シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1196 星暦558年 萌黄の月 21日 事務作業(2)

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「作業する場所を工房以外に作るのは良いとして、どこにするかが問題だな」
アレクがちょっと悩まし気に周囲を見回した。

この屋敷ってそれなりに大きいから部屋は余っているんだが、使ってない部屋って2階と3階なんだよなぁ。

一階の舞踏室《ボールルーム》は工房として潰した。台所は隣の部屋も繋げて、ちょっと大きめにしてきちんと人が揃わない時は台所のテーブルで手軽に食べられるようにしてある。
ちゃんと人を招く時用にもう一部屋別にダイニングルームがあるし、リビングルームも大きくとってあるので、一階には他に空いている部屋が無いのだ。

「二階は幾つか部屋が空いているが俺たちの寝室もあるから微妙に知らない間に他人に歩き回られたくないかなぁ」
いざとなれば別に構わないんだけど、ちょっと嫌だ。

「三階はほぼ要らない家具や荷物置き場になっているから、そこを使わせるのは構わないと思うけど……事務作業をしている人がそこまで隔離されちゃうのも問題だよねぇ?」
シャルロが困った様に付け足す。

「契約書関係を全部事務作業室の方へ動かすとしたら、下手に我々の目が全く届かない状態にするのは危険だな」
アレクが指摘した。

正式な契約書は誓約魔術が掛かっているから勝手に変えたりは出来ないだろうが、ある意味詳細を全部写し取ったら俺たちがどんなものを作ってどこと契約しているかとかの情報が全部筒抜けになるからあまり望ましくないし、契約を改ざんできなくても抜き取って持ちさることは可能だ。

そう考えると、階段を上って来る足音にさえ気を付ければ全く人の目を気にせずに作業が出来る状況というのは不味いだろう。

誓約魔術で俺たちの利益に反することは出来ないって縛るにしても、時間が幾らでもあるなら意外と抜け穴っているのはあるからなぁ。契約に引っ掛からない方法を思う存分試行錯誤できちゃうと、最終的には何らかの方法は見つかると魔術学院でも教わった。
だから誓約魔術を盲信するなって話なんだが、うっかり誓約に反すると健康被害も出かねないから使い過ぎるのも駄目だし、意外と使い方には気を使う必要があるんだよなぁ。

それはさておき。
「二階がたっぷり余っているんだし、部屋を二つ潰してゆったりしたダイニングルームを二階に作って、今あるダイニングルームを作業室にしたらどうかな?
あそこだったら俺たちが台所にクッキーとかを貰いに行く際に良く通りかかるし、パディン夫人もちょくちょく廊下から見えるから変なことをしにくいし、作業する人も気軽にパディン夫人と雑談が出来て良いんじゃないか?」
ちょっと工事が必要になるが、壁を一か所ぶち抜く程度だったら庭を削って一階に追加の部屋を付け足すよりは楽な筈。

「書類を動かしたり、ちょっとした質問のやり取りとかをしやすいから事務作業の場所的には良いと思うが、ダイニングルームへ調理された料理の乗った皿を運ぶのが大変になるぞ?」
アレクが指摘する。

最近はあまりダイニングルームも使ってないんだけどね。
確かにスープとかローストしたメインディッシュとかを階段を持って上がっている間に躓いてひっくり返したら悲惨だ。

「こう、お手軽に二階へ物を動かせる昇降機を作らないか?飛行具とかに使った重量軽減の術とか浮遊の術とか、後は滑車を動かすような移動系の術を組み合わせればかなり手軽にキッチンワゴンを乗せて二階へ上げられるだろう?」
俺たちは浮遊《レヴィア》の術で物を二階なり三階なりに持って行くのも苦労しないが、他の一般的なところだったらそれなりに大変だろうから、お手軽な昇降機を作れたらそれはそれで売れるんじゃないかな?

「魔石消費とか大きさが小さいのが造れたら売れるかも?
貴族の屋敷とかにあるのってかなり大掛かりで筋肉だよりだからね」
シャルロが言った。

「大型化してもそれなりに魔石消費の効率が良いのだったら、商家の大きな倉庫にも売り込めるかもだな。
現存のと取り換えるだけの差が無い場合は売り上げは新規設置のみでゆっくりしたものになるだろうが」
アレクが言った。

まあ、別に急がなくてもいいし。
取り敢えず、現存のを確認してそれを改善できるかだな。

「それじゃ、作業室はダイニングルームを二階に動かしてってことで良いかな?」
時間的にどのくらい余裕があるのか不明だが。
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