ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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一章

二十話 災いの種火

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「あの野郎! ただの無能だからと放置してやったが、俺達に牙を剥くとはいい度胸だ……!」

 ガガナ村の連中が帰った後、本来なら狩猟成功の宴を開くはずだった広場。
 しかしいま開かれているのは宴ではなく村人全員参加の対ガガナ村にたいする対策会議だ。

 ハイナ村は狩人とその家族が中心の武闘派らしく考え方もやはり武闘派だった。

「あんなクソに従うくらいならライノスと戦って死ぬ方がマシだ!」
「おいおい、口が悪いな。俺等はギギリのような道理を弁えん獣とは違う。人としてあの獣を躾けてやらねばならん」
「ガーヴさん、俺達が獣に敬意を払うのは俺達後肉になるからだぜ? 食えないクズに敬意は要らんでしょう」
「はっ……ちげぇねぇ」

 穏やかな村だと思ったが、それは村が平和だったからって事か。
 一度牙をむかれれば容赦はしないと。

 よく考えたら、村を囲う壁の事や畑のことだったり、村での活動に必要不可欠な知識が足りていなかった。
 家の建て方についても知っていた老人が亡くなったことでアラマキさんが来るまで新しい家が建てられなかったようだし……
 知識が狩りに関することに偏っていた上に数少ない知識をもった高齢者が減ってああいう状況になってしまったということなんだろう。

 なんつうか、あのギギリって奴は文字通り眠れる獅子を起こしてしまったらしい。

「たしかにギギリはただの馬鹿だが、奴の言葉は無視はできん」
「野獣使い……とやらですね」
「そうだ。奴らはアルゼイ達がライノスに襲われたことを知っていた。時間的に考えて奴らがこの村の入口についた頃とライノスとの遭遇はほぼ同時期なのにも関わらずだ」
「まぁ、どう考えてもその野獣使いとやらの仕業でしょうな」
「ああ、舐めた真似してくれる。無茶な獣をけしかけておいて、襲われたくなければ村を明け渡せだと……? 黙って手前ぇの村の中で粋がっていりゃ良いものを、俺等に喧嘩売るとはいい度胸だ」

 確かに、あそこまであからさまなマッチポンプをわざわざバラすとかいい度胸をしている。
 ライノスをけしかければどうにもならないと確信しての強気なんだろうが、普通仕掛けるにしてもマッチポンプ事実を隠して恩を売るとか安全策を取るもんじゃないのか?
 自己顕示欲が強すぎて正常な判断が下せなくなってんのか……

「新入り。実際に襲われたお前から見てどう思う?」

 新入りである俺に意見を聞くのか。
 ……と思ったらリーダーたちはまだ帰ってきてないのか。
 さっき迎えを出してたみたいだからじきに戻ってくるとは思うが、ここは答えれるのは俺しか居ないか。

「まぁ、あの様子じゃ仕掛けたライノスがどうなったかなんて確認もせずに来たんでしょう。3日後に来ると言ってたけれど、その時の相手側の反応でどう動くか決めておくべきでしょうね」
「油断している奴らを背撃して今すぐブチのめすって手もあると思うが?」
「切り札がライノスだけかどうかまだ判断ができません。今できることは斥候を出して奴らの向かう先を調べることと、しっかりとした迎撃準備じゃないかと」
「何故斥候なんだ? ガガナ村の場所は知れている。そして奴らが次に向かうのは別の村と言っていたのにガガナ村ではなく何故ギギリ達の足を追う必要が?」

 ありゃ、素人考えに思いつきで良さそうな行動のつもりで言ったけど的外れだったか?
 けど、ここまで口に出しちまったし最後まで言わないと駄目か。

「連中が野獣使いとやらと一緒にいるのか別動なのかは判りませんが、次の村に着く頃にはライノスがどうなったのか向こう側も理解すると思います。その際にライノスを我々が撃退したことに気付いた奴らが3日後にここへ向かわずガガナ村へ取って返すようであれば待ち伏せなり背撃なりを仕掛ければいいと思いますし、それでもここを目指すようであれば準備万端で待ち受けて迎え撃てばいいかと」
「なるほどな。逃げるようならライノス以外の手札がない……つまり恐れる必要はないと言うわけだな」
「ええ、逆にそれでも強気で来るのであれば何らかの切り札があると考えて良いかなと。それならそれでここではっきりと決別した上で叩き潰せばいい。準備を整えた上でそれでも勝てないようならそれはもう恭順か逃亡以外に生き残る道はないですから」

