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一章
十話 スキルⅠ
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翌朝
朝起きたら木のテントにエリスがびっくりしていた。
そういや、アレ造ったとき、エリスはぐっすり寝てたから、目が冷めたら突然テントが出来ていた用に映るのか。
なんてことを考えながら川で顔を洗い眠気を飛ばす。
人間の順応力というのも馬鹿にできないもので、流石に三日目にもなるとVRの世界で顔を洗って眠気を飛ばすという行為に対する違和感もなくなってきた。
それと、いつの間にか体を動かすという行為に対する違和感もなくなっていた。最初は自分の体を動かすという行為が、装置を使った遠隔操作のような感じがしていたが、気付いたときには自然に体が動かせるようになっていた。
いつからかは思い出せないが、多分ヤギと戦ったくらいから、無意識で動かせるようになっていた気がする。
こういうのもプレイング的な慣れによるものなのかね?
「さて」
エリスが起きてるなら丁度いいな。
こういうのはさっさと確認を済ませるに限る。
「エリス、ちょっといいか?」
「ん~、なあに?」
「エリスは友達欲しいか?」
「ほしい!」
おぉぅ、即答だ。
「この場所まで案内してくれたガーヴさんていうおっさん居ただろ?」
「うん、顔が怖いおじさん」
ひでぇ!
「あのおっさんの娘が、同い年の子供が居なくて一人で居るんだってさ。だからエリスが良ければ友達になってほしいって頼まれたんだが、エリスはどうしたい?」
「んん~」
まぁ、会ったことのない突然知らない子の話しされても困るか。
「何ならこれからガーヴさん家に行こうと思ってるんだが一緒に来てどんな子か一度会ってみるか?」
「行く!」
ふむ、コレなら問題はなさそうだな。
「じゃあ、飯食ったら二人で訪ねてみようか」
「うん」
まぁ、飯って言っても昨日手に入れたヤギの肉と少し分けてもらった山菜くらいしか無いんだがな。
この山菜は塩で茹でればエグみもなく普通に食べれるらしいから、ヤギの肉と一緒に分けてもらった岩塩で一緒に煮込む。
それだけ。
というか山菜と岩塩と肉の3つでできる料理がコレ以外思いつかない。
肉にしっかり火が通ったのを確認して、まずは一口。
「おお、塩が染みていい塩梅だ」
初日に食ったあの不味いネズミ肉は何だったのか。
やっぱり他者の命をいただく以上、美味しく食べるのが礼儀だよな、うん。
「おいしい……」
どうやらエリスも満足のようだ。
ネズミ肉に向かって「おいしくない」と正直に口にしたエリスだ。
変に気を使った感想じゃなく本心からそう思ってくれたんだろう。
美味いと感じれば、全てを腹に収めるまではあっという間だった。
二人して書き込むようにかき込んで一息。
この食後の後の一服の平和さよ。
「一息ついたら口を濯いで出かけようか」
「うん」
ボロい木の枝のテントぐらしでも、安全に過ごせる人里はホント最高だぜ。
◇◇◇
「ガーヴさん、居ますか?」
「あら、あなたは新入りさん?」
おや、この女性は……奥さんか?
「ええ、昨日からこの村で住まわせてもらうことになったキョウという者です。頼まれごとについて話したいんですけど、ガーヴさんは居ますか?」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね。……あなたー! お客さんが来てるわよ、キョウさん」
おお、一見おとなしそうな雰囲気に見えたが結構声張るな。
「あぁ? ……おう、どうしたこんな時間に」
「エリス連れてきたんですけど……」
「……おお!!」
……自分で話振っておいて忘れてやがったな?
「とりあえず、会ってみたいという事でして」
「いや、それだけでも助かる。ちょっと待っててくれ」
ドタンバタンと奥に引っ込むガーヴさん。
なんというか、子供の頃友達の家に遊びに行った時に出てきた親父さんがまさにこんな感じだったな。
AIですらこうなるっていうことは一般的に男親の行動ってのはテンプレート化でもされてるんだろうか?
そう言って連れてきたのは凄く大人しそうな女の子だった。
なんというか父親とは正反対のお淑やかというか、そんな感じの。
「待たせたな……ってどうした? なんで父ちゃんの後ろに隠れるんだ?」
ああ、同い年くらいの子供と触れ合ったことがないから人見知りと言うか物怖じしてるんだな。
こういうタイプの子は自分から話しかけられないからなぁ。
ここはエリスから話しかけさせるべきか……
「ねぇ、わたしエリスっていうの。あなたのお名前はなんていうの?」
と、呼びかけようと思ったときにはエリスは既に女の子に話しかけていた。
うちの子に物怖じなんてものはなかった……
「え、わたし……サリ」
「サリちゃんっていうんだ? ねぇ、私と一緒に遊びに行かない?」
「いっしょに、いいの?」
「うん! わたしこの村に来たばかりでお友達が居ないの。私のお友達になってくれないかな」
長考、長考入りました!
これは雲行きが怪しくなってきたが、さあ、結果の程は!?
「うん……なる、お友達」
「わぁ、ありがとう」
「うん……えへへ……」
やりました! ついにカップル成立です!
