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こわい女

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 指を離して数瞬、胸の星石が光る。慌ててもう一度触れた。

『クラリッサとやら』

 無いと思った返事。王妃様は、とても低い声でわたしの名を呼んだ。

『レンブラントには貴女を籠絡するように仕向けたの。この子を愛してしまったのね、可哀想に』

 胸がまだ熱かったから、その冷たい言葉に傷つくことはなかった。でもレンが少しも動かない。そうじゃないよと、さっきみたいに思い知らせて。

『この子はアウクスベルクを探らせるために送ったのに、城から追い出された役立たず。でも、ちゃんと仕事できたわね、褒めてあげるわ』

 レンのお母様なのに、なんて酷いことを言うんだろう。レンはこんなに真っ直ぐ育って太陽みたいなのに、この人は夜みたいに真っ暗だ。

「一体何があったのですか? どうしてそんなに悲しいことをおっしゃるの?」

 たまらず聞いたら、少しの間があいて、けたたましい笑い声が響き渡った。

『何があったかご存知ない? それはお幸せね、知らないままでいて』

 それからひと呼吸。

『さよなら。わたくしはアウクスベルクを許しはしない』

 その言葉を最後に、星石は粉々になった。

「レン……」

 彼の顔は蒼白になって、見たことがないほど気分が悪そうだった。

「大丈夫?」

 そう言いながら癒しの波動を送るけれど、心から来る不調だからすぐには治らない。

「クラリッサ、もう星石は?」
「無いわ。粉々になったし、綺麗にしたわ」

 レンはそれを聞くと、あえぐように大きく何度か息を吐いて、渇いた唾を飲み込んだ。

「ずっと、嫌だった」
「うん」
「ずっと怖かった」
「うん」
「嫌いだった訳じゃないのに」
「うん」

 分かるよ。辛かったね、レン。
 ずっと良い子でいたんだね。
 抱き締めた彼の背中はとても素直なのに。

「笑って欲しかった」

 お母様を、止めなきゃ。

「レン、手伝って」

 ルフトバートのお仕事を手伝いながらは無理だろう。こんな大規模な使い方は初めてだもの、倒れてしまうかもしれない。でも、急がなきゃ。今二つの国で何が起きているのか、一刻も早く知らなければ。

 家に帰り二階のベッドへ横になると、レンはわたしの手を握った。心強いし、嬉しくて胸がほんのりとあたたかくなる。

「レン、ずっとこうしていて」
「ああ」

 大好きな笑顔をまぶたに浮かべて、わたしは意識を広げていく。

 ルフトバートのみんながわかる────畑に果樹園に加工所に食堂に、まだ眠っている人もいる────城は少し離れている、でも目印の星の塔を目指していくと、外に立つ兵士がいて、丘を下る先に城がある。そして街を挟んで反対側に教会がある。どちらもたくさんの知らない人が生活している、みんな生きて、動いている。
 そして、それは人間に限らなかった。大きな生命の広がりを感じて、眩暈を起こしてしまう。
 みんな、生きている。
 少しだけ、力を貸してね。
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