70 / 129
愛してる
しおりを挟む
「今から行っちゃおうか」
ぎゅっと抱きしめてレンは少し笑った。許せない。わたしは起き上がって彼を見下ろし問い詰める。
「それ、どういう意味なの?」
語尾が震えるわたしを見上げて、笑みが消えた。
「わたしに、ここを放り出せと言うの? いま? どうして?」
ばら撒いた星石はここと城と教会を中心にして人々に入り込み、わたしは彼らの動きをようやく理解できるようになった。願いの通り、ルフトバートには貧しい人が大勢やってきて、ここで新しい生活を始めようとしている。でもまだ、彼らを迎える家も建てている途中で、食べ物があるだけ。女子どもはなるべく屋根の下へと思っているのに、とてももどかしい。早く秩序を、早く安心をと思っているのに、荒んだ彼らはなかなか思い通りにはならなくて、兵たちが交代でにらみをきかせている。それでも、まだ夜は不安なんだよ、みんなは。
「どんな気持ちで頑張ってるか、知ってるでしょ? わたしがいなくなったら、ここがどんな地獄になってしまうか、分からないの? 元々いたみんなだって我慢してる。家の中にいられるだけ良い方だって。わたしがいなくなったら食べ物だって────」
素早くレンの腕がわたしをとらえて、くちびるを合わせ深く奪われる……いや、ごまかさないで!
「やめて。んっ……」
ますます深く口づけて、寝かされてしまった。優しい眼差しでレンが言う。
「だって、きみが死んでしまう」
「────」
「このままじゃだめだよ」
「だって……」
「無理だよ!」
「────怒らないで」
大きな声はきらい。心が硬直してしまうから。悲しくて、涙が出てしまうから。
「……さっきだってうなされて叫んでたんだ、ここんとこ毎日がそうなんだよ、どんどんきみがやつれていく……」
レンが。
レンが泣いている。
ぽたぽたとわたしの頬に落ちてくる熱い涙は、見たことがないほど悲痛な彼の双眸からあふれて流れ落ちる。
彼が悲しむなんて、これっぽっちも考えていなかった。ただひたすらに応援してくれていると思っていた。わたしを愛している彼が、わたしを失おうとしているのに。それを悲しまないなんて、あり得ないのに。
自分のことばかりだった。彼の気持ちをぜんぜん考えていなかった。なんてことだろう、愛しているのに!
「ごめんなさい」
「うん」
わたしをかき抱く彼の腕に甘えるだけ甘えて、彼を愛そうとしていなかった、わたしのばか。
「愛してる。レン。レンブラント」
「愛してるよ。クラリッサ」
このままじゃいけない。
ぎゅっと抱きしめてレンは少し笑った。許せない。わたしは起き上がって彼を見下ろし問い詰める。
「それ、どういう意味なの?」
語尾が震えるわたしを見上げて、笑みが消えた。
「わたしに、ここを放り出せと言うの? いま? どうして?」
ばら撒いた星石はここと城と教会を中心にして人々に入り込み、わたしは彼らの動きをようやく理解できるようになった。願いの通り、ルフトバートには貧しい人が大勢やってきて、ここで新しい生活を始めようとしている。でもまだ、彼らを迎える家も建てている途中で、食べ物があるだけ。女子どもはなるべく屋根の下へと思っているのに、とてももどかしい。早く秩序を、早く安心をと思っているのに、荒んだ彼らはなかなか思い通りにはならなくて、兵たちが交代でにらみをきかせている。それでも、まだ夜は不安なんだよ、みんなは。
「どんな気持ちで頑張ってるか、知ってるでしょ? わたしがいなくなったら、ここがどんな地獄になってしまうか、分からないの? 元々いたみんなだって我慢してる。家の中にいられるだけ良い方だって。わたしがいなくなったら食べ物だって────」
素早くレンの腕がわたしをとらえて、くちびるを合わせ深く奪われる……いや、ごまかさないで!
「やめて。んっ……」
ますます深く口づけて、寝かされてしまった。優しい眼差しでレンが言う。
「だって、きみが死んでしまう」
「────」
「このままじゃだめだよ」
「だって……」
「無理だよ!」
「────怒らないで」
大きな声はきらい。心が硬直してしまうから。悲しくて、涙が出てしまうから。
「……さっきだってうなされて叫んでたんだ、ここんとこ毎日がそうなんだよ、どんどんきみがやつれていく……」
レンが。
レンが泣いている。
ぽたぽたとわたしの頬に落ちてくる熱い涙は、見たことがないほど悲痛な彼の双眸からあふれて流れ落ちる。
彼が悲しむなんて、これっぽっちも考えていなかった。ただひたすらに応援してくれていると思っていた。わたしを愛している彼が、わたしを失おうとしているのに。それを悲しまないなんて、あり得ないのに。
自分のことばかりだった。彼の気持ちをぜんぜん考えていなかった。なんてことだろう、愛しているのに!
「ごめんなさい」
「うん」
わたしをかき抱く彼の腕に甘えるだけ甘えて、彼を愛そうとしていなかった、わたしのばか。
「愛してる。レン。レンブラント」
「愛してるよ。クラリッサ」
このままじゃいけない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
98
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる