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作戦会議
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「よし、話は決まりだな。それじゃあ今すぐ迷宮に向おう。ヒューゴも覚悟を決めろよ」
グィードが、出し抜けにそう言ったので、
「えっ、今すぐですか?」
と3人は思わず声を揃えて言った。
「ああ、善は急げって言うだろ。何か問題でもあるのか?」
「いやぁ、さっきなんか作戦みたいなものがあるようなことを言ってましたし」
とアルフォンスが不安そうに言う。
「俺、そんなこと言ってたかぁ」
とグィードはヒューゴの方を向き直る。
「いや、覚えてない」
それは本当の事だった。
そもそもヒューゴは、精霊とか召喚師とかの話が出た時から、まったく話に着いて行けていないのだ。
「おまえらだって、ギルドの中じゃあそれなりの実力者なんだろ。今さら怖気づくんじゃねぇ。とにかく俺が動き回って相手に隙を作るから、おまえらは手加減しないで最終奥義でもなんでも打ち込め」
「最終奥義なんてないですよ」とアーシェラ。
「駄目だ。この人何も考えてない」とアルフォンス。
「最終奥義ですね。解りました!」とディオゲネス。
今度はアーシェラとアルフォンスが顔を見合わせる。
「あったんだぁ、最終奥義」
とアーシェラが、だれにも聞こえないほど小さな声でつぶやいた。
するとヒューゴが、申し訳なさそうに右手を挙げて、
「あの、グィード。俺は何をしたらいいかなぁ」
と心細そうに聞いた。
「ああ、そうだな。おまえは俺の後ろにでも隠れていろ」
「さっき俺が動き回るって言ってましたよねぇ。それじゃ後ろに隠れられないじゃないですか」
すかさずアルフォンスが、正論でつっこみを入れる。
「ああ、もうガタガタうるせぇなァ!文句があるならかかって来い。4人まとめて相手になってやるぞ」
理不尽すぎる。しかもなぜかヒューゴも人数に数えられている。
「駄目だ。やっぱりこの人何も考えてない」
アルフォンスが再び絶望の叫びをあげたとき、ヒューゴがぼそっとつぶやいた。
「いやグィードは、いろいろと考えている時にこそ、こんなふうに乱暴な話し方になるんだ」
「えっ、」
3人が同時にそう声に出した時、何かを思いついたようにグィードが話し始めた。
「ようし。とりあえずおまえたちの能力を確認したい。まず職業の確認からだ。ディオゲネス、お前は魔術師か古代魔術師ってところか?」
「ええとですね。私は魔術師と古代魔術師を経て、今は道を究めんとする者、探求者です」
探求者とは魔法職系の最上級職の一つであり、固有職への転職の可能性が最も高い職業の一つであるとも言われている。
「最上級職か。なかなかやるじゃねぇか。それなら空間魔法もお手の物なんだろうなぁ?」
「得意と言うほどではありませんが、嗜む程度には使えますよ」
ディオゲネスは飄々と答えた。
「そうか、なら俺が合図したらウァサゴを中心に、球形に空間遮断する結界を発動するんだ。できるか?」
「そうですねぇ。人間一人を包み込む程度の大きさを、数秒間でよければ詠唱無しに可能です」
ディオゲネスは感心したように、ヒューっと口笛を吹いた。
「上等だ。ウァサゴのやつが人型の姿で相手をしてくれることを願おう。もしそれより大きければ、頭部だけでもいい。とにかく、その結界でやつの動きを封じてくれ」
相手は災厄級の精霊である。特にウァサゴは変身を得意とすることを、スカーレットから聞いてもいたし、以前戦ったときに、そのことを嫌というほど思い知らされてもいた。
「死の天使どの。確かに承りました」
ディオゲネスは、女性のように魅惑的な口元をほころばせながら、おどけたように答えた。
「アーシェラ、おまえは精霊使いだなぁ。ディオゲネスが結界を展開したら、その結界の中に風精霊を召喚して、ありったけの空気を送り込め」