……いやまぁただの友達だけど。
「ねぇキョウ、サリちゃんと一緒に遊びに行っていい?」
「おう、良いぞ。一緒に遊んでこい」
元々それが目的だしな。
サリちゃんのために引き受けた話だが、エリスだって子供だからな。
同世代の遊び友達は居たほうが良いに決まってる。
「おとうさん……」
「サリ、せっかく友だちになってくれたんだから目一杯遊んでこい」
「うん!」
あっちも話がついたみたいだな。
最初からそういう話なんだからあそこでイカンとか言われたら張り倒すところだが。
「日が暮れる前には帰ってくるんだぞー」
「わかってるー。いってきまーす」
「いってきます……」
うむうむ、仲良きことは良いことかな。
「すまねぇな、ほんと助かる」
「ありがとうございます、あの子と同じ位の年の子が居ないばっかりに寂しい思いをさせるのが心苦しくて……」
「礼ならエリスに言ってやってください。決めたのはあの子なんで」
「そうだな、そうしよう」
まぁ、ガーヴさんはエリスからすると顔の怖いおじさん認定されてるんだけどな。
「それにしても出来た子だな、エリスちゃんは。物怖じしないっていうか喋れないサリを相手に空気を読んで喋りかけた気がしたんだが」
「あ、やっぱりそう感じましたか?」
「あの歳の子にしてはとても利発な子ですね」
奥さんにもそう言ってもらえるってことは男の贔屓目とかでもないんだな。
「出来の良い妹で手がかからずに済んでます」
「案外兄ちゃんよりしっかりしてたりしてな」
「あはは、割と冗談抜きで俺よりもしっかりしてる所ありますから」
素直で、注意深く、コミュ力高い。
人間として、明らかに俺より一つ上のステージに立っている。
エリス、恐ろしい子。
「さて、兄ちゃん今から時間開いてるか?」
「え? 午後からアラマキさんと話があるんでお昼前までなら予定はないですけど」
「ふむ……昼前までか」
なにか仕事の手伝いか?
「よし。なら今から昼前まで稽古をつけてやる」
「あなた?」
お、さっそく頼めるのか。
「こいつに頼まれててな。戦い方を教えてほしいって」
「そういう事ですか。この人がまた無茶なこと言い出したわけじゃないんですね?」
「おいおい……」
なんだろう、以前にそういう事でもあったんだろうか?
でも今回は俺が言い出したことだしな。
「いえ、自分から頼んだことですのでご心配なく」
「なら良いんですど……」
旦那、信用ねぇな……
以前、一体なにやらかしたんだ……?
「お前は俺を何だと思ってるんだ……と、時間が惜しいな。さっさと始めよう」
逃げたな。
まぁ、早く始めてくれる分には俺もたすかるから良いか。
「わかりました。よろしくおねがいします」
「お前さんの土地でいいな。まだ家も建ってないし良い広さだろう」
まぁ、近いし場所も開いてるし丁度いいか。
「じゃあちょっと行ってくる。チビどもの世話は負かせた」
「はいよ。若い子に迷惑かけるんじゃないよ?」
「うるせぇ」
何だかんだで仲いいなぁ、この夫婦。
◇◇◇
「さてじゃあ始めようと思うが……もしかしてお前達ソレに住んでるのか?」
「えぇまぁ。こんなでも雨風凌げるし、邪魔なら家も片付けちまえば良いですしね」
我が家は折りたたみ式ゆえ……
「あぁ、まぁ、そうだな……」
「えぇ、まぁ、そういう事です」
「家、早く建つと良いな」
「はい……」
狩りが終わったら建築に本気出す。
「ま、まぁ今は戦いについてだな!」
「そっすね。はじめましょう」
家は今はどうにもならん。
今できることからコツコツとやっていかねば。
「おし、じゃあ気分を切り替えるぞ。ここからは命に関わる内容だ」
「ウス」
「まず、戦いの技術と漠然と言ってもかなりの幅がある。今日これからの短時間で教えられる事というとかなり限られるからな。まずは狩りと戦い、両方で使える一番基本的かつ重要なことを教えようと思う」
おお、基本かつ重要。
「そうだな……まずその枝でいいか。俺に向かってどんな方法でもいいから、思いつく最高の一撃を打ち込んで見ろ」
全力で良いのか……何ていうのは愚問なんだろうな。
実力が上の人間に対してそういう質問は無用か。
もし当たったとしても枝なら大怪我にはならないだろうしな。
「わかりました。全力で行きます」
「おう、手段は選ぶな。不意打ちフェイント何でもありで一撃を当てる事に全てを注げ」
今俺が出来る全力は【疾走】と【踏み込み】を併用しての踏み込み斬りだ。
ただ、真っ直ぐいくだけで当たってくれるほど温くはないだろう。
とはいえ、すでに正対している状態から不意を撃てるほどトリッキーな動きは今の俺には無理だ。
なら、取れる手立てはフェイントくらいだろう。
だが、当てるつもりのない、変化前提の攻撃が通用するとも思えない。
それならば、俺の取るべき攻撃手段は……
「行きます……!」
【踏み込み】での初速を稼いでの全力の【疾走】!
からの、更に【踏み込み】……!
「ぬっ!?」
停止状態から、約10mを3歩で踏破する。
リアルの俺じゃ絶対に無理な突進に加速マシマシの全力の居合斬りモドキ!
「せいっ!」
カァン!
手応えが硬い!
