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見かけによらず頼りになる少女
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「まずは資金の確保ですね! 旦那様に相談してきます!」
サラはまず書斎に突撃して父親のエドガーからお金を預かった。
家の名前に傷をつけたくないエドガーは、チェルシーと違い、嫌々ながらも頷いたようだ。
「では街に行きましょう!」
「……? サラ、街のどこに向かうの?」
「仕立屋です! オーダーメイドは三日では無理ですが、既製品であれば裾直しくらいすぐですから! 貸衣装という手もありますね!」
「ああ、なるほど」
男爵や子爵といった下位貴族の令嬢であれば、そういう手段をとることが多い。
今まで私はオーダーメイドばかりだったので失念していた。
確かにそれは名案だ。
その方法なら、素敵なドレスも見つかるに違いない!
「――全然見つからないじゃないですかぁーっ!」
数時間後、三軒目に入った仕立屋でサラが頭を抱えていた。
「何を言っているの、サラ。ここに貸衣装のドレスが何着か残っているじゃない」
「それが『七色のカラフル野菜模様ドレス』とか、『漆黒の闇に渦巻く黒き炎柄ドレス』とかを指しているならアウトですお嬢様!
いくらサイズが合っていても大恥では済まないですよ!?」
「……やっぱり駄目かしら」
「駄目です!」
手に持っていた独特なドレスたちはサラに回収されてしまった。
……要するに、ドレスがなかなか見つからない事態である。
まあ、当然といえば当然だ。
貸衣装は数が少ない。
パーティの招待状が配られた瞬間から下位貴族の令嬢たちの間で争奪戦が始まり、パーティ直前ではまともなデザインは根こそぎ予約済みとなっている。
既製服のほうも似たような理由で売り切れていた。
「やっぱりおかしいです、こんなにドレスが手に入らないなんて……!」
サラの困惑を聞きつけて店主がこんなことを説明してくれた。
「今回はあの『八つ裂き公』がパーティにご出席なさるそうですからね。ひと目見ようという令嬢やマダムが多いようです」
「『八つ裂き公』?」
なにやら物騒な二つ名だ。
「国境沿いのメイナード領を治める公爵様ですよ。帝国から何度も侵略されているんですが、それを毎回撃退してしまうんです。しかもただ撃退するだけでなく、敵の心を折るために捕虜を敵の目の前で八つ裂きにするんだとか」
「……効果的かもしれませんが、騎士道に反しますね」
敵の士気を下げるためとはいえ、敵国の捕虜を八つ裂きにするなんて信じがたい。
この時代の戦時条約はどうなっているのか。
ドレスを元の場所に戻してきたサラが、店主に尋ねる。
「どうしてその方が来ると、女性がパーティに行きたがるんですか? 聞いた限りではとても、その、怖い方のような……」
「それが、そのメイナード公爵がとんでもない美形らしくてね。しかも若くて独り身だそうだから、未婚の女性には興味が尽きない殿方なのさ。
……まあ、怖いもの見たさの人も多いだろうけどね」
苦笑しながら店主が言った。
どうやらその『八つ裂き公』はかなりの美形らしい。
まあ、結婚相手を探しているわけでもないし、私にはどうでもいいことだ。
それよりドレスをどうしようか。
「サラ、そういう理由では仕方ありません。やはりさっきのうちどちらかのドレスを――」
「駄目ですってば! ……こうなっては最後の手段です」
「さ、サラ?」
サラは覚悟の決まった目でこう言い放った。
「――私がドレスを仕立てます。店主さん、布を見せてくれますか」
「「……は?」」
サラの言葉に、私と店主は揃って目を丸くした。
サラがあんなことを言った理由はいくつかある。
まず、三軒回って見つからない時点で他の店にもドレスはないと思われること。
パーティが近く、仕立屋はどこも忙しいので無茶な注文は断られるであろうこと。
そしてサラは裁縫が得意であること。
(……いやいや、さすがに無理でしょう。仕立屋の店主も困惑していましたし)
いくら裁縫が得意でも、サラはメイドであって服職人ではない。
しかもまだ十四歳である。
そんなサラが、わずか三日でドレスなんて縫えるはずが――
「お嬢様、完成しましたよ! 今日はこれでパーティに参加なさってください!」
「……えっ」
パーティ当日、意気揚々とサラが掲げるのはまごうことなきイブニングドレス。
美しい青色の生地に、いくつかあしらわれた花柄の刺繡がよく映える。
多少シンプルではあるものの、それがかえって大人っぽさを演出している。
「今のティナお嬢様であれば、素材の良さを引き立たせるデザインのほうがいいはずです。なのであえて装飾は少なくしてみました!」
サラの目元には濃いクマができ、明らかに連日徹夜した気配があったけれど、その表情はどこか誇らしげだった。
……
(……普通、職人でも三日でドレスは縫えませんよね?)
