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一章
十一話 スキルⅡ
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「ず、ずいぶんボロボロだね……」
事前の約束通り、アラマキ氏の家を訪ねてかけられた第一声がコレである。
「えぇ、まぁ。つい今し方までガーヴさんに稽古付けてもらってまして……」
「なるほど、それでこの有様ですか」
まぁこの有様、と形容される程度にズタボロである。
掛り稽古のつもりで打ち掛かったら、当たり前のよう反撃が飛んできたからな。
打ち込み後に隙が残るような使い方をしているうちは、まだまだ三流なんだそうな。
実際、反撃はかなり手加減されてたから、アレを貰うようでは実践では使い物にならないだろうというのは良く分かる。
「しかし、キョウさんは面白いことをするね」
「面白いこと……ですか?」
「テスター同士の情報交換所で色々話は聞いてますが、大都市の武術道場でスキルを手に入れたという話は聞いたことがありますけど、ただの一般NPCに稽古をつけてもらうなんて話は聞いたこともありませんよ」
「ありゃ、そうなんですか?」
「僕が知る限りじゃ一人も居ないですね」
さっきの特訓、始めたばかりの俺にとってはかなり有意義だったと思うんだが……
他のプレイヤーは自力でさっさと強くなることに成功したってことなのか?
まぁ、情報掲示板とかでやり取りすればどこで戦うと効率がいいとか、どういうスキルが有用かとかも共有できるし、もしかしたらパーティも組めるかもしれないから、成長度合いは加速していく……んだろうか?
「さて、こうしていても仕方ない。早速キョウさんの知りたいことについてのレクチャーをはじめましょうか」
「よろしくおねがいします」
「……といっても、僕に使えるスキル以外は殆ど情報板からの受け売りですけどね」
それが見れない俺にとっては宝石よりも貴重な情報なんですよ、それ。
なんせ、チュートリアルやヘルプページすら読めないわけだし。
「ではまず、基本中の基本から説明しましょう。
スキルは【基礎スキル】【発展スキル】【複合スキル】の3つに分類されます。
【基礎スキル】は文字通りある系統の最も基本となるスキルです。
【発展スキル】は基礎スキルを鍛えることで派生するスキルだと思ってください。
【複合スキル】は別系統のスキルの組み合わせで発生する特殊スキルです。
……ここまではいいですか?」
「はい、理解できてます」
今のところ俺の認識とズレはない。
複合スキルは知らなかったが、恐らくイメージはかけ離れてないだろう。
「基礎スキルは、関連するトリガー行動。例えば木工なら木を切って加工する等すると入手することが出来ます。これはかなりの種類があり、テスターでもまだ全ては把握しきれていないほどです」
二ヶ月続けてるテスターたちでもまだ全容は掴めないほどの種類なのか。
「行き詰まり感じた時に、なんらかの行動とってみると意外なスキルを入手して道が開ける、と言ったこともそれなりにありますよ」
「なるほど、迷ったらまず行動する事で開ける道もある……と」
走るだけで脚力スキルが増えたからな。
困ったらまず行動。覚えておこう。
「そして発展スキルですが……キョウさん、スキルの中に幾つか違和感を感じたものはありませんか?」
「違和感……ですか?」
なんだ?
俺の持ってるスキルなんてまだ幾つかしか無い。
そんな状態の俺でも持っていると確信できるもので、更に違和感があるもの……?
んん……?
「おや、違和感は持たなかったですか」
「えぇと……?」
「う~ん……これは普段プレイするゲームの差、ですかね」
ゲーム差?