防がれちまったか。
「っ! やるじゃねーの!」
だがっ!
「シッ!」
振り抜いた勢いのまま、足元を刈り取りに行く。
一撃を当てろと言われたが、一度しか攻撃するなとは言われていない。
手段を選ぶなと言われたからにはどんな手でも使わせてもらう!
「おおっ!?」
くそ……やっぱダメか。
驚いたように見せかけてたが、目だけは異様に冷静にこっちの動きを追っている。
攻撃を受けられた時点で次に何かを仕掛けるのがバレていたな。
「……はぁっ……はぁっ、参りました」
「ふむ……」
構えは……解かないよな。
「それだけガン見されてたら続く不意打ちも当てられませんよ」
「わかってるじゃねーか」
完全に見切られてたなぁ。
動きも、不意打ちも。
「くっそ、結構手持ちの技から頭捻ったんですけどねぇ」
「実際悪くなかったぜ? 踏み込みの技術はあれな、戦士になるための訓練の最後の方に覚える必殺技術みたいな物なんだぜ? 一体どこで覚えたんだあんなモノ」
「えぇ……まぁ……昨日、ヤギと戦ってる時に自然に……」
「あぁ、そういやそんな無茶やらかしたって言ってたか。命がけの状況で火事場の馬鹿力的に身体が動きを導き出した……ってところか」
まぁ、古今東西、ひらめきタイプの技習得ゲームは今日的であるほどひらめき率上がるしな。
このゲームにも適応されてるかどうかは知らないが。
やっぱり、戦士と呼ばれる連中はスキルを使えるのか。
「実のところ、今日は今の踏み込み技術を教えようと思ってたんだが、お前さんは教えようとした一歩先を使ったな?」
「ええ、踏み込みの加速から全力疾走用の一歩を入れてすぐ次の一歩を踏み込みに切り替えました」
「うーむ、覚えたての技術をそこまで使いこなせる奴ってのは実はなかなか居ないもんなんだがな。案外お前さんは闘うことに向いてるのかもしれん」
この辺は、体を使うか指を使うかの違いはあるものの、状況判断や瞬間判断はアクションゲーや格ゲーで大分鍛えられたからな……
一般人よりは確かに『技術の使い方』という一点には手慣れたものがあるかもしれない。
特に格ゲーとかは人間には反応できないはずの1fをどう埋めるかで勝敗が決る事が多かったからな。
「なら、予定変更して一足飛びで応用編に移ってみるか」
「ウッス、よろしくおねがいします!」
「応用と言っても別に複雑な事をさせるつもりはない。今度は俺から攻撃を仕掛ける。3回な」
回数指定か。
「3回のうち一回でも防ぐことが出来れば合格だ」
「防御訓練ですか?」
「そう思うか?」
む、何か意味ありげな言い方だな。
惑わしの一種か?
「ではいくぞ?」
え、もう始まって……って普通に歩いてくるのかよ!?
何かの罠か?
油断を誘っての不意打ち準備?
いや考える暇はないか。
今は最初の攻撃を凌ぐ……
コツン
「行くと言ったろうが」
……は?
今、頭を打たれたのか?
何で……いや、いつの間に、どうやって?
「混乱しとるな? 敵の前で混乱なんぞ殺してくれと言ってるようなものだぞ? そら二発目」
「くっ……」
この人の言うとおりだ。
敵の前で戸惑ってアホ面さげてる暇があるなら次の一撃に対処しろ。
動揺の上から畳み掛けられる訳にはいかない。
今回は見える。
右上段からの打ち下ろし……
ガッ
「うぐっ!?」
右腕を打たれた!?
何でだ、ガードは間に合ったはず。
軌道上に枝を差し込むことに成功したはずなのに何で腕を撃たれてるんだよ!?
「受けが早い。だからこうなる」
くそっ、訳がわからない!
一度離れて……
「格上相手に迂闊に下がれば流れに乗られて押しつぶされるぞ? こんなふうにな」
「……っ!?」
詰めが早い!
「何を驚く。人間は後ろに下がるよりも前に出るほうが早く行動できるに決まっているだろう」
そうだよ、当たり前のことじゃないか!
何で俺は下がって距離が取れると考えちまった!?
「そして、止まろうとすると当然動きに無理が出る。つまり好きだらけだ」
ポキン
「痛っ……」
最後の一発は脇腹へ。
それでガーヴさんの持っていた枝が折れた。
「ま、応用編はこんなもんだな」
「……まいり、ました。」
手も足も出なかった……
すべて手のひらの上、という感じだった。
流れを全て捕まれ、あらゆる行動で上をいかれたような感覚だ。
「今の3回の攻撃で幾つの技を使ったか分かるか?」
「幾つ……?」
最初の、あのいきなり接近されたやつ、そしてガードを無視して打たれたやつだろ?
あとは、最後の距離を一気に詰められた【踏み込み】のスキルか。
特に最初のは幾つかのスキルの組み合わせだったのかもしれないが……
「3つ、ですか?」
「残念、一つだ」
「え!?」
一つだと?
「その顔は解ってねぇな? まぁ、順に説明してやる」
どういう事だ?
最初の一発目だけでも気配を消すスキルと、高速移動用のスキルの二つを使ったように見えたが……
一つ…?
