのだ。
魔術師がタダ同然の依頼料で居着いてくれたら便利だからと、どの研究者も私とウィルが親しくなることに協力的だ。
そうは言ってもねぇ。
そんな下心満載で親しくなろうとしてもそれに気付かない男じゃ無いと思うんだけどな。
まあ、気が合うし、悪くない人だからじっくりとお互いの人なりを知りながら親しくなっていくのは良いし、こちらが思っている通りの人なら付き合うのも良いと思うが。
なんと言っても、考古学を第一に考え、家事も商売もするつもりが無い女なんて、遊び以外でまともに付き合おうと考える男は少ない。
かといって、似たようなタイプが集まる学者の世界では、流石に二人ともそんな浮世離れしていたらやっていけないから・・・結局は私が相手の面倒までみる羽目になる。
それはゴメンだ。
そう考えると、面倒な固定観念を持っていないウィルというのは本当に話していて楽だ。
彼を利用しようとは思わないけど、このまま親しくなっても悪くないかも?
ちょっと今度、夕食にでも誘ってもう少し個人的な事を聞こうかしら?
でも、既に付き合っている人が居るなんてことになったら気まずいから、先にウィルの仲間の方にそれとなく探りを入れた方が良いかなぁ・・・。
◆◆◆◆
「じゃあ、本当にここで降ろしちゃって良いのか?
キャンプ中央部まで送っても大した手間じゃあ無いぞ?」
西側の巨樹を見終わって、ウィルはそこで見つけた何かを更に調べることになり、私は記録を整理するためにキャンプに戻ることになって分かれた。
「良いの。遺跡の中を歩くと色々発見があるし。なんと言っても、これ程昔の形が残っている遺跡だと、歩くこと自体がもう嬉しくってしょうが無いぐらいなんだから」
思わず笑いが浮かぶ。
数百年前のフォラスタ文明の人々も同じ道を歩いたのだ。
何か気が付けるかも知れないし、『これって不便』と思うことがあったらそれに対応する仕組みもあるかも知れないと調べることも出来る。
これ程素晴らしい遺跡はそうそうない。
「そうか?
じゃあ、またな」
肩を竦めて、ウィルはそのまま上に戻っていった。
すぅっと上空に上がっていく彼を見て、思わず魔術の便利さにため息が漏れる。
ああ。
自分にも魔力があったらなぁ。
魔術師になる気は全く無いが、ああやって宙を浮けたり、固定化の術が掛っている物が見えたらどれ程発掘作業が捗ることか。
・・・彼らの持っている空滑機って何らかの方法で体を軽くして、推進力を加えて飛んでいるのよね?
長距離を飛ばなくていいから、ふわふわ家の周りや巨樹の周りを浮かべるような魔道具を作ってくれないかしら?
フォラスタ文明遺跡の発掘に便利なだけでなく、それこそ建物を建てたり修復する際にも便利だと思うから、魔道具としてもそれなりに需要があってもいいと思うんだけど。
そんなことも考えながら、フォラスタ文明の人間になったつもりで遺跡の中を歩いていたら、キャンプ中央のテントの前でシャルロに会った。
「こんにちは、シャルロ。
ウィルを探しているんだったらあちらの巨樹のところで何か興味をひくものがあったみたいで、更に調べているようよ」
「そう?
何か見つかったら夜にでも教えてくれるから、別にいいよ。
ところで、北側のこのセクションでの固定化術をかけるのを終わったから、次はどのセクションに取り掛かってほしいか聞きたかったんだけど」
本当に、この人たちって勤勉ねぇ。
午後は自由にしてくれていいのに。
「じゃあ、東側のここから、外側に向けてお願い」
遺跡の見取り図を取り出し、シャルロが終わったというセクションに印をつけてから次に取り掛かってほしいセクションを示す。
「了解~」
「あ、ちょっと質問してもいい?」
頷いて東側に向かおうとしたシャルロを思わず引き留めた。
「な~に~?」
振り返ったシャルロに見つめられて、思わず口ごもった。
ううむ。
子供じゃないんだから、変に恥ずかしがるんじゃないわよ、シェイラ!
