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❄️影妃ペトロネラ

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 影妃ペトロネラ・ヘルミーネ・ゾフィーア・クラテンシュタインは、第四王子テオドールの枕元で寝物語を聞かせているところだった。
 ふと背後に気配を感じて話を終わらせると、おやすみのキスをして灯りを持ち、ベッドを離れる。厚いカーテンの向こうに、隠れるように立っていたのは、王弟マリウス。そういうふざけた悪戯が好きなのだ、この男は。
 いかにも義弟でございという顔をして、王妃の居室へ入り込む。侍女も相手が王弟では制止もできまい。ここでとがめることもできるが、彼女はそれをしようとは思わなかった。

「こちらへ」

 テーブルは侍女らが先に用意している。うちの者は本当に優秀だ。満足を覚えながら灯りを渡し、影妃は席についた。

「余裕だな、ペトラ。王が心配じゃないのか」

 半笑いでマリウスが言う。もちろん心配ではない。あれがどういう状態なのか、彼女は知っていた。

「それよりも、貴方がうるさいことを始めそうなのが嫌です」
「ハハハ」
「わたくしの平穏な生活を脅かさないでほしいわ」

 笑うのは、彼女にどれくらいの影響力があるのか計りかねているから。そしてそれを探るためにやってきた。わざわざ、子どもが眠る時間に。

「子ども達は今がいちばん手がかかるの。テオドールはまだわたくしを追いかけるし、ブルーノはこれから婚約式、フリッツは教導士から未だにお小言をもらってくるし、ヘンリックは偏食が酷くて……」
「ああ、いい、分かった分かった。きみの暮らしに影響はないようにするとも」
「是非お願いしたいわ。アレクシアもアンゲーリカも、そろそろ輿入れなんですから」
「ハイハイ、肝に銘じます」

 マリウスは両手を挙げて降参を伝え、腰を浮かせたが、彼女は追い討ちをかけるようにしゃべり続けた。

「マリウスなら分かるわね、今、物入りなの。姫たちの婚礼に恥ずかしくないように、長年少しずつ用意しているけれど」
「うん、よし分かった。今度良い宝石を贈らせる」
「あら、本当?」
「もちろんだ。ああ、元気な顔を見られて良かった。もう遅いからお暇するよ」
「そんな、まだ何のおもてなしもできておりませんのに」
「結構結構、俺も眠くなってきた。おやすみペトラ」
「おやすみなさい」

 たいていの男はこういった愚痴は嫌いだ。生活の細々としたあれこれを、困らないよう実際に取り仕切っているのは女。彼らは女のことを、下らないことをさも大変そうに言ってばかりいる、そしてそれを恩着せがましく騒ぎ立てる、うるさい存在だと思っている。
 男の生きる世界は、女の世界で裏打ちされているのに。
 ともあれ、彼はしばらく来ない。
 影妃ペトロネラはため息をついて、自身の寝間へと向かった。
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