アーシェラの職業は、実際には精霊使いの最上級職である精霊の支配者であったが、特に訂正する必要はないと判断した。
「わりました」
「そして、結界内が空気でパンパンなったら、」
グィードが言い終わる前に、アーシラが答えた。
「火蜥蜴を召喚して爆発させます」
「おうおう、そっちもなかなか優秀じゃねぇか」
グィードは嬉しそうに言った。
2人ともグィードの意図は理解できた。
しかし、実戦でそんなことを試したことは、これまで一度もなかった。
もし成功すれば、それはまさに最終奥義と呼んでよいレベルの殺傷力を発揮するはずであった。
「もちろん。それだけで決め手になるってわけじゃないんだが、いい線は行くだろう」
「次はアルフォンスだ。おまえはどうやら剣士のようだが職位は何なんだ」
「ああ、じつは俺は、ちょっと特殊でして」
アルフォンスは少し言いづらそうに、そう言った。
ディオゲネスとアーシェラは、一瞬目を合わせる。
「じつは、俺は人狼なんです」
「ほう」
今度こそ、グィードは心から感動したように声をもらした。
「まさかこんなところで、古い血の一族に出会えるとはなぁ」
人狼は古い血の一族と呼ばれる稀少種族の一派である。
一般にはすでに絶滅したものと理解されているが、彼らの中のごく少数の個体が、人間社会に紛れて今も生き残っていることをグィードは知っていた。
人狼の特徴の一つは、彼らが人の姿を取っている時には、普通の人間とまったく区別がつかないということである。
なぜならば、人の姿は彼らの擬態ではなく、本性の一面であるからである。
しかし、彼らは何らかの外的な刺激や本人の意志によって、獣人化することが可能なのである。
そして獣人化した彼らは、身体能力が爆発的に向上することに加えて、様々な魔法耐性とともに驚異的な自己治癒力を発揮する。
彼らのルーツには謎が多いが、もとは普通の人間であったのが、何らかの呪いか魔法によって変質させられたという説が有力である。
「そうか。どうりで第一印象が狼なわけだ」
とグィードは独り言を言った。
「えっ、なんですか?」とアルフォンスが聞き返す。
「いや、なんでもない。続けてくれ」
「はい。人間としての俺の職業は剣豪ですが、純粋な戦闘力では人狼形態の方が、圧倒的に上です。ただ、一定時間の経過かダメージの蓄積によって、狂化状態に移行して見境なく暴れまわります。コンディションにもよりますが、獣人化の安全圏は、だいたい3分くらいだと考えてください」
「了解だ。ではアルフォンスは俺と一緒に動き回って、ディオゲネスとアーシェラが魔法を仕掛ける隙を作るのがおもな役割になる」
「了解しました」
「最後にヒューゴだが、おまえにはとっておきの仕事を用意してある」
「えっ、本当に」
ヒューゴが顔を輝かせる。
「ああ、おまえはウァサゴと俺たちの戦いをよく観察して、」
「うん、よく観察して、」
「ダメだと思ったら全力で逃げろ」
「えぇぇぇぇぇぇ、そんなぁ」
「馬鹿野郎、これは遊びじゃねぇんだ。生き延びることが第一だ。それにな、一流の冒険者たちの本気の戦闘を間近で見る機会なんてのは、なかなかない。この経験は必ずおまえの将来に役立つ。だから今回は、とにかく生き延びること。それがおまえの役割だ」
不満がないかと言えば嘘になったが、グイードが言うことは、もっともだとヒューゴは理解した。
この4人の卓越した冒険者たちの中では、自分が明らかに足手まといであることは、初めからわかっていたことでもある。
「わかった。絶対に生き延びて見せる」
ヒューゴはグィードの目をじっと見つめて力強く答える。
「いい答えだ」
グイードは静かに頷く。
「ようし、作戦はそんなところだ。あとは各自ベストを尽くせ。大丈夫、なにしろこの俺様がついているんだからな。最低でも、全員が生き延びられるようにはしてやる。俺は元盗賊だ。逃げることは大の得意だからな」