普段だったらもう少し周りに人がいるし時間もあるから、もっとさりげなく相手のことを探れる。
だが、今回は聞ける相手がシャルロとアレクしかいないのだ。
シェフィート商会のアレクに聞くよりは、こちらのシャルロに聞く方がまだましだろう。
別にシェフィート商会に恨みがあるわけではないが、それなりに親同士がライバル的な関係でもあるのに個人的なことを質問してこちらの興味をさらけ出すのは・・・何とはなしに嫌だ。
「ウィルって・・・誰か付き合っている人、いるのかしら?
折角彼も街に宿泊しているから、今度夕食にでも誘おうかと思うんだけど、付き合っている人がいるなら悪いじゃない?」
にやり。
ちょっと想定外な感じにシャルロが笑った。
あれ?
こんな笑い方する人だったの、この人??
「ふふふ。
別に、僕たち3人とだったらウィルに付き合っている人がいても夕食一緒に取れると思うけどね~。
まあ、僕もアレクも色々やりたいことが有るし。
唐変木なウィルをぜひ誘ってあげて。
ウィルは付き合っている人はいないし、気になる人も今までいなかったみたいだと思うけど・・・唐変木だからねぇ。
仕事とか危険な事に関しては凄く聡いんだけどさ。
彼に興味があるんだったらシェイラが押していかないと、いつまでたっても状況に変化がないかもよ」
うっ。
こちらの興味はバレバレ?
そんな『いい人』を紹介したがる世話焼きおばさんのような顔で笑わないでほしいわぁ・・・。
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>>>サイド シェイラ・オスレイダ
「おう、シェイラ。
どうも人避け結界が汎用性が無いことが判明したんで、更に遺跡を調べてもっと使い勝手の良いの魔術や魔道具が無いか探すことになったんだけど、一緒に見て回るか?」
昼食の後、仲間と一緒になにやら実験をしていたウィルが戻ってきた。
あら。
ウィル達がとても興奮していた人避け結界は駄目だったの?
まあ、どうも実験が上手くいかないって昨日辺りから悩んでいたけど、諦めたのかしら?
「調べなきゃいけない巨樹はまだまだあるもの。
ウィルが午後の自由時間にも付き合ってくれるなら大歓迎よ!」
丁寧に汚れを落としながら分類していた日常生活品(らしき物)から一歩離れて、手を洗いに行く。
一緒に作業していたダラアマート博士がにやにや笑っているのは見ない振りをする。
『いけいけ~』
博士が声を出さずに口を動かした。
まったく。
先程まで、ウィルと良い感じだからこのままくっついちまえ~と冗談交じりに言われていたのだ。
魔術師がタダ同然の依頼料で居着いてくれたら便利だからと、どの研究者も私とウィルが親しくなることに協力的だ。
そうは言ってもねぇ。
そんな下心満載で親しくなろうとしてもそれに気付かない男じゃ無いと思うんだけどな。
まあ、気が合うし、悪くない人だからじっくりとお互いの人なりを知りながら親しくなっていくのは良いし、こちらが思っている通りの人なら付き合うのも良いと思うが。
なんと言っても、考古学を第一に考え、家事も商売もするつもりが無い女なんて、遊び以外でまともに付き合おうと考える男は少ない。
かといって、似たようなタイプが集まる学者の世界では、流石に二人ともそんな浮世離れしていたらやっていけないから・・・結局は私が相手の面倒までみる羽目になる。
それはゴメンだ。
そう考えると、面倒な固定観念を持っていないウィルというのは本当に話していて楽だ。
彼を利用しようとは思わないけど、このまま親しくなっても悪くないかも?
ちょっと今度、夕食にでも誘ってもう少し個人的な事を聞こうかしら?
でも、既に付き合っている人が居るなんてことになったら気まずいから、先にウィルの仲間の方にそれとなく探りを入れた方が良いかなぁ・・・。
◆◆◆◆
「じゃあ、本当にここで降ろしちゃって良いのか?
