泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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 シャレアの街のあちこちには、魔晶石を利用した巨大スクリーンが存在する。

 そこには現在、王冠を被った老人が映っていた。

 シャレアを含む魔導王国レンバートを統治する人物。
 ……要するに、この国の王様だ。


『――今話したように、シャレアを騒がせた行方不明事件の犯人は当代の賢者であった。
 やつはシャレアを開いた素晴らしき祖先の地位を利用し、凶行に及んだのだ。
 それもすべては賢者を妄信する風潮ゆえ!
 よって余は賢者の血族からその地位を剥奪し、中央から公正な新領主を派遣するものとする――』


 スクリーンの向こうではレンバート国王がそう熱弁を振るっている。
 それを聞いている街の人たちからは溜め息が漏れていた。


「中央から役人が来るって、要するにここが王族の直轄地になるってことだろ?
 ……研究者を国のためにコキ使うって宣言してるようなもんじゃねえか」
「戦争の武器ばっかり作らされそうだな……」
「……仕方ねえよ。賢者様が犯人だったんだから」


 溜め息に交じってそんなやり取りも聞こえてくる。

 シャノンの起こした一連の事件は、すべて賢者の凶行として処理された。

 もちろん私やハルクさんは衛兵や中央の騎士に真実を伝えた。
 そのうえでシャノンの名前は伏せられることになったのだ。

 ……まあ、当然だろう。
 百五十年前に死んだ人間がよみがえり、世界を滅ぼそうと暗躍しているなんて、信じてもらえるわけがないし。

 無用な混乱を避けるため、すべての汚名は賢者様に被せられることになった。

 結果、賢者の一族は地位を剥奪。
 中央から国王の息がかかった役人が派遣され、今後はこの街を統治していくのだ。

「…………自由に研究ができる、この街が好きだったのになあ……」

 聴衆の誰かがそう呟く。
 この街は以前のようには戻れないと確信しているように。

 そんな街中を、私は何とも言えない気持ちで移動していくのだった。




「ただいま戻りました」
「おー、セルビア。どうだった?」
「だいたいオズワルドさんの予想通りでしたよ。
 賢者の家系は権力を剥奪、その穴埋めに新しい領主が来るそうです」

 帰って早々レベッカに結果を聞かれたので、そう答えておく。
 オズワルドさんは『作業』の手を止めないまま、こちらを見ずに言った。

「……国王は、この街の研究者を軍事に利用したがっていたからな。魔道具を戦争の道具としか見ていない愚かな為政者らしい行動だ」
「あ、あはは……」

 オズワルドさんの毒が今日は一段とひどい。

 街の研究者の一人として、レンバート国王の方針には思うところがあるようだ。

 さて、私はオズワルドさんの奥にあるベッドに視線を向ける。
 そこには小柄な銀髪の少女が横たえられている。


「――それでオズワルドさん、ロゼの容態はどうですか?」


 改めて、私がいる場所を説明しておこう。

 ここはハルクさんの屋敷ではなく、賢者の邸宅だ。

 私たちがここに来ているのはここに収容される患者のお見舞い、あるいは治療の手伝いのため。

 そしてここにいる患者というのはただの病人ではなく――シャノンによって魔力を奪われた人たちのことだ。

「死んではいない。だが、意識が戻る気配もない。ここに運びこまれた時と同じだ」
「そうですか……」

 行方不明者のうち何人かは、今もまだ眠り続けている。

 最初は大量に魔力を奪われたせいだと思われていたけど、それは違った。
 精神、あるいは魂。
 そういったものが損傷していることがわかったのだ。

「いまだに信じられねえよ。魂ごと魔力を引き剥がすなんて」
「稀有な事例であることは間違いない。だが、それ以外考えられない」

 気味悪そうに言うレベッカに、オズワルドさんがそう返した。
 私は意識の戻らないロゼを見ながら尋ねた。

「……オズワルドさん。ロゼはずっとこのままなんでしょうか」
「現状では何とも言えんな」
「何か、元に戻す方法はありますか?」
「ふむ……」

 オズワルドさんは少し考えてから言った。

「お前の話を聞くに、シャノンは魔力を杖に集めていたそうだな。それを壊せば魔力とともに魂が戻る可能性はある」
「わかりました。覚えておきます」

 シャノンの杖を破壊する。それでロゼが戻るというなら、私は何としても実行する。

 ロゼとはまだ話さなくてはならないことがたくさんあるのだ。

「では、俺はもう行く。他にもやることが山積みで――」
「うおっ、あぶねえな」

 オズワルドさんは足を動かそうとしてよろめき、それを近くにいたレベッカが支えた。

「オズワルドさん、大丈夫ですか!?」
「……問題ない。少し寝不足なだけだ……」

 慌てて駆け寄ると、オズワルドさんは眠気を振り払うように首を振った。

 ここ数日オズワルドさんはロゼたちの検査など、特に忙しそうだったので無理もない。

「ったく、検査する側が倒れてちゃ世話ねーぜ。屋敷まで運んでやるからじっとしてろよ」
「…………偉そうにするな、この露出魔が……」
「てめーこの状況であたしに喧嘩売るとはいい度胸だなぁ!」
「レベッカ落ち着いてください! いくらなんでも今は駄目です!」

