ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
11 / 330
一章

八話 アラマキⅠ

しおりを挟む
「おーい、兄ちゃん。こんな所で寝てると腹を冷やすぞ?」
「ん…………?」

 あれ?
 ここは……?

 ああ、そうか。
 川の脇でエリスと二人で昼寝して……
 夕暮れ時って事は仮眠のつもりが結構ガッツリ寝落ちてたのか。

「すいません、目が冷めました」
「いや、謝る必要はねぇがな」

 流石に地面で寝たせいか節々が痛むな。
 こういう所で寝るのにも慣れないとだな。

「朝方話した、お前らの前に来た新入り達が戻ってきたんでな。声かけに来たってわけだ」
「ああ、それはわざわざありがとうございます」
「おう、早速顔合わせも兼ねて引き合わせようと思ってな。他の連中も家の建て方教わりに向かってる所だ」

 おお、そうだった。
 土地だけ貰っても困るから家の建て方を教えて貰うんだったよな。

 エリスをにはつまらん話になるかもしれないが、流石にここに一人でおいてく訳にもいかんよな。

「エリス―。起きろー。出かけるぞ?」
「うゅ……」

 むぅ、時間が半端だから起きんな……
 まぁ今回はエリスが覚える必要もあんまないだろうし、寝かせておいてもいいか。

「よっ……」

 思ったより軽いなこいつ。

「連れて行くんかい?」
「この村の中なら一人でも安全かもしれないですけど、起きた時に一人だったら可愛そうでしょ」
「それもそうか」

 目が冷めた時、慣れない土地にひとりぼっちって結構な恐怖だからな。
 そんなに遠いわけでもないし背負ってやっても大して疲れもしないだろう。

「しっかし、小耳に挟んだんだがアンタヤギと真正面から殴り合って肉取ってきたんだって? 無茶なことするもんだな」
「肉も欲しかったけど、何より戦い方とかを覚える必要があるんですよ。生きてくために」
「にしても、いきなり野生の獣と殺し合いとかハードル高すぎるだろうに」
「見張りの人にも言われたんですけど、やっぱり無茶ですかね?」
「むちゃも良い所だ。普通は訓練なんてのは人間同士で死なないようにやるもんだ。アンタがやったのは訓練ではなく実践の殺し合いだよ」
「といっても相手がヤギじゃ締まらないですけどねぇ」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。ヤギなんて手慣れた猟師が数人がかりで仕留めるもんだぞ? それを狩りも戦いもろくに出来ないってやつが一人で挑んだんだから、そりゃ呆れられても仕方ねぇって」

 なんと、草食動物だから割とハードルは低いものだと思ってたんだが、実は強敵であらせられたか。
 一度に幾つものスキルが開花したり熟練度が上がったのは格上相手にむちゃしたからって事か?

 可能性は高いがまだなんとも言えんな。

「そんなに戦い方覚えたいなら、俺が少し教えてやってもいいぜ?」
「マジですか!?」
「おうよ。そのかわり幾つか頼みたいことがあるがな。

 まぁ当然だよな。

「この村は十日に一度、男衆で狩りに出る。基本自由参加だが、訓練付けてる間は強制参加だ」
「それは構いません。むしろ狩りへの参加はこっちからお願いしたいくらいなんで」
「ならコレは良しとして、もう一つはそっちの嬢ちゃんについてだ」
「エリスに?」
「昼間だけでいいからエリスちゃんを貸してもらいてぇんだ」

 俺じゃなくて何でエリスなんだ?
 この村に来てからエリスは俺とずっと一緒だったし、まだ何かやったりしたことはない筈だが……

「……何故です?」
「ああ、誤解すんなよ? 別におかしな事考えてるわけじゃねーよ」

「うちの娘が、エリスちゃんと同い年くらいなんだが、この村には年の近い子供がいなくてな。俺が家にいない間一人で居るのが可哀想でなぁ。」

 なるほど、そういう事か。

「エリスに遊び相手になってほしいんですね?」
「そういう事だ。こればっかりは大人にはどうにも出来ないことだからな」

 確かに、友達作りは俺らにはどうにもならない。
 あの年頃の子供は同い年の友達と遊ぶっていうのはたしかに必要なことだと思う。
 エリスのためにもなりそうだしな。

「後でエリスに聞いてみます。ただ、エリスが嫌がった場合は諦めてください。片方でも嫌がってるとどっちのためにもならないと思うので……」
「わかってる。その時は諦めるから、エリスちゃんに一度頼んでみてくれ。それだけで良いから」
「わかりました。両方の条件を飲みましょう」
「助かるぜ!」

 なんて話していたらいつの間にか目的地へ。
 いつの間にか、というかまだ家のない区画だから最初から目的地は丸見えだった訳だが。

「おう、ガーヴと新入りも来たな。コレで全員集まったな」
「すいません、俺が一番最後になっちゃったようで」
「気にすんな、そんなに待たされたわけじゃねぇしな」

 音頭を取ってるのは村長か。

「さて、じゃあ、これからこの村の恩人であり、新しい仲間でもあるアラマキの協力の下、家の建て方を中心に木の使い方を学んでいく講習会をはじめる!」

 アラマキ……?
 ずいぶんと耳馴染む響きというか……

「……んだがその前に、今日から新しく増えた仲間の紹介もしたいと思う」

 俺か!?

「おら、こっち来い!」
「おぉう!?」
「こいつはキョウ、それと妹のエリスだ。今日から川沿いに住む事になる」

 うわ、こういう沢山の人の前で挨拶とかするの苦手なんだがな!?
 勘弁してほしいが、こうなったらやるしかねぇかぁ。

「はじめまして、今日からこの村に住まわせていただくことになったキョウです。背中で寝てるのは妹のエリスです。色々至らぬことの多い未熟者ですが、これからよろしくおねがいします」
「おう、わからないことがあったら言いやがれ。知ってることだけ教えてやるからよ」

 お、答えてくれたのは見張りに立ってたおっちゃんか。
 他にもチラホラと。
 こういう時に声出してくれるとホッとするんだよな。

「おし、紹介と挨拶は済んだから、本題に移るか。頼むぜアラマキ」
「ええ、わかりました」

 ぬ……

「どうも、先日からこの村でお世話になっているアラマキです。これから数日掛けて、木の扱いや家の建て方なんかの指導をさせていただきます」
「頼むぜ兄ちゃん。アンタの知識が頼りだ」

 アラマキなんて名前の時点でまさかとは思ってたが……
 俺やT1同様特徴的なブレスレット……ようするにメニューキューブ呼び出し用のアクセサリをはめている。
 つまり、この人テスターだな。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...