泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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副会長の話②

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「ん? ……んん? なんだか首が軽くなった気が」
「あ、まだじっとしててください。このくらいの傷なら――【ヒール】。はい、治りましたよ」

 呪いが解けたところで傷も治療しておく。
 副会長はおそるおそる首に手をやり、傷が塞がっていることに気付いて目を見開いた。

「な、治った!? 嘘だろう、こんなにあっさり……!?」

 呪い、というのは相手を害する邪悪な魔力のことだ。
 毒物なんかと違うのはそれが非物質であること。
 聖女候補の能力は、実体を持たない相手にはめっぽう強いのだ。

「な、治ってる! 本当に血が止まっている! ああ、ありがとう転入生! 僕はもう助からないと思っていたのに!」
「は、はい。もう大丈夫ですから安心してください」

 私の手を掴んでぶんぶん振ってくる副会長。
 いつまでたっても傷が治らず不安だったんだろう。

「セルビアさんって本当にすごい力を持っているんですね……」

 一方、ロゼさんが目を丸くしてそんなことを言う。

「あはは……まあ、望んで得た力じゃないですけど」
「……それでも、羨ましいですよ」
「ロゼさん……」

 そう言ったきりロゼさんは黙り込んでしまう。

 どう反応していいかわからずにいる私に、オズワルドさんが質問してくる。

「セルビア。これで副会長が失血死する可能性はなくなったんだな?」
「は、はい。傷は治しましたから。……それよりあの呪いが気になります。
 呪いは本来、アンデッド系の魔物くらいしか扱えないはずです。
 副会長さんを斬った剣士というのは、一体何者なんでしょう?」

 まさか話に出てきた仮面の剣士がその手の魔物だったりするんだろうか。

「まだ判断ができんな。単に呪いの付与された剣を使っていただけかもしれん。
 アンデッド系の魔物の素材を用いれば、そういうものも作れるだろう」
「なるほど」

 魔術に関することならオズワルドさんの領域だ。オズワルドさんがそう言うならそうなんだろう。
 まだ仮面の剣士については素性がわからない。

「これからどうしましょうか?」
「俺はまず仮面の剣士について情報を公開する。
 それと副会長を守る方法も考える必要があるだろうな。
 口を噤んでいた今までならともかく、情報を明かした今ではその剣士に報復される可能性が高くなった」
「……!」

 オズワルドさんの言葉に副会長が表情を青ざめさせる。

 仮面の剣士について今まで情報は広まっていなかった。
 その情報が公開されれば、それを知った仮面の剣士に副会長が狙われかねない。
 対策は確かに必須だろう。

「セルビア、ロゼ。念のためお前たちも当分は二人で行動しろ。絶対に一人でひと気のない場所に行くな」
「はい」
「……わかりました」

 私とロゼさんも頷く。
 最近の調査ではロゼさんも同行してくれることが多かったので、それは問題ない。

「あ、そうだ。一応中庭に行ってみてもいいですか? 何か手がかりが残っているかもしれません」

 私が手を挙げて言うと、オズワルドさんは渋面を作った。

「副会長が襲われたのは半月も前だぞ。何かわかるとは思えん」
「普通ならそうですが、聖女候補わたしの目で見れば別かもしれません。呪いなんて使ってくるような相手ですし」
「……」

 オズワルドさんは少し考えてから、

「……わかった。だが中庭を不自然に探る真似は危険だ。本当に手がかりがあるなら、仮面の剣士が警戒しているかもしれんからな。護衛をつけていけ」
「護衛ですか?」
「いるだろう。ぴったりのやつが」
「……あ、そうでした。じゃあ連絡します。ロゼさん、ちょっと待っててもらっていいですか?」

 私が言うとロゼさんは首を傾げた。

「もちろんいいですけど……あの、護衛って一体誰のことですか?」
「ああ、それは――」


 十分後。


「――はじめまして、ロゼさん。僕はハルクというんだ。『剣神』なんて呼ばれているけど、気にせず普通に接してくれると嬉しい」
「…………えええええっ!?」

 護衛役としてやってきてくれたハルクさんを見てロゼさんが目を見開いていた。
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