シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

333 星暦553年 黄の月 9日 ちょっと趣味に偏った依頼(15)

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ウィルの視点に戻っています。

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「考えてみたら、魔術師ってどうやってお互いと知り合うのかしら?
商会の人間と同じように、定期的に商業ギルドの集まりみたいのが魔術師にもあるの?」

美味しい店があるとシェイラに誘われたレストランは、中々美味しかった。
ワインも悪くないし。

街に帰る前に挨拶に行ったら、一人で店に入って食べるのもなんだから、と誘われた。
てっきり俺たち3人とも一緒なのかと思ったら何故かシャルロとアレクには『忙しいから』とにこやかに言われて宿を追い出されたのだが、意外なことにシェイラも俺一人が来たことに驚いた顔をしていなかった。

あれ?
もしかして、元々俺一人を誘っていたのか?

そんなことをグルグル頭の裏で考えながら、色々俺たちのこととか歴史学会でシェイラがしていた仕事のこととかを話ながら食事をしていたのだが、いつの間にかデザートにたどり着いていた。

早いなぁ。
それなりにしっかり味わって食べているはずなんだが。

幼い頃の『食える物は奪われる前に飲み込め』という癖というのは抜けず、放っておくと俺はあっという間に食事を食べ終わってしまう。

散々パディン夫人とかアレクやシャルロに注意されたので、最近では一緒に食べている人に合わせて食べることにしている。だから、別にそんなに早く食べている訳でもないはずなのだが、気楽に話していたらいつの間にか時間が経っていたようだ。

「魔術協会もそういうイベントをやっているらしいが、俺は出席していないな。
アレクがそういうのをやってくれるんで任せちゃってる」

シャルロも暇なときは出席している。シャルロの場合は顔を広めるためというよりも、単に偶にそういうイベントに出てくる偏屈魔術師を見て楽しんでいるらしいが。

アレクはもっとビジネス的な観点から出席しているので、アレクがそういうビジネス面では俺たちの担当といった感じだ。

「ふうん。
魔術師も、やはり顔を広めることが重要なの?
商会にとっては、顔の広さがビジネスの幅の広さに直結するからそういうイベント類は全て必須なのよね。
歴史学会は・・・皆、他の人間と色々学説を議論するのが楽しいからそれなりに出てくるけど、面倒くさがり屋が多いから皆が王都に集まる年初の予算編成の時期にしかやってないわ」
シェイラがケーキにフォークを突き刺しながらコメントした。

さて。
魔術師に顔の広さは必要なのだろうか?
俺たちは開発に集中していて、普通の魔術師とはちょっと違うからなぁ。

「普通の魔術師として王都や地方都市の魔術院の正規職に就きたいなら、それなりに顔が広い方が良いんだろうな。
自分で営業して仕事を見つけていく場合も・・・考えてみたら、顔が広い方が話が来やすいだろうし。
既に魔術院で研究職を得ているんだったら特に必要は無いかも?
もしかしたら予算獲得のためにある程度以上偉くなったら必要かも知れないが」
俺としてはあまり興味が無かったのであまり詳しくは知らないけど。

「人ごとみたいねぇ。
ウィル達は商品開発をしているって聞いた気がするけど、そういうのはどうなの?」
ケーキを口に含み、幸せそうに味わっていたシェイラがそれを飲み込んで更に聞いてきた。

俺もほのかに塩辛いアーモンドの焼き菓子を飲み込んで、シェイラに答える。
「魔道具の開発は特にコネは要らないな。
それよりも、売りさばく商会との関係の方が重要だが、シェフィート商会に任せているんでね。
アレク様様というところさ」

お茶にミルクを足しながらシェイラが悪戯っぽく笑った。
「そんなにアレクを信頼しちゃって良いの?
商会にとっては、ぼったくられている事を気が付かない人間からぼったくるのは別に悪いことじゃあないのよ?」

「まあねぇ。
でも、一応時々魔術院の知り合いに確認しているが、俺たちのシェフィート商会との契約は標準的か、標準よりも良心的なレベルらしいぜ」
第一、俺はともかくシャルロもいるのだ。シェフィート商会も変な事はしないだろう。

オレファーニ侯爵家もだが、なんと言ってももしもシャルロが『アレクに騙された』と悲しんだりしたら、蒼流の報復がどうなることか。
それこそ、シェフィート商会の全店舗が水没しかねない。
そこら辺はアレクも分かっているだろう。

俺だって、あまりにも酷く騙されたとなったらそれなりに報復させて貰うし。

シェフィート商会の経営が傾いて、どうしても金が必要な状況になったら危険かも知れないが、そうなるまでは大丈夫だろうと俺は思っている。

「ちなみに、ウィルのご両親って何をしている人なの?
ガルバさんに貴方たちの話を聞いた際に、トレンティス侯爵夫人の話が出たからシャルロがあのオレファーニ侯爵家の人間だって言うのは分かるし、アレクの事は勿論昔から顔程度は知っていたけど、ウィルのことは全然知らないのよね」
シェイラがお皿に残っていたケーキのかけらを丁寧にフォークで集めながら聞いてきた。

おや?
知らなかったのか。
サリエル商会のおっちゃんが俺が下町出身だと知っていたので、それなりに俺の情報も商業ギルドに流れているのかと思ったが・・・そこまでシェイラは親戚と密に情報を交換していないのかな?

それともサリエル商会が特殊だったのか。

「俺は孤児だぜ。
良く覚えていないが、多分両親は町工房か何かで働いていた人間なんじゃないかな?
下町に住んでいる程度のレベルだったから、死んだら誰も面倒を見てくれなくってね。それなりにやばい目に遭って裏社会にも足を突っ込みかけたんだが・・・ひょんな縁で魔術学院の学長に会ったんだ。
それで、奨学金で魔術師になれると聞いて入学したのさ」

一体下町の孤児がどういう機会があったら魔術学院の学長に会うのか、もしくは裏社会に足を突っ込むというのは何を意味するのか。
突っ込み所満載の俺の答えに、何か質問されるかと思ったのだがシェイラは特にそれに関しては聞いてこなかった。

孤児院に入ったら、それなりに壮絶な目に遭う可能性が高いのは誰でも知っている事だ。
気を遣って質問しにくいのかな?

「あら。大変だったのね。
でも、若いのにボランティアもどきにこんな安い依頼料で遺跡発掘に付き合えるぐらい成功しているなんて、凄いじゃない」
かけら1つ残っていない綺麗なデザートの皿を哀しげに見つめてから、シェイラが言った。

確かに。
アンディだって俺たちほど、好き勝手していないよな。
やはり、2隻も沈没船を見つけたのが大きかも知れない。

「そうだな。
元々、魔術師というのは経済的に恵まれているって聞いたから魔術学院で頑張ったんだが、俺もここまで好きなこと出来るようになるとは思ってなかったよ」

本当に、人生どう展開するか、分かったもんじゃ無いよなぁ。

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