「最初、お前に一撃当てた時に使ったのは、さっきお前さんも使った高速の踏み込み。ある流派では【飛影】ってよばれる歩法の一種だ」
何そのかっこいい名前!
俺のスキルには【踏み込み】としか書いてないんですけど!?
「俺はコレで近づいて、お前の頭を小突いただけだよ?」
「俺には、踏み込みを隠す隠密的な何かを使ったかのように感じましたけど。正面に立っていたのにいきなり目の前に現れた感じで」
「まぁ、そう感じただろうな。そうするように立ち回ったしな」
立ち回り?
「お前さん、俺が突然構えを解いて、歩いて近づいた時点で意表を突かれて次の手を考えたろう?」
「ええ、突然無防備で歩いて寄られたら何か……」
「不意打ちでも来るんじゃないか? そう考えたんだろう?」
その通りだ。
だけど、考えはすぐに放棄して……
「おまえさん、なにか考える時視線が一瞬右手前に落ちることに気付いてるか?
「え?」
ナニソレ、初めて聞いたんですけど。
あ、いや確かに言われてみるとなにか考える瞬間自然に視線が右下に流れる……
けど、それが一体……いや、コレが答えか!
「気がついたな?」
「ええ、つまりは最初の構えの時点から始まったフェイントだったと」
「正解だ」
ようやく理解できた。
流れはこうだ。
まず、構えの状態で3発殴ると宣言する。
しかし次の瞬間、無防備に歩み寄る。
俺は、不意打ちだまし討を警戒して対応手を一瞬考える。
その一瞬、俺の『考え事をすると視線が右下に流れる』という癖で視界が外れる。
その瞬間を狙い撃ちにして、何気ない歩き方のまま次の一歩で【踏み込み】を発動。
視線が戻ったときには既に目の前に寄られ、頭に一撃入れられていた……と言うことだ。
確かに【踏み込み】一つで実現されている。
出会って一日、しかも顔を合わせていた時間なんてほんの1~2時間程度だった筈だ。
その短時間で俺の癖を見抜き、利用したフェイントまで掛けられた。
ハンパねーな。
「二発目に関しては技も何もない。単純によく見て殴っただけだ」
「防御をすり抜けたように感じましたけど……」
「いいや? そういう剣技もあるにはあるが、今回はそんな物は使ってない」
あるのか……しかし、使わずにどうやって?
「お前さん、反応が良すぎるんだよ」
「えぇ、それって、なにか問題があるんですか?」
「大有りだ」
反応って普通早いほうが良いと思うんだが……
「お前さん、俺が振りかぶった時点で瞬時にどう振り下ろすか判断して、即座にガード体制とったろ」
「はい。あの瞬間、自分にできた最速の反応だと思いますけど……」
「だからよ? 振り上げた時点で打ち下ろしに対するガード体制が完了してたから、それを見て余裕を持って腕を殴った。それだけだよ」
「あっ!」
そうか!
反応が早すぎるから、続く行動を見てから対応されたのか。
スキルでも何でも無い、ただの様子見だ。
今の俺にそんな器用な真似ができるかと言われるとかなり怪しいが、格ゲーでも似たようなテクニックは確かにある。
この人の実力なら出来てもおかしくないしな。
「3発目は説明不要だろ?」
「はい、アレは完全に俺の判断ミスを突かれただけです」
「正解。答え合わせは出来たか?」
ヤベェ、ほんとにスキル一つしか使ってね―よこの人。
「これが、応用ってやつだ。技術なんてのは要は使い方だ。どう上手く使うかで、たった一つの技でも使える手数はいくらでも増やせるってこった」
「ええ、ようやく理解しました。実感してみてやっと、ですけど」
「理解できるだけ大したもんだ。お前さんくらいの歳の奴らに今のを見せても大抵の奴らは首をひねるばかりだよ」
そうか?
かなり判りやすかったと思うんだが……
「さて、こういった応用を利かせるために重要なのはいかにその技術を使い込むかだ。若い奴は新しい技を教えろとウルセェもんだが、実践で重要なのは一つの技を如何に使いこなすかにかかっている。半端な使い込みじゃ応用もままならねぇからな」
つまり、基礎は大事ってことか。
使い勝手の良い技を磨いて、使いこなして、あらゆる状況に対応できるようにしろと。
うむ、納得できる。
「新しい技なんてのは、手持ちの札を使いこなし、その上で手詰まりになった時に初めて用意すればいい。手段が多ければいいと人は言うが、使いこなせない技に踊らされて、何を使って切り抜けるか迷うくらいなら、鍛え上げた一つを迷わず使い切るくらいのほうが、窮地で長生きできるってもんだ」
「ウッス、理解しました!」
「おう。じゃあ、昼までは【飛影】と加速に使った技を組み合わせた打ち込みを兎に角繰り返せ。俺が受けてやるから、一撃でも当てることが出来れば合格だ」
反復練習って大事だよな。
ようするに体に覚え込ませろってことだ。
考える前に体が動くくらいなじませれば、いざ疲れ切ったときやピンチの時に勝手に身体が動いてくれると。
泥臭い考え方だと思うが、多分今の俺にとってはそれが一番必要な物のはずだ。
……ゲームに関することじゃなけりゃ絶対に「ダルい」の一言で切り捨ててただろうなぁ。
「おっし、じゃあ早速始めるぞ!」
「ウッス! よろしくおねがいします!」
朝起きたら木のテントにエリスがびっくりしていた。
そういや、アレ造ったとき、エリスはぐっすり寝てたから、目が冷めたら突然テントが出来ていた用に映るのか。
なんてことを考えながら川で顔を洗い眠気を飛ばす。
人間の順応力というのも馬鹿にできないもので、流石に三日目にもなるとVRの世界で顔を洗って眠気を飛ばすという行為に対する違和感もなくなってきた。
それと、いつの間にか体を動かすという行為に対する違和感もなくなっていた。最初は自分の体を動かすという行為が、装置を使った遠隔操作のような感じがしていたが、気付いたときには自然に体が動かせるようになっていた。
いつからかは思い出せないが、多分ヤギと戦ったくらいから、無意識で動かせるようになっていた気がする。
こういうのもプレイング的な慣れによるものなのかね?
