ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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二章

七十一話 宿泊といえば

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 文官さんの言った通り、アレから都の大通りを通って城に着くまで門前のようなトラブルに見舞われることは一度もなかった。
 なんというかすげぇ人の目を集めていたから、結構な有名人なんだろう。
 普通国のお偉いさんで人気がでるのって将軍とか強くて活躍した武人ってイメージだったんだが、なんというかこんなステレオタイプのいかにも文官って感じな人でもこんな国民から人気がでるようになるんだな。
 一体何をすればデスクワーカーがコレほどの支持を得られるのか……

 まぁ、今回は近衛の人も同行してるってのもあるけど、それ以上にやっぱり人目を集めた最大の原因はハティだろう。
 自分たちが住む街の大通りをデカイ狼が人を載せて歩いてるんだから、そりゃ目立つだろう。
 こっちで物のサイズを正確に測る手段をまだ持ってないのでただの目算だがハティのサイズはおよそ5m近くもある。
 独特の長いしっぽを立てれば最大全長は7m近くになる程だろう。
 ぶっちゃけマイクロバスとかその辺りと同じくらいにデカイのだ。
 その背中……に男女二人乗っかって歩いてるのだ。
 まぁ一番目立つのはある意味、一人ハティの頭にくっついてるエリスかもしれんが。
 ハティは顔をあげると高さがかなりの物となるのだが、エリスはその高い所から観る景色が好きなので、俺と相乗りする時以外は大抵頭にくっついてることが多い。
 エリス曰く「タテガミがもふもふして背中より乗り心地が良い」らしい。
 俺は背中でも高さに慣れるのに少し掛かったし、あの高さで不安定な首に座る勇気はちょっとない。
 まぁそんな訳で、滅茶苦茶目立っていたので、当然というかスゲェ見られた。
 笑って返そうと思ったが我ながら笑顔がひきつっていたのが自覚できたので、無害アピールはエリスとチェリーさんに任せて、俺はキョロキョロしないように真正面を凝視して乗り越えることにした。
 イベントの時もステージ上でカカシになって地平線を凝視することで乗り切った実績がある。
 変に誤解を受けないように努めて無表情を作ることに集中しているうちに、いつの間にか城についていた。

「それでは私はコレにて。後の案内は近衛騎士殿に任せましょう」
「心得た。ここまで世話になったな文官殿」

 俺達を先導してくれた文官と別れ、近衛騎士の人に連れてこられたのは滅茶苦茶立派な建物だった。
 城はもっと奥にあるので、別の建物だとは思うが、迎賓館と言うやつだろうか?

「いや、迎賓館は城の敷地の外にある。アレは他国の重要人物の歓迎用でここよりも一段上の施設だな。この建物は国内の招待客向けの宿泊施設ですな」

 つい口に出していたらしい。
 隣を歩いていた近衛の人が教えてくれた。
 というか、本物はコレよりもワンランク上なのか。
 この建物でも十分過ぎるくらい立派に見えるんだが、どんだけ豪華な建物なんだソレ。
 はじまりの街の高級宿も大概だったが、ソレを超えるゴージャス空間とかちょっと想像できない。

 一週間の間世話になった護衛の人たちと別れ、宿に足を踏み入れると今度は別の女性達が俺達の案内役についてくれた。
 流石にハティはサイズ的に中に入れる訳には行かないだろうし、どうしようかと考えていたところ、なんとハティも一緒に入れる部屋を用意してくれているという話だった。
 門兵はそんな話は知らないとばかりに吠えまくっていたが、ハティのことに関しては事前に対応がされているという事らしい。
 なんと入城まで予定されているらしい。
 案内の人からその時もハティに乗って来てほしいと伝えられた。

 案内されるがまま部屋に通されてみれば、そこは4人部屋だった。
 予想はしていたがホテルではなく旅館に近い。
 靴を脱いで上がる文化のようで、上がってみると畳ではないが板間の上に肌触りの良い絨毯が敷かれていた。
 服装のイメージはそんなに変わらなかったが、ハイナ村は普通に土足文化だった。
 人の行き来の少ない辺境は文化のガラパゴス化が起きているのか、同じ国の中でも僻地と中央とでは結構な差があるようだ。
 押入れに布団は入ってないようだが、ベッドがないので敷布団なのだと思われる。
 まぁ、布団なくてもいつも通りハティと一緒に雑魚寝すれば良いのだが。
 ただ、問題と言うか、最早今更といった感じだが、ハティに一緒に乗っていたからかエリスやチェリーさんと一纏めに同じ部屋が割り振られていた。
 フォーマルなお泊りなのに男女別じゃねぇのかよ……
 村長達は別の部屋に案内されていった。
 どうやら俺等の部屋がハティも同室できるようにということで本来の宿泊部屋とは別の部屋に通されたようだ。
 部屋に荷物をおいて一息ついた所で建物の作りが書かれた木の板を渡された。
 色分けされており、色のついていない所は自由に出歩いて良いという事らしい。
 暇になったどんな作りなのか見て回るのも有りかもしれないな。
 注意点なんかをいくつか確認を取り中居さんが去ると、チェリーさんが突然ひっくり返った。
 何事かと振り向いてみれば、単にダラケているだけのようだ。
 エリスもさっきから静かだと思ったら、旅で疲れたのかハティの尻尾に抱きつくような形で寝息を立てていた。
 流石に1週間の旅だったしな。
 食事の時間までまだ暫くあるし、寝かしておいてやろう。

