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第2部1章 ヴィオラのお悩み編
46 初めての休日
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宰相ヴィオラを中心とするカスタリア王宮での内政業務は、ファフという新たな仲間を加えた新体制でも順調に機能していた。
そんなこんなで勤務日は過ぎ去っていき、今日は休日だ。
この日、承治はファフの私室で朝食をとっていた。
小さな丸テーブルで席を共にする承治とファフは、もそもそと硬いパンを齧りながらスープを啜る。
本来なら、王宮内での食事は王侯貴族でもない限り大食堂で取るのが普通だ。
しかし、ファフは一応罪人扱いであるため、食堂を利用すると悪目立ちする可能性がある。
それを鑑みた承治は、ファフの食事を部屋まで運ぶようにしていた。
硬いパンをスープで流し込んだ承治は、対面に座るファフに声をかける。
「ファフ、今日は暇でしょ? ちょっと僕に付き合ってよ」
「あら、もしかしてデートのお誘い?」
そんな冗談に対して、承治はすました顔で応じる。
「僕とデートするくらいしか君もやることないでしょ」
「残念ながら、アンタの言う通りね。部屋にいたってテレビもケータイもないんじゃ退屈で死んじゃいそうよ」
罪人扱いのファフは、承治の監督下で労役を行うという条件で牢獄から解放されているため、基本的に自由はない。
だが、いかに罪人とはいえ休日にファフを部屋に閉じ込めておくのは酷だ。
それを思って、承治はファフを部屋から連れ出すことにしたのだ。
どの道、承治も休日は暇を持て余している。
承治の誘いは気遣いというより、それ自体が暇つぶしのようなものだった。
「そうと決まれば、さっそく出かけようか。まあ、王宮から外には出ないけどね」
そう告げた承治は、可愛らしい部下を連れ出して部屋を後にした。
* * *
「と、言うわけでオババ様にお願いなんだけど、今日からファフもここに出入りしていいかな?」
そう告げた承治が訪れたのは、馴染みの王宮図書館だった。
カスタリア王宮の外れにあるその図書館は、広い中央フロアが二階を貫く吹き抜けになっており、壁一面に本棚が並んでいる。多くの机が並ぶ中央エリアは、読書用のスペースというより、講義や勉強会といった催し物のために設けられたものだ。
そんな王立図書館のカウンターに腰を下ろすオババ様は、ファフにちらりと目を向けて承治の言葉に応じる。
「ふむ、姫様から話は聞いておったが、まさか本当にあのファフニエルがジョージに使役されているとは驚きじゃな……急に暴れ出したりせんだろうな?」
誰もが最初はそういう反応になるだろう。
そこで承治は、あえてファフ自ら語らせることにした。
「ファフ、自己紹介しなよ」
承治に促されたファフは、もじもじと気まずそうに口を開く。
「あの、この前はごめんなさい……もう暴れたりはしないわ。私は今、ファフと名前を変えて承治の下で働いてる。そんなことで償いになるとは思ってないけど、今の私にできることはそれくらいだから……」
その言葉に、オババ様は驚いた様子で目を見開く。
「ふむ、まるで魔力と共に毒気も抜かれてしまったようじゃな。姫様がお赦しになった理由もなんとなく分かる気がするのう」
そう告げたオババ様は、体をファフに向け言葉を続ける。
「わたしゃヴァオロヴァってんだ。国家魔術師なんて肩書きはあるが、普段はしがない司書さ。この前、あんたとやり合った時は、五十年前の大陸戦争を思い出したよ。魔法を使った本格的な戦争は、あれが最後じゃったな」
そう自己紹介したヴァオロヴァことオババ様は、れっきとした魔女だ。
一見すると腰の曲がった老婆だが、歪な形をした杖をつき、黒い帽子とマントを身に纏う彼女の様相はいかにも魔術師らしい。
普段は王族の相談役や司書のような仕事をしているそうだが、そのオババ様が魔法を使うところを見たのは、ファフニエルとの戦いが最初で最後だった。
そんなオババ様は、神妙な面持ちのまま話を続ける。
「強大な力を持つ魔法で戦うというのは、大層恐ろしいことじゃ。この図書館には、そんな悲惨な歴史を綴った蔵書がいくらでもある。ここに来た以上、それくらいの歴史は勉強していきな」
オババ様の口ぶりは説教じみていたが、ファフが図書館を利用することは認めてくれたようだ。
承治はほっと胸を撫で下ろし、ファフに告げる。
「まあ、そこまで気難しく考えなくても暇つぶしだと思って色々読んでみなよ。歴史書とかも物語調で書かれているやつは結構面白いよ」
すると、ファフの表情がほんの少しだけ緩んだ気がした。
「他に娯楽がないんじゃしょうがないわね。とりあえず、承治のオススメを読ませてもらおうかしら」
どうやら、ファフは読書に抵抗がないタイプらしい。
最近は全く本を読まない人も増えているそうなので、ファフが本を読めるタイプだと分かって承治も安心した。
承治はさっそく本棚を漁りに動き出そうとする。
すると、少し離れた本棚の陰から姿を覗かせている一人の少女がふと目に入った。
承治の視線に誘われて、オババ様とヴィオラもその少女を発見する。
そして、少女の正体を看破したオババ様は、声を張り上げて彼女を呼びつけた。
