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四章
二百九十一話 不死の魔物Ⅱ
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「クッソ執着がヤバいなこいつ。まっしぐらじゃね―か」
今まで多い餌を見つければそっちへフラフラ……いや一直線って感じだったのに、今じゃ他のやつなんぞ眼中にないって感じで完全に俺をターゲットしてんな。俺はタンクロールじゃねぇんだが。
「ほぼ食欲と生存本能だけで動くような群体ですからね。ただの餌でも強い執着を見せていたでしょう? でもあるじ様は餌としては手強すぎました。敵対認定されればそりゃ徹底的に排除しようと動きますわね」
「それもそうか」
ヘイト上昇スキルなんてなくたって、タンクの稼いだヘイト以上にディーラーがダメージを叩き出せば結局ターゲットは移るってもんだしな。
目立ち過ぎはダメ、絶対。
「それにしてもダメージで怯まないってのは思ったより厄介だな。あらゆる攻撃がカウンター技と同義だ」
格ゲー脳的にはスーパーアーマーやガードポイント技を思い浮かべる動きだ。
「何ですの? スーパー?」
「そこまで心読めてるのに、内容はわからんのか?」
「あるじ様が今実際に思い浮かべてる像は、そのスーパー某ではなく目の前の魔物ですもの」
あー、見ている魔物の姿に俺が勝手にスーパーアーマーっぽい印象を重ねてるだけだから、元々のスーパーアーマーが何かを知らないと心を覗いても魔物でしか無いのか。
「コレこそが、と言う場面を思い浮かべていただければ、理解できると思いますけど」
「うーん……いや、思い浮かべても多分ゲーム画面だけ思い浮かべても、目の前の魔物と何が違うんだって感じになるだけだろうから説明するだけなら口で言ったほうが早いな。
「そうですの?」
心を読み取れるなら、何でも相手に伝わるのかと思ったけど、伝えるべきイメージがしっかりしてないと口下手と同じでイメージも正しく伝わらない事があるのか。
「まぁいいや、スーパーアーマーもガードポイントも共に昔から一部のゲームでは特定の技に付与されてる属性だ。スーパーアーマーは攻撃が出るまでは相手の攻撃がヒットしても仰け反らない。つまり攻撃によって技が中断されない属性だ。対してガードポイント技というのは、特定の技のモーションの一部に防御判定が着いており、相手の攻撃を受け流しつつ反撃する様な演出になっている。どちらもその特性上、うかつに手を出せば、攻撃が受け流され、技の出終わりの無防備なところにカウンターの一撃を食らってしまう厄介な技だな」
いや、我ながらバチバチにバケモノと戦いながら何うんちく垂れ流してるんだろうな?
「なるほど、このイメージはそういうことですのね」
それを聞きながら飄々と魔物に攻撃を加えていくイブリスもイブリスだけどな。
まぁ、ゲームのスーパーアーマーと違ってどんな攻撃でも一度は受け止める……みたいなとんでも耐久というわけではないらしい。
実際ヤツにはイブのぶっ放す振動波攻撃や、俺の攻撃でも威力の高い攻撃で、骨のような芯のある部位への直撃でならバランスを崩したりはする。ただ、肉を削ぎ落としたりといった手応えの薄い……切れ味の良すぎる攻撃なんかは喰らっても怯まず無視して突っ込んでくる。小技限定の擬似的なアーマー無限……いや、それでも十分厄介じゃねーか!
