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一章
七話 ハイナ村Ⅲ
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「おいおい、兄ちゃん。全身血塗れじゃねぇか。どんな狩り方したんだよあんた」
内臓だけ掻き出したヤギをエリスと二人で村に持って帰ったら、案の定返り血で真っ赤な姿を見咎められた。
赤いのは俺だけだけれどな。
まぁこんなナリだから止められても仕方ない。
「ええ、まぁ剣で首をこうガンガンと」
「一人でやったのか? おいおい、無茶すんな……」
無茶……なのか?
まぁ無茶であっても戦闘訓練でもあるから続けざるを得ないんだけどな。
「何にせよ、まずはその血を洗い流してこい。すげぇ匂いだぞ」
「えぇ、正直かなりきついんでそうしたい所なんですが、その前に聞きたいんですけど自力で解体するのは無理なので、解体できる人とか紹介してもらえませんか?」
「ああ、解体か、俺がやってやってもいいが今はこの通り見張りの仕事中だ。夜になれば交代だから夕飯の後でいいなら俺がやってやる。手間賃に足一本もらうがな。どうする?」
俺がやったら肉も皮もズタズタになるだろうしな。
足一本でやってくれるなら上等だな。
「ええ、それでお願いします」
「なら、夜までそのヤギの首引いて川につけておくと良い」
「え、水に漬けっぱなしでいいんですか?」
なんか水につけっぱなしって言うと水死体みたいに肉がぶくぶくに膨れそうな印象があるんだが……
「一晩くらい付けておくくらいでちょうどいいんだよ。虫も死ぬから外に放って置くより遥かに良い」
「血を抜くためですか?」
「いや、血は別に良いんだが、冷やしておかないと虫が湧くんだよ。血抜きなんてのは生きてるうちにやるもんだ」
そ、そうだったのか。
てっきり血を流すために川に投げ込むんだと思ってた……
一応首切って血と腸は出来るだけ出してきたつもりだけど、大丈夫だったんだろうか。
「そんな訳で、とってきた肉は水につけるんだ。ただし、溜池の水は皆で使うから溜池より下流でな」
「わかりました。血が流れ込まないためにですね」
「そういうこった」
幸い、我が家の建設予定地は溜池よりも下流側にある。
うちの土地の目の前で流されないようにしてやれば問題ないはずだ。
ついでに返り血もそこで落とすか。
「では夜になったら声をかけさせていただきますけど、家はどちらに?」
「ああ、いい。俺の方から顔をだすよ。兄ちゃんも夜の家建ての説明聞きに行くんだろう? 俺も行くからその帰りに寄って行ってやるよ」
そりゃありがたい。
「わかりました、では後ほどお願いします」
コレで解体の目処もたった、と。
「よし、帰ろうか」
「うん!」
ヤギを担ぎ直しつつ、さっきの戦いについて考えてみる。
いろいろ課題が残る戦いだったが、まずは自分の切れる手札と改善点を洗い出すしか無い。
格ゲーとちがって固定されたモーションがないこのゲームじゃフレーム表みたいなものは作れない。
行動に対する有利不利はあるのかもしれないが、まず重視するべきは立ち回りだろう。
今までやってきたゲームでは基本的に防御と応撃を徹底してやっていた。
この辺りは人によって、そして使用キャラによって大きく変わるから何が正解とは言い切れない。
たまたま俺のプレイスタイルと使用キャラに、防御を重視するというスタイルが噛み合っていたと言うだけだ。
それで全国大会優勝まで行けたんだから間違ってはいない筈。
ただ、このゲームでそれが通用するかと言うとなんとも言えない。
最初のネズミは問題なかった。
飛びかかってくるネズミに対して対空迎撃のイメージで叩き落としがしっかり入ったし。
ただ、その時に腕に受けた衝撃はけっこう大きかった。
当然だ。
格ゲーと違い、デカイものを撃ち落とせば相応の反動がこっちにも跳ね返ってくるわけだから。
体長50cm程のネズミでアレだけの反動があるんだ。
恐らく今の俺のスキルやステータスではヤギの背面蹴りを防御したら、防御の上からふっとばされる。
ふっ飛ばされるだけならまだしも、下手すると防御越しに腕を圧し折られかねない。
だから何も考えずに今までの気分で防御スタイルを使うのはマズイ。
ただ、タンカー系の防御スキルがあったとしたらどうなる?