「さて」
エリスが起きてるなら丁度いいな。
こういうのはさっさと確認を済ませるに限る。
「エリス、ちょっといいか?」
「ん~、なあに?」
「エリスは友達欲しいか?」
「ほしい!」
おぉぅ、即答だ。
「この場所まで案内してくれたガーヴさんていうおっさん居ただろ?」
「うん、顔が怖いおじさん」
ひでぇ!
「あのおっさんの娘が、同い年の子供が居なくて一人で居るんだってさ。だからエリスが良ければ友達になってほしいって頼まれたんだが、エリスはどうしたい?」
「んん~」
まぁ、会ったことのない突然知らない子の話しされても困るか。
「何ならこれからガーヴさん家に行こうと思ってるんだが一緒に来てどんな子か一度会ってみるか?」
「行く!」
ふむ、コレなら問題はなさそうだな。
「じゃあ、飯食ったら二人で訪ねてみようか」
「うん」
まぁ、飯って言っても昨日手に入れたヤギの肉と少し分けてもらった山菜くらいしか無いんだがな。
この山菜は塩で茹でればエグみもなく普通に食べれるらしいから、ヤギの肉と一緒に分けてもらった岩塩で一緒に煮込む。
それだけ。
というか山菜と岩塩と肉の3つでできる料理がコレ以外思いつかない。
肉にしっかり火が通ったのを確認して、まずは一口。
「おお、塩が染みていい塩梅だ」
初日に食ったあの不味いネズミ肉は何だったのか。
やっぱり他者の命をいただく以上、美味しく食べるのが礼儀だよな、うん。
「おいしい……」
どうやらエリスも満足のようだ。
ネズミ肉に向かって「おいしくない」と正直に口にしたエリスだ。
変に気を使った感想じゃなく本心からそう思ってくれたんだろう。
美味いと感じれば、全てを腹に収めるまではあっという間だった。
二人して書き込むようにかき込んで一息。
この食後の後の一服の平和さよ。
「一息ついたら口を濯いで出かけようか」
「うん」
ボロい木の枝のテントぐらしでも、安全に過ごせる人里はホント最高だぜ。
◇◇◇
「ガーヴさん、居ますか?」
「あら、あなたは新入りさん?」
おや、この女性は……奥さんか?
「ええ、昨日からこの村で住まわせてもらうことになったキョウという者です。頼まれごとについて話したいんですけど、ガーヴさんは居ますか?」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね。……あなたー! お客さんが来てるわよ、キョウさん」
おお、一見おとなしそうな雰囲気に見えたが結構声張るな。
「あぁ? ……おう、どうしたこんな時間に」
「エリス連れてきたんですけど……」
「……おお!!」
……自分で話振っておいて忘れてやがったな?
「とりあえず、会ってみたいという事でして」
「いや、それだけでも助かる。ちょっと待っててくれ」
ドタンバタンと奥に引っ込むガーヴさん。
なんというか、子供の頃友達の家に遊びに行った時に出てきた親父さんがまさにこんな感じだったな。
AIですらこうなるっていうことは一般的に男親の行動ってのはテンプレート化でもされてるんだろうか?
そう言って連れてきたのは凄く大人しそうな女の子だった。
なんというか父親とは正反対のお淑やかというか、そんな感じの。
「待たせたな……ってどうした? なんで父ちゃんの後ろに隠れるんだ?」
ああ、同い年くらいの子供と触れ合ったことがないから人見知りと言うか物怖じしてるんだな。
こういうタイプの子は自分から話しかけられないからなぁ。
ここはエリスから話しかけさせるべきか……
「ねぇ、わたしエリスっていうの。あなたのお名前はなんていうの?」
と、呼びかけようと思ったときにはエリスは既に女の子に話しかけていた。
うちの子に物怖じなんてものはなかった……
「え、わたし……サリ」
「サリちゃんっていうんだ? ねぇ、私と一緒に遊びに行かない?」
「いっしょに、いいの?」
「うん! わたしこの村に来たばかりでお友達が居ないの。私のお友達になってくれないかな」
長考、長考入りました!
これは雲行きが怪しくなってきたが、さあ、結果の程は!?
「うん……なる、お友達」
「わぁ、ありがとう」
「うん……えへへ……」
やりました! ついにカップル成立です!