動き自体は派手なだけで対処は難しくないが、疲れる様子も見せないし、手を出そうとするととたんに厄介になるんだよな。
「無理押しするからです。私の援護をお待ちになってくださいな」
「うん、そうする。ちょっと修行っぽくなるかなと思って自力で攻めてみたけど、いくらなんでもやりにくすぎるわ」
動きは単純でも、迂闊に手を出せばこのパワーで常にカウンターのリスクってのは流石に無視できない。それに、知能がないせいか動きに迷いがない分、最速最短で攻撃を繰り出してくる、そのせいで実際以上に攻撃にスピード感がある。
いくら直線的で避けやすいといっても、あの手数じゃ事故だって起こり得るし、相手は疲れ知らずだ。時間をかければコチラが不利になっていく。
ただ斬りつけるだけではダメージにならないから、無駄に体力を消費しないためにも一度の攻撃で確実に削る必要がある訳だ。となると、一番低コストで相手を削るならコチラの攻撃をイブリスの攻撃に合わせた時だけに絞るのが一番だ。
それにしても、改めて見てもイブリスの能力は強力だ。
振動波による直接攻撃と、動きを阻害する妨害を同時にこなしている。炎や雷みたいな派手さはあまりないが、効率はとんでもなく良い。
RPGをやるときに、バフとデバフの強さを確認する派の俺としては、単純に高火力な能力よりもイブリスの波のような汎用性の高さの方を評価したくなる。
しかも攻撃力もデバフ能力も中途半端というわけではなく、両方共にかなり高いと来てる。ハッキリ言って反則級だ。シアの馬鹿げた戦闘力も大概だったが、アレはシア本人が強力なだけだった。だが、イブリスのは強力であると同時にコチラのフォローも出来ている。どちらが強いと言われれば、どちらも強いという答えしか無いんだが、便利さで言えばおそらくイブリスの方が上だろう。というかシアとの比較対象になる時点でとんでもない。
というかこのゲーム開始初期のハティにも言えることだけど、お助けNPCの戦力がヤバすぎるわ。プレイヤーより圧倒的に強いNPCの加入はRPGではよくあるイベントではある。大抵はスポット参戦で、プレイヤーよりも圧倒的に強いボスが登場する時等の特殊なシーンでのお助けキャラだったりするんでメインのキャラクターにはならないことが多い。最後まで仲間になる場合もあるがそういう時は大抵途中で抜けて、プレイヤーのレベルが追いついた頃に再合流みたいな形でバランスを取られることが多い。
なんだが、何か俺、ゲーム始めてからほぼ常時で格上のNPCと行動を共にしている気がする。最初はハティ、次はシア、今はイブリス。ハティとは事故で別れちまったし、シアともなんか中途半端な所でお別れになっちまった。もしかしたらずっと一緒でいることで、高難度のボスイベントみたいなのが起こった可能性はあるが、確認する方法はないからな。まぁそんな都合の良いイベント自体存在しないかもしれないのがこのゲームの怖いところだが。
でもコレだとなんか、NPCがメインで俺がおまけみたいな感じになってるような……
「あるじ様、また思考がとっ散らかってますわよ」
「っと、いかんな。直そうとは思ってるんだがな。コレ」
どうにもこの考えがアッチコッチ飛ぶの治らねぇんだよなぁ。
一つ考えると枝葉のことまで思考がどんどん伸びていって、最終的に関係ないことまで考えが行っちまうんだよな。普段ならともかく今は戦闘中だ。注意しねぇと。
「なんなら、矯正しますわよ?」
「いや、それはソレでなんか怖いから今は良いや。どうしても必要な場面で頼むかもしれんけど」
思考読まれるくらいならまぁ、覗き見られてるだけだし俺のプライベート以外ダメージは無さそうだけど、意図的に歪めるのは流石にちょっと怖い。
というか、いい加減目の前のことに集中しねぇと……
「残った部位は骨太な部分だけになってきたな」
肉腫や、骨の無さそうな腹回りとか結構削ぎ落としてやった結果、大分ガリガリというか、既にもう一部は骨がむき出しになってる様な状態まで追い込んではいる。フォルムを維持しようとはしているようだが、切り分けられて本体に取り付いてる虫の数が極端に減ってきたからだろう。体全体を補いきれなくなってきているらしい。だが、逆に言うと残ってるのは骨付き部位ばかりだ。仕留めるには、それなりの攻撃が必要になってくる。
さて、この状況で有効そうな攻撃というと……アレの試し打ちも兼ねて、一つやってみるか?
