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第一章

ステータスの闇

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 「そう言えば君はステータスを確認したかい?」
 「ステータス?」

 始まりの宿を抜けての商店街、そこで突然ケーレスにそんな事を言われる。別段驚きはしないがその言葉に疑問を持った。
 勿論ステータスという言葉自体は知っている。日本語で訳すならば状態という意味だ。そしてその外来語はほとんど日常生活で使われない。
 だが、私自身その言葉は彼女にピッタリだと思った。

 「貧乳はステータスとでも言いたいのかな」
 「宗室くん、君はボクをバカにしているのかい?」

 至極真面目に返して怒られてしまった。軽くジョークで言ったつもりなのだが、やはり私はそういった事を言うのが苦手らしい。


 「バカにはしていない。そもそもまだ私とケーレスは知り合ったばかりだ。相手の知量が分かる時ではあるまいよ」
 「そういう意味じゃない。頭脳ではなく身体の事を言ってるんだ!」
 「勿論知っている、今のはジョークだ」
 「君は表情が変わらないから分かりにくいんだよ……」

 半ば呆れ気味の様子でそう呟くケーレス。そして一旦一呼吸置いて白髪の髪をかきあげると。

 「ボクが言いたいのはね。この世界にはステータスという概念が存在しているって事だ」
 「そのステータス……というのはゲームのステータスの事を言っているのか?」
 「そうだ。スキルや魔力量、他にも身体能力各々が確認できるようになっている。でもHPいわゆる体力は確認できないみたいだね」

 スキルというのは特定の技、魔力量はおそらくスキルを使えば消費されるのだろう。身体能力は俊敏性とか耐久力の事だろう。
 だが、そのような物を確認する方法が分からない。話の内容からしてケーレスは既に理解しているようだが。

 「ふむ……どうやって確認を取るのか分からんな」 
 「何も難しい事じゃないよ。頭のなかで思えば自然と出てくる筈だ」

 ケーレスに言われた通り、頭の中でステータスが出るように念じる。すると……。
 ぴこん、という間の抜けた音と共に自分のステータスが眼前に表示された。

 名前島井 宗室 lv0
 職業 ニート
 魔力量999
 魔力 SSS
 筋力 F
 俊敏 F
 耐久力F

 『スキル個数』
 魔法スキル 0
 ソードスキル 0
 ユニークスキル 2

 私は自分のステータスを眺めて硬直する。魔力がSSSと最強クラスなのに肝心の魔法スキルが一つもなかったからだ。
 それにユニークスキルも意味が分からない。これは魔力を消費するのかしないのか。
 私はそのままユニークスキルのボタンを押した。

 『ユニークスキル』

 『ロストアビリティ』詳細不明。
 『ガラミティシステム』 詳細不明。

 なるほど情報は開示されないのか、とりあえずこのスキルが何か分かるまでは触れない方が身のためだな。
 私はステータス画面を指で操作して閉じると次は装備画面を開いてみる。

 『装備品』
 武器 なし
 防具 軽装

 この画面を見るに防具は鎧までしか表示されず、例えば仮面や兜などは対象外になるようだ。
 武器は一本限定なのか。また、二刀持っていた場合はどうなるのかも試す必要がある。もっとも今は武器を買うお金が無いので試しはしないが。

 「確認作業は終わったかい」

 私が終わるのを見越してまな板の少女がオットアイの瞳でこちらを覗く。それに私は静かに頷いて。

 「今終えたところだ。まだモンスターを退治していないとはいえ、level0は寂しいものがある」

 もっとも寂しいと思うだけで感じてはいないのだが。

 「…………ボクはそれよりも所持金ゼロの方が寂しく思えるよ」

 そう言えばメニュー画面に書いていたな所持金。この異世界の通貨はグルドと言うらしい。乳酸菌のような名前をした通貨だ。

 「さて、お金を稼ぐにはどうしたものか」
 「君……商人を目指すんだよね。物でも売ってみるのはどうだろう」
 「あいにく商品が在庫切れでね、売れる物なんてこの身体ぐらいしかない」

 その言葉にケーレスは顔を真っ赤にする。そして声を震わせながら。

 「ボ、ボクは嫌だぞ。そんな好きでもない人と……」
 「安心しろ。身体を売るのは私で十分だ」
 「な、なな何を言ってるんだい。君がそんな春を売る真似なんて……!」

 そこで私はようやく彼女が勘違いをしている事に気づく。このまま誤解されれば私の評価が下がる気がする。
 ここは面倒ではあるがしっかりと誤解を解くべきだ。

 「私が言いたかったのは仕事で働くという意味だが」
 「そ、それは普通の仕事の事だね?」
 「そうだ。そもそもアレはリスクが高すぎる。病気の可能性だって否定はできないし、あまり効率的とは呼べんな」

 私の意見を聞いてやっと安心したのか無い胸を撫で下ろすケーレス。そんな仕草が人形のようだと思いつつ。

 「仕事となると日給制のバイトを探すべきだな。無難な辺りだと料理店と言った所だが……」

 そこまで口に出して私の脳内に一抹の不安が浮かぶ。
 それは言語の問題だ。私が覚えているのは日本語とネット用語のみ、それ以外は何も知らない。

 「異世界語はどうなっている? 君が翻訳してくれるならそれでも構わないが」

 死神は神だ。そもそも人間の言語が国ごとで異なったのは神の怒りによるものだという。
 ならば、神と同じ種族であるケーレスならば言葉を訳すぐらいは出来るのかも知れない。そう思ったのだが。

 「言っておくけどボクは日本語以外はまったく知らないよ」
 「そうか……それは困ったな」

 私は渋い顔を浮かべて顎に手を当てると長考する。
 そんな私にケーレスは余裕の表情を浮かべたまま。

 「いや、悩む必要はないよ。この異世界の共通語は日本語のようだからね」
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