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四章
二百二十三話 未知との遭遇V
しおりを挟む「どういうことだ?」
才能が無くてもできる、なら分からんでもない。でも才能が無いからこそできる事って何だ?
「術への適性が無いなら、適性のある者を引き入れればよい。精霊契約というのはそもそもがそういう目的で発展してきた者じゃからな」
「精霊契約?」
そんなスキルツリー、見たことないが……魔法系のスキルをいくつか伸ばした後に手に入る特殊スキルの類か?
「精霊と契約する事で、精霊に術を代理使用してもらうという方法じゃ」
代理で術を使ってもらうって事は召喚魔法的な物か?
「精霊はどうも人の体内に残留した、その人の『色』のついた瘴気が好物の様でな。体内瘴気を分け与えること、契約者の心の中に居場所を作るという事で成り立つ契約形式じゃな。日ごろから瘴術を使う者は体内瘴気が殆ど蓄積せん。だから術を使わない、或いは使えない者にこそ向いた方法なのじゃよ」
つまり、使わないで溜まりっぱなしのMP……じゃなくて、このゲームの場合SPか。それが大好物だから、それを対価に力を貸してくれると。心に居場所ってのはよく判らんが、多分アカウントへの紐づけって事だよな。
「なるほど、そういう事なら確かにまほ……瘴術を知らない俺と相性が良いのかもしれないな。そんなの使ってる人見たことないし、術師の人に自慢できるかもしれないな」
「一応術者にも契約自体は可能ではあるがな」
契約できるんかい!
「しかし、その場合はせいぜい自我の薄い、あるいはほとんど存在しない小精霊が限度。強力な精霊と契約したければ術を封印するしかないのう」
あぁ、なるほど。一応バランスは取られてる訳ね。
そうでなければ精霊契約をメインでとる理由が無くなっちまうだろうしな。
「この辺りにはヒトが住んでいないからな。暇な未契約精霊なんて掃いて捨てるほど居るじゃろう。より取り見取りじゃぞ。と言っても、精霊にも選ぶ自由はあるがのう」
「ちょっとやめてくんない? より取り見取りの状況で、だれも契約してくれなかったとかなったら流石に泣くぞ」
うちの学校に、女子が何人いたと思ってるんだ。それでも結局恋人の一人も出来なかった事から、どれだけ対象の数が沢山居ようと意味など無い事を俺は経験で知っている。
結局、自分から積極的に関わろうとしないと関係は作られない。相手から関係を持とうと近づいて来てくれるなんてのは、外見や金銭といった分かりやすく高いステータスを持ったごく一部の強キャラの身に許された特権だ。
俺のような凡百な輩は、限られた選択肢の中から、自分に見合った一つを選ぶしか――
「あらまぁ、そんな心配は無用ですのよ?」
唐突に。
本当に唐突にその女性は隣に居た。
「っ!?」
これだけ雑草や茂みに囲まれていて、一切の足音もさせずに気付いた時にはそこに当たり前に居た。
どういう隠密性!? 相手に殺す気があれば、間違いなく殺られてた……って、あれ? これに似た状況がつい最近あったような? 遺跡の一番奥辺りで。
「わざわざ見計らったように、驚かせる為だけにすぐ傍に顕在化するとは、相変わらず悪趣味じゃのう」
「ように……というよりも見計らったのでございますよ。こうした方がご主人様の心に残る出会いになりそうだと思いまして」
随分気安く喋ってる感じだが、敵襲……とは違うのか?
仲間にしては、随分と余所余所しい感じでもあるけど……
「えっと……二人はお知り合い?」
「まぁ、知り合いといえば知り合いじゃな。こ奴も件の精霊の一柱じゃ」
「えぇ、わたくし波を司る精霊なんかをしております」
波? 見た感じ小精霊という感じではないし、火に対する炎みたいな感じで、水の精霊の凄いバージョンとかかな?
「えぇと? 話の流れ的に、俺と契約してくれるの?」
「えぇ、是非ともわたくしと契約してくださいまし」
「おい、ちょっとまて!」
「うん? なんだよ」
何か問題があるのか? 面識があって軽口叩き合える程度の仲って事は悪い精霊って訳じゃないんじゃないのか?
