ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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一章

十九話 ギギリ

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 道すがらエイスのおっちゃんから受けた説明によると、村の入口にたむろしてるのは因縁ある別の村の連中らしい。

 なんでも相手側の村の村長が突然やってくるとか何とかで当日に先触れを寄越しておいて、今日は村を上げての狩りの祝いがあるから日を改めるよう村長が言った所騒ぎ出したんだそうな。

 事前連絡もなく当日に会いに来るとかアホじゃねーの? って思うところだが、この村は元々そういう横暴なやり方に耐えられなくなって出奔した連中で作った村なので、相手側は脱落者としてこの村のことを完全に見下しているらしい。

 正直相手の村の発展度合いが判らんからなんとも言えんが、この村の雰囲気から察するに見捨てられたのは相手側なんじゃねぇの? とか思ったりする。
 なんせこの村、衣食住で特に困ってねぇからなぁ。
 我が家はまぁ、越してきたばかりで例外として。

 そんな話を聞きつつ、村の入口にたどり着いてみれば、まるでデモ隊と警察の衝突みたいな現場が待ち受けていた。

「ウチらがキレてるのはまぁ当然なんですけど、何で相手側までキレてるんです? 事前連絡無しで勝手に押しかけたんでしょ?」
「そりゃオメェ、『俺達が出向いてやったのに、追い返すとは何事だ!』って感じだろうよ」
「ナニソレすごい……冗談抜きでそこまで傲慢に慣れるとか、それどんなプロ村民……」

 そんな理屈でよくあそこまで本気で怒れるな……
 俺ならそんな状況、自分の発言の馬鹿らしさについ苦笑いしちまうわ。

「彼奴等が言うには、自分達が事前に知らせに来てやった……んだそうだが、当日に来ておいて何言ってやがるんだってなぁ」
「それは事前に知らせる意味がないってやつなんじゃ……」
「連中の中では俺等は落伍者だから、自分達に従うのが当たり前だと思ってんだろうさ。まぁ村人の数でみれば連中のほうがうちらの何倍も居るからな」

 あら、相手側の村のほうが大きく発展してんのか。
 この村の何倍も人が居るなら下手したら街って言っても良いじゃないのか?
 そんな連中が見下してる庄村に一体何の用だってんだ?
 ただ因縁をつけるためだけにここまでに人数を動員するとは思えんが……

「お、ちょうどいい所に間に合ったみたいだな。見な、あの背の高い白髪が居るだろう? アレがガガナ村の現村長のギギリだ。まぁ村長と言っても実質はアイツの親父であるガガナが実験を握ってるがな」

 ガガナ村のガガナ村長て……自分の名前を村の名前にしたのか。
 すげぇな、後になって悶絶したりしなかったんだろうか。

「オイオイ、コイツはどういう事だ? 俺は迎えの宴をするように遣いを出した筈だが、なんでウチの村のモンが村の外で待たされてるんだぁ?」
「宴の準備はしているさ。この村の狩猟の宴だがな? 何故事前に何の連絡も無く村の前に押しかけて迷惑をかける様な無礼者の為に宴を開いてやらねばならぬのだ?」
「ハァ? 馬鹿かテメェ!? この村はガガナ村から逃げ出したクズ共の村だろうが。ガガナ村の村長は俺だぞ。なら元々俺の村のモンが作ったこの村も俺のものだろうが。長を歓迎する程度の礼儀も知らんのかテメェらは!?」

 アイツは何を言ってるんだろうか……
 まるでガキのような理論だが……ここの価値観だとアレが普通なのか?

 昔の貴族の考え方とか現代から見ると意味不明だから、割と有り得そうで怖いんだよなぁ。
 異世界転生物での主人公トラブルって大抵貴族が滅茶苦茶言って主人公やヒロインが反発するとかだし。

「何を言っている? 俺達が村を出て独立することはガガナと話はついている。その為に少なくない物品も渡してある。何を勘違いしてるが既に俺達はガガナ村とは一切関係ない、ハイナ村という別の村だ」
「やっぱりテメェは馬ァ鹿だな! 全村長の親父がどうこうとか一体何の意味がある? 今は俺がガガナ村長だぞ。俺がガガナ村からの独立なんぞ認めてねぇんだからテメェらはガガナの、俺の所有物だろうが。ちっとは頭使って喋れやオッサン」
「……お前さんが村長になった時点で俺達は既にガガナ村からは独立済みだ。ガガナの村長が俺達に口をだす権利なんぞ欠片もないだろうが……」
「ブハハハハ! オメェ、自分の発言も忘れるほど記憶力がねぇのか? テメェは自分で親父の代までガガナに居たと言ってるじゃねぇか。 オヤジの持ち物は息子である俺の持ち物でもあるのは当然だろうが」
「……ハァ……お前さん、前村長が決めたことは自分とは関係ないと言ったばかりだろ」
「ハァ!? 馬鹿か、いつ俺がそんな事を言った!? 分不相応にも村長を名乗ってるやつが適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 マジかアイツ!
 すげぇメチャクチャなこと言ってんぞ。
 一言二言前に自分で言った事と真逆のことを当たり前のように吐いてるんだが。

「コレがここらの村長……というか権力者の考え方とか、ちょっと俺にはついていけないな」
「そんな訳あるか。あれはギギリの頭がおかしいだけだ」
「あ、やっぱりそうなんですね……」