「【筋力】【椀力】と言ったスキルを持っていませんか?」
「え? はい、持ってます」
「おかしいと思いませんでした? ステータスにSTRとVITがあるのに何故スキルに同じ意味を持つものがあるのか、と」
「あぁ、そう言われてみればそうなのかも? ……正直、ステータス補正用のスキルだと思ってました」
「なるほど、そう考えていたならたしかに違和感を持たないかもしれませんね」
SRPGやMMOだと割とよく見るスキルだから何も不自然に考えてなかった……
「ちなみに【腕力】スキルにSTR補正はありませんよ?」
「マジデ!? 一体何のための【腕力】スキルなんだそれ」
「やっぱりそう思いますよね?」
「【腕力】スキルなのに腕力が上がらないとか詐欺じゃないですか」
「僕もそう思うので、運営に修正要望提出しました」
「ですよね」
表記ゆれどころじゃない。
明確に【腕力】って書いてあるのに腕力が増えないのは流石にプレイヤーに叩かれる可能性が高い。
製品版では絶対に治すべき点だコレは。
「でも、腕力スキルが無意味なスキルなのかと言うと、答えはノーです」
「何らかの使いみちがあると?」
「そうですね。それじゃあ、丁度いいから【腕力】を一例に説明しましょう」
ここからが本題か。
「一見、何の特殊効果もない【腕力】スキルですが、【腕力】のスキルが一定値に達すると【肩制御】【肘制御】【手首制御】が発生します。これが【発展スキル】です」
「一気に複数発生するんですか?」
「あくまでこれは【腕力】からの派生の話ですが、3つ同時に開放されますね」
一度に複数増えると言うことは、色々手を出してるやつはスキルのページが凄まじい事になりそうだな。
「スキルによっては30まで上げてもまだ派生スキルが追加される気配がないものがあったり、スキル熟練度一桁で派生するけど、一つしか派生しなかったりとスキルによってかなり差があるみたいだね」
「なるほど、スキル派生の条件は一律ではない、と」
メモがないから忘れないように頭にいれるので一苦労だな。
「そして最後の複合スキルですけど、これは魔法なんかに多く見られますね。風属性魔法と水属性魔法を組み合わせて氷嵐魔法を生み出したり、複雑なのだと【調合】スキルと【魔力付与】スキルと【錬金】スキルを組み合わせて霊薬を作り出せたみたいな情報もあります」
「言葉のイメージ通りですね。俺みたいな戦士系での複合スキルって無いんですか?」
そういや剣士の複合スキルって実際他のゲームだとどんなんだ?
魔法剣くらいしか思い浮かばんが……
「あるみたいですよ? えーと……【両手剣適正】と【渾身】と【踏み込み】と【浸透勁】で兜割りモドキが出来たって書き込みがありますね」
「4つっすか!? ってモドキて……」
思いの外地味な上にやたら複雑だな……!
「僕はメイン生産系なんで詳しくは調べてないですけど、同じスレには戦闘スキルは魔法みたいにわかりやすく攻撃効果が出るものが少ないので技術の組み合わせで独自の技を生み出すみたいな事が書いてあります」
「あら? 必殺技みたいなのはこのゲーム無いんですかね?」
「一応あるみたいですよ? 道場とかでNPCが教えてくれるらしいです。ただ、みんな教えてもらった技を魔改造して自分にあった使い方にするのが戦闘系やってるテスターの流行りみたい」
「は~、必殺技とかも自分オリジナルにできるんですねぇ」
「まぁ、自分の意志で身体動かせるからね、このゲーム」
「それもそうですね」
NPCから教えてもらうのはあくまで技の使い方と基本となるモーション位なんだろう。
他のゲームみたいに必殺技のモーションを矯正された挙げ句、技後硬直で動けないとかなったら、俺ならそんなスキルは確実にトドメを刺せる時以外怖くて使えない。
「とまぁ、今話した3つの系統が現在わかってるこのゲームのスキルの根幹だね。これらは戦闘に限らず全てのスキルに共通する仕組みだから、覚えておけば絶対に役に立ちますよ」
確かに、コレは知ってるのと知らないのとでは天と地くらい差が出る情報だな。
「あとの注意点は、スキルは長い間使用しないとスキルレベルが下がります。緩やかにですけどね」
「え、下がるんですか!?」
「体がなまるっていうか、そういうのの再現なんじゃないかと思うんですけどね」
「あぁ、このゲームなら普通にありえる……」
兎に角、ゲーム性に左右されない範囲では追求できるところでは徹底的にリアルを追求してる感があるからな。
「ほかにもスキルダウンの条件があって、特定の相性の悪いスキルを同時に手に入れて使用していると、相反するスキルのレベルダウンが加速するっていうのは検証でほぼ確定してるみたいですね」
「例えばどんなのです?」
「水の魔法と火の魔法を同時に使ってると、反発し合って殆レベルが上がらないそうです。剣みたいな武器適正と魔法適正なんかも。水と火程ではないですけど、両立しようとするとやはり成長が鈍るようです」
スキルによって相反度合いが違うってことか。
魔法剣は出来るけど剣も魔法も半端になるか、どちらかをかなり抑えれば物にできる。
極端に反発するスキル同士はまともにスキルレベル上げが出来ないほどマイナス補正がかかると。
「あれ、じゃあ木工覚えると戦闘スキルがヤバイって事ですか?」
家は欲しいが、弱くなるのはちょっと困るんですけど……
「そこは大丈夫。戦闘職同士、生産職同士では相性が悪いものは反発するけど、戦闘職と生産職の単純な両立については殆ど誤差レベルのマイナス補正しかかからないみたいです。実際僕も弓を併用してますからね」
「よかった……それなら安心して覚えられそうだ」
しばらくは木工と戦闘スキルを集中して磨いていけばいいか。
「……今教えられそうなことはこれくらいかな?
