ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百三十話 門と言えばⅠ

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「おい、オイ! ちょっと待て!」
「はい?」

 街の門を潜ろうとしたら、門兵に突然遮られた。
 ……なんかこのパターン、前にもあったな。

「何だその巨大な狼は! そのような危険なものを街中に入れるわけにはいかん!」

 おい王様……ハティが街に入っても問題ないようにお触れを出すって言ってなかったか?
 街があんな様子だし、もしかして俺達が一度村に帰ると踏んでまだお触れを出してなかったか。
 となると少々厄介だな。
 ――いや、確か身分証明書みたいなのもらってたな。

「コレを見てもらえば大丈夫だと聞いてるんだが」
「何だ? 貴様こんな堂々と賄賂を渡そうとするとはいい度胸ではないか!」
「いや、そうじゃなくてコレを上の人に……」
「まさか上と賄賂で繋がってるとでも言うのか!?」
「いやだから……あぁ、もういいっすわ」

 駄目だこいつ、全く話が通用しねぇ。賄賂になびかないってのは見上げたもんだが、とりあえず話ぐらいはちゃんと聞けよ……
 頭にエリス載せてノシノシ歩いている姿は、見慣れてる俺にとっては愛らしさも感じる位だが、何も知らない相手からすれば見上げるようなサイズの狼は確かに恐ろしいというのも分かる。
 初めてハティと出会ったとき、タイミングによっては驚きすぎてうんこ漏らしてたかもしれんしな俺……
 だが、ここはあえて言わせてもらおう。

「ハティはオレたちの家族で全然危険じゃないですよ? 人の言葉だって理解できますし。頭のエリス見れば安全だって分かるでしょ?」
「あーはいはい、ペット持ちみんなそう言うんだよ。そんなのはどうせ理解できてる気になっただけだ」
「いや、ちゃんと応答して正しく対応してくれるんですけど……なぁ?」
「ウォン!」

 その通りだとばかりに首肯して答えるハティだが……

「タイミングよく鳴いてるからそう勘違いしてるだけなんだよ。畜生に人の言葉がわかるわけ無いだろう」

 いやまぁその気持は判らんでもない……というかハティに出会う前なら俺だって似たようなこと思って居たのは確かだからあまり強くは言えんな。
 だからといって、ハティだけ外に置き去りってのもなんか違うだろう。
 というか、いくらなんでも頑なすぎだろう。最初から聞く耳持ってないって感じなんだが?

「何でそこまで頑なに否定するんですかね?」
「事実だからだろ。ついこの間も、お前と似たようなことを言って無理やり獣を連れ込んだ他所の街の貴族が居たが、その獣が街中で子供を食い殺す事件を起こしたばかりなんでな。馬鹿な事言ってないでさっさと従え」

 どこぞのバカ貴族がいらんことやらかした巻き添えかよ……何やらかしてくれてんだ。ホントこの世界の貴族はロクでもねぇな。

「たとえ、君たちの言葉をこの狼が理解したとしても、それを知っているのは君たちだけだ。これだけの何も知らない人がごった返している街の中に連れ込まれれば間違いなくパニックが起こる。この国を守る兵士としては、確実に予測できるトラブルの種を受け入れるわけには行かないんだよ」

 そう言ってきたのは、もうひとりの門兵だ。
 最初の門兵とちがって随分と物腰が柔らかいが、帰ってきた言葉は変わらず明確な拒絶だ。
 とはいえ、こっちの兵士の言い分は確かに間違っちゃいない。王都で大丈夫だったのは、まつりの雰囲気でみな浮かれてたってのもあるかもしれないが、最大の理由は王様直属の兵士たちが囲っていたから観光客も安心して見ていたってのが大きい。
 突然人混みの中にハティが紛れ込んだら、そりゃパニックが起こるのは間違いない。将棋倒しになんてなったら大惨事だ。
 確実に予測できるトラブルと、そう言われてしまうと否定はできようもない。

「うーむ……どうするか。一日中ハティだけ外残すのは心苦しいし、昼は外で待ってもらっておいて夜になったら俺は外に出てハティと野宿でもしとくか……?」

 一応荷物の中には初日に使って以来の初期所持品のキャンプセットが入っているし、野宿もなんとかなりはする。
 門の直前では流石に文句を言われそうだが、崖の上の森の入口あたりならそうそう獣共にも襲われないだろうし行けるんじゃねぇか?

