ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
40 / 330
一章

三十七話 野獣使いⅡ

しおりを挟む
「話にならんな、そんな要求受け入れられるはずがない」
「まぁ、そうでしょうな。普通はそう答えるでしょうとも」

 確かに悪役らしいといえば悪役らしい奴だ。
 MMOであろうがRPGであるならこういう倒すべき悪役は必要だと思うが、ここまでリアリティを追求したゲームでこんな思考の奴を登場させるかね。
 というかこんなの製品版じゃ実装できねぇだろ。
 ドットベースの昔のRPGなら兎も角、ここまでリアルなグラフィック表現でレーティングとかヒデェ事になるんじゃ……
 というかコイツのAI組んだやつどういうセンスしてるんだ。
 確かに効率だとか手間とかを考えるとこういう考えの悪党ってリアルでも現れそうな気がしないでもないが、だからってそれを人間と遜色ないAIを持つこのゲームに登場させるかね?
 実際、ひどい虐殺起こそうとしてるんだが大丈夫なのかこれ?

「そもそもギギリ氏からはずいぶんと奮発されてますからねぇ。乗り換えるだなんてとんでもない」
「あの馬鹿は一体何人生贄にしたってんだ?」
「ええ、ええ! そりゃもう、昨日だけで200人近くも提供してくれましてね? おかげで満腹になってこの子はすっかり根付いちゃったわけですが……」
「な……に……?」

 200人も生贄を提供だと?
 それに昨日って……

「お前、まさか交渉に向かったという村を襲ったのか!?」
「ええ、ええ。ギギリ氏からは『生意気にも一帯の主である俺に逆らったクズ共だから好きに食い荒らしても良い』と御達しがありましたので、ガガナ村の皆さんが引き上げた後に美味しくいただきました」
「馬鹿な! そんな妄言を真に受けたとでも言うのか!?」
「妄言だろうとなんだろうと、雇い主のお言葉ですよ? 従うに決まっているでしょうよ」
「そんな、そんな理由で貴様ら村一つ滅ぼしたとでも言うのか!」
「ええ。そうですよ?」

 あのギギリって奴、無能だ阿呆だと聞いていたが、とっくに頭のネジがすっぽ抜けてんじゃねぇか。
 いう事聞かないから皆殺しとか普通じゃねぇぞ。
 というか一帯の主ってどういう事だ?
 村長だけじゃ飽き足らず王様気分にでもなってんのか?
 そんな奴の言うことをホイホイ聞き入れて実行するコイツも相当イカれているが……

「まぁ、そう言う様に仕立てたのは私ですけどねぇ?」
「仕立てただと?」
「あの自己中心的なだけで世の中を知らないガキ……おっと、お子様なギギリ氏が見も知らぬ他所の村人や、まして自分の村の村人を皆殺しにしようだなんて言い出せると思います?」

 ……は?

「おい……おい、待て。お前今なんつった!?」
「ギギリ氏が自己中心的なだけの……」
「まさかお前、ガガナ村を!」
「自分から聞いておいて言葉を遮るだなんて、育ちの悪さが伺えますねぇ。……まぁ、答えて差し上げましょうとも。ええ、ええ! 三日前にこの村に寄る時に村に残っていた全員、この子の栄養になっていただきましたよ?」
「この外道が!」

 ガーヴさんが叫んだその時にはその姿を見失っていた。
 そこに居ないと気がついたのは、俺の目の前で問答していた筈のガーヴさんの声が何故か野獣使いの背後から聞こえたからだ。
 一体何をやったんだ!?

「ケヒヒ……外道とは人聞きの悪い。育てているペットに餌をやるのは飼い主の義務でしょうに」

 しかしその不意打ちを野獣使いは当たり前のように対応してみせた。
 おどけて見せているが、余裕が透けて見える……いやそう見せて挑発しているのか。
 攻撃を受けきっておきながら、ガーヴさんへの反撃をする気配がない。
 動くのは手ではなくもっぱら口ばかりだ。

「それにこちらも収穫のためにそれなりに手間を掛けているんですよ? 都合の良い人形に仕立てるまで半年ほど掛かってしまいましたし、本来の彼に合わせて馬鹿を演じさせるのにも一苦労なんですから」
「ギギリの心を壊したのもテメェの仕業か!」
「失敬な、壊してなんていませんよ。壊れないよう綺麗に丁寧にくり抜きましたから」
「くり……抜き?」