 村を奪われるくらいならライノスと戦って死ぬほうがマシだと言い切れるくらいに腹が決まってるのならこの対応が一番わかりやすくてかつ、現実的……だと思う。
 死ぬまで闘うとまで言うのなら、わざわざ相手の用意した舞台の上で戦う必要はない。
 弱みを見せたところを潰すなり、その舞台をひっくり返してやればいいんだ。
 ゲームだって何だって相手の有利な土俵の上で戦ったりしたら、実力差なんて簡単に覆されちまうもんだからな。

「ガーヴ、どう思う?」
「言ってることの筋は通ってると思いますぜ。俺もコイツの意見に賛成でさ」
「僕も、それが現実的な意見じゃないかと思いますよ」
「アラマキか」
「今戻りました。簡単な説明は既に」

 仕事が終わってログインしてきたのか。
 アラマキさんはログアウト中は用事で森に入るという事になっており、それ村長から村人達に伝わっている。
 今回の狩りもそのせいで参加できないことは事前に聞いていたのでだれもアラマキさんの登場に驚いた人達は居なかった。

「直接見たわけじゃないですが、話を聞く限り明確な敵対宣言に聞こえました。子供のお使いじゃないんですから村長という立場の人間がそう取れる発言をしたというのなら、こじつけにならない限りこちらがどう取っても非は相手側にあります」
「もっともだな。人を纏める長が迂闊な言葉を吐いたんだ。吐いた唾は飲み込めんと思い知らせる必要がある」
「キョウさんの言葉通り、逃げるなら背を、向かってくるのならその足元を潰してやるのがいいでしょう」
「そうだな、誰か新入り……いや、キョウの意見に反対するもの、別の案を出せるやつは居るか!?」

 見回すが、誰も挙手はない。
 ただ、爛々とした目で村長を眺めている。
 すげぇ雰囲気だ。
 狩りの直前でもここまで殺気立っては居なかった。

「居ねぇな? ならガガチとは今日を持って敵対だ! あの人数では速度は出せん筈。偵察役はガーヴが選出!」
「へい!」
「あの人数だから速度は出ねぇ筈だから準備を整えてから出ても十分間に合うだろう。残りは迎撃準備だ!」
「応!」

 まさにあれよあれよという内に、というやつだ。
 皆自分の持ち場が判っているのか、即座に散っていく。
 まるで軍隊のようだ。

「すまねぇなアラマキさん。こっちから家の作り方を伝授してほしいと頼んでおきながらこんな事になっちまってよ」
「いえ、仕方ないですよ。この村の存亡の危機なんでしょう?」
「ああ、この件が住んで村が落ち着いたら改めて教えてもらいたい。頼めるだろうか?」
「勿論ですよ。僕もここに住まわせてもらっているハイナ村の一員ですから。普段の時間を村のためではなく自由に使う事を認めてもらっていますし、コレくらいのお手伝いは当然です」
「助かる」

 狩りやったり死にかけたりして忘れてたけど、そう言えば俺もアラマキさんに木工鍛えてもらってちょっと立派なマイホーム作るのが目標だったんだ。 
 
「あと、明日ちょっと個人的な都合でキョウさんを借りたいのですけど、シギンさん側で急ぎの用事みたいなのはありますか?」
「いや、明日は村を纏める必要があるからキョウをどうこうという予定はないな。そもそもライノスに襲われて足を壊したばかりと聞いていたから休ませるつもりだったしな」
「では、明日一日キョウさんを借りますね」

 村長とアラマキさんの間で俺の貸出契約がまとまってしまった。
 俺の意見は?

