泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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創立記念祭

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「とてもよくお似合いですよ、お客様!」
「あ、ありがとうございます……」

 創立記念祭の当日。
 私は先日訪れたベネット服飾店で、ドレスの着付けをしてもらっていた。

(……とうとうこの日が来てしまいましたか)

 私は着せてもらった衣装を見下ろす。

 鮮やかな緑色の生地は、光沢があって肌触りもいい。
 この街で開発した特殊な繊維を使っているそうだ。
 ドレスの胸元にはコサージュがあしらわれ、ふわりと広がるスカートは華やか。

 髪にはアクセサリー、腕には清楚な長手袋オペラグローブと細部のコーディネートにも余念がない。

 化粧も少しだけ施された。
 もっとも私にはあまり合わない(必要がない?)らしく、目元に少しと口紅を薄く引いたくらいではあるけれど。

 せめてもの抵抗としてヒールは少しだけ低くしてもらったけれど、正直私からすると全体的に派手に見えてしまう。

 肩が、肩が露出しているんですがこれはいいんでしょうか。

 私が鏡の前で自分の姿を確認していると、試着室の外から声をかけられる。

「セルビア、まだ時間はかかりそう?」
「ろ、ロゼ……いえ、もう着替え終わってはいるんですが」
「なら、そろそろ学院に向かわないと。パーティが始まっちゃうよ」

 試着室の外で待っていたロゼがあっさりカーテンを開けてしまう。

 ロゼもすでにドレスを着ている。
 もともと家で着替えてきていたらしいけど、私の付き添いのために店まで来てくれたのだ。

 ロゼは私の姿を見て目を瞬かせる。

「なんだ、よく似合ってるじゃない」
「……お世辞とかでは」
「ないよ。……いや、ほんとによく似合ってるよ。え、わたし今からこの子の隣歩くの……? やだなあ……」
「な、なんでロゼが暗くなるんですか!」

 なぜかロゼが遠い目をしていた。聞こえなかった後半の呟きが気になる。

「とりあえず学院に行こうか。もう着替えちゃったんだし」
「そ、そうですね。行きましょう」

 ロゼと一緒に店を出る。

 衣装のことはともかく、ダンスパーティそのものには私も興味があるのだ。
 せっかくの機会なんだから、楽しむことにしよう。





 ダンスパーティは学院の講堂で行われる。

 立食パーティも兼ねているため、真ん中のダンススペースをぐるりと囲むように料理の載ったテーブルが並んでいる。
 参加者の多くはすでに会場入りしているようで、講堂にはかなりの人数が集まっていた。

 ――そんな参加者たちの多くが、かすかにざわめいたように感じた。


「おい、今入ってきたのって誰だ? あんな子うちの学院にいたか?」
「見覚えないな。もしかしたら、最近きたっていう例の転入生かもしれない」
「あれが!? あんなに可愛い子だったのか……」


 囁き声があちこちでかわされるけど、内容までは聞き取れない。

「……ロゼ。なんだか見られていませんか」
「いい加減慣れて、セルビア。ここに来るまでもさんざん注目されてきたでしょ?」

 呆れたように隣のロゼが言ってくる。

 ロゼの言葉は事実で、服飾店からこの会場に来るまでもかなり視線を感じた。
 装いが装いなのでたいへん落ち着かない。

 ロゼが溜め息を吐く。

「まあ、諦めて目立ってなよ。悪いことじゃないよ? ……わたしみたいにドレスを着ても誰にも見向きもされないよりは……」
「ろ、ロゼ! そんなことを言わないでください、ロゼもすごく似合っています!」

 やさぐれた顔をするロゼの言葉を慌てて訂正する。

 実際にロゼのドレス姿はとても素敵だと思う。
 色素の薄い髪や儚げな雰囲気が、鮮やかな青のドレスによく合っている。

「ふふ、いいことを教えてあげるねセルビア。持つ者の慰めは、時として暴言よりも傷つくんだよ……」
「もう私はどうすればいいんですか!」

 果たして私にロゼを元気づける手段はあるのか。

 居た堪れない雰囲気を変えようと話題を探す。
 ……ああそうだ、視線といえば。

「ロゼ、最近何か変なことはありませんでしたか?」
「? どうしたの急に。……変なことって、たとえば?」
「誰かに後をつけられている気配がしたりとか、視線を感じたりとか」

