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二章

「町と砂漠と女盗賊」その②

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「今日は剣を売ろうと思ってるんだけど」

 クリスに持たせていた剣を査定してもらうため店の男に渡した。

「これはまだ新しい剣ですね。どこかの貴族かギルドの紋章も入っているし、状態も凄く良い。これなら金貨五枚と銀貨一枚、銅貨一枚、それに小銅貨八枚で買い取ります」

 やったぁ、けっこういい金になるじゃん。さっき調べた貨幣価値を日本の円に変換したら、16万5千8百円ぐらいある。売りだろ売り。
 いや待てよ。相手はビジネスのスペシャリストの商人だ、値を吊り上げられてもいいように、安く設定しているかもしれない。ちょっと揺さぶってやる。こういうのもMMOの高性能NPC相手やプレイヤー間のアイテムのやり取りで慣れてるし。

「少し考えさせてくれるかな、もうちょい高く売れると思ったんで。次の町で売ってもいいし」
「いや、あの、ちょっと待ってくださいよ。そうだなぁ、だったら銀貨一枚足しましょう」

 こいつベテラン商人じゃないな、焦りすぎだ。そしてやっぱり安く査定してたか。しかも銀貨一枚とかいきなり上げてきたし。こりゃまだまだ上がりそうですな。

「もう少し、なんとか上げてもらえませんかねぇ」
「えぇ~、これ以上はご勘弁を」
「実は田舎の母さんが病気で、高い薬を買うのにお金が」
「いやそれ絶対ウソでしょ」
「実は父さんが若い娘と再婚して家を追い出されてしまって、住むところがないからお金が必要なんです」
「はいはい、もう分かりましたよ。銀貨二枚足しますよ。後はオマケでこの魔法の道具袋をさしあげます。商人や傭兵、冒険者にはとっても便利ですよ。もうホンとこれで限界ですから」

 完全勝利。漫画やアニメ、ゲームで得た知識は役に立つ。

「それ持ってないな。説明よろしく」
「説明も何も、そのまま魔法の道具袋ですよ。袋の中は魔法で特殊な空間になっていて、武具に食料、宝箱とか生物以外なら大きな物でも入れて持ち歩けます。勿論大きさの限度や容量制限はあります」

 それ旅に絶対いるやつじゃん。よし決定。

「じゃあその値段でいいよ」
「交渉成立ですね。ありがとうございました」

 あれ? 店員さん満面の笑顔なんだが、してやられたのは俺の方かも。商売の世界恐るべし。奥が深い。
 しかしこれだけあれば当分は安泰だ。こっちの物価は日本と同じ感じだし旅を続けられる。
 まずは盗まれないようにしなければ。職業に盗賊とかあったらスキルで簡単に掏られるかもしれないし。
 銀貨と銅貨を一枚ずつと、小銅貨を全部ジーパンのポケットに入れ、後のお金と背負っていたリュックは魔法の道具袋に収納した。こりゃ便利だ。一瞬で縮みながら吸い込まれるように簡単に入った。
 魔法の道具袋のデザインはウエストポーチ型で、カラーは灰色、少し大きめで外側には蓋ができる普通のポケットが二つあった。取り出す時は手を入れ頭に物を思い浮かべるだけでいい。なんとも魔法は万能だ。

「それじゃあ金もできたし、宿を探すとしよう」
「はいにゃ」

 外はもう暗くなり、すっかり町は夜の顔に変わっていた。道には街灯が並んでいるがロウソクや電球、蛍光灯などは無く魔法で作られた光の玉が照らしている。
 こっちの世界では普通の光景なのだろうが、俺にはとても神秘的に見えてワクワクする。

「ふかふかのベッドがある宿とかないかなぁ。クリスもその方がいいだろ」
「あの、ご主人様、ここは人間の町なので、半獣人や妖精族は奴隷でなくても宿には泊まれませんにゃ。なのでクリスチーナは町のどこかで野宿しますので、ご主人様だけ宿にお泊まりくださいにゃ」

 そっか、人間は地位が高いとか上位種みたいなこと、父さん言ってたもんな。身分があるってことに慣れないと、この世界では暮らしにくくなる。でも今は全部受け入れるのは無理だ。