キャンプ中央部まで送っても大した手間じゃあ無いぞ?」
西側の巨樹を見終わって、ウィルはそこで見つけた何かを更に調べることになり、私は記録を整理するためにキャンプに戻ることになって分かれた。
「良いの。遺跡の中を歩くと色々発見があるし。なんと言っても、これ程昔の形が残っている遺跡だと、歩くこと自体がもう嬉しくってしょうが無いぐらいなんだから」
思わず笑いが浮かぶ。
数百年前のフォラスタ文明の人々も同じ道を歩いたのだ。
何か気が付けるかも知れないし、『これって不便』と思うことがあったらそれに対応する仕組みもあるかも知れないと調べることも出来る。
これ程素晴らしい遺跡はそうそうない。
「そうか?
じゃあ、またな」
肩を竦めて、ウィルはそのまま上に戻っていった。
すぅっと上空に上がっていく彼を見て、思わず魔術の便利さにため息が漏れる。
ああ。
自分にも魔力があったらなぁ。
魔術師になる気は全く無いが、ああやって宙を浮けたり、固定化の術が掛っている物が見えたらどれ程発掘作業が捗ることか。
・・・彼らの持っている空滑機って何らかの方法で体を軽くして、推進力を加えて飛んでいるのよね?
長距離を飛ばなくていいから、ふわふわ家の周りや巨樹の周りを浮かべるような魔道具を作ってくれないかしら?
フォラスタ文明遺跡の発掘に便利なだけでなく、それこそ建物を建てたり修復する際にも便利だと思うから、魔道具としてもそれなりに需要があってもいいと思うんだけど。
そんなことも考えながら、フォラスタ文明の人間になったつもりで遺跡の中を歩いていたら、キャンプ中央のテントの前でシャルロに会った。
「こんにちは、シャルロ。
ウィルを探しているんだったらあちらの巨樹のところで何か興味をひくものがあったみたいで、更に調べているようよ」
「そう?
何か見つかったら夜にでも教えてくれるから、別にいいよ。
ところで、北側のこのセクションでの固定化術をかけるのを終わったから、次はどのセクションに取り掛かってほしいか聞きたかったんだけど」
本当に、この人たちって勤勉ねぇ。
午後は自由にしてくれていいのに。
「じゃあ、東側のここから、外側に向けてお願い」
遺跡の見取り図を取り出し、シャルロが終わったというセクションに印をつけてから次に取り掛かってほしいセクションを示す。
「了解~」
「あ、ちょっと質問してもいい?」
頷いて東側に向かおうとしたシャルロを思わず引き留めた。
「な~に~?」
振り返ったシャルロに見つめられて、思わず口ごもった。
ううむ。
子供じゃないんだから、変に恥ずかしがるんじゃないわよ、シェイラ!
普段だったらもう少し周りに人がいるし時間もあるから、もっとさりげなく相手のことを探れる。
だが、今回は聞ける相手がシャルロとアレクしかいないのだ。
シェフィート商会のアレクに聞くよりは、こちらのシャルロに聞く方がまだましだろう。
別にシェフィート商会に恨みがあるわけではないが、それなりに親同士がライバル的な関係でもあるのに個人的なことを質問してこちらの興味をさらけ出すのは・・・何とはなしに嫌だ。
「ウィルって・・・誰か付き合っている人、いるのかしら?
折角彼も街に宿泊しているから、今度夕食にでも誘おうかと思うんだけど、付き合っている人がいるなら悪いじゃない?」
にやり。
ちょっと想定外な感じにシャルロが笑った。
あれ?
こんな笑い方する人だったの、この人??
「ふふふ。
別に、僕たち3人とだったらウィルに付き合っている人がいても夕食一緒に取れると思うけどね~。
まあ、僕もアレクも色々やりたいことが有るし。
唐変木なウィルをぜひ誘ってあげて。
ウィルは付き合っている人はいないし、気になる人も今までいなかったみたいだと思うけど・・・唐変木だからねぇ。
仕事とか危険な事に関しては凄く聡いんだけどさ。
彼に興味があるんだったらシェイラが押していかないと、いつまでたっても状況に変化がないかもよ」
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