もしかしてこのサラというメイドは天才なのではなかろうか。
サラはまず書斎に突撃して父親のエドガーからお金を預かった。
家の名前に傷をつけたくないエドガーは、チェルシーと違い、嫌々ながらも頷いたようだ。
「では街に行きましょう!」
「……? サラ、街のどこに向かうの?」
「仕立屋です! オーダーメイドは三日では無理ですが、既製品であれば裾直しくらいすぐですから! 貸衣装という手もありますね!」
「ああ、なるほど」
男爵や子爵といった下位貴族の令嬢であれば、そういう手段をとることが多い。
今まで私はオーダーメイドばかりだったので失念していた。
確かにそれは名案だ。
その方法なら、素敵なドレスも見つかるに違いない!
「――全然見つからないじゃないですかぁーっ!」
数時間後、三軒目に入った仕立屋でサラが頭を抱えていた。
「何を言っているの、サラ。ここに貸衣装のドレスが何着か残っているじゃない」
「それが『七色のカラフル野菜模様ドレス』とか、『漆黒の闇に渦巻く黒き炎柄ドレス』とかを指しているならアウトですお嬢様!
いくらサイズが合っていても大恥では済まないですよ!?」
「……やっぱり駄目かしら」
「駄目です!」
手に持っていた独特なドレスたちはサラに回収されてしまった。
……要するに、ドレスがなかなか見つからない事態である。
まあ、当然といえば当然だ。
貸衣装は数が少ない。
パーティの招待状が配られた瞬間から下位貴族の令嬢たちの間で争奪戦が始まり、パーティ直前ではまともなデザインは根こそぎ予約済みとなっている。
既製服のほうも似たような理由で売り切れていた。
「やっぱりおかしいです、こんなにドレスが手に入らないなんて……!」
サラの困惑を聞きつけて店主がこんなことを説明してくれた。
「今回はあの『八つ裂き公』がパーティにご出席なさるそうですからね。ひと目見ようという令嬢やマダムが多いようです」
「『八つ裂き公』?」
なにやら物騒な二つ名だ。
「国境沿いのメイナード領を治める公爵様ですよ。帝国から何度も侵略されているんですが、それを毎回撃退してしまうんです。しかもただ撃退するだけでなく、敵の心を折るために捕虜を敵の目の前で八つ裂きにするんだとか」
「……効果的かもしれませんが、騎士道に反しますね」
敵の士気を下げるためとはいえ、敵国の捕虜を八つ裂きにするなんて信じがたい。
この時代の戦時条約はどうなっているのか。
ドレスを元の場所に戻してきたサラが、店主に尋ねる。
「どうしてその方が来ると、女性がパーティに行きたがるんですか? 聞いた限りではとても、その、怖い方のような……」
「それが、そのメイナード公爵がとんでもない美形らしくてね。しかも若くて独り身だそうだから、未婚の女性には興味が尽きない殿方なのさ。
……まあ、怖いもの見たさの人も多いだろうけどね」
苦笑しながら店主が言った。
どうやらその『八つ裂き公』はかなりの美形らしい。
まあ、結婚相手を探しているわけでもないし、私にはどうでもいいことだ。
それよりドレスをどうしようか。
「サラ、そういう理由では仕方ありません。やはりさっきのうちどちらかのドレスを――」
「駄目ですってば! ……こうなっては最後の手段です」
「さ、サラ?」
サラは覚悟の決まった目でこう言い放った。
「――私がドレスを仕立てます。店主さん、布を見せてくれますか」
「「……は?」」
サラの言葉に、私と店主は揃って目を丸くした。
サラがあんなことを言った理由はいくつかある。
まず、三軒回って見つからない時点で他の店にもドレスはないと思われること。
パーティが近く、仕立屋はどこも忙しいので無茶な注文は断られるであろうこと。
そしてサラは裁縫が得意であること。
(……いやいや、さすがに無理でしょう。仕立屋の店主も困惑していましたし)
いくら裁縫が得意でも、サラはメイドであって服職人ではない。
しかもまだ十四歳である。
そんなサラが、わずか三日でドレスなんて縫えるはずが――
「お嬢様、完成しましたよ! 今日はこれでパーティに参加なさってください!」
「……えっ」
パーティ当日、意気揚々とサラが掲げるのはまごうことなきイブニングドレス。
美しい青色の生地に、いくつかあしらわれた花柄の刺繡がよく映える。
多少シンプルではあるものの、それがかえって大人っぽさを演出している。
「今のティナお嬢様であれば、素材の良さを引き立たせるデザインのほうがいいはずです。なのであえて装飾は少なくしてみました!」
サラの目元には濃いクマができ、明らかに連日徹夜した気配があったけれど、その表情はどこか誇らしげだった。
……
(……普通、職人でも三日でドレスは縫えませんよね?)
もしかしてこのサラというメイドは天才なのではなかろうか。
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