ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百四十八話 首都アレスタンティアⅢ

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「……で、なぜじゃ? お前たちの言うことが正しければ、いくら儂が他国で騒ごうがお前たちには痛くも痒くもなかろう? お前たちが仲間内で何をしようが、他国が干渉することなどそうはできんのだからな。それとも何か?伝えられては困るやましい事でもあるのかの?」

 何というか、俺についてのゴタゴタだってのは理解しているんだが、蚊帳の外感がすごい。さっきから俺一言も喋ってないし。
 兵士に両サイド挟まれて突っ立ってるだけで、ぶっちゃけ何もしていない。
 さっきから喋ってるのはずっとシアだ。
 というか、こいつほんとに舌が回るな。相手を煽ることに関しては今まで会った中で一番なんじゃないだろうか。

 ……しかし、我ながら最近は翻訳に頼り切ってるな。幸いなことに言語はアルヴァストと同じようで、ヒアリングは問題なく出来ているから基本的な会話は怪しいながらも多分問題なく出来る。今も兵士側の言葉はほぼ完全に聞き取ることは出来ている……が、一緒にいるシアの言い回しが随分と古風なせいもあって、今まで聞かなかったような表現や言葉がガンガン出てくる。素直に『嘘』という単語は勉強したから理解できる。でもシアはそれを『偽り』といった感じで喋るんだよな。そうなると、流石に今の俺の語学レベルじゃ理解しきれない。
 まぁ、今までこんな特徴的な喋り方する奴は居なかったしイレギュラーだとは思うが、婆口調が理解できないということは、普通の老人の言葉も理解できない可能性があるし覚える必要はやっぱりあるんだよな。
 何だかんだで偉いやつって歳食ってること多いし。
 そういや王様……アルマナフの言葉も所々怪しいところがあったし、何処かのタイミングで勉強し直す必要があるかもなぁ。言葉はほんとに重要だからな……

 あぁ、それにしてもいい天気だなぁ……茶でもしばきたい。

「この、言わせておけば……!」
「おやおや、ついには言葉すら忘れて実力行使かの? それにしても、これだけ言われて即座に否定できんとは、やはり他所者だと分かっておるではないか。つまりあれか、国の門を守る兵士が、白昼堂々と儂らに冤罪を押し付けようとしていたわけか? これはこれは恐れ入るのう」

 それにしても、なんてわざとらしい……
 何というか、必要以上に芝居がかった振る舞いでシアは問い詰めるが、かなりの大声で喋るもんだから周囲の人達も興味を惹かれて集まってきちまった。
 ……来ちまったと言うか、兵士たちに迂闊なことが出来ないように意図的に集めたんだろうなぁ。

「しかし、冤罪に人さらいか……まさかとは思うが、貴様ら本当に門兵なのか? 首都の大門を守るような看板仕事を任される兵士が子供でも知っているような一般教養すら知らないとは思えないんじゃが、貴様らもしや門兵になりすました野盗なのではないのか? であればその知能の低さも納得できる」
「なっ…… きっ、きさ……! 我々を愚弄するのか!?」
「いやいやまさかそんな。もしお前たちが山賊や野盗のたぐいではないというのなら、ここに集まった皆が納得できるように山賊ではないという証拠を提示してみせて見ればよかろう。そうすれば皆も納得じゃ」
「そんな事……!?」
「おや、つい今しがたお前さん方が儂らに要求してきた解決法じゃ。まさか自分たちが出来もしないことを、ただの旅行客である儂らに強要していたとでも? この国の人間は皆そんなモノなのかのう?」

 ついには野次馬を問いかけで巻き込むような真似までし始めやがった。
 当事者でもなんでも無い野次馬が、そんな風に余所者に問いかけられたら、どう反応するなんて大体想像がつく。
 この国の住人も俺の想像通り、他国の人間に国民性を刺激するような当てこすりを言われれば、その原因となった門兵たちへ自然と目が向けられていた。目というか口というか……
 遠目で言い争いを見物していた程度の野次馬だ。詳しい話も事の経緯なんかも何も知らないだろうに、兵士たちへ向かって証明してみせろと囃し立てる。
 まさか兵士たちが俺達に悪魔の証明を求め、今はその兵士たちへ野次馬達が悪魔の証明を求めている……だなんてこの中の何人が理解しているのか知らないが。