 あぁ……そういう事か。
 つい最近似たようなネタの漫画読んだからおおよそ判っちまった。

「キヒヒヒ……テメェ、馬鹿か? ここまで言ってまだわかんねぇのか能無しがぁ! ………どうです? なかなか上手いでしょう? ヒヒッ」

 つまり、俺が知るあの喚き散らす頭の弱いギギリはコイツの演技だったと。
 どうやってやってるのかは判らんが、恐らく魔法の類で操っていたんだろう。
 くり抜いたてのは、精神的なものなのか脳みそ丸ごとなのかは判らんが、要するに頭の中身を引っこ抜いたんだろうよ。

「馬鹿な、ギギリを操り人形にだと? そんな真似が」
「何故出来ないと思うんです? ワタクシは野『獣』使いですよ? 人もまた獣の一つでしょうに」

 カテゴリ的にはたしかにそうかもしれんが、獣を操るのと同じ方法で人間なんて操れるのか?
 いや、催眠だの洗脳なんて手段はあるかもしれんか。
 薬や催眠等で洗脳出来るのなら、魔法のあるコッチ側ではもっと容易にそう言ったことができるのかも知れない。

「あのギギリの奇行も、テメェの仕業だったってのか!」
「おやおや、斬りかかってくるかお喋りするか、どちらかに絞って頂きたいのですがねぇ。大体、今実演して見せて差し上げましたでしょう? ワタクシ、オツムの廻りの悪い方とはあまりお話したくないのですけどねぇ?」

 魔法使いなのに、ガチ近接型のガーヴさんの接近を許しておいて余裕で対応してみせるとかどういう練度なんだコイツ。
 キチガイの癖に魔法も体術も強いとか最悪じゃねーか。
 つか、確かにギギリを操ってたのこいつかもしれないな。
 なんというか喋り方とかぜんぜん違うけどギギリの言うこと全てが煽りになってる感じは、たしかにコイツからも感じるかも知れない。
 
「第一、無関係なアナタに我々の関係に文句を言われる筋合いはないと思うのですが? 私の都合の良い命令ばかりしてくれる雇い主サマに、従順に従う仕事熱心なワタクシ。理想的な主従だと思いませんか?」
「その言動に裏がなければな」

 いや、裏どころか表まで真っ黒なんですが……
 自分に都合の良い命令ばかり自作自演で出させる家臣とか理想的のりn字もありゃしねぇな。

「何故それを今になって明かす? 隠しておいた方がお前にとって都合がいいだろうに」
「それは勿論、あなた方を生かして返すつもりがないからですよ? 死人に口なしと言うでしょう? そもそも、ワタクシの顔を見られた時点で逃すつもりはありませんでしたし、この村の皆さんにはどの道この子の餌になっていただく予定でしたしねぇ?」
「どうせ漏れないから話しても構わないと? ずいぶん舐めたことを……」
「まぁ、あなた方のそう言った反応が見たかったというのもほんの少し、ええ、ええ!ほんの少し程ありましたが」

 ああ、つまり聞かれても構わないのなら思う存分にぶっちゃけて悔しがる俺たちの顔を見て見たかった、と。
 ホントに性格悪いなコイツ!

「悪趣味な……」
「心外ですねぇ。ワタクシは動物とお喋りを愛するだけの平和主義者だというのに」

 ペットの為に村をいくつもエサ場にする様な平和主義者がいてたまるか!

「さてこの子も目を覚ました所。野犬達も手こずっているようですし、直接腹ごしらえでも」

 ぬ、それは流石にまずいぞ。
 数を頼りに攻めかかれば、撃退はすることは出来るかも知れないんだが……
 倒すイメージは幾つか思い描けるが、コイツの進路を遮るなんて事はできるとは思えない。
 体格が違いすぎて、どうやっても止められる気がしねぇんだよな。
 このまま村の中で暴れ回られると流石に被害がどれだけ出ることか……

