ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
261 / 330
四章

二百四十九話 首都アレスタンティアⅣ

しおりを挟む
「さすが師匠、なかなかにエグいっすね」
「人聞きの悪い事を言うでない、先に仕掛けてきたのは向こう側じゃ。儂は暴力を使わずに平和的に会話で騒ぎを収めたにすぎんじゃろ」
「平和的に、ねぇ」

 野次馬たちに糾弾され、次第に言葉だけではなく物まで飛び交い始めた辺りでついに兵士達は逃げるように去っていった。
 ……まぁ、そのまま逃がすほどシアは甘くない。ちゃっかりエレクの仲間のスカウトに追跡するように指示を出していた。

「それで、お主は先程の兵士共、どう思う?」
「俺っすか? そうっすね……」

 話を向けられたエレクは少しだけ考え込む素振りを見せたが、さして悩まずに答えを出した。

「保守派の手先っすかねぇ?」
「やはりそう思うか。この国に長く居るお前もそう思うということは、まぁ間違いはなさそうじゃな」
「革新派というには言動が支離滅裂すぎるっすからね」
「まぁ、そうよなぁ」

 もし本当にあの連中が革新派とやらであれば、シアが城へ行くと言った所でその流れに乗ればよかったんだ。捉えに来たと言うくせに、こちらが城へ向かおうとするとそれを拒もうとするのは自分たちは怪しいと言っているようなものだ。

「大方、革新派に押された保守派の貴族共が、この国で名の知れているお前たちを味方に引き入れるために同行していた儂らを狙った……といった所じゃろうな」
「アホなのか?」

 おっと、うっかり本音が口から。
 いやでも、そう思っても仕方ないだろ。

「仲間に引き入れたい奴に対して初手で脅迫とか、まともな考えとは思えんのだが……そもそもエレク達はこの国でも名の知れたチームなんだろ? それを相手に脅迫を迫るとか、反撃されたらどうするのかとか考えないのか?」

 権力を盾に、とかそんな話じゃあない。でっち上げの罪状で関係者を連れ去ってからの脅迫とか、どう立ち回っても敵対するしか無いと思うんだが……
 この世界では、現実に比べても義理だとかメンツだとかをかなり重視しているように感じる。そんなメンツを重要視するような相手であれば、今回みたいな手口では場合によっては『テロリストには屈しない』的な対応取る可能性もかなり高いと思う。特に名の知れたトップチームであればな。
 でも、そんな事はメンツで出来ているような貴族なら理解っても良いようなもんなんだが……

「貴族は確かに俺ら平民よりも教育やらなんやら受けるかも知れませんけどね、教育を受けたやつが皆お利口になるとは限らねーんッスよ」
「大抵はピンはねとか着服とか下らないことに知恵使うようになるのよねぇ」
「まぁ、本当に領民のために知識を使う領主というのも居るようですが、そんな領主の事を大抵は『間抜けな領主』と蔑むような噂として伝わってくる辺り、この国の腐りっぷりが解るってものですな」

 エレク達が口々に言う。
 確かに、勉強すれば皆賢くなるとは限らないか。俺も数式やら英語やら化学式やら、学生時代に勉強した内容なんて興味が残ってないような奴は殆ど覚えてねぇ。
 そう考えると、貴族のくせに……って考え方はちょっとやめた方がいいか。
 貴族でも平民でも阿呆は阿呆というくらいに考えとこう。
 義務教育として全国民が一定の教養を学べるこの国でも、馬鹿や不良なんて一定量居る。政治家だって汚職だのスキャンダルだので毎年のようにニュースになっているしな。
 リアルもファンタジーも教養と人格は結びつかねぇわな。うん。

「革新派だろうが保守派だろうが、大抵の貴族なんてのは上から見下ろすばかりで、現場の事なんて何も知らないんスよ。反撃されて被害が出たとしても、そこらにいくらでもいる兵士が少し減る程度にしか思ってない。もっと言うと、相手が同じ貴族でなければ、その事で相手がどう考えるのかすら考慮しようとしない」
「あぁ……」

 何時の世も現場の人材は軽視されるんだな。社畜時代を思い出しちまった……

「もちろん、全ての貴族がそうだとは言いませんぜ? ヴォックスの言った『間抜けな領主』として話に出た西部を治める大貴族やその取り巻き貴族なんかは善政で知られてるし、実際昔は広大な荒れ地だったと言われてはいるが、今じゃ一大穀倉地帯だ。無理な税の取り立てもなく、暮らしやすいと結構な話題っす」
「まぁ、そりゃそうだろうなぁ。全ての貴族が愚かなら国なんて立ち行かんだろうし。馬鹿な奴程声がでかいせいで、悪いところだけよく目立つって事だな」
「そういう事っス。自身の利益よりも領全体を良くしよう……なんてのはごく少数ですけど、大多数の貴族は自領が駄目になれば自分達も破滅するなんて理解りきってるんで、税は取り立てお色に手を染めようが、領民が逃げ出さない程度には統治するもんなんス」