「試し打ちはよろしいですが。打ち込んだ腕を食い散らされませんよう……」
「判ってる」
イブリスにガチガチに固めた右腕を見せてやる。
ボロボロになったマントの一部を腕に巻き付けバンテージのようにして肘から先を保護した。たかがボロ革と侮れない防御力があるんだ、これが。
コレなら直接ぶん殴っても、さっき掴まれて貪り食われた傭兵のように殴った腕を一瞬で潰される様な事にはならないと思う。
……といっても、耐えられるのは本当に一瞬だろうな。でも殴り飛ばすその瞬間の拳を保護できれば問題ないから、コレで十分だ。
「さて、やるか!」
必要なのは懐に、手の届く範囲に近付くことだけだ。勿論それは相手の間合いに入るということでもあるが、相手は魔物。対人と違って面倒なフェイントや誘いは考慮する必要がない分、大分やりやすくはある。
その分人間離れした瞬発力と馬鹿力があるけど、素直に最短最速で攻撃が飛んでくるから、攻撃のラインから身体をズラスだけで攻撃は逸れてくれる。叩きつけや突き込みは横へ、薙ぎ払いは上下か裏へ。大体はこの2つで良い。
ただし、余裕を持って避けてしまうと、攻撃を外したと判断したヤツがそこから次の攻撃に強引に移ってしまう。この辺りは不死身のボディを生かした無茶行動だな。強引な動きで本来なら身体を壊すような動きも気にせずに放ってくる。
だから、コチラがヤツに攻撃を届かせるだけの隙を作るためには攻撃はギリギリまで引きつけて、ヒット確信で空振りさせる必要がある。それでようやく、肉薄と攻撃の隙の確保という両方の条件を確保することが出来る。
それには、不意を打つような動きではダメだ。ヤツがこちらへの直撃を確信できるような状態でなければならない。つまり……
「さぁ、来いよ」
正面からの殴り合いだ。
かなりリスキーだが、だからこそ効果はかなり期待できる。
案の定、こちらを視界に捉えた途端、一直線にコチラへ突っ込んできた。
飛んでくる攻撃は右腕、開いた手のひらのまま張り手のようにコチラへ腕を伸ばしてくる。
「つぁぁっ!!」
突き込んできた魔物の腕をミアリギスの腹で強引に受け流す。洒落にならん馬鹿力だが、ここは気合で攻撃を後ろにそらす。そして脇をくぐるようにして懐に入れば、イブリスの一撃が魔物の頭部をカチ上げた。いや、正確には頭ではなく首だ。
喉がひしゃげ、巻き込まれた顎が吹き飛び骨が露出している。余程の衝撃だったのか、よく見れば頭だけでなく体ごと軽く浮き上がっていたらしい。
浮き上がっていた身体が着地し、片腕では咄嗟にバランスが取れなかったのか倒れ込んでくる。チャンスだ。
「喰らっとけ!」
地面へ叩き込むように踏み込んだ足先から、膝、腰、肩と雑巾を絞るように威力を流す。そして布で固めた拳でもって、下がってきた喉を再度下から潰すように打ち上げの一撃を打ち込む。
ペネトレイト。全力の浸透打による衝撃の指向性をあえて制御せずに威力だけを求め、適当に拳一つ分か2つ分くらい奥でその衝撃を弾けさせる荒業だ。
それなりの戦闘技術が有りながら苦戦するのは、ひとえに詰めの甘さ、トドメに使える決め技がないからだとシアに言われ、アルシュの街でシアとマンツーマンでの地獄の特訓の果てに手に入れた、数少ない俺の必殺技と言って良い技だ。
といっても、まだ未完成。本当ならミアリギスの一撃に載せてブチかます技なんだが、今の俺ではまだ素手で直接打ち込まないと衝撃を伝えられない。元々の浸透打からして未完成の技だったから、そこは仕方ないと言うか鍛錬あるのみだ。
だがその威力はご覧の通り浸透打と比べても……ってえぇぇ!?
「おぉ、良い感じに火力が出ますわねぇ」
首を打撃して、頚椎を衝撃でガタつかせ、ついでに首周りの肉を吹き飛ばせれば上出来。続く本命の一撃で脆くなった首を飛ばす……というつもりでぶっ放した一撃は、どういう訳か首をガタつかせるどころか背中や後頭部一帯を丸ごと吹き飛ばしていた。まるで背骨にダイナマイトでも仕掛けて爆破したような有様だ。
何でだよ!? この技、こんな馬鹿げた威力は持ってないはずだぞ!?
たしかにこの技の真価はガード不能という点にある。腹を狙えば内臓破裂、腕を狙えば骨折とかは行けるんだが、こんな秘孔を点いたかのような、身体を爆発させるような威力は出せやしねぇんだけど!?