 どうしてこの二人は仲良くできないんだろう。けっこう長い間同じ屋敷で寝泊まりしているはずなのに。

 しばらく揉めた後、結局オズワルドさんは自分で歩いて屋敷に戻ることになった。

 そんなにレベッカに助けられるのが嫌なんですかこの人は。

「あ、そういえばハルクさんはどこに?」

 この場にいないなら屋敷だろうか。
 私が聞くとレベッカが呆れたように言った。

「いや、また森だ。多分また墓参りでもしてるんだろ」
「……わかりました。行ってみます」

 墓参り、というなら場所も見当がつく。私は二人と別れて街の出口に向かった。





「……セルビアかい」
「はい。ハルクさんはここにいるとレベッカに教えてもらいました」

 街の外に広がる森の一角。そこにハルクさんはいた。

 ハルクさんの前には地面に突き立つ朽ちた剣がある。

 先代『剣神』の墓標だ。

 シャノンとの戦いを終えたあと、ハルクさんはたびたびここに足を運ぶようになっていた。
 そして特に何をするわけでもなく、ぼんやりと一日中ここに立つのだ。
 自分の中の考えを整理でもしているように。

「先代の『剣神』様はハルクさんの師匠だったんですね」
「そうだね。……黙っていてごめん」
「な、なんで謝るんですか」
「……あのとき、セルビアには迷惑をかけたからね」

 ハルクさんが言っているのは先代『剣神』の『生ける屍リビングデッド』と戦ったときのことだろう。

 確かにあのときのハルクさんを見て困惑はしたけど、別に謝られるほどのことじゃない。

「気にしていませんよ。それより、先代の『剣神』様はどんな人だったんですか?」

 私が聞くと、ハルクさんは「うーん」と唸った。

「剣術は凄かったけど、それ以外は何もできなかったね。料理とか特にひどかった……」
「そ、そうなんですか?」
「野生動物の丸焼き、以外のレパートリーが皆無だったからね。
 一緒に旅をしている僕が料理を覚えざるを得なかったよ」

 当時のことを思い出して力なく笑うハルクさん。

 ちなみに私たちが旅をしている間、調理当番はハルクさん一択だったりする。
 ハルクさんの料理は本当に美味しくて、いつも助かってるんだけど……まさかそんなところに源流があるとは。

「けど、優しい人だった。『自分には剣しかないけど、人を守るために剣を振るいたい』っていつも言っていたよ」
「素敵な人ですね」
「うん。僕もそう思う。今でも尊敬しているよ」

 ハルクさんはにこりと笑って頷き――そして表情を消失させた。


「そんな師匠の尊厳をシャノンは踏みにじった。誰かのために最期まで戦った気高いあの人をただの道具として利用しようとした。
 ひどい侮辱だよ。僕は絶対に彼女を許さない」


 混じりっけなしの怒気が放たれる。

 ハルクさんにとって、先代『剣神』はきっと誰よりも大切な人だったのだ。

 私にとってのイリスのような存在だろうか。
 彼女が侮辱されたら、私もおそらく平静ではいられないだろう。

「シャノンは絶対に僕が討つ。これ以上あんな真似は繰り返させない」

 固い決意とともにそう告げるハルクさんに、私は――

「いえ、駄目です」
「…………え?」
「駄目です」

 呆気にとられたようなハルクさんに念押しして、私は言葉を続ける。

「シャノンは常軌を逸した怪物です。生前でさえおそろしい事件を起こしているのに、今は冥神エルシュの加護を得てさらに凶悪な存在になっています。
 何をしてくるか想像もつきません。
 だから駄目です。――ハルクさん一人では」

 殺した人間の魂を吸収し、人格や技術、外見すら再現する能力。
 生前とほぼ同じ強さの『生ける屍リビングデッド』を作る能力。

 それだけでも厄介なのに、他にどんな能力を隠し持っているかわかったものじゃない。

 私はハルクさんの目を見て言った。

「けど私なら、シャノンの扱うエルシュの力にも対抗できます。私とハルクさん、二人でシャノンを止めましょう」

 ハルクさんはしばらく呆けたように私を見ていた。
 それから小さく苦笑して、

「セルビア」
「はい」
「……本当に、頼もしくなったね」

 どこか嬉しさを滲ませた声色で、そんなことを言った。





 ――ということがあった数日後。

「さて、では今からリーベル王国に向かうぞ」
「「「えっ」」」

 屋敷で発されたオズワルドさんの宣言に、私、ハルクさん、レベッカがまったく同じリアクションを返した。

 代表してハルクさんが尋ねる。

「えっと、オズワルドも来てくれるのかい?」
「むしろ俺が行かなくてどうする。魔神の封印とやらを直接見なくては、結界を作るも何もないだろうが」

 ……言われてみれば。
 オズワルドさんは説明を続ける。

「幸いにも『古龍の眼球』は確保できた。王都でも作業はできるだろう」
「それはありがたいけど……この街は放置していいの? ロゼさんたちの看病とか……」
「すでに治療院の連中に任せてある。問題ない」

 どうやら本当にオズワルドさんはこの街を出る準備を整えているようだ。

 そういうことなら、ありがたく同行してもらおう。

「げえー、本当にこの青いのついてくんのかよ」
「嫌ならお前がここに残れ赤髪」
「あ?」
「何だ?」
「はい二人ともストップです」

 何となくレベッカのこの反応は読めたので適当なところで仲裁しておく。

 なんだかすっかりこの役割も慣れてきちゃったなあ……

 ハルクさんが言う。

「それじゃあ、さっそく出発しようか」
「はい! ほら行きますよ二人とも」

 まだ睨み合っているレベッカとオズワルドさんを連れて屋敷を出る。

 いよいよ必要なものは揃った。
 あとは王都に戻り、オズワルドさんに結界を作ってもらうだけ。

 魔神との決戦が近づいていた。
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