 私が頭に浮かべているのは、先日服飾店でドレスの試着をした帰り道のことだ。

 妙な視線を感じたのはあのときくらいだけど、どうも引っかかっているんだけど……

「ううん、特にないけど」
「そ、そうですか。それならいいんですが」

 どうやらロゼの周りには特に変なことはないようだ。
 私もあの帰り道以降変な視線は感じてないし……やっぱり気のせいだったのかな。

 なんて話をしていると、後ろから声をかけられた。

「よ、セルビア。なかなかサマになってるじゃねえか!」
「レベッカ!? なんでここ、に……」

 そこにいたのはまさかのレベッカである。

 いや、確かにレベッカではあるんだけど明らかにおかしい点がある。

「あの、どうしてレベッカはメイド服を着ているんですか?」

 他にも突っ込みどころはあるけれどそこが一番気になる。

 レベッカの服装は、黒いワンピースに白いエプロンを重ねたいわゆるメイド服だ。
 頭にはフリルつきの白いカチューシャという完全装備。

 意外と似合ってはいるけど、そもそもそんな恰好をしている理由は何なのか。

「これか? あー、なんか『第一学院』のほうでは面白いイベントがあるって聞いたから、参加できるよう賢者のじいさんに頼んだんだよ」

 ふむふむ。このダンスパーティに参加できるよう賢者様に掛け合ったと。

「そしたら『これを着て参加してくれるなら構わんぞい』とか言われた」
「あの人どれだけメイド服が好きなんですか……」

 レベッカだって調査の協力者なんだから、普通に招待してくれればいいのに。

「おじい様がすみません。セルビアに渡そうとしていたメイド服は処分したんですけど、まさかお連れの方にまで送っていたとは……」
「待ってくださいロゼ。その話は初耳なんですが」

 どうやらメイド服に関しては私も他人事ではなかったようだ。

 レベッカはロゼを見て尋ねた。

「えーっと、あんたは?」
「あ、その、賢者の孫で、ロゼといいます。セルビアさんにはお世話になっています」
「あー、セルビアの友達か。話は聞いてるよ。あたしのことはレベッカでいいぜ。敬語もいらねえ」
「わかり……わかった。よろしくレベッカ」
「ああ」

 レベッカとロゼがあっさり打ち解けている。

 あの人見知りなロゼと一瞬で仲良くなるなんて……! このあたりはレベッカの人格のなせる技だろう。

 そんな感じでレベッカを交えて話をしていると、檀上から声が響く。


『ただいまより創立記念パーティを始めます。このパーティは、シャレアの街が開かれた日を記念するものであり――』


 拡声魔道具を通して眼鏡の女性――学院長が挨拶している。

 私はこっそりロゼに尋ねた。

「こういう挨拶って賢者様がするんじゃないんですね」
「普段はそうなんだけど……おじい様、今日は忙しくて参加できなかったみたい」
「そうなんですか」

 まあ例の事件の後処理もあるだろうし、賢者様が忙しくても不思議じゃないか。

「……つーかあたしらいまだにあのじいさんに会ってねえな」
「言われてみれば……」

 レベッカの言う通り、この街に来てかなり経つのに私たちは賢者様に直接会っていない。

「まあ、そのうち会う機会もあると思うよ」
「そうですね。一度くらいは挨拶しておきたいです」

 メイド服を持ち出されそうで気は進まないけど、まあ礼儀として。
 さて、そうこうする間に壇上では学院長が挨拶を終えていた。


『それではここで、とびきりのゲストを紹介しましょう。――かの「剣神」ハルク様です』


 ……今なんだか聞き覚えのあり過ぎる名前が聞こえたような。
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