……いやまぁただの友達だけど。
「ねぇキョウ、サリちゃんと一緒に遊びに行っていい?」
「おう、良いぞ。一緒に遊んでこい」
元々それが目的だしな。
サリちゃんのために引き受けた話だが、エリスだって子供だからな。
同世代の遊び友達は居たほうが良いに決まってる。
「おとうさん……」
「サリ、せっかく友だちになってくれたんだから目一杯遊んでこい」
「うん!」
あっちも話がついたみたいだな。
最初からそういう話なんだからあそこでイカンとか言われたら張り倒すところだが。
「日が暮れる前には帰ってくるんだぞー」
「わかってるー。いってきまーす」
「いってきます……」
うむうむ、仲良きことは良いことかな。
「すまねぇな、ほんと助かる」
「ありがとうございます、あの子と同じ位の年の子が居ないばっかりに寂しい思いをさせるのが心苦しくて……」
「礼ならエリスに言ってやってください。決めたのはあの子なんで」
「そうだな、そうしよう」
まぁ、ガーヴさんはエリスからすると顔の怖いおじさん認定されてるんだけどな。
「それにしても出来た子だな、エリスちゃんは。物怖じしないっていうか喋れないサリを相手に空気を読んで喋りかけた気がしたんだが」
「あ、やっぱりそう感じましたか?」
「あの歳の子にしてはとても利発な子ですね」
奥さんにもそう言ってもらえるってことは男の贔屓目とかでもないんだな。
「出来の良い妹で手がかからずに済んでます」
「案外兄ちゃんよりしっかりしてたりしてな」
「あはは、割と冗談抜きで俺よりもしっかりしてる所ありますから」
素直で、注意深く、コミュ力高い。
人間として、明らかに俺より一つ上のステージに立っている。
エリス、恐ろしい子。
「さて、兄ちゃん今から時間開いてるか?」
「え? 午後からアラマキさんと話があるんでお昼前までなら予定はないですけど」
「ふむ……昼前までか」
なにか仕事の手伝いか?
「よし。なら今から昼前まで稽古をつけてやる」
「あなた?」
お、さっそく頼めるのか。
「こいつに頼まれててな。戦い方を教えてほしいって」
「そういう事ですか。この人がまた無茶なこと言い出したわけじゃないんですね?」
「おいおい……」
なんだろう、以前にそういう事でもあったんだろうか?
でも今回は俺が言い出したことだしな。
「いえ、自分から頼んだことですのでご心配なく」
「なら良いんですど……」
旦那、信用ねぇな……
以前、一体なにやらかしたんだ……?
「お前は俺を何だと思ってるんだ……と、時間が惜しいな。さっさと始めよう」
逃げたな。
まぁ、早く始めてくれる分には俺もたすかるから良いか。
「わかりました。よろしくおねがいします」
「お前さんの土地でいいな。まだ家も建ってないし良い広さだろう」
まぁ、近いし場所も開いてるし丁度いいか。
「じゃあちょっと行ってくる。チビどもの世話は負かせた」
「はいよ。若い子に迷惑かけるんじゃないよ?」
「うるせぇ」
何だかんだで仲いいなぁ、この夫婦。
◇◇◇
「さてじゃあ始めようと思うが……もしかしてお前達ソレに住んでるのか?」
「えぇまぁ。こんなでも雨風凌げるし、邪魔なら家も片付けちまえば良いですしね」
我が家は折りたたみ式ゆえ……
「あぁ、まぁ、そうだな……」
「えぇ、まぁ、そういう事です」
「家、早く建つと良いな」
「はい……」
狩りが終わったら建築に本気出す。
「ま、まぁ今は戦いについてだな!」
「そっすね。はじめましょう」
家は今はどうにもならん。
今できることからコツコツとやっていかねば。
「おし、じゃあ気分を切り替えるぞ。ここからは命に関わる内容だ」
「ウス」
「まず、戦いの技術と漠然と言ってもかなりの幅がある。今日これからの短時間で教えられる事というとかなり限られるからな。まずは狩りと戦い、両方で使える一番基本的かつ重要なことを教えようと思う」
おお、基本かつ重要。
「そうだな……まずその枝でいいか。俺に向かってどんな方法でもいいから、思いつく最高の一撃を打ち込んで見ろ」
全力で良いのか……何ていうのは愚問なんだろうな。
実力が上の人間に対してそういう質問は無用か。
もし当たったとしても枝なら大怪我にはならないだろうしな。
「わかりました。全力で行きます」
「おう、手段は選ぶな。不意打ちフェイント何でもありで一撃を当てる事に全てを注げ」
今俺が出来る全力は【疾走】と【踏み込み】を併用しての踏み込み斬りだ。
ただ、真っ直ぐいくだけで当たってくれるほど温くはないだろう。
とはいえ、すでに正対している状態から不意を撃てるほどトリッキーな動きは今の俺には無理だ。
なら、取れる手立てはフェイントくらいだろう。
だが、当てるつもりのない、変化前提の攻撃が通用するとも思えない。
それならば、俺の取るべき攻撃手段は……
「行きます……!」
【踏み込み】での初速を稼いでの全力の【疾走】!
からの、更に【踏み込み】……!
「ぬっ!?」
停止状態から、約10mを3歩で踏破する。
リアルの俺じゃ絶対に無理な突進に加速マシマシの全力の居合斬りモドキ!
「せいっ!」
カァン!
手応えが硬い!
防がれちまったか。
「っ! やるじゃねーの!」
だがっ!