ガード、パリィング、受け流し……
なんでもいい、そういう相手の攻撃を軽減したりするスキルが有れば状況が変わってくる。
スキルというのは強力だ。
どのゲームの一般NPC兵士とプレイヤーに大きく差をつけるのはスキルの有無というパターンは結構な頻度で見られる。
スキルのことを英雄の脂質だとかいう設定になってるRPGもある。
それくらいに強力な能力なのだ。
しかし、このゲームではそうではない。
恐らく普通にNPCもスキルを使う。
村長の家でのやり取り。
ガーヴさんも恐らくだけどスキルを使って気配を断っていたんだ。
村長のあの強烈なプレッシャーもスキルである可能性がある。
つまり、このゲーム、この世界では強力なスキルの使用が前提になっている可能性がある。
出来なければ一般人以下。
雑魚の野盗に絡まれたら為す術なく殺される危険もある。
だから、まずはスキルについての認識を改めて、いかにしてスキルを強化、或いは新しく手に入れるかを考えていく必要がある。
その上で、さっきの戦闘をもう一度見直す必要がある。
まずは初手の投擲だ。
あの時は突然で驚いたが、アレが投擲スキルの効果なんだろう。
いくらこの世界の体がリアルの俺よりも性能が高いとはいえ、あの距離を直進するほどの投擲能力は普通に考えてありえない。
スキルの効果でなければネズミの時に剣を投げた時と比べてあそこまでの明確な差は出ないはずだ。
これは飛距離や威力なんかも後でいろいろ検証する必要がある。
次に、距離を詰めようとしたときに出たあの速度だ。
コレについてはすぐに分かった。
スキルの中に新たに【疾走】と【踏み込み】という二つのスキルが追加されていたからだ。
恐らく、最初の投擲から距離を詰めるときの加速が疾走スキル、接近してからの距離感の掴めないチグハグさの原因は踏み込みスキルによるものだろう。
今回は突然の発動で驚いてうまく使いこなせなかったが、移動スキルを覚えて不便なゲームはよっぽどのことがない限りはない。
この二つは特に念入りに仕込む必要がある。
それと、他にも覚えたスキルが【隠密】。ヤギに接近する際に発動したものだと思う。
コレは狩りの際に純粋に役に立ちそうなので素直に嬉しい。
旅の途中でも村長の家で覚えた【気配探知】と【隠密】の組み合わせでトラブルの回避とかもしやすそうだ。
しかし、いつも緊張というか集中してるせいか、【集中】のスキルだけ伸びがヤバイ。
一つだけぶっちぎりで上がっている。
上がってくれる事自体は嬉しいから良いんだが、他のスキルに比べてこのスキルが上がりやすいんだろうか?
効果もイマイチ実感しにくいんだよな。
これらを踏まえた上で、実践訓練と並行する形でスキルの強化と熟達が急務だと思い知らされた。
特に【疾走】と【踏み込み】は強力だが使いこなせなければさっきのように逆に足かせとなる。
しかし【投擲】もそうだったが、スキルの有無で戦闘効率が跳ね上がるのは間違いない。
これらが解っている以上、実戦経験と同等以上にスキルの熟達は必要不可欠だ。
というより、生死を分かつレベルの超重要課題だな。
とはいえ、今はやるべきことがありすぎて、不確かな新規スキル開発に大きく時間を避けるほど余裕がない。
新スキルに関してはいずれ手を出すにしても、今のところは生活や実践の中で閃いてくれるのを祈るしか無いな。
本当に必要なスキルなら今回のように無意識に関連する行動をとって手に入るだろう。
だから、専用に時間を割くべきは、開発ではなく既に覚えたスキルの熟練の方だ。
実践ではない訓練では、今の内はその方向でいいだろう。
「キョウ、どうしたの? 通り過ぎちゃうよ?」
「おっと、いかん考え事しすぎてた」
呼び止められなきゃ、危うく目的地を通り過ぎるところだった。
「よし、ヤギを川に晒して、俺達は水浴びで汚れを落とすぞ」
「はーい。水浴びー」
水場として使ってる川の下流だし、ここの水は安全って考えて良いんだよな?
