うちのお猫様は、私に冷たい

こむぎダック

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14話

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 エドモンドラシール前侯爵
 日記より抜粋

 帝国歴705年9月3日

 とうとう僕の可愛いリーシャが、学院へ入学した。

 3歳で侯爵家に迎え。
 舌っ足らずな可愛い声で、”エドパ~パ” と私を呼んでいた姿を、今でもハッキリと思い出すことが出来る。

 入学の祝いに何が欲しいか、と聞くと。
 リーシャは母親の事が聞きたい。と言って来た。

 以前アシンが、リーシャの母親の素性を漏らした事を覚えていたらしい。
 高価な宝石や煌びやかなドレスではなく、母の話しをせがむところが、リーシャらしいと思う。

 しかし、せがまれた処で大した話をしてあげることは出来なかった。

 リーシャの母リリーの事を調べると、東方の国の高貴な生まれの方だった、というところまでは分かった。

 しかしどうやって兄のヨゼフと出逢い。
 どう口説き落として、二人でこの国に逃げて来たのかは、さっぱり分からなかった。

 そしてリリーの家族は、リリーを病で死んだと公表し、葬儀も執り行ったと聞いている。今更可愛い娘を拐かした、男との間に女児をもうけていたと、連絡したとしても、先方もどうすれば良いのか、対応に困る事だろう。

 もし先方と連絡を取り合ったとしても、リーシャを返せと言われたりしたら、目も当てられない。

 臆病な私達は、黙して語らず。
 知らない振りをするより他ないのだ。

 リーシャも私達の心情を察したのか、それ以降、母の話しをすることは無かった。

 そして今日、学院の制服で身を包み。
 新入生代表挨拶をする、リーシャの晴れ姿をこの目にしっかりと焼き付けたいのに、涙で前が曇ってよく見えない。

 兄上。
 立派に育った、リーシャの姿が見えていますか?私は、兄上の願いを叶えることが出来ましたか?

「父上。気持ちは分かりますが、恥ずかしいのでもう少し、嗚咽を堪える事は出来ませんか?」

「うぐぐぅ・・・無理ぃ」

 まったく、息子なんて薄情で生意気で、ちっとも可愛くない。それに比べてリーシャの可愛らしい事と言ったら。
 
 嫁に出すのが嫌で、アシンとの結婚を後押ししたが、それも早計だったのではなかろうか。こんな小憎たらしい息子の嫁にやるくらいなら、一生独身のまま、私と二人で仲良く暮らしていた方が、良かったのではないだろうか。

 それにしても、其処ら中護衛の騎士だらけじゃないか。

 入学式だというのに、無骨すぎるだろう。

 しかしこうなったのは、私にも責任がある、昨年実験中の事故で大けがを負った私を、癒してくれたのは他ならぬリーシャだ。

 あの一件が無くとも、何時かリーシャは能力を発現させていただろう。

 だが、能力の発現がもっと後であったなら、子供時代の最後に、こんな窮屈な思いをさせる事も無かったのだと思うと、身の置き所が無い気分だ。

 我が国初の癒し手。
 リーシャは能力の発現と共に、国の宝となった。

 陛下は、癒し手を手に入れようと暗躍する者達からリーシャを守るべく、騎士団まで立ち上げて下さった。

 それは武に関し、からっきしの我が家門にとっては、大変ありがたい事だった。

 そして、リーシャを聖女と祭り上げ、神殿に取り込もうとする神官達を退け、侯爵家の令嬢としての暮らしを守って下さって居る事にも、感謝の念が絶えない。
 
 しかし、この騎士団の団長として、リーシャの警護を総括している男は、どうにもいただけない。

 いくら調べても出自ははっきりしないし、何よりも愛想と言うものが一切ない。

 此方が話しかけても、”ああ” とか ”了解した” と短い返事を返すだけで、まともな会話が成り立ったことが無いのだ。

 しかも団の名の由来は、団長の姓から来ているらしいが、オブシディアンと厳めしく。
 その名の通り、騎士服が黒一色というのも、どうかと思う。

 リーシャの様に若く可愛らしい娘の周りを、黒衣の集団が固めているというのは如何なものだろうか。

 それにリーシャは癒し手なのだから、騎士服も白や青などの爽やかな色の方が良いのではないか?