「キョウがお外なら私も一緒」
「えぇ~、じゃあ私も野宿かぁ」
「いや、チェリーさんやエリスは別に街で宿取ってこればいいって。狩りに行く時に呼びに来てくれればそれで」
「や! キョウとハティが一緒ならわたしも一緒が良い!」

 まぁエリスは初日に俺と野宿してるし、野宿がどういうものか知らずに言っている訳じゃないならまぁ……良いか。
 子供の頃から野宿とかあまりおすすめはしないんだがなぁ。

「それじゃチェリーさんは一人部屋を……」
「いや~、この空気で私だけ宿泊まりとか流石に無理でしょ……子供に野宿させて大人がベッドでグッスリとか居た堪れなさ過ぎて私のほうが耐えられんて」

 ですよね~。

「えぇ? 街が目の前にあるのに兄ちゃん達全員野宿すんの?」
「いやだって、そこの兵士さん達が街へ入れてくれねぇんだから仕方ねぇべ?」

 俺たちのそんな会話を聞きつけたのか、周囲の観光客らしき人々が兵士へ避難の目を向ける。
 今の会話だけを切り取って俺達のメンツで見ると、小さな女の子を街に入れずに野宿させようとしている兵士って図になるからな。
 それに門兵たちも気付いたのか顔がひきつっている。

「お、おい!? 誤解を招くようなことを言うんじゃない! お前たちが街に入ることは別に止めてはおらん。駄目なのはその狼だけだ!」
「いやいや、ちゃんとそこら辺は判ってるんですけどね? 一応自宅でも王都でも家族の一員として同じ部屋で寝てきたんで、外に放置するのは心情的にちょっと……だからといってハティを街に入れろと駄々をこねるつもりはないですよ。単にハティが入れないなら俺達も野宿するってだけで、そこをどうこうしろと言うつもりはないですよ」

 仕方がないけど郷に入れば郷に従えとも言うしな。この街のルール上入れないと言うなら仕方ない。
 というか、お手製の掘っ立て小屋がそもそも、鉋掛けされても居ないゴツゴツな板の間の上に目の荒い草綿で編んだ布を敷いて寝てるだけだからな。普段から野宿と大して違いなんてありゃしないし、苦痛でもなんでもないんだよなぁ。
 まぁ雨風を凌げるのは大きな違いだが、風は大して吹いていないし少なくとも今日は雲も大して無い。
 雨が降る前に……出来れば今日明日中に街でテントみたいなものを買えれば万事解決だな。
 万事解決だというのに、何でこの門兵は渋い顔でこっちを睨むのか。

「そもそもこんな恐ろしい魔獣は手放すとか、討伐するとか考えんのか」
「いえ全く……というか魔獣とか言うな」

 最初会った時はたしかに超怖かったけど、今では命を何度も救われてるし、ずっと一緒に過ごしてきているのにどうして手放す理由があるんだ。
 たしかにデカイし、ちょっと色々狼っぽくないパーツも出てきた気もするがカテゴリは魔獣なんかじゃなくて野獣の範囲内だろ。

「おいリッツ、失礼だろうが。この人はちゃんと狼は街に連れ込まないといっているんだからソレでいいじゃないか」
「だが、どう考えても危険な……」
「危険じゃない」
「ぬ!?」

 なおも言い募る門兵に対して、ハティの頭の上からエリスが絶対零度の視線と言葉を向けていた。
 大人な対応的な無表情ではなく、紛うことなき敵視だこれ。
 それだけでは足らないのか、ハティの頭の上から飛び降りて兵士の前に仁王立ちするとハッキリ目を合わせて……というかガン飛ばしていた。

「ハティは危険じゃない」
「何だこの生意気なガキは……うっ!?」

 流石にいきなりすごい迫力で幼女にガン飛ばされれば、そりゃ門兵もビビるわな。
 というかあの子って、こんな顔もするのな。幼いぶん余計な凄みがあるんだが……
 というか夜はともかく、今は一度別れて外で待ってて貰う必要があるんだよな。取り敢えずは森の中で人に見つからないように隠れていてもらうか。

「なぁハティ……ってあれ?」
「む……!? お前たち、あの狼はどこへやった!?」

 いや、ほんとに何処行った!?
 つい今の今までそこに居たよな!? あの巨体が動けば流石の俺も気付い…………いやでもハティだしなぁ。
 基礎スペックが違いすぎて、アイツなら何があってもおかしくないとか思えてしまうのがヤバイ。
 というか、エリスが驚きもせず何食わぬ顔でハティの背中にかけてた敷布や荷物を集めてるって事は、ハティの行き先を理解してるってことか? エリスだけは普通にハティの言葉わかるみたいだったしあり得るな。
 ソレを口に出さないってことは何か考えがあるってことだろうが……
なぁ。
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