シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
1,047 / 1,309
卒業後

1046 星暦558年 紫の月 4日 音にも色々あり(9)

しおりを挟む
「普通の会話だと却って音が足りなくて時折会話が洩れる感じだな」
アレクが言った。

キルス達に煩い楽器の練習なんかの防音を試してもらうのは任せたが、普通の会話の盗聴防止に関してもそのままあれが使えないかと期待した3人だが、反響度を最高まで上げた試作品を起動して普通にシャルロとパディン夫人がキッチンで話しているのを扉の所から聞いていたら、それなりに所々で何を言っているのか分かってしまった。

「こう、会話の途中で一瞬何かの弾みに沈黙が流れた後なんかに音が妨害されないで流れ出ちゃっている感じなんだよなぁ。
何かの雑音を二重結界の中でずっと出し続ける様にでもしてみるか?」
小さな箒みたいのを床に擦りつける感じで動かしたらシャカシャカと音がして外に漏れる声が雑音に紛れそうな気がするが。

「試してみる価値はあるかもだな。
パディン夫人、シャルロ、ありがとう。もう良いよ。
どうも会話の始めとか途中で途切れた際に次の音が雑音に紛れずに洩れる感じがするんで、何か雑音を立てる物を結界の中に入れて置いたらどうかと言う案があるんだが、どう思う?」
アレクが台所の中の二人に向かって声を掛けた。

「鈴でも転がす?
じゃなきゃ何か南国の楽器っぽいので棒の先に丸い容れ物の中に何か入っていて、振るとシャカシャカ音がするのもあったと思うけど」
シャルロが提案した。

「あ~。
何か祭りの時なんかに来る流れの踊り子とかの伴奏っぽいので、シャカシャカやっているのが時々いるよな」
力を籠めずに揺らすだけで音がするのかは知らないが。
何かあんな感じに楕円っぽい容れ物に小石でも入れて動かしたら音が鳴るかな?

「鈴はちょっと注意を引きすぎるかも知れないから、シャカシャカとした音の方が良いだろう。
適当に容れ物を作って小石でも入れて試してみて、駄目そうだったらキルスにでも何か簡単にシャカシャカした音が出る楽器が無いか、聞いてみよう」
アレクが提案した。

だな。

◆◆◆◆

「なんかこう・・・意外と音を立てるって言うのも大変だな」
シャカシャカ音の為に楽器の形を適当に真似た形の容れ物を探して小石を入れようとしたのだが・・・容れ物も中々良いのが無く、結局取り敢えずは木のコップを二つ張り合わせて使うことにした。
金属で適当に形を造ろうとしたんだが、どうしても重くなる上に音が思ったより響かず、まだ木のコップの方がマシと言う結果になったのだ。

更に小石は丁度いい小さいのが中々見つからなかった。
砂利サイズの大きいのだと重いから動かすのが大変だし、音もそこまで響かないんだよね。
砂利を砕いてもっと小さな小石にしようかと話し合っていたら、パディン夫人が『音が立てばいいんだったら水で戻す前の乾燥豆でどうですか?と言われたので使ってみたら悪くなかった。

ただ、考えてみたら豆の硬度ってどの程度なんだろ?
ずっと使っていたらそのうちボロボロに柔らかくなって音がしなくなるかも?
本格的に使うとなったらマジであの流れの連中が使っていた楽器か、少なくともその中身を確認して同じ物を使った方が良いかも知れない。

まあ、取り敢えずそれなりに音が出るようになる楽器モドキが出来て、それを揺らす魔具も付けたのでシャカシャカ音が鳴るようになった。

と言うことで、最終実験はこれを二重の音反射結界の中に入れたらどうなるか。

まずは会話なしに魔具だけを動かしてみた。
シャカシャカシャカシャカ・・・

小さいがシャカシャカ音が流れてくる。
それ程耳障りな音ではないが、静かな場所だったらちょっと違和感があるかも?

取り敢えずパディン夫人とシャルロが再び話し始めた。

「・・・さっきよりは確実に話している内容が聞き取れない感じだな」
アレクが満足げに頷きながら言った。

「書斎や会議室で使ったら微妙に違和感があるかもだが、少なくとも天井や扉の向こうで盗み聞きしようとされても聞き取れなくなるかな?
客が余り入っていない食事処とかで使ってみて、違和感が無いかの確認も必要だな」
普通の定食屋や、高級路線なドリアーナみたいなところで使ってみてどんな感じか確認した方が良いだろうが・・・定食屋は適当に近所の店を使えば良いだろうが、ドリアーナは流石に客が入っている時に実験に使わせてもらえないかなぁ。

「どこかで給仕係を訓練したがっている高級食事処が無いか、聞いてみるか」
アレクが提案する。

「あとはそれこそ、軍部に売り込むんだったら第三騎士団の食堂でも使わせてもらうのもありかも?
プロがそれとなく耳を澄ませていてどのくらい聞き取れるのか、確認してみても良いかも知れない」
王宮とか軍部に売り込むんだったら盗み聞きする専門の方に効果を試してもらってから売り込む方が効果的だろう。

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...