いくら衝撃が貫通するって言っても、その衝撃を生み出してるのは人間の俺が放ったパンチだぞ? にもかかわらずこんな事になる理由があるとすれば……
「なぁイブリス、なんかやった?」
「はい、私の能力と相性が良さそうでしたので、少し力添えを。いわゆる合体技というやつですわ」
あ、うん。やっぱりそうだよな。元々ペネトレイトは浸透打……つまり与えた衝撃の打点を操作する技の亜種だ。衝撃、つまり振動の【波】はイブリスの十八番だからな。力を上乗せしたりはお手の物ってわけだ。なるほど、確かに今の技とイブリスは相性がいいかもしれん。でも、いきなりやられると威力が違いすぎてビビるからひと声かけて欲しいんだけど。しかし合体技……そういうのもアリなのな。
胸上を吹き飛ばされた魔物は仰向けに倒れ、すでに無くなった頭を肉腫で補おうと再生を始めている。さすが群体。ゾンビモノのお約束である頭部破壊でも全くダメージにならないらしい。しかし、そうなると脳みそ無しに活動できるって事は神経伝達なんぞされてないって事になる。つまり目や耳なんかもただの飾りって事か。
どうやら本当に細かい虫が繋がって単純に身体を動かしてるだけらしい。そりゃ首を飛ばしても戦力ダウンは望めんわけだ。頭蓋骨を切り離せた分、頭突きや噛みつきが弱体化するくらいか? 面倒な。
一見腐肉の怪物に見えても実際は虫の集合体。骨にまとわりついている肉がそのモノが目玉の役割も果たしてるって事かね。とはいえ、部位再生中は虫が全身を移動するからなのか、動きが鈍くなるのは朗報だ。攻撃がそれなり以上に有効だという確信が持てる。
となれば……だ。
動けぬ内に少しでも細かく切り分ける。このまま復活されては堪らないので、体勢を整えられる前に残った腕を肩で切り飛ばし、ついでに胴体も縦に切り分けてやる。
流石にここまでバラしてやれば再び驚異になるような再生はできないだろう。いくら不死の虫といっても質量保存の法則は抜けられない……と思いたい。
「よし、大丈夫そうだな」
予想通り身体を小さく切り分けられれば、内包する虫が減るわけだから、当然修復できる部位も小さくなるようだな。バラバラにして封印するのも、戦闘力の分割というよりもこの再生能力の封じ込めが原因なんだろう。
何にせよ、あれならもう取り扱い注意の寄生虫入り肉塊くらいの脅威度しか無いだろう。それこそ、うっかり寄生されて身体を……というか骨格を奪われなければの話だが。
今まで多い餌を見つければそっちへフラフラ……いや一直線って感じだったのに、今じゃ他のやつなんぞ眼中にないって感じで完全に俺をターゲットしてんな。俺はタンクロールじゃねぇんだが。
「ほぼ食欲と生存本能だけで動くような群体ですからね。ただの餌でも強い執着を見せていたでしょう? でもあるじ様は餌としては手強すぎました。敵対認定されればそりゃ徹底的に排除しようと動きますわね」
「それもそうか」
ヘイト上昇スキルなんてなくたって、タンクの稼いだヘイト以上にディーラーがダメージを叩き出せば結局ターゲットは移るってもんだしな。
目立ち過ぎはダメ、絶対。
「それにしてもダメージで怯まないってのは思ったより厄介だな。あらゆる攻撃がカウンター技と同義だ」
格ゲー脳的にはスーパーアーマーやガードポイント技を思い浮かべる動きだ。
「何ですの? スーパー?」
「そこまで心読めてるのに、内容はわからんのか?」
「あるじ様が今実際に思い浮かべてる像は、そのスーパー某ではなく目の前の魔物ですもの」
あー、見ている魔物の姿に俺が勝手にスーパーアーマーっぽい印象を重ねてるだけだから、元々のスーパーアーマーが何かを知らないと心を覗いても魔物でしか無いのか。
「コレこそが、と言う場面を思い浮かべていただければ、理解できると思いますけど」
「うーん……いや、思い浮かべても多分ゲーム画面だけ思い浮かべても、目の前の魔物と何が違うんだって感じになるだけだろうから説明するだけなら口で言ったほうが早いな。
「そうですの?」
心を読み取れるなら、何でも相手に伝わるのかと思ったけど、伝えるべきイメージがしっかりしてないと口下手と同じでイメージも正しく伝わらない事があるのか。
「まぁいいや、スーパーアーマーもガードポイントも共に昔から一部のゲームでは特定の技に付与されてる属性だ。スーパーアーマーは攻撃が出るまでは相手の攻撃がヒットしても仰け反らない。つまり攻撃によって技が中断されない属性だ。対してガードポイント技というのは、特定の技のモーションの一部に防御判定が着いており、相手の攻撃を受け流しつつ反撃する様な演出になっている。どちらもその特性上、うかつに手を出せば、攻撃が受け流され、技の出終わりの無防備なところにカウンターの一撃を食らってしまう厄介な技だな」
いや、我ながらバチバチにバケモノと戦いながら何うんちく垂れ流してるんだろうな?
