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パーティに招待されたようです

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「それで何か用ですか? チェルシー姉様」
「……チッ、こんなの計算外よ……無様なドレス姿を笑ってやる予定だったのに……!」
「チェルシー姉様?」

 何やらブツブツ呟いているチェルシーに用件を尋ねる。
 一体この人は何をしに来たのか。
 チェルシーはどこか不機嫌そうな顔でこう告げてきた。

「……お父様とお母様が呼んでるわ。さっさと来なさい」
「わかりました」

 まあ、何の連絡もなく一か月も家を空けていたら両親から説教の一つもあるだろう。

 心配そうなサラをその場に残し、チェルシーの後についていく。

「お父様、お母様。ティナを連れてきました」
「入りなさい」

 書斎に行くと両親が待っていた。

 両親は私を見て面食らっていたようだけど、特に疑問を口にはしなかった。
 ……正直ありがたい。毎回自分がティナだと説明するのは面倒すぎる。

 父親――エドガー・クローズがごほんと咳ばらいをした。

「ティナ。この一か月どこに行っていたんだ。心配したんだぞ」

 サラの話では心配どころか捜索もしなかったそうですが。
 ……そう言いたいのをぐっとこらえて、普通に返答する。

「デイン山地に入り、なまった体を鍛え直しておりました」
「で、デイン山地? お前一人でか?」
「はい。ああ、その際に倉庫にあったお父様の剣を持ちだしてしまいました。勝手にお借りして申し訳ありません」
「そ、それは構わんが……」

 目を白黒させるエドガー。
 運動音痴のティナが山籠もりなんて普通なら信じられないだろうけれど、私は実際にこうして痩せている。嘘には聞こえないはずだ。

「……ま、まあいい、本題だ。三日後に王城でパーティが開かれるのは知っているか?」
「いえ、初耳です」
「これがその招待状だ。ティナ、お前の名前も載っている」
「私が?」

 エドガーの差し出した招待状には確かに私の名前も書かれていた。
 ……珍しい。普段なら両親とチェルシーの名前しかないのに。

「ロイド王太子殿下による直々のお誘いだ。必ず出席するように」
「わかりました」

 エドガーにそう念押しされたので、ひとまず頷いておく。
 まあ、パーティに出るくらい構わない。
 邪魔にならない位置でお開きまで静かにしていればいいだけだ。

「……」

 私とエドガーと話している間、ずっとつまらなさそうにしているチェルシーが妙に気になった。




「そうだわ、ドレスよ!」
「……はい?」

 書斎を出たあと。
 廊下を移動する途中、チェルシーがいきなりそんな声を上げた。

 こちらを向いたチェルシーは、書斎にいたときとは打って変わってニヤニヤと愉快そうな笑みを浮かべている。

「ティナ、あんたパーティに着ていくドレスはどうするつもり?」
「どうするも何も、手持ちのものから――あ」
「持ってるものを着られるの? 今のあんたが?」

 ようやく事態を理解した私に、チェルシーが笑みを深くする。

 私も一応は伯爵令嬢なので、夜会に着るドレスくらい持っている。
 しかしそれは以前の体型に合わせたものだ。
 今の私が着ればぶかぶかどころの騒ぎじゃないし、相当見苦しいことになるだろう。

 つまり、私は王城のパーティに自前のドレスで参加することはできない。

(……パーティまで三日では新しく調達することはできない。母様に借りようにも、背丈が違いすぎるし……)

 母親のイザベラは背丈が私より頭一つぶん低いので、ドレスを借りるのは無理がある。
 ……まあ、彼女も私を嫌っているので、サイズが合っても貸してはくれないだろうけれど。

 しかし、そうなると――

「……チェルシー姉様。古いもので構わないので、ドレスを貸してはいただけないでしょうか」
「そうよねえ。あんたの着られそうなドレスを持ってるの、この家では私だけだものねえ」

 チェルシーの言う通り、私がパーティ用のドレスを調達する手段はもうそれしかない。

 チェルシーなら身長も体型も今の私とかなり近い。
 彼女からドレスを借りるのが、この状況を解決する唯一の方法だろう。

 ……という私の状況を完全に理解しているので、チェルシーの反応はこうなる。

「そうねえ。それなら頼み方ってのがあるでしょ? ティナ」
「……お願いします、チェルシー姉様。どうか私にドレスを貸していただけませんか」
「嫌に決まってるでしょう、この豚が! あんたはみっともないドレスを着て恥をかけばいいのよ! あっははははは!」
「……」

 残念だ。実の姉でなければ剣の柄で殴っているのに。

「ですが姉様、私が変な恰好でパーティに出ればクローズ家の名に泥を塗ることになります」
「そうね~。そうならないように、あと三日で頑張ってドレスを調達できるよう頑張ってね? ま、できるならだけど! あははははははっ!」

 私の説得を意に介さず、高笑いしながらチェルシーは去っていった。

「……頭が痛くなってきますね」

 あの人は私に恥をかかせられれば他のことはどうでもいいんだろうか。
 普通、貴族令嬢なら家の看板は守ろうとするもののはずなのに。




「――というわけなんだけど、サラ。何かいいアイデアはないかしら」
「……………………、チェルシーお嬢様は相変わらずでいらっしゃいますね」
「サラ、口調はともかく表情が不満を隠せてないわよ。……私のために怒ってくれるのは嬉しいけれど」

 困り果てた私は屋敷の掃除をしていたサラに相談していた。

 雇い主の娘であるチェルシーのしたことなので、サラも不満を直接口にすることはない。
 顔には出ているけれど。

「確認しますけど、三日以内にドレスを用意すればいいんですね?」
「ええ、そうね。問題はその方法だけど――」
「任せてください! わたしがティナお嬢様に似合うドレスを絶対に用意します!」
「え」

 サラは大きく頷いて言い、私はその返事に呆気にとられるのだった。
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