 まぁ、そうじゃなきゃ国が国の形を保てねぇわな。地方領主が全部阿呆ならあっという間に領民が別の領地……どころか最悪他国に流出して国力を削る羽目になる。

「ただ、根底には貴族至上主義者ッて言うんすかね? 連中にとって貴族でない奴は自領を維持するための部品というか、人間じゃないと本気で思ってるんスよ」

 出鱈目な考え方……だとは思うが、割と昔から物語に出てくる悪役貴族って何故かそういう奴多いよな。
 つまり、大衆にとっての悪役の貴族の見え方としてはそれがオーソドックスだったって事なんだろうな。
 だからといって、ゲームと言ってもこんなリアルな世界の中でそんな貴族とは関わり合いにはなりたくなかった。そういうのはもうアルヴァストでお腹いっぱいなんだっていう。
 というか、何で世界をこんなリリアルに作り込んでるのに、悪役NPCだけは物語におけるステレオタイプなどクズが揃ってるんだろうか。
 いやまぁ、現実でも『こんなの今どき漫画でも見ねぇ』って言いたくなるようなクズは確かに居るけどさ。

「それで、そのお貴族様はシアの口先で撃退されたわけだが、このあと連中はどう動くと思う?」
「まぁ面子を潰されただの何だの勝手なこと言って、色々こちらにちょっかい出してくるんじゃないっすかね」
「……デスヨネー」

 ステレオタイプのクズ貴族なら当然そう動くのが王道だよな、やっぱり。

「メンツがどうこう言う前に、こっちからしてみれば、勝手に目をつけられて脅迫されそうになった挙げ句、問いただしたら逆ギレされたとか……言葉を選んで言うけど、面倒クセェって言葉しか出てこねぇぞ」
「貴族に限らず権力者なんてそんなもんっす。他人の迷惑なんて顧みないからのし上がれてるんスよ」

 やりたい放題、自重しないからデカイ結果でのし上がるか。言われてみればたしかにそうなのかも知れないな。
 いや、まっとうにのし上がるやつも居るんだろうけどさ。

「というか、シアは何であんなに煽ってたんだ? この国のイザコザなんぞに巻き込まれたくなかったんじゃなかったのか? あんなに煽ったら間違いなく目をつけられるだろうに」
「少々思うところがあっての。エレクの時と違って今回は短気とかそういうのではなく、わざと煽らせてもらった」

 あぁエレクの時のアレ、俺にけしかけるためじゃなくて本気で苛ついてたのな。後ろで当のエレクが青い顔してんぞ。

「その思うことってなんだよ。こんだけガッツリ巻き込んどいて、内緒とか流石に言わんよな?」
「わかっとるわい。理由は話してやる。じゃがその前にまずは腰を落ち着けられる宿探しが先じゃ」

 確かにこんな流れになっちまった以上は宿が必要か。

 本来ならこの街はこの先の為の買い出しをしたら、すぐに出ていく予定だったが、何を考えてか、シアはこの街でなにかしようとしている。北に目的があるにも関わらずだ。
 本当にこの街で何かをするべきか悩みどころだが、シアは既に貴族相手に喧嘩うっちまった。こうなっちまった以上はこちらが何を言おうがちょっかい掛けられるのは避けられんだろう。
 というかシアがやる気な以上、付き合わざるを得ないんだよなぁ。そもそもなぜ北を目指しているのか、というかシアが何を目指しているのかが理解っていないから、シアを置いていくという選択肢はあまり取りたくねぇんだよな。明らかにこっちを巻き込んでくるムーブを見せた以上、聞き出そうとして素直に教えるとは思えんし、力づくとか論外だしな。
 シアの目的地なんぞ知ったことか、と一人旅という選択肢は確かにあるが、土地勘のある奴からわざわざ別れるデメリットと、メリットの方がどう考えても釣り合わない。
 そもそも、ナビゲーターとしてだけじゃなく、仲間として純粋にその強さだけでも十分価値がある。なんせ俺より遥かに強い。RPGで、ぶっ壊れレベルの強キャラがゲーム序盤でスポット参戦するっていうのは結構良くある話だけど、シアの立ち位置は俺にとってまさにそれだ。以前のパーティで言うところのハティの立ち位置に近い。
 ハティと違って自己主張はかなり激しいがな。

「まぁ、やっちまったもんはしょうがない。まずは泊まれる宿を探そう。当然、宿代はシア持ちでな」
「わかっとる。今回ばかりは儂のワガママになるからの」

 珍しいな、シアが素直に自分のワガママだとか認めるなんて。
 ……それだけ、どうしてもこの街で何かしたい理由があるってことか。この街に入るまでは通り過ぎるつもりだった筈だから、多分今さっきの揉め事の中に見過ごせない何かがあったという事なんだろうけど……
 ウン百年単位で眠りについていたシアが貴族関連で気になるような事って一体何なんだ?
 訳の判らない事態に巻き込まれなきゃ良いんだが……
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...