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後継者

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 ペトロネラはわずかに困った顔をした。星導師教の権威でフリッツ王子の即位を認めさせようとしていたからだ。もう一度祈るべきかしら?

「聖女に倒される王は王でない!」

 静寂を破る大音声を上げたのは、宰相リープクネヒトだった。

「我らが愛する王は聖女のみならずすべての国民を幸せにする王、決してこのように悲しませる者ではない!」

 それは確かにあまりに大きな声で、小さな星の塔に響き渡る。あっけに取られた皆が発言者に気付くと、口々に文句を言い出した。

「あれほど王に媚びていたものを、ずいぶんと変わり身が早い」
「何も知らぬ王なら好きにできるからな」

 リープクネヒトはそれらの雑言を、すべてまともに聞き、うなずいて共感を示す。さらに「他には? 日ごろの些細な不満など、この機会に是非腹蔵なく」と促してみせた。

「ペトロネラに何を握られた?」
「まだ経験もない王子に何ができる」
「三王家にも男子はあるぞ!」

 やいやいと文句のある者は思ったより少なかったらしく、彼らは注目を浴び、やがて黙る。

「つまり、王子フリッツ殿下には荷が重いという訳ですな」

 宰相はふむふむとうなずくと、全員を見回した。

「皆の知らぬことを教えて進ぜよう。まずわしは今宰相ではない」

 突拍子もないことばかり言って、一体何がしたいのか読めないわ。ペトロネラは味方だと言っていたけれど、目を丸くしているから、彼女も想定外みたい。

「ある侍女の下で働いておる。何故ならば彼女こそがこの城で一番の権力者であったからである────信じずとも良い。聞け。わしは権力を欲してきた。いま現在もだ。何故か? 決まっておる。わしが有能だからである」

 権力というものを欲しがる人の気が知れないと思っていたから、ちょっと興味深い。

「できる者は下にいてはならぬ。何故ならばもったいないからだ。上に行けば行くほど、人も物も使えるようになる。俯瞰できる範囲が広がり、重要な秘密を知る。が、しかし」

 リープクネヒトの話にみんな聞き入っている。父もマイティンゲン卿もヴァイブリンゲンも王家の人間も、彼の話術に取り込まれている。

「それは表の話だったのだ。真実には常に裏がある。この中の誰か一人でも、今朝自分が手にしたパンがどのように運ばれてきたか知る者はいるか? では今、手にしているランプは? 知らない? そうであろう。物事は裏が動かしておるのだ」

 視界の端で、ぴくりと王の手が動くのが見えた────まだ誰も気付いてはいない。わたしとアンネリーゼの他には。

「それを知ってわしは、宰相の地位を投げ出して彼女に教えを請い、全てを理解した。そして彼女は、自分の上にたった一人の主を持っている────それが影妃ペトロネラ・ヘルミーネ・ゾフィーア・クラテンシュタイン」

 突然名指されて驚く彼女にリープクネヒトは言った。

「次代に相応しいのは貴女だ。新しい女王ペトロネラ」
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