「スゲー判りやすかったです。助かります」
「いえいえ、どう致しまして」
「そうだ、この際ここである程度木工スキルを覚えていくといいんじゃないかな。少しでもスキルを持っておけば今後の勉強会での理解度も上がると思いますし」
「成る程……たしかにそうですね」
どうせ家を建てるために覚える必要が出てくるんだ。
早いところ基礎だけでも覚えておくのは有りか。
「わかりました、よろしくおねがいします」
「それじゃ、今日のところは僕の道具を使うといいよ」
渡されたのは、ノコギリと斧とハンマーと……何だろう、杭?
「庭に丸太が幾つかあるので、まずはそれを木材にしてみましょう」
「わかりました……そういえば、木工のスキルって上がるとどういう効果があるんですか?」
「う~ん……わかりやすい所で言えば、スキルが上がった分だけノコギリやノミなんかの刃が思い通りに木に入るようになるとかかな。今僕の木工は28なんだけど、最初に比べて目に見えてノコギリですんなり気が切れるようになったよ。ちょっと見てて」
と、足元にあった細い丸太を適当に立てると、おもむろに縦にノコギリを引いていくアラマキさん。
細いと言っても俺の腕よりは太い木を、まぁ器用に縦に切るもんだな。
何の木か俺には判らないが、ものの数分で真っ二つにしてみせた。
「とまぁ、こんな感じだけど、さぁ、これを同じようにやってみてください」
そう言って渡されたのは手首くらいの太さの同じ木。
長さも半分程度だ。
初心者用と言うことだろう。
「それじゃ……」
と、ノコギリを当てて固まった。
「……ぐ……ぬ」
プルプル震えながらノコギリを引こうとしても丸太の縁に引っかかったままびくともしない。
な、何故だ!?
ノコギリは引かなきゃ切れないっていうのは俺だって知ってる。
だが、そもそも引けないんですけど!?
「まぁ、これが木工スキル0と28の差って所かな」
「ちょっと……木工舐めてましたね。こんな細い木なのにノコギリ引けないとは思いましませんでした」
「そこは仕方ないと思いますよ。僕だってリアルじゃ片手で持てるような木材にノコギリ入れるだけで汗だくになるし。慣れてない上にスキルの補助がないと誰でもこんなものだと思います」
「スキル様々ですね……」
「本当にね。だからこそここでスキルを覚えてもらうことで、今後一気に楽になるはずですよ」
「コレはちょっと本腰入れて習う必要がありそうですわ」
「まぁ、最初は縦引きなんて難しいことはやるつもりはないので安心してください」
木を縦に切るのってやっぱり普通に難しいのか……
難しいからこそ、木工スキルの有無による差の説明でやらせたって事なのかな。
「まずは、丸太を材木にするところから覚えましょうか」
それから日が傾くまで、ひたすら材木作成に没頭した。
①切り出された丸太を斧でぶっ叩く。
②裂け目に楔(杭のようなもの)をハンマーで打ち込む。
③開かれた裂け目を開いて丸太を割る。
④斧で適度なサイズに割く。
コレをひたすら繰り返した。
単純作業だから、何も考えずに黙々とただひたすらに。
普段やらないことだから何か途中から楽しくなってきたってのもあったが、結構いいペースで進んだような気がする。
最初のうちは、斧で材木を割るのも何度も斧に刺さった気を叩きつけるような不格好さだったが、用意された丸太をを割り切る頃にはしっかり力を込めてやれば3発くらいで割れるようになった。
ちなみにアラマキさんは大して力も込めてないような軽さで二撃確割だ。
スゲェベテランっぽい動きだった。
ひたすら木材と格闘し続けた結果、この数時間で木工レベルが一気に11まで上がっていた。
さすが短期集中講座。
ディスプレイ越しにこういう地道なスキル上げをするのって正直あまり好きじゃないが、自分の体を動かしてると、地味な作業のはずなのに何かキャンプの時みたく無駄にアグレッシブな思考になるんだよな。
「木工10超えたなら十分木工師を名乗れますね。今日作った木材で仮屋も作れるようになってるはずですよ?」
「マジですか? ……といっても、俺家の作り方とか判らないんですけど」
DIYとかすらまともにやらないゲーオタだったんで。
「一定以上のスキルが有ると、イメージと言うか作ろうとしてるものへのサポートが入るんですよ。スキルウィンドウの木工から現在作成可能な物が選べるようになってるはずなんですけど」
「えぇと……ああ、ありますね。小屋が建てれるようになってます」
「じゃあ、試しにその小屋を選択してみてください」
小屋の原寸大立体図みたいなのが出た。
半透明な、模型?