ヤギの血を流すために使えって言うくらいだし口に入れても大丈夫だと思いたい。
「この際に顔や髪もちゃんと洗っておくんだぞー」
「うんー。わかったー」
しっかし、何だな。
まさかバーチャルの中で水浴びしたいと本気で思うようなことがあるとは、人生何があるかわからんなぁ。
少し前の俺なら、今の俺の状況を見たらリアルじゃない所で風呂に入って何の意味があるんだ? とか言ってたな。
間違いない。
「エリスー。俺たち着替え持ってないんだから先に服を洗って乾かしてから身体洗うんだぞー」
「あ、そっか」
今日は日が照ってるし、風もあるから服もすぐ乾くだろ。
物干し竿もハンガーもないから木の枝に引っ掛けるっていう雑さだが。
ああ、家だけじゃなく生活雑貨もある程度なんとかしないといかんな。
安定した生活の第一歩目がはるか遠い……
しかしこうなるとやることがなくなるな。
流石に屋外でパンツ一丁でスキルの訓練するわけにもいかんだろう。
まだ日が沈むにはしばらく時間あるな……
「おし、身体がしっかり乾いたら、服も干してるし、夕方まで昼寝するぞー」
「昼寝だー」
「バッグの中にマントが入ってるからそれを下に敷いて寝るんだぞ?」
「はーい」
今日はいろいろ頑張ったし、エリスも狩りに突き合わせたりしたからな。
こうやってゆっくり休憩するのもいいだろ。
エリスの隣、芝生……というか手入れされてないだけど地面に横になる。
ああ、なんか日差しが暖かくて気持ちがいい。
そういえば、このゲームを初めて丁度丸一日程度か。
メチャクチャ内容が濃い一日だな。
リアルでの入社初日だってここまでじゃなかったぞ。
しかし一日やって、大体のプレイイメージや方針なんかは掴めてきた。
丸一日掛けてそこまでしか出来てないとも言うが、このゲームは今までプレイしてきたものとは根本的に違う所が多すぎる。
他のゲームとの比較は殆ど意味を成さないだろう。
田辺さんは、体の状態とかに起因する強度の錯覚って言ってたけど、この際錯覚でも構わない。
仮想現実で焼いただけに肉をマズイと感じたり、水浴びでスッキリしたりなんて、それこそアニメやゲームの中でだけの話かと思ってたのを、実体験できている。
痛みまで感じるのは流石に簡便だが、それすらもこっちの世界で生きてる感じがして悪くない。
まぁ、リアルの体の方に悪影響は出てないそうだから、昔からアニメとかにもよくある仮想MMOでのデスゲームみたいなことにはならないみたいだけどな。
なってたら流石に困るが。
ただ、大怪我した時に錯覚の痛みで気絶とかしかねないらしいから、リアルで死ななかろうが、死んでも殺す的なゴリ押しプレイはする気はない。
そんな状況に陥らないためにも、レベル上げならぬスキル熟練度上げが急務なんだが……
って、結局スキルについての話に戻っちまうか。
考えすぎて思考がループしてるな。
頭が煮詰まってる証拠か……
「すー……すー……」
子供は寝付くまでマッハだな……
よし、俺も仮眠取って頭の中を一度リセット掛けておくか。
内臓だけ掻き出したヤギをエリスと二人で村に持って帰ったら、案の定返り血で真っ赤な姿を見咎められた。
赤いのは俺だけだけれどな。
まぁこんなナリだから止められても仕方ない。
「ええ、まぁ剣で首をこうガンガンと」
「一人でやったのか? おいおい、無茶すんな……」
無茶……なのか?
まぁ無茶であっても戦闘訓練でもあるから続けざるを得ないんだけどな。
「何にせよ、まずはその血を洗い流してこい。すげぇ匂いだぞ」
「えぇ、正直かなりきついんでそうしたい所なんですが、その前に聞きたいんですけど自力で解体するのは無理なので、解体できる人とか紹介してもらえませんか?」
「ああ、解体か、俺がやってやってもいいが今はこの通り見張りの仕事中だ。夜になれば交代だから夕飯の後でいいなら俺がやってやる。手間賃に足一本もらうがな。どうする?」
俺がやったら肉も皮もズタズタになるだろうしな。
足一本でやってくれるなら上等だな。
「ええ、それでお願いします」
「なら、夜までそのヤギの首引いて川につけておくと良い」
「え、水に漬けっぱなしでいいんですか?」
なんか水につけっぱなしって言うと水死体みたいに肉がぶくぶくに膨れそうな印象があるんだが……
「一晩くらい付けておくくらいでちょうどいいんだよ。虫も死ぬから外に放って置くより遥かに良い」
「血を抜くためですか?」
「いや、血は別に良いんだが、冷やしておかないと虫が湧くんだよ。血抜きなんてのは生きてるうちにやるもんだ」
そ、そうだったのか。
てっきり血を流すために川に投げ込むんだと思ってた……
一応首切って血と腸は出来るだけ出してきたつもりだけど、大丈夫だったんだろうか。
「そんな訳で、とってきた肉は水につけるんだ。ただし、溜池の水は皆で使うから溜池より下流でな」
