大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

風呂と傷

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流石に今日の訓練時の事を振り返ってみて、やりすぎた、という自覚はあった。
よっぽどイライラ来たのは分かっていたが…それでも流石にあれを思い返すと中々に酷かった。
アーネやシエルも引いていたし、シャルすらもドン引いていた。唯一そう言った反応を示さなかったのは自分マキナだけという、なんとも悲しい結果となり、若干…いや、かなり凹んだ。
という訳で、偶然廊下ですれ違ったユーリアに一言、「今日は休みな」と言って今晩はゆっくりする事にした。
…にしてもあいつ化け物かよ…ユーリア。
ほぼ寝ていない上に午前の授業もしっかり受けてんのに、午前の授業寝潰してる俺よりピンピンしてるとか。
あいつ実は寝ねぇんじゃねぇの?まぁどうでもいいけど。
んで今。
シエルと一緒に風呂に入ってリラックス中。
「あぁ~…生き返る…」
とか言いながら湯船に浸かる俺。ちなみにシエルは俺の伸ばした膝の上。ちょこんと乗って俺の薄い胸板に頭を預けている。
「………ん、あったかい」
そう言って気持ちよさそうに目を細めるシエル。なんとなく猫みたいだな、と思った。
ただ、普通の猫には絶対ない様なものが身体の、特に胴体を中心についている。
獣の牙による噛み痕、鋭い爪の引っ掻き痕、中には魔法を使う魔獣もいたのだろう、火傷のような痕も多数ある。
これらのほとんどがおそらく、プクナイムの地下で付けられたのだろう。
救出した時はロクにこの子の事を見ていなかったから気づかなかったが、一緒に生活し始めた頃にこの傷を見た時は再びプクナイムに乗り込もうかと思った程だ。
アーネに聞いてみたところ、この傷痕はもう治せないらしい。
あいつの言葉をそのまま伝えるなら、「既に治ってしまっている傷を治すことは出来ませんわ」との事。
あのクソ爺が。血の繋がった孫だろうによくもこんな事が出来たモンだ。
と、シエルの腕がぱちゃりと湯船から伸び上がり、自身の髪に触れる。
「………ん…」
「ん?あぁ、少し伸びたな」
あれから何ヶ月だったっけ…と呟いてみると、シエルが指を折り始める。どうやらひと月ふた月ではなく、一日二日と数えているらしい。
案の定すぐに両の手が塞がり、出た結論は「………いっぱい」だった。
「まぁいいか。シエル、頭洗うかー?」
「………ん、あらう」
ざぱざぱと二人して湯船から上がり、シエルを座らせて──。
そこで風呂の扉が唐突に開く。
「んぁ?」
少々予想外のことに思考が停止フリーズしかけるも、なんとか脱出。
ゆっくりと頭を捻って扉の方を見ると。
『マスター』
「なんだマキナお前か」
少しばかりビックリして損した。
っつーかなんでこいつも脱いでんだ?
無駄に整った身体をさらしながらマキナがそのまま静かにこちらへと歩み寄ってくる。
「な、なんだよ」
『メッセージです』
「は?風呂時だぞ?少し待つように相手に伝えて切っとけ」
『しかしマスター・相手は名称不明様です』
「…は?」
一瞬考えてからすぐに思い当たる。
「…副会長か!」
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