「透明な小屋が表示されましたか?」
「ええ。見えてます」
「それが設計図になるので、その通りに木材を組み上げていくことで小屋が完成する……といった感じですね」
なるほど、サポートっていうのは要するに完成品イメージを目視化してくれるのか。
たしかにこの通りに材料組み合わせていくだけでいいなら俺にも何とかなりそうだ、
他のゲームじゃ素材さえアレばレシピを選んでボタン一発だったけど、このゲームの世界観で制作系ってどうするんだと思ったが、こういう表現の仕方だったんだな。
「スキルレベル10の小屋なら今回作った木材で十分作れるので、早速試してみてください。今後の講義を続けていけば20でそれなりに立派な家が作れるようになるので、そこを目標にするといいと思います」
「いやぁ、何から何まで助かりました。これからも宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらもなにか頼むことがあるかと思うので、そのときはお願いしますよ」
「ええ、もちろん」
持ちつ持たれつ、ってやつだな。
しかし20でしっかりした家が建てられるようになるのか。
それ以上やるかはともかくとして、目先の目標はコレで一つ決まったな。
目指すは、それなりに立派な俺の家だ!
事前の約束通り、アラマキ氏の家を訪ねてかけられた第一声がコレである。
「えぇ、まぁ。つい今し方までガーヴさんに稽古付けてもらってまして……」
「なるほど、それでこの有様ですか」
まぁこの有様、と形容される程度にズタボロである。
掛り稽古のつもりで打ち掛かったら、当たり前のよう反撃が飛んできたからな。
打ち込み後に隙が残るような使い方をしているうちは、まだまだ三流なんだそうな。
実際、反撃はかなり手加減されてたから、アレを貰うようでは実践では使い物にならないだろうというのは良く分かる。
「しかし、キョウさんは面白いことをするね」
「面白いこと……ですか?」
「テスター同士の情報交換所で色々話は聞いてますが、大都市の武術道場でスキルを手に入れたという話は聞いたことがありますけど、ただの一般NPCに稽古をつけてもらうなんて話は聞いたこともありませんよ」
「ありゃ、そうなんですか?」
「僕が知る限りじゃ一人も居ないですね」
さっきの特訓、始めたばかりの俺にとってはかなり有意義だったと思うんだが……
他のプレイヤーは自力でさっさと強くなることに成功したってことなのか?
まぁ、情報掲示板とかでやり取りすればどこで戦うと効率がいいとか、どういうスキルが有用かとかも共有できるし、もしかしたらパーティも組めるかもしれないから、成長度合いは加速していく……んだろうか?