 それで、当の当事者の兵士たちはといえば……うっわブチギレてる。
 アレだけ煽られまくった挙げ句、衆人環視の前で自分たちがしかけた詐欺まがいの証拠の提示を、そっくりそのままやり返されてるんだ。まぁ、そりゃキレるわな。
 たちの悪い事にシアの言ってる事には嘘が混ざっていない。
 兵士の強引な言動を皮肉ってはいるが、言っている事自体は何も間違っていない。
 明らかに兵士たちを山賊に仕立て上げようとしてはいるが、シアは『もしかして』なんてはぐらかしつつ一度も断定していない。その真偽の証明を野次馬を焚き付けて、衆人環視の前で行おうとしているだけだ。何一つとして嘘は言っていない。
 その真偽の証明が実質不可能という点を除けば、だが。
 そして、兵士達が俺達に同じことを強要したと話を広げることで、逃げ道まで封じている。
 基本的に一般大衆というのは特定個人の不正を極端に攻撃するという特徴がある。まぁ要するに「自分だけズルして良い思いしてんじゃねぇよこのカス!」と言うことだ。
 兵士達の給料が、この国の税金から出ているのかはわからないが、金のことを抜きにしても国の表門を預かる兵士達が、不正をして国の顔に泥を塗ったなどと伝われば野次馬達のヘイトは当然ながら兵士達へ向くというわけだ。

 まさかこれだけ集まった民衆を敵に回すわけにもいかないだろうし、兵士達に『無かったことの証明』なんて当然出来るはずもない。そんなものを旅行客へ強要しようとしていたなどと知られてしまえば、古今東西、正義大好きな『無関係な一般市民』達に知られてしまった以上、迂闊な反論なんかは出来ないだろうし、今ここでこの場を離れれば、大衆からは兵士達がやましい事が発覚しそうになって逃げ出した……なんて捉えられるかもしれないな。

 本人たちもそれは理解しているだろうし、理解してるからこそ意図的にその辺りを論って言うシアの言い方は相当クるだろう。

「どれ、儂らには憚るようなことはなにもないが、貴様らの言うことはまるで信じられん。これは儂ら自身で城へ問い合わせたほうが良さそうじゃな」
「バカを言うな! 貴様らのような者が城へ入れる筈がなかろう!」
「何故じゃ? お前たちの言う通りであればこやつは貴族なのじゃろう? しかもお前たちが探している保守派とやらの。であれば普通に考えれば、わざわざ探していた相手が自ら自分たちの元へやってくるんじゃ。城の革新派とやらは喜んで引き入れるじゃろ」
「ぐ……」

 ……にしてもいくらなんでも煽り過ぎなんじゃないか? もう相手は暴発寸前だろ。あんなに怒らせて、シアは一体何を狙ってるんだ?
 ここまで騒ぎを大きくしちまうと、ここを乗り切っても目をつけられる可能性が高いと思うんだが……

「そら、口ごもる。人を騙したいのならそこで何食わぬ顔で理由を言ってのけるものじゃ」

 もはや迂闊に喋ることもできなくなった兵士を見下し……実際には身長低いから見上げているが、まぁ雰囲気的に見下しながら、シアはようやく止めとなる一言を投げかけた。

「貴様らは儂らを捕らえるだなんだと言いながら、儂らが城へ行くと困るようじゃ。これが本当にこの国の兵士の言動なのかの?」

 兵士への問いかけのように見せかけた野次馬へと問いかけに対する答えはといえば……まぁ、想像通りというか何というか、大義名分を手に入れた野次馬達の糾弾大会の始まりだった。
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