グィードはあっけらかんと言う。
その言葉で、その場にいる全員の緊張が解けた。
グィードが、出し抜けにそう言ったので、
「えっ、今すぐですか?」
と3人は思わず声を揃えて言った。
「ああ、善は急げって言うだろ。何か問題でもあるのか?」
「いやぁ、さっきなんか作戦みたいなものがあるようなことを言ってましたし」
とアルフォンスが不安そうに言う。
「俺、そんなこと言ってたかぁ」
とグィードはヒューゴの方を向き直る。
「いや、覚えてない」
それは本当の事だった。
そもそもヒューゴは、精霊とか召喚師とかの話が出た時から、まったく話に着いて行けていないのだ。
「おまえらだって、ギルドの中じゃあそれなりの実力者なんだろ。今さら怖気づくんじゃねぇ。とにかく俺が動き回って相手に隙を作るから、おまえらは手加減しないで最終奥義でもなんでも打ち込め」
「最終奥義なんてないですよ」とアーシェラ。
「駄目だ。この人何も考えてない」とアルフォンス。
「最終奥義ですね。解りました!」とディオゲネス。
今度はアーシェラとアルフォンスが顔を見合わせる。
「あったんだぁ、最終奥義」
とアーシェラが、だれにも聞こえないほど小さな声でつぶやいた。
するとヒューゴが、申し訳なさそうに右手を挙げて、
「あの、グィード。俺は何をしたらいいかなぁ」
と心細そうに聞いた。
「ああ、そうだな。おまえは俺の後ろにでも隠れていろ」
「さっき俺が動き回るって言ってましたよねぇ。それじゃ後ろに隠れられないじゃないですか」
すかさずアルフォンスが、正論でつっこみを入れる。
「ああ、もうガタガタうるせぇなァ!文句があるならかかって来い。4人まとめて相手になってやるぞ」
理不尽すぎる。しかもなぜかヒューゴも人数に数えられている。
「駄目だ。やっぱりこの人何も考えてない」
アルフォンスが再び絶望の叫びをあげたとき、ヒューゴがぼそっとつぶやいた。
「いやグィードは、いろいろと考えている時にこそ、こんなふうに乱暴な話し方になるんだ」
「えっ、」
3人が同時にそう声に出した時、何かを思いついたようにグィードが話し始めた。
「ようし。とりあえずおまえたちの能力を確認したい。まず職業の確認からだ。ディオゲネス、お前は魔術師か古代魔術師ってところか?」
「ええとですね。私は魔術師と古代魔術師を経て、今は道を究めんとする者、探求者です」
探求者とは魔法職系の最上級職の一つであり、固有職への転職の可能性が最も高い職業の一つであるとも言われている。
「最上級職か。なかなかやるじゃねぇか。それなら空間魔法もお手の物なんだろうなぁ?」
「得意と言うほどではありませんが、嗜む程度には使えますよ」
ディオゲネスは飄々と答えた。
「そうか、なら俺が合図したらウァサゴを中心に、球形に空間遮断する結界を発動するんだ。できるか?」
「そうですねぇ。人間一人を包み込む程度の大きさを、数秒間でよければ詠唱無しに可能です」
ディオゲネスは感心したように、ヒューっと口笛を吹いた。
「上等だ。ウァサゴのやつが人型の姿で相手をしてくれることを願おう。もしそれより大きければ、頭部だけでもいい。とにかく、その結界でやつの動きを封じてくれ」
相手は災厄級の精霊である。特にウァサゴは変身を得意とすることを、スカーレットから聞いてもいたし、以前戦ったときに、そのことを嫌というほど思い知らされてもいた。
「死の天使どの。確かに承りました」
ディオゲネスは、女性のように魅惑的な口元をほころばせながら、おどけたように答えた。
「アーシェラ、おまえは精霊使いだなぁ。ディオゲネスが結界を展開したら、その結界の中に風精霊を召喚して、ありったけの空気を送り込め」
アーシェラの職業は、実際には精霊使いの最上級職である精霊の支配者であったが、特に訂正する必要はないと判断した。
「わりました」
「そして、結界内が空気でパンパンなったら、」