「さて、こうしていても仕方ない。早速キョウさんの知りたいことについてのレクチャーをはじめましょうか」
「よろしくおねがいします」
「……といっても、僕に使えるスキル以外は殆ど情報板からの受け売りですけどね」
それが見れない俺にとっては宝石よりも貴重な情報なんですよ、それ。
なんせ、チュートリアルやヘルプページすら読めないわけだし。
「ではまず、基本中の基本から説明しましょう。
スキルは【基礎スキル】【発展スキル】【複合スキル】の3つに分類されます。
【基礎スキル】は文字通りある系統の最も基本となるスキルです。
【発展スキル】は基礎スキルを鍛えることで派生するスキルだと思ってください。
【複合スキル】は別系統のスキルの組み合わせで発生する特殊スキルです。
……ここまではいいですか?」
「はい、理解できてます」
今のところ俺の認識とズレはない。
複合スキルは知らなかったが、恐らくイメージはかけ離れてないだろう。
「基礎スキルは、関連するトリガー行動。例えば木工なら木を切って加工する等すると入手することが出来ます。これはかなりの種類があり、テスターでもまだ全ては把握しきれていないほどです」
二ヶ月続けてるテスターたちでもまだ全容は掴めないほどの種類なのか。
「行き詰まり感じた時に、なんらかの行動とってみると意外なスキルを入手して道が開ける、と言ったこともそれなりにありますよ」
「なるほど、迷ったらまず行動する事で開ける道もある……と」
走るだけで脚力スキルが増えたからな。
困ったらまず行動。覚えておこう。
「そして発展スキルですが……キョウさん、スキルの中に幾つか違和感を感じたものはありませんか?」
「違和感……ですか?」
なんだ?
俺の持ってるスキルなんてまだ幾つかしか無い。
そんな状態の俺でも持っていると確信できるもので、更に違和感があるもの……?
んん……?
「おや、違和感は持たなかったですか」
「えぇと……?」
「う~ん……これは普段プレイするゲームの差、ですかね」
ゲーム差?
「【筋力】【椀力】と言ったスキルを持っていませんか?」
「え? はい、持ってます」
「おかしいと思いませんでした? ステータスにSTRとVITがあるのに何故スキルに同じ意味を持つものがあるのか、と」
「あぁ、そう言われてみればそうなのかも? ……正直、ステータス補正用のスキルだと思ってました」
「なるほど、そう考えていたならたしかに違和感を持たないかもしれませんね」
SRPGやMMOだと割とよく見るスキルだから何も不自然に考えてなかった……
「ちなみに【腕力】スキルにSTR補正はありませんよ?」
「マジデ!? 一体何のための【腕力】スキルなんだそれ」
「やっぱりそう思いますよね?」
「【腕力】スキルなのに腕力が上がらないとか詐欺じゃないですか」
「僕もそう思うので、運営に修正要望提出しました」
「ですよね」
表記ゆれどころじゃない。
明確に【腕力】って書いてあるのに腕力が増えないのは流石にプレイヤーに叩かれる可能性が高い。
製品版では絶対に治すべき点だコレは。
「でも、腕力スキルが無意味なスキルなのかと言うと、答えはノーです」
「何らかの使いみちがあると?」
「そうですね。それじゃあ、丁度いいから【腕力】を一例に説明しましょう」
ここからが本題か。
「一見、何の特殊効果もない【腕力】スキルですが、【腕力】のスキルが一定値に達すると【肩制御】【肘制御】【手首制御】が発生します。これが【発展スキル】です」
「一気に複数発生するんですか?」
「あくまでこれは【腕力】からの派生の話ですが、3つ同時に開放されますね」
一度に複数増えると言うことは、色々手を出してるやつはスキルのページが凄まじい事になりそうだな。
「スキルによっては30まで上げてもまだ派生スキルが追加される気配がないものがあったり、スキル熟練度一桁で派生するけど、一つしか派生しなかったりとスキルによってかなり差があるみたいだね」
「なるほど、スキル派生の条件は一律ではない、と」
メモがないから忘れないように頭にいれるので一苦労だな。
「そして最後の複合スキルですけど、これは魔法なんかに多く見られますね。風属性魔法と水属性魔法を組み合わせて氷嵐魔法を生み出したり、複雑なのだと【調合】スキルと【魔力付与】スキルと【錬金】スキルを組み合わせて霊薬を作り出せたみたいな情報もあります」
「言葉のイメージ通りですね。俺みたいな戦士系での複合スキルって無いんですか?」
そういや剣士の複合スキルって実際他のゲームだとどんなんだ?
魔法剣くらいしか思い浮かばんが……
「あるみたいですよ? えーと……【両手剣適正】と【渾身】と【踏み込み】と【浸透勁】で兜割りモドキが出来たって書き込みがありますね」
「4つっすか!? ってモドキて……」
思いの外地味な上にやたら複雑だな……!