「なるほど、このイメージはそういうことですのね」
それを聞きながら飄々と魔物に攻撃を加えていくイブリスもイブリスだけどな。
まぁ、ゲームのスーパーアーマーと違ってどんな攻撃でも一度は受け止める……みたいなとんでも耐久というわけではないらしい。
実際ヤツにはイブのぶっ放す振動波攻撃や、俺の攻撃でも威力の高い攻撃で、骨のような芯のある部位への直撃でならバランスを崩したりはする。ただ、肉を削ぎ落としたりといった手応えの薄い……切れ味の良すぎる攻撃なんかは喰らっても怯まず無視して突っ込んでくる。小技限定の擬似的なアーマー無限……いや、それでも十分厄介じゃねーか!
動き自体は派手なだけで対処は難しくないが、疲れる様子も見せないし、手を出そうとするととたんに厄介になるんだよな。
「無理押しするからです。私の援護をお待ちになってくださいな」
「うん、そうする。ちょっと修行っぽくなるかなと思って自力で攻めてみたけど、いくらなんでもやりにくすぎるわ」
動きは単純でも、迂闊に手を出せばこのパワーで常にカウンターのリスクってのは流石に無視できない。それに、知能がないせいか動きに迷いがない分、最速最短で攻撃を繰り出してくる、そのせいで実際以上に攻撃にスピード感がある。
いくら直線的で避けやすいといっても、あの手数じゃ事故だって起こり得るし、相手は疲れ知らずだ。時間をかければコチラが不利になっていく。
ただ斬りつけるだけではダメージにならないから、無駄に体力を消費しないためにも一度の攻撃で確実に削る必要がある訳だ。となると、一番低コストで相手を削るならコチラの攻撃をイブリスの攻撃に合わせた時だけに絞るのが一番だ。
それにしても、改めて見てもイブリスの能力は強力だ。
振動波による直接攻撃と、動きを阻害する妨害を同時にこなしている。炎や雷みたいな派手さはあまりないが、効率はとんでもなく良い。
RPGをやるときに、バフとデバフの強さを確認する派の俺としては、単純に高火力な能力よりもイブリスの波のような汎用性の高さの方を評価したくなる。
しかも攻撃力もデバフ能力も中途半端というわけではなく、両方共にかなり高いと来てる。ハッキリ言って反則級だ。シアの馬鹿げた戦闘力も大概だったが、アレはシア本人が強力なだけだった。だが、イブリスのは強力であると同時にコチラのフォローも出来ている。どちらが強いと言われれば、どちらも強いという答えしか無いんだが、便利さで言えばおそらくイブリスの方が上だろう。というかシアとの比較対象になる時点でとんでもない。
というかこのゲーム開始初期のハティにも言えることだけど、お助けNPCの戦力がヤバすぎるわ。プレイヤーより圧倒的に強いNPCの加入はRPGではよくあるイベントではある。大抵はスポット参戦で、プレイヤーよりも圧倒的に強いボスが登場する時等の特殊なシーンでのお助けキャラだったりするんでメインのキャラクターにはならないことが多い。最後まで仲間になる場合もあるがそういう時は大抵途中で抜けて、プレイヤーのレベルが追いついた頃に再合流みたいな形でバランスを取られることが多い。
なんだが、何か俺、ゲーム始めてからほぼ常時で格上のNPCと行動を共にしている気がする。最初はハティ、次はシア、今はイブリス。ハティとは事故で別れちまったし、シアともなんか中途半端な所でお別れになっちまった。もしかしたらずっと一緒でいることで、高難度のボスイベントみたいなのが起こった可能性はあるが、確認する方法はないからな。まぁそんな都合の良いイベント自体存在しないかもしれないのがこのゲームの怖いところだが。
でもコレだとなんか、NPCがメインで俺がおまけみたいな感じになってるような……
「あるじ様、また思考がとっ散らかってますわよ」
「っと、いかんな。直そうとは思ってるんだがな。コレ」
どうにもこの考えがアッチコッチ飛ぶの治らねぇんだよなぁ。
一つ考えると枝葉のことまで思考がどんどん伸びていって、最終的に関係ないことまで考えが行っちまうんだよな。普段ならともかく今は戦闘中だ。注意しねぇと。
「なんなら、矯正しますわよ?」
「いや、それはソレでなんか怖いから今は良いや。どうしても必要な場面で頼むかもしれんけど」
思考読まれるくらいならまぁ、覗き見られてるだけだし俺のプライベート以外ダメージは無さそうだけど、意図的に歪めるのは流石にちょっと怖い。
というか、いい加減目の前のことに集中しねぇと……
「残った部位は骨太な部分だけになってきたな」
肉腫や、骨の無さそうな腹回りとか結構削ぎ落としてやった結果、大分ガリガリというか、既にもう一部は骨がむき出しになってる様な状態まで追い込んではいる。フォルムを維持しようとはしているようだが、切り分けられて本体に取り付いてる虫の数が極端に減ってきたからだろう。体全体を補いきれなくなってきているらしい。だが、逆に言うと残ってるのは骨付き部位ばかりだ。仕留めるには、それなりの攻撃が必要になってくる。
さて、この状況で有効そうな攻撃というと……アレの試し打ちも兼ねて、一つやってみるか?