「わかりました。血が流れ込まないためにですね」
「そういうこった」
幸い、我が家の建設予定地は溜池よりも下流側にある。
うちの土地の目の前で流されないようにしてやれば問題ないはずだ。
ついでに返り血もそこで落とすか。
「では夜になったら声をかけさせていただきますけど、家はどちらに?」
「ああ、いい。俺の方から顔をだすよ。兄ちゃんも夜の家建ての説明聞きに行くんだろう? 俺も行くからその帰りに寄って行ってやるよ」
そりゃありがたい。
「わかりました、では後ほどお願いします」
コレで解体の目処もたった、と。
「よし、帰ろうか」
「うん!」
ヤギを担ぎ直しつつ、さっきの戦いについて考えてみる。
いろいろ課題が残る戦いだったが、まずは自分の切れる手札と改善点を洗い出すしか無い。
格ゲーとちがって固定されたモーションがないこのゲームじゃフレーム表みたいなものは作れない。
行動に対する有利不利はあるのかもしれないが、まず重視するべきは立ち回りだろう。
今までやってきたゲームでは基本的に防御と応撃を徹底してやっていた。
この辺りは人によって、そして使用キャラによって大きく変わるから何が正解とは言い切れない。
たまたま俺のプレイスタイルと使用キャラに、防御を重視するというスタイルが噛み合っていたと言うだけだ。
それで全国大会優勝まで行けたんだから間違ってはいない筈。
ただ、このゲームでそれが通用するかと言うとなんとも言えない。
最初のネズミは問題なかった。
飛びかかってくるネズミに対して対空迎撃のイメージで叩き落としがしっかり入ったし。
ただ、その時に腕に受けた衝撃はけっこう大きかった。
当然だ。
格ゲーと違い、デカイものを撃ち落とせば相応の反動がこっちにも跳ね返ってくるわけだから。
体長50cm程のネズミでアレだけの反動があるんだ。
恐らく今の俺のスキルやステータスではヤギの背面蹴りを防御したら、防御の上からふっとばされる。
ふっ飛ばされるだけならまだしも、下手すると防御越しに腕を圧し折られかねない。
だから何も考えずに今までの気分で防御スタイルを使うのはマズイ。
ただ、タンカー系の防御スキルがあったとしたらどうなる?
ガード、パリィング、受け流し……
なんでもいい、そういう相手の攻撃を軽減したりするスキルが有れば状況が変わってくる。
スキルというのは強力だ。
どのゲームの一般NPC兵士とプレイヤーに大きく差をつけるのはスキルの有無というパターンは結構な頻度で見られる。
スキルのことを英雄の脂質だとかいう設定になってるRPGもある。
それくらいに強力な能力なのだ。
しかし、このゲームではそうではない。
恐らく普通にNPCもスキルを使う。
村長の家でのやり取り。
ガーヴさんも恐らくだけどスキルを使って気配を断っていたんだ。
村長のあの強烈なプレッシャーもスキルである可能性がある。
つまり、このゲーム、この世界では強力なスキルの使用が前提になっている可能性がある。
出来なければ一般人以下。
雑魚の野盗に絡まれたら為す術なく殺される危険もある。
だから、まずはスキルについての認識を改めて、いかにしてスキルを強化、或いは新しく手に入れるかを考えていく必要がある。
その上で、さっきの戦闘をもう一度見直す必要がある。
まずは初手の投擲だ。
あの時は突然で驚いたが、アレが投擲スキルの効果なんだろう。
いくらこの世界の体がリアルの俺よりも性能が高いとはいえ、あの距離を直進するほどの投擲能力は普通に考えてありえない。
スキルの効果でなければネズミの時に剣を投げた時と比べてあそこまでの明確な差は出ないはずだ。
これは飛距離や威力なんかも後でいろいろ検証する必要がある。
次に、距離を詰めようとしたときに出たあの速度だ。
コレについてはすぐに分かった。
スキルの中に新たに【疾走】と【踏み込み】という二つのスキルが追加されていたからだ。
恐らく、最初の投擲から距離を詰めるときの加速が疾走スキル、接近してからの距離感の掴めないチグハグさの原因は踏み込みスキルによるものだろう。
今回は突然の発動で驚いてうまく使いこなせなかったが、移動スキルを覚えて不便なゲームはよっぽどのことがない限りはない。
この二つは特に念入りに仕込む必要がある。
それと、他にも覚えたスキルが【隠密】。ヤギに接近する際に発動したものだと思う。
コレは狩りの際に純粋に役に立ちそうなので素直に嬉しい。
旅の途中でも村長の家で覚えた【気配探知】と【隠密】の組み合わせでトラブルの回避とかもしやすそうだ。
しかし、いつも緊張というか集中してるせいか、【集中】のスキルだけ伸びがヤバイ。
一つだけぶっちぎりで上がっている。
上がってくれる事自体は嬉しいから良いんだが、他のスキルに比べてこのスキルが上がりやすいんだろうか?