「そんな考えなしに決めて良いのか? こういうのはもうちょっと考えて決めるべきだと思うんじゃが」
「といわれても、基準が判らないと測りようがねぇし」
「……そうじゃったな」
多分、このゲームにログインしてから一度も精霊なんてものは見たことが無かった筈。
ALPHAだけじゃ無く、本サーバの方でも見た記憶がない。
あ、そういえば……
「実はシスも精霊だったりする?」
「いや、儂は精霊ではない。ヒトとも少々違うがな」
ありゃ、違うのか。気配が一切なしに出てきた時の唐突感とか、スゲェ似てるって思ったんだけど。
しかし、さらっと人じゃないとか言いおった。そりゃまぁ、数千年も生きる人はそう居ないわな。角生えてる訳でもないから魔族とは違うだろうし、耳がとがってる訳じゃないしエルフみたいな長生き種族って風にも見えないが。
……というかこのゲームエルフっているのかな? 一度も見たことないんだが。
「えぇと……それで、何でそんな警戒してんの? 知り合いなんじゃ? 実はすごく弱いとか?」
「いや……強いか弱いかで言えば、強いと言い切れるのじゃが……」
「おやおや主人様、わたくしの事をハズレと? そんな事を言われては悲しくなってしまいますわ」
「え、ご主人様?」
いつの間に俺はご主人様になっていたんだ? まだ契約してないよね? つか、面と向かってご主人様とか言われるとスゲェ恥ずかしいんですけど。
「おいおい、お主はまだ契約しておらんじゃろうが」
「ええ、ええ。ですがわたくし、この方の事を大層気に入りましたの。他の精霊に渡すつもりは毛頭ありませんの」
「え、何でそんなに気に居られてるの俺? 確か初対面だよな?」
「はい、初対面でございます」
「だよな。ならどうして?」
「……はて?」
いや、そこで『はて?』と小首をかしげられても。
「……何故でございましょう? わたくしにも分かりません。しいて言うなら、勘……でしょうか」
「えぇ……」
本人にも分かってないのかよ。フィーリングって奴?
「ただ、一目見てもう、この方しかないと、そう思ってしまいました。他の子に渡すなんてとんでもない。貴方様と契約するのはわたくしの義務なのだと!」
「そ、そうか……」
病んデレ気味なのか? ちょっと怖いぞ。
「……とまぁ、性格の方に少々難があっての……」
シスはあきれ顔でそう言うが、これは本当に『少々』ですむのか?
「契約を結べば、命ある限りお主を守るために動くというのは間違いなかろうよ。こ奴の主人への忠誠は本物じゃ。……ただなぁ、主人へは絶対服従であると同時に、心酔が行き過ぎるあまりにそれ以外を見下す悪癖があっての。こ奴を味方につけるというのは、不必要に敵を作るのと同義なのじゃよ」
「それは……」
「お気になさる必要はありませんわ。ご主人様の道を阻む有象無象の処理などわたくしに任せて頂ければ、そこらの海にでも沈しておきますので」
「……という訳じゃ」
レンジじゃないんだから、そんな気軽にチンしちゃダメだろ。
これは、確かにヤベェな。極端なのは確かだけどヤンデレとはちょっと違う別ベクトルのヤベー奴だ。しかもなんかロックオンされてるし。思い当たる節が無いんだが、何かそこは考えるだけ無駄な気もするな……
とはいえ、ドSの加虐趣味とかとかでもなし。偏愛気味で発言は過激だけど、俺の事を好意的に見ているんだよな。
とはいえ、他の子に渡すなんて……なんて言葉が飛び出すあたり、独占欲とか結構強そうだな。そういうキャラってやたら周囲に攻撃的でトラブル誘発するんだよなぁ。
傍から見てる分にはそれがエンターテインメントになるのかもしれないが、それで人間関係破綻されたら溜まったもんじゃない。となれば……
「じゃあ、勝手に他人に手を出さない事、助けを求めるまでは出来るだけ俺にやらせてくれる事。それらを守ってくれるなら契約しても良いと思ってる」
「あらあら、精霊と精霊使いの契約はそれ自体が対等のもの。ご主人様はそこに別途条件を上乗せなさるので?」
「条件なんて大したもんじゃないだろコレは。契約精霊が主人の意志とは別に他者を貶めたりすれば、巡り巡ってそれは主人である俺の評判を落とすことになるだろ? 『あいつの精霊はろくでもない。主人を信用できてもあの精霊と一緒じゃ信用できない』……って感じにな。それとも、こんな当たり前で簡単な約束も出来ないか?」
「いえ、そういう訳ではございませんが、今まで契約をしてきたヒトの中に、そのような条件を付けた者は居ませんでしたので、少々驚いてしまいました」
そうか? 普通この程度の安全確認誰でもすると思うんだが……
「物を知らないというのは、恐ろしい事じゃな」
「ん? シア、何か言ったか?」
「いや、何でもないよ。無知と言うのも時に幸せなのだなと思ってな。」
それ褒めてないよな?
何の事だ? 俺は何か見落としてたのか? 何かまた子供でも知っていて当然的な事を聞いちまったか?
「……まぁいいや。それで、その程度の誰でも出来て当たり前の約束くらい出来るよな?」
「了承しましたわ。ただし、敵は……ご主人様の敵に対しては構いませんわよね?」
「味方じゃないのを敵だとかいって因縁つけるのは無しだと先に言っておくぞ? あくまで俺に直接危害を加えた奴、或いは明確な敵意を証明できる相手にだけだ」
「えぇ、もちろんですわ」
まあ、それなら安心して良いのかな?
「それで、契約する為にはどうすれば良いんだ?」
「精霊の試しを受けて頂きます。それによって精霊と主人の間に断ち切れぬ絆を結ぶのです」
おお、召喚精霊との試練とか、RPGじゃお約束の奴だな。
「それで、俺は何をすればいいんだ」
「はい、額同士を合わせて頂ければそれで」
「え、それだけでいいのか。それじゃ……」
何か随分とイメージと違うんだが……バトルとかしなくて良いんか。
まぁ、とりあえず言われた通りしてみるか。
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