 言いたいことは他にも色々あるが、陛下の鳴り物入りという事だけあって、この団長と騎士達の腕だけは確かだ。

 陛下が退けて下さってはいるが、神殿の神官達は、リーシャを取り込むのを諦めた訳ではなく、月に一度の祝祭の日に、神殿で祈りを捧げる事をリーシャに懇願してきた。

 これには陛下を始め、私達も反対だったし。リーシャも面倒そうに顔を曇らせていた。

 そして、オブシディアン卿も学院の登下校だけでなく、決められた日に神殿へ通う事は、リーシャの身を危険に晒す事だ、と反対していたのだ。

 この時は、この男もこんなに長く話せたのかと、驚いたものだ。

 だが神殿側もそんな事では諦めなかった。
 癒し手の祈りは国の豊穣の為に必要な事であり。これまで他国で発現した癒し手達も、行って来た祭事である。と主張されれば、陛下も神殿の主張を認めざるを得ず、渋々だが月に一度、祈祷の為にリーシャは神殿へ通う事になってしまった。

 そして案の定と言うか、懸念通り。リーシャを乗せた馬車は、襲撃に合ってしまった。

 それも2度もだ。

 騎士達の活躍により事なき得たが、生き残った犯人は、全て自決してしまい、黒幕が誰なのかは今も闇の中だ。

 リーシャに同行していた侍女のジャネットは、騎士達の活躍。特に団長のオブシディアンの強さに興奮する事しきりだった。

 リーシャもオブシディアンと騎士達に礼をしたいと言って居たのだが、オブシディアンは「仕事だ」と言ったきり、ふいっと何処かに行ってしまったという。

 徹底した不愛想さに、逆に感心してしまいそうだ。

 この二度の襲撃と、リーシャが学院に入学する事で、神殿での祈祷は学業優先の不定期。という事になった。

 神官達も我を張り続け、大事な癒し手が他国に奪われるような事にでもなれば、元も子もない。諾として我等の主張を飲むしかないのだ。

 そして秋の気配が感じられる今日。

 リーシャの晴れ姿に感動し涙する事が出来た、という訳だ。

 それも此れも、オブシディアン卿率いる騎士団のお陰なのだが。

 舞台に立つリーシャの後ろで、威嚇する様に会場中を睥睨するオブシディアン卿に、私とアシン以外の保護者と生徒は、顔を引き攣らせているのだ。

「仕事なのは分かるけど、もう少し愛想よく出来ない物かね」

「護衛騎士なんですよ?舐められたらお終いです」

「そうだけど。あんな強面の騎士が四六時中一緒じゃ、リーシャは友達も作れないのじゃないか?」

「参列者が多いので、今日は特別です。今後学院内での護衛は、数名の女性騎士が受け持つ事になるそうです」

「女の騎士なんていたんだ」

「珍しいですが皆無ではありません。それに、他にも年頃の御令嬢が大勢いる場所ですから、男の騎士がうろつくのは、色々と問題でしょう?」

「まあそうだよね。婚約者がいる身でありながら、騎士との恋に身を焦がす・・・。なんていうのは恋愛小説の定番だ。初心な御令嬢達は、簡単にのぼせてしまうだろうね」

「そうですね」

「アシンは心配じゃないの?」

「心配ですよ?でも僕がリーシャを逃がすと思いますか?」

 む・・・息子よ。
 艶然と微笑んでいるが、その顔はかなり怖いぞ?

 リーシャすまない。
 やはり私は選択を誤った気がするよ。

 リーシャ。
 君がアシンではない誰かに、初めての恋をした時。

 私は君とアシン。
 どちらの味方をすればいいのだろう。

 そして選択を間違えたら、君は兄上の様に、どこかへ消えてしまうのだろうか。
 
 可愛い娘の幸せを願いながら、君を手放せない愚かな父を許しておくれ。

 しかしうちの娘は、本当に可愛いな。
 今リーシャをボーっと見つめている令息達は要チェックだな。

 リーシャに近付けさせない様、護衛騎士達には厳しく言い聞かせなければ。

 いや。私が口出しせずとも、アシンが何とかするか。横に座っている息子は、顔は笑っているのに、こめかみに青筋を立てると言う、器用な事をして居るからな。

 我が息子ながら、初恋を拗らせた男ほど、恐ろしいものはないな。

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