効果もイマイチ実感しにくいんだよな。
これらを踏まえた上で、実践訓練と並行する形でスキルの強化と熟達が急務だと思い知らされた。
特に【疾走】と【踏み込み】は強力だが使いこなせなければさっきのように逆に足かせとなる。
しかし【投擲】もそうだったが、スキルの有無で戦闘効率が跳ね上がるのは間違いない。
これらが解っている以上、実戦経験と同等以上にスキルの熟達は必要不可欠だ。
というより、生死を分かつレベルの超重要課題だな。
とはいえ、今はやるべきことがありすぎて、不確かな新規スキル開発に大きく時間を避けるほど余裕がない。
新スキルに関してはいずれ手を出すにしても、今のところは生活や実践の中で閃いてくれるのを祈るしか無いな。
本当に必要なスキルなら今回のように無意識に関連する行動をとって手に入るだろう。
だから、専用に時間を割くべきは、開発ではなく既に覚えたスキルの熟練の方だ。
実践ではない訓練では、今の内はその方向でいいだろう。
「キョウ、どうしたの? 通り過ぎちゃうよ?」
「おっと、いかん考え事しすぎてた」
呼び止められなきゃ、危うく目的地を通り過ぎるところだった。
「よし、ヤギを川に晒して、俺達は水浴びで汚れを落とすぞ」
「はーい。水浴びー」
水場として使ってる川の下流だし、ここの水は安全って考えて良いんだよな?
ヤギの血を流すために使えって言うくらいだし口に入れても大丈夫だと思いたい。
「この際に顔や髪もちゃんと洗っておくんだぞー」
「うんー。わかったー」
しっかし、何だな。
まさかバーチャルの中で水浴びしたいと本気で思うようなことがあるとは、人生何があるかわからんなぁ。
少し前の俺なら、今の俺の状況を見たらリアルじゃない所で風呂に入って何の意味があるんだ? とか言ってたな。
間違いない。
「エリスー。俺たち着替え持ってないんだから先に服を洗って乾かしてから身体洗うんだぞー」
「あ、そっか」
今日は日が照ってるし、風もあるから服もすぐ乾くだろ。
物干し竿もハンガーもないから木の枝に引っ掛けるっていう雑さだが。
ああ、家だけじゃなく生活雑貨もある程度なんとかしないといかんな。
安定した生活の第一歩目がはるか遠い……
しかしこうなるとやることがなくなるな。
流石に屋外でパンツ一丁でスキルの訓練するわけにもいかんだろう。
まだ日が沈むにはしばらく時間あるな……
「おし、身体がしっかり乾いたら、服も干してるし、夕方まで昼寝するぞー」
「昼寝だー」
「バッグの中にマントが入ってるからそれを下に敷いて寝るんだぞ?」
「はーい」
今日はいろいろ頑張ったし、エリスも狩りに突き合わせたりしたからな。
こうやってゆっくり休憩するのもいいだろ。
エリスの隣、芝生……というか手入れされてないだけど地面に横になる。
ああ、なんか日差しが暖かくて気持ちがいい。
そういえば、このゲームを初めて丁度丸一日程度か。
メチャクチャ内容が濃い一日だな。
リアルでの入社初日だってここまでじゃなかったぞ。
しかし一日やって、大体のプレイイメージや方針なんかは掴めてきた。
丸一日掛けてそこまでしか出来てないとも言うが、このゲームは今までプレイしてきたものとは根本的に違う所が多すぎる。
他のゲームとの比較は殆ど意味を成さないだろう。
田辺さんは、体の状態とかに起因する強度の錯覚って言ってたけど、この際錯覚でも構わない。
仮想現実で焼いただけに肉をマズイと感じたり、水浴びでスッキリしたりなんて、それこそアニメやゲームの中でだけの話かと思ってたのを、実体験できている。
痛みまで感じるのは流石に簡便だが、それすらもこっちの世界で生きてる感じがして悪くない。
まぁ、リアルの体の方に悪影響は出てないそうだから、昔からアニメとかにもよくある仮想MMOでのデスゲームみたいなことにはならないみたいだけどな。
なってたら流石に困るが。
ただ、大怪我した時に錯覚の痛みで気絶とかしかねないらしいから、リアルで死ななかろうが、死んでも殺す的なゴリ押しプレイはする気はない。
そんな状況に陥らないためにも、レベル上げならぬスキル熟練度上げが急務なんだが……
って、結局スキルについての話に戻っちまうか。
考えすぎて思考がループしてるな。
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