「シッ!」
振り抜いた勢いのまま、足元を刈り取りに行く。
一撃を当てろと言われたが、一度しか攻撃するなとは言われていない。
手段を選ぶなと言われたからにはどんな手でも使わせてもらう!
「おおっ!?」
くそ……やっぱダメか。
驚いたように見せかけてたが、目だけは異様に冷静にこっちの動きを追っている。
攻撃を受けられた時点で次に何かを仕掛けるのがバレていたな。
「……はぁっ……はぁっ、参りました」
「ふむ……」
構えは……解かないよな。
「それだけガン見されてたら続く不意打ちも当てられませんよ」
「わかってるじゃねーか」
完全に見切られてたなぁ。
動きも、不意打ちも。
「くっそ、結構手持ちの技から頭捻ったんですけどねぇ」
「実際悪くなかったぜ? 踏み込みの技術はあれな、戦士になるための訓練の最後の方に覚える必殺技術みたいな物なんだぜ? 一体どこで覚えたんだあんなモノ」
「えぇ……まぁ……昨日、ヤギと戦ってる時に自然に……」
「あぁ、そういやそんな無茶やらかしたって言ってたか。命がけの状況で火事場の馬鹿力的に身体が動きを導き出した……ってところか」
まぁ、古今東西、ひらめきタイプの技習得ゲームは今日的であるほどひらめき率上がるしな。
このゲームにも適応されてるかどうかは知らないが。
やっぱり、戦士と呼ばれる連中はスキルを使えるのか。
「実のところ、今日は今の踏み込み技術を教えようと思ってたんだが、お前さんは教えようとした一歩先を使ったな?」
「ええ、踏み込みの加速から全力疾走用の一歩を入れてすぐ次の一歩を踏み込みに切り替えました」
「うーむ、覚えたての技術をそこまで使いこなせる奴ってのは実はなかなか居ないもんなんだがな。案外お前さんは闘うことに向いてるのかもしれん」
この辺は、体を使うか指を使うかの違いはあるものの、状況判断や瞬間判断はアクションゲーや格ゲーで大分鍛えられたからな……
一般人よりは確かに『技術の使い方』という一点には手慣れたものがあるかもしれない。
特に格ゲーとかは人間には反応できないはずの1fをどう埋めるかで勝敗が決る事が多かったからな。
「なら、予定変更して一足飛びで応用編に移ってみるか」
「ウッス、よろしくおねがいします!」
「応用と言っても別に複雑な事をさせるつもりはない。今度は俺から攻撃を仕掛ける。3回な」
回数指定か。
「3回のうち一回でも防ぐことが出来れば合格だ」
「防御訓練ですか?」
「そう思うか?」
む、何か意味ありげな言い方だな。
惑わしの一種か?
「ではいくぞ?」
え、もう始まって……って普通に歩いてくるのかよ!?
何かの罠か?
油断を誘っての不意打ち準備?
いや考える暇はないか。
今は最初の攻撃を凌ぐ……
コツン
「行くと言ったろうが」
……は?
今、頭を打たれたのか?
何で……いや、いつの間に、どうやって?
「混乱しとるな? 敵の前で混乱なんぞ殺してくれと言ってるようなものだぞ? そら二発目」
「くっ……」
この人の言うとおりだ。
敵の前で戸惑ってアホ面さげてる暇があるなら次の一撃に対処しろ。
動揺の上から畳み掛けられる訳にはいかない。
今回は見える。
右上段からの打ち下ろし……
ガッ
「うぐっ!?」
右腕を打たれた!?
何でだ、ガードは間に合ったはず。
軌道上に枝を差し込むことに成功したはずなのに何で腕を撃たれてるんだよ!?
「受けが早い。だからこうなる」
くそっ、訳がわからない!
一度離れて……
「格上相手に迂闊に下がれば流れに乗られて押しつぶされるぞ? こんなふうにな」
「……っ!?」
詰めが早い!
「何を驚く。人間は後ろに下がるよりも前に出るほうが早く行動できるに決まっているだろう」
そうだよ、当たり前のことじゃないか!
何で俺は下がって距離が取れると考えちまった!?
「そして、止まろうとすると当然動きに無理が出る。つまり好きだらけだ」
ポキン
「痛っ……」
最後の一発は脇腹へ。
それでガーヴさんの持っていた枝が折れた。
「ま、応用編はこんなもんだな」
「……まいり、ました。」
手も足も出なかった……
すべて手のひらの上、という感じだった。
流れを全て捕まれ、あらゆる行動で上をいかれたような感覚だ。
「今の3回の攻撃で幾つの技を使ったか分かるか?」
「幾つ……?」
最初の、あのいきなり接近されたやつ、そしてガードを無視して打たれたやつだろ?
あとは、最後の距離を一気に詰められた【踏み込み】のスキルか。
特に最初のは幾つかのスキルの組み合わせだったのかもしれないが……
「3つ、ですか?」
「残念、一つだ」
「え!?」
一つだと?
「その顔は解ってねぇな? まぁ、順に説明してやる」
どういう事だ?
最初の一発目だけでも気配を消すスキルと、高速移動用のスキルの二つを使ったように見えたが……
一つ…?