「試し打ちはよろしいですが。打ち込んだ腕を食い散らされませんよう……」
「判ってる」
イブリスにガチガチに固めた右腕を見せてやる。
ボロボロになったマントの一部を腕に巻き付けバンテージのようにして肘から先を保護した。たかがボロ革と侮れない防御力があるんだ、これが。
コレなら直接ぶん殴っても、さっき掴まれて貪り食われた傭兵のように殴った腕を一瞬で潰される様な事にはならないと思う。
……といっても、耐えられるのは本当に一瞬だろうな。でも殴り飛ばすその瞬間の拳を保護できれば問題ないから、コレで十分だ。
「さて、やるか!」
必要なのは懐に、手の届く範囲に近付くことだけだ。勿論それは相手の間合いに入るということでもあるが、相手は魔物。対人と違って面倒なフェイントや誘いは考慮する必要がない分、大分やりやすくはある。
その分人間離れした瞬発力と馬鹿力があるけど、素直に最短最速で攻撃が飛んでくるから、攻撃のラインから身体をズラスだけで攻撃は逸れてくれる。叩きつけや突き込みは横へ、薙ぎ払いは上下か裏へ。大体はこの2つで良い。
ただし、余裕を持って避けてしまうと、攻撃を外したと判断したヤツがそこから次の攻撃に強引に移ってしまう。この辺りは不死身のボディを生かした無茶行動だな。強引な動きで本来なら身体を壊すような動きも気にせずに放ってくる。
だから、コチラがヤツに攻撃を届かせるだけの隙を作るためには攻撃はギリギリまで引きつけて、ヒット確信で空振りさせる必要がある。それでようやく、肉薄と攻撃の隙の確保という両方の条件を確保することが出来る。
それには、不意を打つような動きではダメだ。ヤツがこちらへの直撃を確信できるような状態でなければならない。つまり……
「さぁ、来いよ」
正面からの殴り合いだ。
かなりリスキーだが、だからこそ効果はかなり期待できる。
案の定、こちらを視界に捉えた途端、一直線にコチラへ突っ込んできた。
飛んでくる攻撃は右腕、開いた手のひらのまま張り手のようにコチラへ腕を伸ばしてくる。
「つぁぁっ!!」
突き込んできた魔物の腕をミアリギスの腹で強引に受け流す。洒落にならん馬鹿力だが、ここは気合で攻撃を後ろにそらす。そして脇をくぐるようにして懐に入れば、イブリスの一撃が魔物の頭部をカチ上げた。いや、正確には頭ではなく首だ。
喉がひしゃげ、巻き込まれた顎が吹き飛び骨が露出している。余程の衝撃だったのか、よく見れば頭だけでなく体ごと軽く浮き上がっていたらしい。
浮き上がっていた身体が着地し、片腕では咄嗟にバランスが取れなかったのか倒れ込んでくる。チャンスだ。
「喰らっとけ!」
地面へ叩き込むように踏み込んだ足先から、膝、腰、肩と雑巾を絞るように威力を流す。そして布で固めた拳でもって、下がってきた喉を再度下から潰すように打ち上げの一撃を打ち込む。
ペネトレイト。全力の浸透打による衝撃の指向性をあえて制御せずに威力だけを求め、適当に拳一つ分か2つ分くらい奥でその衝撃を弾けさせる荒業だ。
それなりの戦闘技術が有りながら苦戦するのは、ひとえに詰めの甘さ、トドメに使える決め技がないからだとシアに言われ、アルシュの街でシアとマンツーマンでの地獄の特訓の果てに手に入れた、数少ない俺の必殺技と言って良い技だ。
といっても、まだ未完成。本当ならミアリギスの一撃に載せてブチかます技なんだが、今の俺ではまだ素手で直接打ち込まないと衝撃を伝えられない。元々の浸透打からして未完成の技だったから、そこは仕方ないと言うか鍛錬あるのみだ。
だがその威力はご覧の通り浸透打と比べても……ってえぇぇ!?