「僕はメイン生産系なんで詳しくは調べてないですけど、同じスレには戦闘スキルは魔法みたいにわかりやすく攻撃効果が出るものが少ないので技術の組み合わせで独自の技を生み出すみたいな事が書いてあります」
「あら? 必殺技みたいなのはこのゲーム無いんですかね?」
「一応あるみたいですよ? 道場とかでNPCが教えてくれるらしいです。ただ、みんな教えてもらった技を魔改造して自分にあった使い方にするのが戦闘系やってるテスターの流行りみたい」
「は~、必殺技とかも自分オリジナルにできるんですねぇ」
「まぁ、自分の意志で身体動かせるからね、このゲーム」
「それもそうですね」
NPCから教えてもらうのはあくまで技の使い方と基本となるモーション位なんだろう。
他のゲームみたいに必殺技のモーションを矯正された挙げ句、技後硬直で動けないとかなったら、俺ならそんなスキルは確実にトドメを刺せる時以外怖くて使えない。
「とまぁ、今話した3つの系統が現在わかってるこのゲームのスキルの根幹だね。これらは戦闘に限らず全てのスキルに共通する仕組みだから、覚えておけば絶対に役に立ちますよ」
確かに、コレは知ってるのと知らないのとでは天と地くらい差が出る情報だな。
「あとの注意点は、スキルは長い間使用しないとスキルレベルが下がります。緩やかにですけどね」
「え、下がるんですか!?」
「体がなまるっていうか、そういうのの再現なんじゃないかと思うんですけどね」
「あぁ、このゲームなら普通にありえる……」
兎に角、ゲーム性に左右されない範囲では追求できるところでは徹底的にリアルを追求してる感があるからな。
「ほかにもスキルダウンの条件があって、特定の相性の悪いスキルを同時に手に入れて使用していると、相反するスキルのレベルダウンが加速するっていうのは検証でほぼ確定してるみたいですね」
「例えばどんなのです?」
「水の魔法と火の魔法を同時に使ってると、反発し合って殆レベルが上がらないそうです。剣みたいな武器適正と魔法適正なんかも。水と火程ではないですけど、両立しようとするとやはり成長が鈍るようです」
スキルによって相反度合いが違うってことか。
魔法剣は出来るけど剣も魔法も半端になるか、どちらかをかなり抑えれば物にできる。
極端に反発するスキル同士はまともにスキルレベル上げが出来ないほどマイナス補正がかかると。
「あれ、じゃあ木工覚えると戦闘スキルがヤバイって事ですか?」
家は欲しいが、弱くなるのはちょっと困るんですけど……
「そこは大丈夫。戦闘職同士、生産職同士では相性が悪いものは反発するけど、戦闘職と生産職の単純な両立については殆ど誤差レベルのマイナス補正しかかからないみたいです。実際僕も弓を併用してますからね」
「よかった……それなら安心して覚えられそうだ」
しばらくは木工と戦闘スキルを集中して磨いていけばいいか。
「……今教えられそうなことはこれくらいかな?
「スゲー判りやすかったです。助かります」
「いえいえ、どう致しまして」
「そうだ、この際ここである程度木工スキルを覚えていくといいんじゃないかな。少しでもスキルを持っておけば今後の勉強会での理解度も上がると思いますし」
「成る程……たしかにそうですね」
どうせ家を建てるために覚える必要が出てくるんだ。
早いところ基礎だけでも覚えておくのは有りか。
「わかりました、よろしくおねがいします」
「それじゃ、今日のところは僕の道具を使うといいよ」
渡されたのは、ノコギリと斧とハンマーと……何だろう、杭?
「庭に丸太が幾つかあるので、まずはそれを木材にしてみましょう」
「わかりました……そういえば、木工のスキルって上がるとどういう効果があるんですか?」
「う~ん……わかりやすい所で言えば、スキルが上がった分だけノコギリやノミなんかの刃が思い通りに木に入るようになるとかかな。今僕の木工は28なんだけど、最初に比べて目に見えてノコギリですんなり気が切れるようになったよ。ちょっと見てて」
と、足元にあった細い丸太を適当に立てると、おもむろに縦にノコギリを引いていくアラマキさん。
細いと言っても俺の腕よりは太い木を、まぁ器用に縦に切るもんだな。
何の木か俺には判らないが、ものの数分で真っ二つにしてみせた。
「とまぁ、こんな感じだけど、さぁ、これを同じようにやってみてください」
そう言って渡されたのは手首くらいの太さの同じ木。
長さも半分程度だ。
初心者用と言うことだろう。
「それじゃ……」
と、ノコギリを当てて固まった。
「……ぐ……ぬ」
プルプル震えながらノコギリを引こうとしても丸太の縁に引っかかったままびくともしない。
な、何故だ!?
