シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1195 星暦558年 萌黄の月 21日 事務作業は

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「そう言えば、事務職員として来て貰おうかって話していたキーナの訓練が大体終わったと連絡が来たが、どうする?」
休息日明けに次は何を作ろうかと相談しはがら工房でまったりお茶を飲んでいたら、アレクが思いがけない事を言い出した。

「キーナ?
ああ、あの酷い領主に愛人にされていた女性だっけ」
シャルロが一瞬誰だか分からないような顔をしていたが、思い出して説明っぽい感じに言ってくれたお蔭でうっかり誰だか忘れていた俺も思い出せた。

「そう言えば、彼女一人じゃなくて何人かで交替制にした方が男三人の工房で女性を働かせるには無難じゃないかって話だったけど、そっちはどうなったんだっけ?」
キーナがもっと年が言っているとか、既婚だったらよかったんだけどね。

なまじアレクと付き合える年齢層で性格……は知らんが能力的にアレクと気が合うかもって感じな人だから、変に付き合いを強要するような形にならない様に気を使う必要がありそうなんだよな~。

そう考えると、ちょっと面倒かも。
ある意味、キーナの有能性がシェフィート商会で証明されてあっちで雇って良いって考えているんだったら、キーナはシェフィート商会で働き、俺たちの所にはそろそろ仕事を楽なものに変えたいぐらいに考えている高齢になりかけな婆さんでも来てくれる方が楽そうなんだが。

「母が何やら事務作業員がこちらに来るのは素晴らしいと喜んでいる気がしないでも無くてちょっと微妙な心境なんだが……取り合えずキーナはちゃんと事務作業の基本はマスターしたし性格も問題ないそうだ。
彼女一人に来て貰うのも、交替で何人かに来て貰うのも、どちらでもいいのではないかと言われた」
アレクがちょっと微妙な顔で言った。

アレク母的にはここでキーナとアレクがくっついたら嬉しいって感じなのかね?
それとも交換人員にお気に入りな未婚の女性を突っ込むつもりなのか。
とは言え、押し過ぎてアレクに嫌がられては元も子もないってことでそっと応援している程度だからアレクも『微妙』と言う心境以外は特に反応していないのかな?

「ちなみに、事務作業に来て貰う人には具体的にどんなことをして貰うつもりなの?
単純作業だけを頼むんだったらそれこそ数日おきに交替で違う人に来て貰ってもいいし、もっと報告書とかの作成まで責任をもってやって貰うならあまり人が変わらない方が良い気もするけど」
シャルロが尋ねる。

「やはり我々の事業で工房なんだから、下手に主導権を手放さない方が良いと思う」
アレクが言った。

主導権ねぇ。
まあ、うっかり国税局への報告書を間違えられたらがっつり大きな罰金を食らうかも知れないし、魔術院への特許申請の書類だって情報が漏れたり間違いがあったら大損になりかねないから、人任せはよくないよな。

「ちなみに、主導権を手放さない方向でも、頼みたい事務作業ってそれなりに量があるのか?」
重要な部分を人に任せないとなると、下手をしたら自分で全部やった方が早い気もするが。

「費用計上する書類をちゃんと整理整頓して記録するのを頼めるだけでも、大分と楽になる。
定期的にシェフィート商会や商業ギルドや魔術院から回ってくる収入の書類に関しても契約書と突き合わせて計算が間違っていないか確認する必要があるから、そう言うのの下準備をして貰えるだけでも助かるかな?」
アレクが言った。

へぇぇ。
契約書と収入の計算を一々突き合わせているんだ?
いや、俺だったら当然契約書を見なきゃダメだけど、アレクだったら全部覚えているかと思っていた。
考えてみたら、もう工房を始めて6年だからな。
契約書が山ほどありすぎて、流石のアレクも覚えているのは厳しいのか。

「じゃあまあ下作業をして貰うとして、交替で適当に二日に一回ぐらい来てもらう?
ここノルデ村まで毎日出て来るのは面倒だろうから三人いれば交代で10日に1回か2回来る程度になってそれほど大変じゃないんじゃないかな?」
シャルロが言った。

「そうだな。
何だったら馬を定期で借りる契約をしてシェフィート商会か王都の入り口近くの厩に置いてもらっておくと良いかもだな」
アレクが頷いた。
ノルデ村って王都から歩いて半刻約40分弱程度だから歩けないことは無いけど、ちょっと通勤には厳しいよな。

「誰かが定期的に書類とかを確認するんだったらそれ用の部屋を作るか?
工房でうろうろされたら邪魔だろ」
アレクが工房の奥の方の机で作業している分には構わないが、あまり馴染みがない女性がいたら邪魔だし、やっぱ開発途中の魔具に関する情報漏洩とかが気になる。

「確かにねぇ」
シャルロが頷いた。

そうなると、どこを使うかが問題だな。


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