「おぉ、良い感じに火力が出ますわねぇ」
首を打撃して、頚椎を衝撃でガタつかせ、ついでに首周りの肉を吹き飛ばせれば上出来。続く本命の一撃で脆くなった首を飛ばす……というつもりでぶっ放した一撃は、どういう訳か首をガタつかせるどころか背中や後頭部一帯を丸ごと吹き飛ばしていた。まるで背骨にダイナマイトでも仕掛けて爆破したような有様だ。
何でだよ!? この技、こんな馬鹿げた威力は持ってないはずだぞ!?
たしかにこの技の真価はガード不能という点にある。腹を狙えば内臓破裂、腕を狙えば骨折とかは行けるんだが、こんな秘孔を点いたかのような、身体を爆発させるような威力は出せやしねぇんだけど!?
いくら衝撃が貫通するって言っても、その衝撃を生み出してるのは人間の俺が放ったパンチだぞ? にもかかわらずこんな事になる理由があるとすれば……
「なぁイブリス、なんかやった?」
「はい、私の能力と相性が良さそうでしたので、少し力添えを。いわゆる合体技というやつですわ」
あ、うん。やっぱりそうだよな。元々ペネトレイトは浸透打……つまり与えた衝撃の打点を操作する技の亜種だ。衝撃、つまり振動の【波】はイブリスの十八番だからな。力を上乗せしたりはお手の物ってわけだ。なるほど、確かに今の技とイブリスは相性がいいかもしれん。でも、いきなりやられると威力が違いすぎてビビるからひと声かけて欲しいんだけど。しかし合体技……そういうのもアリなのな。
胸上を吹き飛ばされた魔物は仰向けに倒れ、すでに無くなった頭を肉腫で補おうと再生を始めている。さすが群体。ゾンビモノのお約束である頭部破壊でも全くダメージにならないらしい。しかし、そうなると脳みそ無しに活動できるって事は神経伝達なんぞされてないって事になる。つまり目や耳なんかもただの飾りって事か。
どうやら本当に細かい虫が繋がって単純に身体を動かしてるだけらしい。そりゃ首を飛ばしても戦力ダウンは望めんわけだ。頭蓋骨を切り離せた分、頭突きや噛みつきが弱体化するくらいか? 面倒な。
一見腐肉の怪物に見えても実際は虫の集合体。骨にまとわりついている肉がそのモノが目玉の役割も果たしてるって事かね。とはいえ、部位再生中は虫が全身を移動するからなのか、動きが鈍くなるのは朗報だ。攻撃がそれなり以上に有効だという確信が持てる。
となれば……だ。
動けぬ内に少しでも細かく切り分ける。このまま復活されては堪らないので、体勢を整えられる前に残った腕を肩で切り飛ばし、ついでに胴体も縦に切り分けてやる。
流石にここまでバラしてやれば再び驚異になるような再生はできないだろう。いくら不死の虫といっても質量保存の法則は抜けられない……と思いたい。
「よし、大丈夫そうだな」
予想通り身体を小さく切り分けられれば、内包する虫が減るわけだから、当然修復できる部位も小さくなるようだな。バラバラにして封印するのも、戦闘力の分割というよりもこの再生能力の封じ込めが原因なんだろう。
何にせよ、あれならもう取り扱い注意の寄生虫入り肉塊くらいの脅威度しか無いだろう。それこそ、うっかり寄生されて身体を……というか骨格を奪われなければの話だが。
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友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
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ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
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最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
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勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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