「ああ~、やっと一息つける~。つい知らない人がいると肩に力はいっちゃうのよねぇ。挙動を観察するクセがついちゃってるからもう疲れるったら」
「それって営業とかの影響か? 嫌な職業病だな……」
「営業だけじゃないわよー? 現場での対応とか、仕事での対応は常にそんな感じなんだから。大御所さんとか演者さんもディレクターとかも礼儀には超絶厳しい人多いし」

 うわぁ、面倒臭そう……

「でも、これでやっとひと息つけるわ。流石に疲れたし目一杯ゴロゴロするんじゃ~」

 とか言いながら部屋の奥の方に転がっていった。
 ずいぶんと元気が有り余ってるように見えるんだが気のせいだろうか。
 ただまぁ、ハティの背中で揺られていただけだったが俺も何だかんだでかなり疲れたし、部屋の中くらいダラけるのは大いに賛成だ。
 旅行なんてどれだけ観光ではしゃいでも旅館に帰ったら限界にダラケてなんぼだろう。
 宿は寝てダラケて風呂入って飯食う所だ。
 気張るところでも騒ぐところでもないんだから、目一杯ダラケたい。
 
「ちょっと! ここ、お風呂! お風呂あるんですけど!?」
「え?、お湯沸かしてあんの?」

 何時入るか解らないのにお湯が張ってあるんか?
 あ、いや風呂があるだけで湯が張ってあるとかは言ってないか。
 というか、都会だと風呂が実用化されてるのか……良いなぁ。

「違う違う、温泉だよ温泉! 部屋に備え付けの家族風呂みたいなのがあるの!」
「マジで!? 都会には温泉なんてあるのか?」

 俺の家にも温泉ほしい……!
 汚れや汗を落とすだけなら川で水浴びでも事足りているといわれれば確かに足りてはいるけれど、冬が有るのかはわからんけど寒くなったら流石に辛いだろうし、雨の日とか雨水で身体洗ってるとなんか切なくなってくるんだよな。
 汚れはたしかに落ちるんだが、洗い流しちゃいけないものまで流しちまっているような気になるというか。
 大きくなくてもいいからゆっくりつかれる風呂がめちゃくちゃ欲しい。

「コレはもう入るしか無いっしょ!」
「あ~……たしか飯会は夕暮れ時って言ってたから人風呂浴びるくらいの時間はあるか」

 日の位置を見るに夕方までは3~4時間はあるはずだ。
 この旅館をいろいろ調べようかと思ったが、風呂があるなら後回しでもいいよな。

「じゃあ先に入っていいよ。俺は後からゆっくりと入らせてもらうから」
「何いってんの? 一緒に入ればいいじゃないさ」

 ……いやまぁ、そんな予感はしてたけどさ。

「ほら、水浴びと違って風呂となると流石にこう……意識し易いじゃん?」
「シチュエーションによって今まで平気だったのに意識しちゃうってこと? お互い全裸まで見合っといて今更じゃないの?」
「いやぁ、チェリーさんの言う通り確かにただのアバターだから意識する方がおかしいってのも頭では判るんだけどさ? それでも、こう恥じらいとかは……」
「あのね、生身で男友達と混浴とか事務所云々なしに絶対やんないからね? 前も言ったけど限り無くリアルに近いアンリアルだから、生身では出来ない事やるのが楽しいんじゃないのさ。お互いに損することなんかないんだからこういうのは『ぐへへ、役得だぜ』とか言ってノッておけば良いんだって」
「ぐへへて……」

 何度言っても突撃してくるから最近はもう開き直って一緒に水浴びしてるし、寝る時も川の字になって寝てるからホントに今更何をって自分でも思うんだけどさ。
 俺の考えってそんな保守的なのか……?
 おかしいな、ラノベとかならここで「覗くんじゃないわよ!」的な定番対応とか、顔を赤くして照れる的なヒロイン力高い系反応とかがお約束なんじゃないのか?
 チェリーさんの対応って昨今エロゲでもなかなか見ないぞ……
 なんて言えば良いんだ、フルオープン系?
 でもまぁ、本人がソレが良いって言ってるのにこれ以上チェリーさんが~とか言って拒むのも宜しくないか。
 俺が見られるのに関しては……もう散々ガン見された後だし今更恥ずかしがる様なものでもないしなぁ。

「という訳で早速入るよ!」
「え、ちょっ!? 引っ張んなって!?」
「往生際が悪いっての! 裸の付き合いだコラー!」

 く、クソぉ、なんでこの人俺よりも男らしいんだ。
 男を風呂場に引っ張り込むとか……ってうわ、ズボン引っ張るな……!

「おわっ!? もう逃げないから! 服くらい自分で脱がせれ……!」

 結局勢いに流されて背中洗いっこしました。
 ついでに目を覚ましたエリスに一緒に入りたかったと拗ねられた……

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