グィードが言い終わる前に、アーシラが答えた。
「火蜥蜴を召喚して爆発させます」
「おうおう、そっちもなかなか優秀じゃねぇか」
グィードは嬉しそうに言った。
2人ともグィードの意図は理解できた。
しかし、実戦でそんなことを試したことは、これまで一度もなかった。
もし成功すれば、それはまさに最終奥義と呼んでよいレベルの殺傷力を発揮するはずであった。
「もちろん。それだけで決め手になるってわけじゃないんだが、いい線は行くだろう」
「次はアルフォンスだ。おまえはどうやら剣士のようだが職位は何なんだ」
「ああ、じつは俺は、ちょっと特殊でして」
アルフォンスは少し言いづらそうに、そう言った。
ディオゲネスとアーシェラは、一瞬目を合わせる。
「じつは、俺は人狼なんです」
「ほう」
今度こそ、グィードは心から感動したように声をもらした。
「まさかこんなところで、古い血の一族に出会えるとはなぁ」
人狼は古い血の一族と呼ばれる稀少種族の一派である。
一般にはすでに絶滅したものと理解されているが、彼らの中のごく少数の個体が、人間社会に紛れて今も生き残っていることをグィードは知っていた。
人狼の特徴の一つは、彼らが人の姿を取っている時には、普通の人間とまったく区別がつかないということである。
なぜならば、人の姿は彼らの擬態ではなく、本性の一面であるからである。
しかし、彼らは何らかの外的な刺激や本人の意志によって、獣人化することが可能なのである。
そして獣人化した彼らは、身体能力が爆発的に向上することに加えて、様々な魔法耐性とともに驚異的な自己治癒力を発揮する。
彼らのルーツには謎が多いが、もとは普通の人間であったのが、何らかの呪いか魔法によって変質させられたという説が有力である。
「そうか。どうりで第一印象が狼なわけだ」
とグィードは独り言を言った。
「えっ、なんですか?」とアルフォンスが聞き返す。
「いや、なんでもない。続けてくれ」
「はい。人間としての俺の職業は剣豪ですが、純粋な戦闘力では人狼形態の方が、圧倒的に上です。ただ、一定時間の経過かダメージの蓄積によって、狂化状態に移行して見境なく暴れまわります。コンディションにもよりますが、獣人化の安全圏は、だいたい3分くらいだと考えてください」
「了解だ。ではアルフォンスは俺と一緒に動き回って、ディオゲネスとアーシェラが魔法を仕掛ける隙を作るのがおもな役割になる」
「了解しました」
「最後にヒューゴだが、おまえにはとっておきの仕事を用意してある」
「えっ、本当に」
ヒューゴが顔を輝かせる。
「ああ、おまえはウァサゴと俺たちの戦いをよく観察して、」
「うん、よく観察して、」
「ダメだと思ったら全力で逃げろ」
「えぇぇぇぇぇぇ、そんなぁ」
「馬鹿野郎、これは遊びじゃねぇんだ。生き延びることが第一だ。それにな、一流の冒険者たちの本気の戦闘を間近で見る機会なんてのは、なかなかない。この経験は必ずおまえの将来に役立つ。だから今回は、とにかく生き延びること。それがおまえの役割だ」
不満がないかと言えば嘘になったが、グイードが言うことは、もっともだとヒューゴは理解した。
この4人の卓越した冒険者たちの中では、自分が明らかに足手まといであることは、初めからわかっていたことでもある。
「わかった。絶対に生き延びて見せる」
ヒューゴはグィードの目をじっと見つめて力強く答える。
「いい答えだ」
グイードは静かに頷く。
「ようし、作戦はそんなところだ。あとは各自ベストを尽くせ。大丈夫、なにしろこの俺様がついているんだからな。最低でも、全員が生き延びられるようにはしてやる。俺は元盗賊だ。逃げることは大の得意だからな」
グィードはあっけらかんと言う。
その言葉で、その場にいる全員の緊張が解けた。
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