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差出人不明の花束が届きました…

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 聖那が見つかったと知らされた翌日、我が家に花束が届けられた。ピンクの花で統一された小ぶりな花束で、ダークシルバーと深緑色でラッピングされていた。
 アイザック様からかと思ったのだけどエレンが困惑した表情を浮かべたため、私は贈り主が別人だと悟った。確かにいつもアイザック様が贈ってくれる花束とは雰囲気と言うか、趣向が違うわね。

「ええ?贈り主不明?」
「ええ。門番に名も告げずにセラフィーナ様にと言って押し付けていったと…」

 なんだそれ?名も告げずに贈って何の意味があるんだ?う~ん、私のファンとかいう人達?確かセラフィーナに言い寄っていた男性がいたとは聞いているけど…
 それでも、匿名の理由が思いつかない。もしかして…毒花とかアレルギーが生じるって事はないよね?気になってエレンに聞いてみたけど、どれも一般的な贈答用の花で問題ないという。

「でも、気味が悪いわね。名前も告げないなんて…」
「ええ。旦那様と奥様にも報告致しますね」
「そうね、お願いね」

 さすがに気味が悪いので二人の耳に入れて貰って、花は…他の花と一緒に客間などに飾って貰った。花に罪はないから捨てるのは勿体ないし可哀想だからね。
 それでも、自分の部屋に飾る気にはなれなかった。自室に贈られた花を飾るなら、アイザック様の花がいい。

 今回は何かの間違いかもしれないし…と思っていたのだけど…その翌日も花束が届いた。花は違うけど、ラッピングはダークシルバーと深緑なのは同じだった。届けてくれる人に贈り主の名を聞いても、自分は頼まれているだけで依頼主も送り主もわからないと答えるのみ。
 婚約者がいる事も伝えた。知らない人からの贈り物を、私が気味悪がっているとも伝え、やめるように伝えて欲しいと頼んだけど…全く効果なしで、これはもう嫌がらせと認定していいだろう。

(やだなぁ、一体誰が…?)

 本当に贈り主に心当たりがなくて、私達は困惑を隠しきれなかった。エレンたちも気持ち悪いですねぇ…というし、でも花は高級な物ばかりなので、贈り主は貴族か羽振りのいい商人あたりだろうとの事。
 相手がわからないと言うのは厄介なもので、これがハットン家よりも家格が上の貴族の可能性もあるので、無下に突っぱねる事も出来ない。

(ああもう、勘弁して欲しいわ…)

 この世界に来てまで、中間管理職の様な立場に置かれるとは思わなかった…いや、日本の方がまだマシだ。あっちには身分制度はないし、パワハラは犯罪になるんだから…




 私達の懸念をよそにその後も花束が届くが、私達には手の打ちようがなかった。アイザック様の名を出しても引かないと言う事は、高位貴族の可能性もある。そうなると無下にも出来ないのが貴族社会の面倒くさいところなのだ。
 婚約を解消する予定のアイザック様に助けを求めるのも…と思うと相談出来ずにいた。相手が同等かそれ以上の相手だった場合、面倒な事になる可能性が高いからだ。アイザック様のために余計な軋轢を生む事は避けたかった。

 一方で、放っておくのも元に戻った後のセラフィーナが心配だ。だから私は…クローディアに相談する事にした。

「え?送り主不明の花束?」
「うん…セラフィーナ宛に毎日届くんだ。花は様々だけど、シルバーとダークグリーンのラッピングは共通しているから、同じ人物だと思うんだけど…」
「なるほど…確かにそれだとその可能性が高いな」

 最近のクローディアはすっかり男言葉が板に付いて、どこから見ても美少年だった。もしかしたら三人の中で一番馴染んでいるのは彼女かもしれない。

「でしょ?アイザック様と婚約していると言っても贈ってくるのよ。もう気持ち悪くて…でも、放っておいたら元に戻ったセラフィーナが心配だし…何かいい方法はないかな?」

 クローディアはまだ王子の姿だし、元に戻ってもマクニール侯爵家の総領娘だ。アイザック様と同じかそれ以上の力があるように見えた。それに、令嬢としてこういう場合の対処法も知っていそうだ。

「う~ん、相手がわからないと何とも言えないけど…こういう事は婚約者であるアイザック様に相談するのが一番だけど…」
「でも…アイザック様とはいずれ婚約解消になるだろうし…」
「ええ?どうして…?」
「だって…セラフィーナは男性恐怖症だし、さすがに無理でしょ。本人も怖いみたいだし…」
「…確かに…そう、だね…」
「そう言う事。セラフィーナにも悪いことしちゃった。元に戻るってわかってたら婚約しなかったんだけど」

 そうは言っても、そうなってしまったからどうしようもない。

「アイザック様には…身体が戻ってきたら話をしようと思うの。このまま黙っているのは…さすがに不誠実だし…」
「そうか…その時は、私も証人として同席するよ」
「そう?ありがとう。ちょっと不安だったんだ。一人じゃ信じて貰えないかもって思ってたから」

 そう、一対一で話をしても、きっとアイザック様は信じられないだろう。もしかすると私が本当は嫌だからそんな風に言い出したと思ってしまいそうだ。
 でも、それは違う。私は本当に好きだし…本気でアイザック様との未来を夢見ていた。
 でも、私はこの世界には留まれない。身体が元に戻れば日本に戻る。そうなればもう会えないから、戻る前にきちんと話がしたかったのだ。これは私なりの誠意でもありけじめだった。

 花束の事はクローディアが対処してくれると約束してくれた。ハットン家のみんなの事も心配だったから、これで収まってくれればと思う。一時的とはいえお世話になったのだ。出来る限り懸念を残さずに終わりたかった。

 翌日、マクニール侯爵家の騎士が我が家にやって来た。騎士は侯爵家から遣わされた騎士だと名乗り、花束を届けた男に警告してくれたのだ。相手はアイザック様の家の騎士だと思ったらしく、態度を一転させて花束を手に慌てて帰って行った。

(勝手に勘違いしたみたいだけど…アイザック様の名は使いたくなかったんだけどな…)

 そうは思ったけれど効果は抜群で、それ以降花束が届く事はなかった。

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