「セレスタ。そんなとこに隠れてないで出てきな」
その言葉に応じて姿を現したのは、イヌ科のような耳と尻尾を持つ小さな魔女ことセレスタだった。
そんなこんなで勤務日は過ぎ去っていき、今日は休日だ。
この日、承治はファフの私室で朝食をとっていた。
小さな丸テーブルで席を共にする承治とファフは、もそもそと硬いパンを齧りながらスープを啜る。
本来なら、王宮内での食事は王侯貴族でもない限り大食堂で取るのが普通だ。
しかし、ファフは一応罪人扱いであるため、食堂を利用すると悪目立ちする可能性がある。
それを鑑みた承治は、ファフの食事を部屋まで運ぶようにしていた。
硬いパンをスープで流し込んだ承治は、対面に座るファフに声をかける。
「ファフ、今日は暇でしょ? ちょっと僕に付き合ってよ」
「あら、もしかしてデートのお誘い?」
そんな冗談に対して、承治はすました顔で応じる。
「僕とデートするくらいしか君もやることないでしょ」
「残念ながら、アンタの言う通りね。部屋にいたってテレビもケータイもないんじゃ退屈で死んじゃいそうよ」
罪人扱いのファフは、承治の監督下で労役を行うという条件で牢獄から解放されているため、基本的に自由はない。
だが、いかに罪人とはいえ休日にファフを部屋に閉じ込めておくのは酷だ。
それを思って、承治はファフを部屋から連れ出すことにしたのだ。
どの道、承治も休日は暇を持て余している。
承治の誘いは気遣いというより、それ自体が暇つぶしのようなものだった。
「そうと決まれば、さっそく出かけようか。まあ、王宮から外には出ないけどね」
そう告げた承治は、可愛らしい部下を連れ出して部屋を後にした。
* * *
「と、言うわけでオババ様にお願いなんだけど、今日からファフもここに出入りしていいかな?」
そう告げた承治が訪れたのは、馴染みの王宮図書館だった。
カスタリア王宮の外れにあるその図書館は、広い中央フロアが二階を貫く吹き抜けになっており、壁一面に本棚が並んでいる。多くの机が並ぶ中央エリアは、読書用のスペースというより、講義や勉強会といった催し物のために設けられたものだ。
そんな王立図書館のカウンターに腰を下ろすオババ様は、ファフにちらりと目を向けて承治の言葉に応じる。
「ふむ、姫様から話は聞いておったが、まさか本当にあのファフニエルがジョージに使役されているとは驚きじゃな……急に暴れ出したりせんだろうな?」
誰もが最初はそういう反応になるだろう。
そこで承治は、あえてファフ自ら語らせることにした。
「ファフ、自己紹介しなよ」
承治に促されたファフは、もじもじと気まずそうに口を開く。
「あの、この前はごめんなさい……もう暴れたりはしないわ。私は今、ファフと名前を変えて承治の下で働いてる。そんなことで償いになるとは思ってないけど、今の私にできることはそれくらいだから……」
その言葉に、オババ様は驚いた様子で目を見開く。
「ふむ、まるで魔力と共に毒気も抜かれてしまったようじゃな。姫様がお赦しになった理由もなんとなく分かる気がするのう」
そう告げたオババ様は、体をファフに向け言葉を続ける。
「わたしゃヴァオロヴァってんだ。国家魔術師なんて肩書きはあるが、普段はしがない司書さ。この前、あんたとやり合った時は、五十年前の大陸戦争を思い出したよ。魔法を使った本格的な戦争は、あれが最後じゃったな」
そう自己紹介したヴァオロヴァことオババ様は、れっきとした魔女だ。
一見すると腰の曲がった老婆だが、歪な形をした杖をつき、黒い帽子とマントを身に纏う彼女の様相はいかにも魔術師らしい。
普段は王族の相談役や司書のような仕事をしているそうだが、そのオババ様が魔法を使うところを見たのは、ファフニエルとの戦いが最初で最後だった。
そんなオババ様は、神妙な面持ちのまま話を続ける。
「強大な力を持つ魔法で戦うというのは、大層恐ろしいことじゃ。この図書館には、そんな悲惨な歴史を綴った蔵書がいくらでもある。ここに来た以上、それくらいの歴史は勉強していきな」
オババ様の口ぶりは説教じみていたが、ファフが図書館を利用することは認めてくれたようだ。
承治はほっと胸を撫で下ろし、ファフに告げる。
「まあ、そこまで気難しく考えなくても暇つぶしだと思って色々読んでみなよ。歴史書とかも物語調で書かれているやつは結構面白いよ」
すると、ファフの表情がほんの少しだけ緩んだ気がした。
「他に娯楽がないんじゃしょうがないわね。とりあえず、承治のオススメを読ませてもらおうかしら」
どうやら、ファフは読書に抵抗がないタイプらしい。
最近は全く本を読まない人も増えているそうなので、ファフが本を読めるタイプだと分かって承治も安心した。
承治はさっそく本棚を漁りに動き出そうとする。
すると、少し離れた本棚の陰から姿を覗かせている一人の少女がふと目に入った。
承治の視線に誘われて、オババ様とヴィオラもその少女を発見する。
そして、少女の正体を看破したオババ様は、声を張り上げて彼女を呼びつけた。
「セレスタ。そんなとこに隠れてないで出てきな」
その言葉に応じて姿を現したのは、イヌ科のような耳と尻尾を持つ小さな魔女ことセレスタだった。
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