「明日に関しては了解したが、明後日はキョウは俺に付き合ってもらいたい。正確にはお前たち兄弟とハティにだが」
「今日の件と、迎撃の際の俺達の動きについてですね」
「ああ。特にハティについては俺達にとっての切り札になる。正直な話アレの力を借りずに事を終わらせられるのならそれが最良だが、今回のライノスのように俺達だけでは対処できない化物をけしかけられた時にはそうも言ってられん。ハティには迷惑な話だがなりふりかまっている余裕はないんでな」

 そうだな。
 実際に退治してみた感じ、あれはこの村の人間が力を合わせて罠を仕掛け準備万端で待ち構えても恐らく対応は難しいと感じた。
 人がライノスの突進を避けきれたとしても、たとえ倒すことが出来たとしても恐らくこの村は踏み潰されてしまうだろう。

「わかりました。ハティがどういう反応するかは俺にもわからないのでハティの力添えは確約できないけど、明後日の話にはエリスと二人参加させます」
「ああ、それでいい。可能性が開けるだけでも十分だ。スマンが頼むぞ」

 そういって踵を返すと他の村人たちに指示を与えていく。
 なんというか、迷いも淀みもなく村人に指示を出していく姿は控えめに言って格好いい。
 まさにリーダーと言った感じがする。

 村長を見送って一息、アラマキさんに向き直る。
 わざわざ俺を名指しで一日借りたいと言うほどだ。
 なにか特別な理由があるんだろう。

「少々強引に誘わせてもらったけど、申し訳ないけど明日同行してもらえないかな」
「別に同行することに関しては構わないですけど、何か用事があるんですか?」
「運営側を交えた情報交換……というかテスターミーティングだと思ってもらえると」

 運営を交えた、か。
 たしかに強引に話を持っていくなりしないと何も知らない村人にバカ正直に伝える訳にはいかない内容ではあるな。
 運営ってこの世界のAIにとって神と言っても過言じゃないはずだからなぁ。
 しかしテスターミーティングねぇ?

「そんな事やってるんですか? とはいえ、俺って寝たきりでこの筐体も外部ネットに繋がってないからチャット会議とか参加できないですよ?」
「そこは大丈夫。実は今回から運営が新しく作っているキャラデータのまま参加できるVR会議ツールのテストも兼ねたミーテイングなんです。製品版へのキャラクターコンバートの実験も兼ねたもので、会議事態はこのALPHAサーバ内で行われるので接続に関しても問題ないよ」

 そんなツールも作っていたのか。
 ……というか、ALPHAサーバからはともかくオープンβからの移行とかもあるから当然といえば当然なのか。

「わかりました。参加するのは僕だけでいいんですか? エリスとかは……」
「ミーティングはアカウントに紐付いたキャラクター移動サービスを使ったものだから育成用AIの参加はできないんだ」
「わかりました。じゃあ後でエリスに断っておかないとな」

 運営絡みのミーティングなら、参加するのはテスターとしての義務でもあるしな。

「実は今回のミーティングが組まれた理由は、キョウさんがプレイングのフィードバックできない事や、色々な特殊な状況についてを僕が変わりに報告した結果、直接キョウさんから話を聞きたいということで組まれたものなんです」
「なるほど、それは俺が参加しない訳にはいかないですね。……といってもまだ始めて1週間も立ってないからプレイングに関しては浅い意見しか出せそうにないですけどね」
「十分特殊なプレイをしてると思いますけどね。僕は」

 ネトゲの中で野糞するのとか、たしかに特殊なプレイではあったな……
 テイムスキルもないのにモンスターが懐いたりもしてるし、確かにちょっと気になる事もあるからこの際に色々聞けることは聞いておきたい、っていうのはあるな。

「じゃあ、明日の正午にミーティングが始まるから、10分前に呼びに行くけど大丈夫かな?」
「わかりました、では明日は出かけないように家で過ごしています」

 どちらにしろ、足は治ったけどすぐには激しい動きはしないようにと言われてるし数日は足を使ったスキル訓練は休憩するつもりだったからな。
 木工の勉強会もないならちょうどいい時間の使い方になるってものだろう。

「うん、それでお願いいます。それじゃあ、また明日」
「ええ、また明日」

 こんな時期に俺達だけよそ事やってて良いのかとかちょっと考えてしまうが、この世界の為だと納得してもらうしか無いか。

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