ノコギリは引かなきゃ切れないっていうのは俺だって知ってる。
だが、そもそも引けないんですけど!?
「まぁ、これが木工スキル0と28の差って所かな」
「ちょっと……木工舐めてましたね。こんな細い木なのにノコギリ引けないとは思いましませんでした」
「そこは仕方ないと思いますよ。僕だってリアルじゃ片手で持てるような木材にノコギリ入れるだけで汗だくになるし。慣れてない上にスキルの補助がないと誰でもこんなものだと思います」
「スキル様々ですね……」
「本当にね。だからこそここでスキルを覚えてもらうことで、今後一気に楽になるはずですよ」
「コレはちょっと本腰入れて習う必要がありそうですわ」
「まぁ、最初は縦引きなんて難しいことはやるつもりはないので安心してください」
木を縦に切るのってやっぱり普通に難しいのか……
難しいからこそ、木工スキルの有無による差の説明でやらせたって事なのかな。
「まずは、丸太を材木にするところから覚えましょうか」
それから日が傾くまで、ひたすら材木作成に没頭した。
①切り出された丸太を斧でぶっ叩く。
②裂け目に楔(杭のようなもの)をハンマーで打ち込む。
③開かれた裂け目を開いて丸太を割る。
④斧で適度なサイズに割く。
コレをひたすら繰り返した。
単純作業だから、何も考えずに黙々とただひたすらに。
普段やらないことだから何か途中から楽しくなってきたってのもあったが、結構いいペースで進んだような気がする。
最初のうちは、斧で材木を割るのも何度も斧に刺さった気を叩きつけるような不格好さだったが、用意された丸太をを割り切る頃にはしっかり力を込めてやれば3発くらいで割れるようになった。
ちなみにアラマキさんは大して力も込めてないような軽さで二撃確割だ。
スゲェベテランっぽい動きだった。
ひたすら木材と格闘し続けた結果、この数時間で木工レベルが一気に11まで上がっていた。
さすが短期集中講座。
ディスプレイ越しにこういう地道なスキル上げをするのって正直あまり好きじゃないが、自分の体を動かしてると、地味な作業のはずなのに何かキャンプの時みたく無駄にアグレッシブな思考になるんだよな。
「木工10超えたなら十分木工師を名乗れますね。今日作った木材で仮屋も作れるようになってるはずですよ?」
「マジですか? ……といっても、俺家の作り方とか判らないんですけど」
DIYとかすらまともにやらないゲーオタだったんで。
「一定以上のスキルが有ると、イメージと言うか作ろうとしてるものへのサポートが入るんですよ。スキルウィンドウの木工から現在作成可能な物が選べるようになってるはずなんですけど」
「えぇと……ああ、ありますね。小屋が建てれるようになってます」
「じゃあ、試しにその小屋を選択してみてください」
小屋の原寸大立体図みたいなのが出た。
半透明な、模型?
「透明な小屋が表示されましたか?」
「ええ。見えてます」
「それが設計図になるので、その通りに木材を組み上げていくことで小屋が完成する……といった感じですね」
なるほど、サポートっていうのは要するに完成品イメージを目視化してくれるのか。
たしかにこの通りに材料組み合わせていくだけでいいなら俺にも何とかなりそうだ、
他のゲームじゃ素材さえアレばレシピを選んでボタン一発だったけど、このゲームの世界観で制作系ってどうするんだと思ったが、こういう表現の仕方だったんだな。
「スキルレベル10の小屋なら今回作った木材で十分作れるので、早速試してみてください。今後の講義を続けていけば20でそれなりに立派な家が作れるようになるので、そこを目標にするといいと思います」
「いやぁ、何から何まで助かりました。これからも宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらもなにか頼むことがあるかと思うので、そのときはお願いしますよ」
「ええ、もちろん」
持ちつ持たれつ、ってやつだな。
しかし20でしっかりした家が建てられるようになるのか。
それ以上やるかはともかくとして、目先の目標はコレで一つ決まったな。
目指すは、それなりに立派な俺の家だ!
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だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
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男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
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ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
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ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
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最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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