「最初、お前に一撃当てた時に使ったのは、さっきお前さんも使った高速の踏み込み。ある流派では【飛影】ってよばれる歩法の一種だ」
何そのかっこいい名前!
俺のスキルには【踏み込み】としか書いてないんですけど!?
「俺はコレで近づいて、お前の頭を小突いただけだよ?」
「俺には、踏み込みを隠す隠密的な何かを使ったかのように感じましたけど。正面に立っていたのにいきなり目の前に現れた感じで」
「まぁ、そう感じただろうな。そうするように立ち回ったしな」
立ち回り?
「お前さん、俺が突然構えを解いて、歩いて近づいた時点で意表を突かれて次の手を考えたろう?」
「ええ、突然無防備で歩いて寄られたら何か……」
「不意打ちでも来るんじゃないか? そう考えたんだろう?」
その通りだ。
だけど、考えはすぐに放棄して……
「おまえさん、なにか考える時視線が一瞬右手前に落ちることに気付いてるか?
「え?」
ナニソレ、初めて聞いたんですけど。
あ、いや確かに言われてみるとなにか考える瞬間自然に視線が右下に流れる……
けど、それが一体……いや、コレが答えか!
「気がついたな?」
「ええ、つまりは最初の構えの時点から始まったフェイントだったと」
「正解だ」
ようやく理解できた。
流れはこうだ。
まず、構えの状態で3発殴ると宣言する。
しかし次の瞬間、無防備に歩み寄る。
俺は、不意打ちだまし討を警戒して対応手を一瞬考える。
その一瞬、俺の『考え事をすると視線が右下に流れる』という癖で視界が外れる。
その瞬間を狙い撃ちにして、何気ない歩き方のまま次の一歩で【踏み込み】を発動。
視線が戻ったときには既に目の前に寄られ、頭に一撃入れられていた……と言うことだ。
確かに【踏み込み】一つで実現されている。
出会って一日、しかも顔を合わせていた時間なんてほんの1~2時間程度だった筈だ。
その短時間で俺の癖を見抜き、利用したフェイントまで掛けられた。
ハンパねーな。
「二発目に関しては技も何もない。単純によく見て殴っただけだ」
「防御をすり抜けたように感じましたけど……」
「いいや? そういう剣技もあるにはあるが、今回はそんな物は使ってない」
あるのか……しかし、使わずにどうやって?
「お前さん、反応が良すぎるんだよ」
「えぇ、それって、なにか問題があるんですか?」
「大有りだ」
反応って普通早いほうが良いと思うんだが……
「お前さん、俺が振りかぶった時点で瞬時にどう振り下ろすか判断して、即座にガード体制とったろ」
「はい。あの瞬間、自分にできた最速の反応だと思いますけど……」
「だからよ? 振り上げた時点で打ち下ろしに対するガード体制が完了してたから、それを見て余裕を持って腕を殴った。それだけだよ」
「あっ!」
そうか!
反応が早すぎるから、続く行動を見てから対応されたのか。
スキルでも何でも無い、ただの様子見だ。
今の俺にそんな器用な真似ができるかと言われるとかなり怪しいが、格ゲーでも似たようなテクニックは確かにある。
この人の実力なら出来てもおかしくないしな。
「3発目は説明不要だろ?」
「はい、アレは完全に俺の判断ミスを突かれただけです」
「正解。答え合わせは出来たか?」
ヤベェ、ほんとにスキル一つしか使ってね―よこの人。
「これが、応用ってやつだ。技術なんてのは要は使い方だ。どう上手く使うかで、たった一つの技でも使える手数はいくらでも増やせるってこった」
「ええ、ようやく理解しました。実感してみてやっと、ですけど」
「理解できるだけ大したもんだ。お前さんくらいの歳の奴らに今のを見せても大抵の奴らは首をひねるばかりだよ」
そうか?
かなり判りやすかったと思うんだが……
「さて、こういった応用を利かせるために重要なのはいかにその技術を使い込むかだ。若い奴は新しい技を教えろとウルセェもんだが、実践で重要なのは一つの技を如何に使いこなすかにかかっている。半端な使い込みじゃ応用もままならねぇからな」
つまり、基礎は大事ってことか。
使い勝手の良い技を磨いて、使いこなして、あらゆる状況に対応できるようにしろと。
うむ、納得できる。
「新しい技なんてのは、手持ちの札を使いこなし、その上で手詰まりになった時に初めて用意すればいい。手段が多ければいいと人は言うが、使いこなせない技に踊らされて、何を使って切り抜けるか迷うくらいなら、鍛え上げた一つを迷わず使い切るくらいのほうが、窮地で長生きできるってもんだ」
「ウッス、理解しました!」
「おう。じゃあ、昼までは【飛影】と加速に使った技を組み合わせた打ち込みを兎に角繰り返せ。俺が受けてやるから、一撃でも当てることが出来れば合格だ」
反復練習って大事だよな。
ようするに体に覚え込ませろってことだ。
考える前に体が動くくらいなじませれば、いざ疲れ切ったときやピンチの時に勝手に身体が動いてくれると。
泥臭い考え方だと思うが、多分今の俺にとってはそれが一番必要な物のはずだ。
……ゲームに関することじゃなけりゃ絶対に「ダルい」の一言で切り捨ててただろうなぁ。
「おっし、じゃあ早速始めるぞ!」
「ウッス! よろしくおねがいします!」
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