 よかった、あの考え方が普通とかだったら偉い人が居そうなデカイ街とか行きたくねぇわ。
 絶対に難癖つけられてトラブルに巻き込まれる未来しか見えやしねぇ。

「オヤジのガガナは屑だが有能だ、俺達は奴のやり方について行けなくなって去ったが、殆の奴らがガガナの下に残った。やり方に問題があっても村は富んでいたんだんだ。だがギギリはなぁ……」
「その言い方だと、なにか問題が? 七光でただ偉ぶってるだけの無能とか……」
「正解」
「まじっすか?」
「マジっすわ」

 ただのクズですかそうですか……

 見ず知らずの俺にアレだけ親切に色々教えてくれたおっちゃんに、ここまで悪しざまに言われるとか一体過去に何やらかしたんだよアイツ。

「あれ、でもアイツは村長やってるんですよね。取り巻きもあんなにいるし」
「多分だが、村から抜けたくても無理難題を吹っかけて抜けさせないんだろうな。ここに来てる奴らはギギリをうまく口車に乗せて美味い汁啜ってる連中なんだろうよ」
「なるほど……」

 確かに、さっきの言動見てると凄く納得できるな……

「御託はいい。お前の妄言に付き合ってるほど俺達は暇じゃねぇんだ。さっさと用件を言え」
「テメェ……自分の立場も分からないほど馬鹿なのか? アァ!?」
「御託はいい……そういった筈だが?」
「ぐ……」

 ああ、アレか。
 俺が初めて話した時にやられたプレッシャー掛けるやつ。
 アレ結構怖いんだよな。

「ハッ……良いだろう。話というのは何ということはない、俺達ガガナ村がこの土地を使ってやろうというのだ」
「……何を言ってる?」

 いや、ほんとに何言ってるんだコイツ?

「本来なら俺の手元から離れた馬鹿な貴様らはガガナを名乗ることも許されん。だが俺は寛大だからな。この土地を開墾したテメェ等の労を認めてやろうというのだ。なんならこの壁の外側に新しく住み着くことを許してやってもいいぞ?」
「……話にならんな。俺達はガガナとは関係ないと何度言えばわかる? しかもこの場所をガガナが使うだと? 馬鹿も休み休み言え。ここを切り開いたのは俺達ハイナ村だ。お前たちにこの土地を渡すつもりはない!」

 関係ないやつが後からのこのことしゃしゃり出てきて『今日から俺達がここを使ってやろう』とか普通の神経をしていたら巫山戯んなの一言で終わりだわな。
 しかしコイツ、『テメェ』と『馬鹿』を言わないと死ぬ病気にでも掛かってるんだろうか。

「ハッ……馬鹿が、ちょっと頭の働くやつなら俺の申し出を感謝して受け入れるってものだが、テメェらは余程頭が弱いようだな?」
「何処の誰が、自分の土地を明け渡せと言われて感謝するバカが居る。寝言は寝て言うがいい」
「おいおい、本当に良いのか? 俺達がテメェ等弱小の村を守ってやると言ってるんだぜ?」
「必要ないな。お前たちに守られなければやっていけない様な軟弱はこの村にはいない。大体、お前らと違いハイナを作った俺達は元々狩りを中心に行ってきた者達の集まりだ。ガガナに残った奴らにどうにか出来るなら俺達はもっと容易に対処できる」

 ああ、この村って狩り担当した人達が抜けて作った村だったのか。
 なるほど、村の男の殆どが狩りに参加してたのはそういう事なのか。
 ガガナ村を抜けたっていうのも狩りに関して村長と折り合いがつかなかったとかそういう話なんだろうか。

「本当かぁ? 最近は何かと物騒だからなぁ。危険な獣がこの辺りに紛れ込んで来るかもしれんぞ? そう、例えばライノスとかなぁ?」

 ……今、何つった?

「……何が言いたい?」
「別に何も? 俺の部下には優秀な野獣遣いがいるからなぁ。大人しくこの土地を献上して俺の傘下に入るというならテメェ等を保護してやっても良いと言っているだけだぜ?」
「貴様……」

 俺達がライノスに襲われて、この村に帰ってきた時既に村の前にはガガナの連中が集っていた。
 ライノスに襲われたのは狩場の帰り、この村からかなり離れた場所だ。
 なのにアイツは何故俺達がここに居る筈のないライノスに襲われたことを知っている?
 ……なんて、答えはわかりきってるか。
 十中八九、コイツが俺達にライノスをけしかけた……と考えるのが自然だわな。

 ただし、けしかけさせただけで結果は確認してないだろう。
 ハティにライノスを潰されたのを知っていたらライノスを匂わせた恫喝なんてしないだろうからな。
 いくら無能だとか言われてても普通は気づく……よな?

「まぁ、俺は寛大だからな。もう一度考える時間くらいは与えてやろうじゃないか。これから俺は別の村との話があるからな。3日後、帰りにもう一度訪れてやる。次はちゃんと歓迎の宴を開いて待ってるんだな」
「……おい……」
「馬鹿は力関係も判っていねぇ。テメェは黙って頷いていれば良いんだ!」

 言いたいことを言うだけ言って、ギギリは仲間を引き連れて去っていった。
 これから別の村とやらでも今回と同じようなことを言いに行くつもりなんだろう。

 アレだけうるさく騒いでた連中が居なくなり、ようやく村が静かになった。
 ……がこれは流石に色々対策する必要があるだろうな。
 暴力に物を言わせて手下を増やすとか、完全にチンピラのやり口だがアレで非常に有効なのは事実だ。
 というか見た目も言動もギギリは完全にただのチンピラだな。

 しかし野獣使い……ねぇ。
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