大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

中間地点と重さ

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『マスター』
「……ん?どうしたマキナ」
『現在地点で・五十一キロ地点・です』
「…ん、そうか。わかったよ」
疲労がたまってきたな…足が重い。タイマーをチェックすると、残り時間はあと七時間を切っていた。
ペースがかなり落ちてる。原因は疲労と、肩の上で直立不動を貫く金髪碧眼の少女のせい。銀剣を持とうかとも思ったのだが……
「貴様、よもやその《連》によって余の重さを無くそうとでもいうのではなかろうな?」
「………。」
まさか胸元に手を入れただけで割と真面目な声のトーンで図星をつかれ、何気なく逆鱗に触れてしまったかと焦り、ゆっくりと肩の上のを見上げると、意外とこれと言って怒っている訳ではない…むしろ僅かに微笑んですらいる。
「構わぬ、良いよい。余の肉体が重いというのならば、特別に許そうではないか。しかし──まさかな」
フッ、と笑うシステナ。
「………何がおかしいんだよ」
「いやなに、貴様は《勇者》であるというのに、まさか、まさか幼い女子供の身ひとつで音を上げるとは思ってもいなかっただけのことよ。鬼も悪魔もが裸足で恥も外聞もなく逃げるような者であるというのになぁ?だがつらいというのであれば仕方ない。そこにある手段を駆使して現状を変えようというのは、何ら恥ずべきことではないからな。余としても、契約を交わした以上は貴様に余を運んでもらわねば困る。本来ならば余のことを『重い』などと思ったことに対して罰を与えるところだが、今回は許そうではないか」
ダラダラベラベラと喋った後、システナはさらに笑みを深めて「ほら、やれよ」と無言の圧を放ってきたが、ここまで言われて「やった!んじゃ遠慮なく!」となるわけもない。
「…チッ」
舌打ちをひとつしてから握っていた銀剣を離し、また黙々と歩きはじめた。そんな訳で地味に重いシステナを肩に乗せたまま歩いて来たら、尚更疲労がたまった訳だ。
あそこで銀剣を抜くのは俺のプライドが許さん。
人間、程度に差はあれど、プライドってものは絶対に持ち合わせとかなきゃならん。そりゃ人を人たらしめる最後の一線だ。それさえあれば人としての一線は保てるし、逆に言えばそれを捨てたら人のナリをした人外だ。
『…別に今回は良かったんじゃねぇの?大した事じゃねぇし』
大した事じゃねぇから守るんだよ。
『大した事なら?』
尚更守るだろ。
『…難儀な考え方と生き方だな』
よくプライドを捨てる、なんて表現があるが──
『ん?』
そりゃプライドを捨てなきゃ拾えないような重要な事なんだろ?なら、捨てるプライドに価値がなきゃロクなモン拾えないだろ。
『はーん、面白いな』
面白いも何も、ナナキお前に言われた話なんだがな…
『マジで?』
マジで。
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