 ――オオオオオォォォォォォォン

 む、この遠吠えは……

「おや、おやおや? これはこれは。あなた方は本当についていない。野犬の群れにつられて、狼でも紛れ込みましたか?」

 一発で狼と野犬の遠吠えを聞き分けるとか流石は野獣使い、と変な所に感心してる所じゃないな。

「ようやく避難が完了した様だな」

 と、小声で俺だけに聞こえる様に知らせてくれたのはガーヴさんと一緒に来た村人だ。
 どうやら、俺のところに駆けつけるのが遅れたのは避難民を緊急避難場所に逃していたからのようだ。
 そして、非戦闘員を守っていたはティの遠吠えが聞こえたと言うことは……

「この辺りで単独行動する狼といえばはぐれ狼あたりでしょうか? バジリコックには数段劣りますが、普段であれば兎も角今この状況のあなた方に対処出来ますかねぇ」
「……アレに対して対処、か」
「おや、そのご様子ではあの遠吠えの主人に心当たりでも?」
「あるさ。だが、あれは俺達は勿論、お前でもどうこう出来る様な代物ではないと思うがな」

 コイツはドラゴンなんて操れない的な事を自分で言ってたしな。
 月狼は北の山脈ではスノードラゴンを抑えて来たの王者とか呼ばれているらしいし、ハティはその中でもボス個体らしい。
 月狼は集団としての強さが特色だと言うが、ボス個体である以上普通の月狼より弱いと言うことはないだろう。
 奴の言葉を丸ごと鵜呑みにするつもりは無いが、そうそう操られたりすることはないだろう。

「ケヒヒ……バジリコックを倒すあなた方がそこまで言うとは、特殊個体ですかねぇ?」

 特殊……まぁ特殊個体ではあるかも知れないな。
 ボス個体らしいし。

「何にせよ、あなた方に邪魔されても面倒ですし、今ここでこの子の餌になってもらいましょうか!」

 唐突に、アーマードレイクが後ろを振り向く。
 何だ? と思った瞬間、嫌な予感に引っ張られて全力で下がった俺の目の前を尻尾が薙ぎ払っていった。
 ――ヤバかった。
 動きはのっそりしているのにシャレにならない勢いだった。
 気付かずにあんなの食らっていたら間違いなく全身の骨が粉々にされていただろう。

 そうか、アレだけのサイズだと起点部分がゆっくり動いているように見えて末端部分、今回でいうと尻尾側はとんでもない速度になるのか。
 図体がデカくてゆっくり動いているように見えて、そのゆっくりした一歩でこっちの全力ダッシュと同等の距離を稼ぐわけだ。

「全員避けましたか、やはりバジリコックを仕留めたというのは伊達じゃないですねぇ」

 再びこっちを向くアーマードレイクが今度はがっしりと構えを取る。
 あの力を溜めるような踏ん張りの次に来るのは当然……

「ですが、この巨体による突進は如何してかわしますかねぇ!?」

 だよなぁ。
 ライノスがダッシュからの方向転換の時、似たようなポーズだったし。

 ただ、まぁ……

「間に合ったか」
「はい? 何がです?」

 うっかり口にした俺に対しても、いちいち対応する野獣使い。
 案外コイツ煽るための出任せじゃなくて、本当におしゃべり好きなのかもしれん。
 そんな事を思いつつ、アーマードレイクへ視線を向ける。
 正確にはアーマードレイクへではなく、その後ろの道を突っ切ってくるハティにだが。

 闇に紛れ足音を殺し、しかし凄まじい勢いで突っ込んできたハティは滑り込むようにアーマードレイクの脇下に滑り込むと……

「ゴォアアアアア!?」
「っ!? 何ですか、どうしました!?」

 脇の下から首元を食いちぎりつつこちらの前へ滑り込んできた。
 俺を守るような立ち位置で。

 突然の痛みにたまらずといった勢いでのたうつアーマードレイクと、何が起こったのか理解できず野獣使いが必死に暴れるアーマードレイクを抑え込もうとしている。
 俺等がどれだけ攻撃してもまるで意にも介さない様子だったアレを一撃で悶絶させるとか、やっぱりとんでもねーなハティは。
 かっこよく俺の前に立ちはだかるように現れたハティの背をを見上げて……。

「キョウ! 無事!?」

 ……って、いやいや、何エリスまで乗せてきてんの!?
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...