「そうだなぁ、今日は天気もよくて暖かいし、クリスと一緒に野宿でもするかな」
「にゃんっ⁉ ご主人様と一緒なんて嬉しいにゃ」

 クリスは素直に喜ぶから本当に可愛い。

「腹へったし、情報収集もかねて酒場に行こう。冒険者とかが集まる場所だし、人間以外が入ってもいいだろ」
「大丈夫と思いますにゃ」

 町を回っていた時に酒場の前を通ったので場所は知っているし、店内を覗いたら猫系っぽい男の半獣人が居たのは確認済みだ。
 十七歳の俺はこの世界では大人で、酒とか飲んでもいいらしい。飲んだことないし飲みたいとも思わないけど。
 種族によって成長する速さも寿命も違うが、人間は十五歳ぐらいで成人と認められる。
 酒場に入ると既に多くの客がおり、かなり騒がしかった。見た感じ村人よりも冒険者が多い。そして人間以外の種族、半獣人やエルフがいた。
 てか金髪長耳のエルフだよエルフ。生エルフとか超感動。それに当然の如く美女で、ヒーラー系の格好をしている。でも人間と同じテーブルには着いていないし座ってもいない。恐らく奴隷だ。ご主人様と思しき奴の後ろに立って控えている。

「持ち帰りできる食べ物があったら、それ欲しいんだけど」

 カウンター席へ行ってマスターっぽい五十歳ぐらいの男性バーテンダーに話しかけた。
 ここではクリスと一緒に食事できそうにないのでテイクアウトを頼むことにする。メニューにホットドッグがあり、それを注文した。
 待っている間に砂漠の越え方を訊いたのだが、どうやらヨットのような船で砂漠を移動するらしい。その船は風の精霊魔法で動くもので料金は高くない。だが今は訳ありで運航しておらず、みんな困っている。その訳だが、砂漠に住み着いた盗賊団が原因とのこと。
 団の中には半獣人の女盗賊がいるのは分かっているが、全員で何人とかは不明だ。とにかく盗賊を倒さないと先に進めない、というRPGならお馴染みのテンプレである。
 後どうやらこの町に、冒険者になるために必要な女神の祝福を受けられる神殿とか施設はないみたいだ。

「おいお前、ガキのくせに生意気に奴隷連れやがって、酒場に来るのは十年早いぜ」

 いかにも力自慢っぽいスキンヘッドの格闘家らしき大柄の男が、喧嘩腰で話しかけてきた。
 海外のボディビルダー張りのムキムキマッチョで、上半身は黒いベストを着ているだけだ。これでもかってぐらい筋肉を見せつけている。二十代後半って感じだけど、酒場でこういうキャラにからまれるのもテンプレだな。やれやれだぜ。

「聞いてんのか小僧」
「はいはい聞いてますよ。食料買ったらすぐに出ていくよ」
「随分と生意気な態度だな。気に入らねぇ、この俺と腕相撲で勝負しろ。勝ったら飯代だしてやる。負けたら腰のナイフをいただく」

 なにその自己中ルールは、お前が負けても飯おごるだけかよ。どこの世界でも大人は汚いね、あぁやだやだ。

「それでいいよ。じゃあ始めよう」

 男は自信満々に狡猾な笑みを浮かべている。クリスは心配そうにしていたが、俺が普通の人間に力で負けるはずがない。
 周りはお祭り騒ぎで取り囲み勝敗の賭けを始めた。まあこの場合はそうなるよね。
 丸テーブルの上でガッチリ手を握り準備が終わると、相手の男が勝手に力を全開にして勝負を始めた。普通ならこの卑怯なフライングで負けているが、超人の俺はビクともしない。本当に楽勝である。眼前の男が驚愕しているのが面白いけど、ここはさっさと終わらせよう。
 相手の腕を折らないようにゆっくりと押し込み勝った。その瞬間、大穴がきたので周りは盛り上がる。

「バ、バカな……ウソだろ」

 負けた男は冷や汗をたらし茫然自失といった感じだ。ショックなのは分かるけど大袈裟すぎる。しかし男はすぐに復活し、何度も挑戦してきた。
 俺は空気を読まずに容赦なく全勝した。最後の方はもう、おっさん泣いてたから負けてやりそうになった。

「じゃあこれ、ゴチね。ちゃんと金払っといてよ」

 まだ盛り上がっているなか酒場を後にし、どこか落ち着いて食事できる場所を探した。
 結局この町では半獣人奴隷を連れてゆっくりできる施設はなく、広場のベンチに腰かけ二人でホットドックを食べた。これが普通に美味しい。
 満腹になると急に睡魔に襲われ、近くにあった巨木の下の芝生の上で野宿することにした。
 寝転がってすぐに深い眠りにつき、記念すべき異世界移住の初日が、怒涛の超展開だったがなんとか無事に終わる。







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